思惑に満ちた夏祭り
俺達5人は夏祭りを楽しもうと移動を開始した。色彩神社を出発し、露店や祭りに参加する人々を見ていく。右を見ると中学生ぐらいの男の子がフランクフルトを「アチチ」と頬張りながら歩いていており、左を見るとかき氷を買った女の子が冷たいかき氷をシャクシャクと音を立てて食べている。うーん、美味しそうだ。
射撃屋では筋肉ムキムキのおっさんたちが互いの腕を競い合い、クジ屋では小学生がアタリが出なくて泣きを見ている。あれ本当にアタリ入ってるのかねぇ? …うわっ「型抜き」もある。懐かしいなぁ…ガキの頃友達とやったなぁ。お祭りの屋台は見ているだけでも結構楽しい。
「ねぇ兼続。一緒に射撃やらない?」
そんな中、先輩が俺にそう誘いをかけて来た。勝負事が大好きな先輩の事だ、おっさんたちが射撃しているのを見て闘争心が刺激されたのだろう。
「いいですよ」
俺は2つ返事でOKした。特に断る理由もないからな。俺たちは射撃の屋台に移動する。他の3人はその間に周りの屋台を見てくるようだ。
射撃屋はおもちゃの銃で棚に並べてある景品を撃ち、その景品が棚から落ちたらそれを貰えるというシステムになっている。おっ、これも懐かしいなぁコルクガンか。コルクガンとは銃身にコルクを詰め、空気圧によって詰めたコルクを弾丸のように発射することのできるおもちゃの銃だ。
「おっ、姉ちゃん美人だねぇ! 本当は1回300円だけど100円にまけちゃう!」
「本当に!? ありがとうおじさん!」
先輩が料金を支払った際に屋台のおじさんがそんな事を言う。流石先輩だ「美の女神」名は伊達じゃない。美人は得だねぇ…。そして俺も先輩に続きおじさんに300円を払おうとしたのだが…。
「ちょっと待った! お前は1回1000円だ」
「何でだよ!? 高すぎだろ!?」
「美人の女の子を4人
「知らねぇよ!?」
それを言うんだったら俺だって20歳童貞なんですけど!? それに一緒にいるのは只の友達であって彼女じゃないんですけど!? 理不尽すぎる。まぁモテない辛さは分からなくもないが…俺も女の子の友達すらいなかった時はモテ男を恨めしく思っていたからな。
射撃屋のおじさんは1000円を払わないと俺にコルクガンを渡さない姿勢を崩さなかったので俺はしぶしぶ財布から1000円を出しておじさんに支払った。
「まいどあり!」
おじさんはやっと俺にコルクガンを渡してくれた。はぁ…もう金輪際この店絶対利用しねぇ。
「兼続、折角だから勝負しない?」
「勝負ですか?」
「ええ、撃ち落とした景品の多さで勝負よ。落とした景品が多い方が勝ち。負けた方は罰ゲーム。どう?」
先輩は自信満々の顔で提案してくる。勝負好きの先輩はどうやら俺と勝負をしたいようだ。隙があれば勝負を仕掛けて来る、まるで目と目があったら勝負を仕掛けて来るポケッチトレーナーみたいだな。別に受けてもいいのだが…でも罰ゲームか。
「罰ゲームの内容は?」
「そうねぇ…なんでも1回言う事聞くのはどう?(こうしておけばあたしが勝った時に兼続をドキドキさせるシチュエーションに導きやすくなるわよね? 見てなさい、絶対この夏祭り中にドキドキさせてあげるんだから!)」
「うっ…結構重いですね。でも乗りましょう!」
普段の俺ならこんな提案には乗らない。しかし、俺も久々の祭りで気分が高揚していたのかもしれない。
「言ったわね! 今さら取り消しは無しよ?(フフン♪ 兼続、あたしが射撃が大得意っていうのを忘れてないかしら? だからこそあなたを射撃屋に誘ったのよ。この勝負貰ったわ!)」
俺と先輩はコルクガンの先にコルクを詰めると銃を構えて景品に向ける。
「「いざ、勝負!」」
こうして俺と先輩の罰ゲームをかけた射撃ゲームが始まった。
○○〇
落とした景品が多い方が勝ちという事は…出来るだけ軽い物を狙った方が有利だ。となると…ねらい目はお菓子の箱かな? 俺は景品棚の上の方に飾られているお菓子群に狙いを定めた。できるだけ倒れやすそうな奴が良い。そうだな…あの縦に長いポ〇キーの箱なんて良さそうだ。
俺はポ〇キーの箱の右上に狙いを定めてコルクガンを構える。射撃で景品を落とすコツは景品の箱の中央ではなく右上、もしくは左上を狙う事だ。そうすることにより倒れやすくなる。
