夏祭りを満喫だ

 そしてやってきた8月最終週の日曜日。俺は夏祭りに向かうための準備をする。まぁ浴衣なんて気の利いたものは持っていないので服装はいつもの格好な訳だが…。それでも身だしなみのチェックは忘れない。髪ヨシ、髭ヨシ、服装ヨシ、だらしない所は無いな。財布とスマホは持った! ハンカチとティッシュもポケットに常備している。


 俺は身だしなみのチェックを済ますと皆より一足先に待ち合わせ場所の色彩神社に向かった。女性陣はみんな浴衣に着替えるために少し時間がかかるらしい。彼女たちが着替えるのを待って一緒に向かってもいいのだが、そこは何と言うか…祭りの雰囲気を出すためだそうだ。


 4女神の浴衣かぁ…、さぞかし綺麗なんだろうなと俺は期待に胸を膨らませながら色彩神社へと向かう。女の子…それも飛び切りの美少女たちとの夏祭り、楽しみである。世の男どもが聞いたら泣いて羨ましがるだろう。


 色彩神社の近くへ行くともうすでに多くの人の姿が見えた。親子連れや仲の良い友達同士で来たと思われる学生グループ、それにカップルと思わしき男女2人組まで様々だ。道に立ち並ぶ露店で食べ物を買ったり、ヨーヨー釣りや金魚すくいにチャレンジしている。


 松原の奥にある広場の中央を見てみるとステージの上で芸人と思われる人たちがなにやら漫才の様なものをやっている。そしてステージの周りでそれを楽しむ人々。今年は誰を呼んでいるんだったかな? 名前を見たが俺は全く知らない人だった。おそらく祭りの予算が許す限りでの値段の安いマイナーな芸人を呼んだのだろう。


 やはり祭りと言うのは良い。楽しむ人たちを見ているだけでも自分の心がはやるのを感じる。俺は早く茉祭りを回りたいという興奮する心を押さえながら待ち合わせ場所の色彩神社へと向かった。


 色彩神社につくとそこには俺と同じく待ち合わせをしているであろう人々を多く見ることが出来た。みんなスマホを見ながら今か今かと待ち人を待ちわびている。この色彩神社はお祭りの際の待ち合わせ場所としてよく使われるのだ。


 その理由は簡単で「目立つから」というのが1つ。色彩松原には待ち合わせの目印になるようなものがあまりない。それに今は夜なので露店がある通り以外は暗くて待ち合わせに向かないのだ。なので明るく目立つ位置にあるこの色彩神社が待ち合わせ場所に使われる。


 そして2つ目はここが露店のスタート位置という事だ。祭りの露店は色彩神社から松原の広場のステージの方に向かってズラッと並んでいる。なので色彩神社からステージの方へ向かうとちょうど露店を1通り見る事が出来るのである。


 もちろんステージの方から見てもいいのだが、あちらはステージを楽しむ人で一杯であり待ち合わせ場所には向いていない。そういう理由で色彩神社はよく待ち合わせ場所に使われる。


 俺も色彩神社の賽銭箱の近くに陣取ると彼女らを待った。



○○〇



 待つこと20分ほど、スマホが震えreinにメッセージが来たことを告げる。ポケットからスマホを出して確認すると秋乃からだった。「もうすぐ着くよ!」という事らしい。俺はスマホをしまうと彼女たちがいつ来ても分かるように神社の入り口の方に眼を凝らした。


 しばらくして神社の入り口の方から4人が歩いてくるのが見えた。流石の美少女軍団、周りにいる人たちが彼女たちをジロジロと見ているのが分かる。俺は自分の位置が分かるようにみんなに手を振った。