パンッ
パタッ
俺の放ったコルクは見事命中しポ〇キーの箱を倒す。ヨシ、ますは1個。弾は全部で5発、今1発撃ったので残り4発だ。できれば全弾命中をさせたい所である。
ふと美春先輩の方を見ると彼女はもうすでに4発命中させており、手元にはお菓子の箱が4つあった。
早っ!? あっ…そういえば先輩って射撃ゲーム大得意なんだっけ? 俺と初めてデートした時も「ゾンビハザード」っていう射撃ゲームチョイスしてたし…。これはもしややられたか? 俺はまんまと相手の得意のフィールドに誘い込まれたという事か…。
俺が唖然とした顔をしていると先輩が勝ち誇った顔でこちらを見て来た。
「フフン♪ どうしたの兼続? 手が止まってるわよ?」
クッ、罰ゲームを回避するには全弾命中させるしかなくなった。
「今日はなんだか調子がいいわね♪ ちょっと重たいものにでも挑戦してみようかしら?」
調子に乗った先輩が最後の1発を景品棚の中央に設置してあるプラモデルの箱に狙いを定めた。お菓子よりは重いので倒れにくいはずだが、射撃の得意な先輩だと倒してしまうかもしれない。
パンッ
先輩の放ったコルクが見事にプラモデルの箱の左上に命中する。しかしプラモデルの箱は微動だにせずにコルクをはじき返した。どうやらかなり重いらしい。
「えっ、嘘!? なんで倒れないの?」
「高い奴はアロン〇ルファで下の布とくっつけてるからな。絶対に倒れねぇ」
「おい!? 無茶苦茶だなこの店!?」
射撃屋のおっさんがとんでもない事を暴露した。俺から金は余分に取るわ、アロン〇ルファで景品取れないようにしてるわで碌な店じゃねえな…。しかしこれはチャンスだ! 先輩が1発外したので俺が全弾命中させればこの勝負に勝てる。
俺は慎重にお菓子の箱に狙いを定めてコルクを放った。結果、見事に全弾命中し俺は先輩に勝利した。
「うそ~!? 負けちゃった…。あたしの計画が…」
先輩が涙目になりながら絶望している。残念でしたね先輩。調子に乗らずにお菓子の箱に狙いを定めていれば引き分けに持ち込めたものを。…でも計画ってなんだ? 罰ゲームに関わる事かな? …だとしたらこの勝負勝ってよかったな。先輩がどんな事を企んでいたのか知らないが、なんか嫌な予感がしたんだよな。
「…っかい」
「えっ、なんか言いました?」
「もう1回勝負よ! 誰も1回勝負なんて言ってないわ! 3回やってその合計で決めましょう! おじさんもう1回!!!」
「まいどあり~100円ね!」
あちゃ~…先輩の負けず嫌いな所が発動してしまった。3回勝負だと俺はかなり不利になるんだよなぁ。
「あっ、スケコマシ坊主はもう1回やるなら2000円な」
「前より高くなってる!? ふざけんな!!!」
流石に射撃に2000円も払うのはアレなので俺はなんとか先輩を射撃屋から引き離すとみんなと合流することにした。
○○〇
「あっ、帰って来たのね」
「おかえり(ムッ、兼続君と先輩距離近い…)」
「…モグモグ」
俺は先輩を引っ張って3人と合流した。冬梨はもうすでに両手にフランクフルトと焼き鳥を持って頬張っている。あとなんか若干秋乃からプレッシャーを感じるのだが気のせいだろうか。
「それじゃあ露店の続きを回ろうか」
「うん、そうだね。さぁさぁ行こう兼続君!」
「あ、ああ。分かった」
秋乃が俺の手を引っ張って急かす。なんか今日は秋乃のテンションがいつもより高いな。
俺たちは5人揃って祭りの露店巡りの続きをする。秋乃は何故だが先ほどから俺の手を放してくれない。自然な感じで秋乃と手を繋いだが、結構これ恥ずかしいな。秋乃の手…柔らかくて少し汗をかいている。
「あ、秋乃? 手はそろそろ放してもいいんじゃないか? そんなに急がなくても屋台は逃げないって」
「あっ/// ご、ごめんなさい。私ったら///(先輩から引きはがすために引っ張ったけど結果的に兼続君の手を握ることになっちゃった//// 兼続君の手、あったかい…。離したくないけど…、離さないと不自然だよね?)」
秋乃はやっとの事で俺の手を離してくれた。そんなに早く露店を回りたかったのだろうか。何か食べたいものでもあるのかな?