「おーい、こっちこっち!」


「あっ、兼続君! お待たせー!」


 俺に気づいた秋乃が手を振りこちらに向かって走って来る。おいおい、浴衣でしかも草履を穿いている時に走ると危ないぞ。


「あっ!」


「おっと…」


 言わんこっちゃない。秋乃が俺の目の前でこけかけたので俺は慌てて受け止める。


「危なかったなぁ」


「えへへ/// ありがとう(偶然とはいえ兼続君に抱きかかえられちゃった///)」


 秋乃はふにゃあとした笑顔を浮かべる。おそらく祭りが楽しみでテンションが上がり切っているのだろうが、ケガをしては折角のお祭りを楽しめなくなってしまう。


「そ、それよりも兼続君。どうかな? 私の浴衣?」


 態勢を立て直すと秋乃は俺の前でクルリと浴衣を見せつけるように一周した。


 彼女は赤を基調としたうちわの模様の入った浴衣を着ていた。秋乃の雰囲気に良く似合っている。そして髪はいつものハーフアップではなく頭の上でお団子にまとめられていた。これはこれでいつもと違う感じで可愛い。


「うん、良く似合ってるよ。髪もいつもとは違うんだな?」


「えへへ//// うん、せっかくのお祭りだからちょっとイメチェンして見たの!(よしよし、一番最初に彼にアピールする作戦は成功! このまま畳みかけるよ!)」


 彼女は非常に上機嫌と言った様子で俺に浴衣姿をアピールしてくる。そんなに浴衣を着るのが楽しみだったのだろうか。まぁ女の子って特別な日に着る衣装とか大好きだもんな。


 そして彼女の後ろから残りの3人も到着する。


「ごめんね。待たせちゃった?」「やっぱり浴衣は着慣れてないと時間かかるわね」「…冬梨お腹空いた。早く回ろ?」


 と残りの3人が口々に述べる。俺は3人の浴衣姿も拝見することにした。


 美春先輩は緑を主軸とした花柄文様の浴衣を着ていた。さわやかで彼女らしい浴衣だ。そして髪もいつものストレートではなく髪留めで後ろにまとめられている。基本的に美春先輩は大人っぽいのだが、今日の先輩はいつもにも増して大人っぽく感じられた。なんというか…浴衣の上品さの中にほんのりとした色っぽさを感じるのだ。


 俺は先輩の浴衣姿に少しドキリとしてしまった。やっぱりこの人は見た目だけならパーフェクトだ。


「先輩、浴衣似合ってますよ」


「ありがと!」


 先輩は軽くウィンクしてそれに答える。


 次に千夏。彼女は青をメインにした魚模様の浴衣だ。浴衣を見るだけで涼し気な感じがしてくる。もちろん本人の雰囲気にもよく似合っていた。髪はいつもと変わらない黒のポニーテールなのだが、普段よりは少し濡れており艶がある気がした。祭りに行く前に風呂にでも入って来たのだろうか。


 「髪は烏の濡れ羽色」という言葉があるように昔から日本人は艶のある黒髪が好きだったらしい。俺も生粋の日本人なのでやはり美しい黒髪にはグッと来てしまう。しかもその黒髪の持ち主が飛び切りの美少女なのだからなおさらそう感じる。


「千夏の浴衣もいい色だな。良く似合ってる」


「そう…///」


 俺がそう声をかけると千夏はプイッと横を向く。おそらく照れているのだろう。彼女は照れると横を向く癖があるのだ。


 最後に冬梨。彼女は白を基軸とした雪の模様のある浴衣を着ていた。浴衣の色が冬梨の真っ白な髪色とマッチしていてとても幻想的に見える。彼女の事を「妖精」のようだと呼ぶ人がいると聞くが、こういう姿を見るとそれに同意せざるを得ない。髪はいつもと変わらないおさげだが、それも彼女らしいといえば彼女らしい。


「冬梨も良く似合って…」


 グゥ~…


 俺が彼女の浴衣を褒めようとすると彼女のお腹から大きな腹の虫が鳴いてそれに答えた。祭りで露店の食べ物を沢山食べるために飯を抜いてきたのだろう。少し拍子抜けしたがむしろ冬梨はこうでなくっちゃな。


「じゃ、さっそく祭りを回るか?」


「「「おー!」」」「…おー!」


 4女神との夏祭りがこうして幕を開けた。



○○〇


次の更新は9/6(水)です


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