「ううっ、負けた…(絶対勝てると思ったのに…)」
後ろでは先輩が肩を落としながら俺たちに付いて来ている。自分の得意分野で勝負に負けたのがよっぽど悔しいのだろう。
「…モグモグ」
冬梨は相変わらず食べ物を食べている。それにしてもアイツいつの間に唐揚げとわたあめなんて買ったんだ? さっきは持ってなかったよな?
そして俺の左隣には千夏がいた。
「久々にお祭りに来たけど色々な屋台があるわね」
「ちなみに千夏は祭りに来るのは何年ぶりぐらいなんだ?」
俺がそう軽口をたたくと千夏はジト目で俺を見て来る。
「…失礼ね。私がお祭りの時はいつも引きこもっていたとでも言いたいのかしら? でも残念、私もお祭りには結構出てるわよ。そうね、大体5年ぶりぐらいね」
「結構引きこもってるじゃないか!?」
「夏は暑いんだから仕方ないじゃないの…。それに花火は私の実家の窓から見れたし外に出る必要があまり無かったのよ」
「ああ、そうですかい…」
「あっ、ヨーヨー釣り! 懐かしいなぁ。昔50個ぐらい釣って持って帰ったのよね」
千夏はヨーヨー釣りの屋台を見つけて歓声を上げる。
「多いな!? まぁ確かにヨーヨー釣りは簡単だけどさ。むしろ50個も持って帰る方が難しくね?」
「ひとつの指に5個つけて気合いで持って帰ったわ」
「ある意味スゲェな…」
俺と千夏は昔の夏祭りの思い出を語り合いながら歩いていく。そんな中、俺は千夏の様子に少し違和感を覚えた。
「なぁ、千夏。なんか近くない?」
彼女は何故かは分からないが…俺の服が触れるか触れないかの距離でピッタリと横にくっ付いているのだ。暑くないのだろうか? 確か千夏は結構な暑がりだったと記憶しているが…。
「えっ?///// そ、そうかしら? 前からこんなもんじゃない(自分が恋しているかどうかを確かめるために彼の近くにいるなんて言えない…////)」
「そうだったか?」
最初俺と千夏がデートした時の記憶を遡ると俺と彼女の間には15センチほどの間があったと思うのだが…、今やその距離はほぼゼロである。以前より仲良くなった…とポジティブに考えればいいのか。
でもこれ俺もちょっと暑いんだよなぁ…。冬とかだったら別に気にならないのだろうが、夏だとどうしてもね…。むしろ「暑いのがイイ」と言う人もいるのだろうけど。
「スマン、千夏。ちょっと離れてくれ。暑い」
「あっ…(兼続との距離が離れちゃった…。これじゃ胸のときめきが分からない…)」
俺がそう言って彼女から距離を離すと彼女は少し寂しそうな表情をした。えぇ…いったいどうしたと言うんだ? いつもの千夏なら「それもそうね」と言いながら距離を取ると思うのだが…。うーん…考えても分からん。
でもそんなに寂しそうな顔されたらなんかこっちが悪いことした気分になるじゃないか。…はぁ、仕方ないなぁ。
俺は無言で千夏との距離を元に戻す。少し暑いが仕方が無い。
「え、えっと…その…。ありがとう///(迷惑をかけてしまったかしら、でも私は自分の気持ちを確かめたい)」
千夏と2人でしばらくの間無言で歩く。彼女は一体何を考えているのだろうか? 何か理由があるのだろうけど、俺には分からない。千夏は目を閉じて手を胸に当てて何かを考えている様だ。おいおい、目を閉じて歩いてるとまたコケるぞ…。
「(えっと…私の胸は…彼の近くにいても別にドキドキはしてない? じゃあ私のこの気持ちは『恋』ではないという事? でも確かに冷静になって考えてみると兼続と一緒にいるとドキドキする…というよりはどちらかというと『安心する・落ち着く』って気持ちの方が大きいのよね)」
千夏はゆっくりと目を開ける。考え事が終わったのだろうか?
「うーん…(この気持ちが『恋』ではないとしたら…好きな人の話題になった時に兼続の顔が出て来るのはなぜなのかしら? 結局また最初の命題に戻ってくるのよね。はぁ…こんな事なら昔友達の恋バナとかを真面目に聞いておけばよかったわ。また調べ直しねぇ…)」
千夏は浮かない顔をしながらため息を付いている。何か悩み事があってそれが解決しないように見受けられるが…。
「千夏、何か悩み事か? 相談ならいつでも乗るぞ?」
「ええ、ありがとう。でもこれはあなたには解決できないと思うわ」
彼女は少し困り顔になりながら言葉を返してくる。アレかな? 自分のトラウマについての悩みかな。それなら確かに俺にはどうすることもできないが…。
千夏は再び難しい顔をすると俺から離れて行った。結局何だったのかさっぱり分からん。
○○〇
次の更新は9/8(金)です
※作者からのお願い
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