G、G、GGGのG~♪
それは8月も後半に入ったとある日の出来事だった。寮長がどこかからまたお土産を貰って来たので俺たちはその恩恵にあずかることにした。
「なんじゃこりゃ、醤油プリン…?」
俺たちは早速寮長がくれた差し入れの箱を開ける。中には醤油プリンという物が入っていた。どうも通常プリンの上にかかっているカラメルソースが代わりに醤油になっているようである。
「…『あの有名なプリンの上に醤油をかけるとウニの味になるというのをお土産にしてみました。厳選した卵と厳選した醤油を使った本格的なウニの味をどうぞご賞味あれ!』? どうしてお土産にしようと思ったのかしら…?」
千夏がお土産の箱に書いてある説明文を読む。まったくもって同じことを思った。ウニが食いたいなら素直にウニをお土産にする。わざわざ家庭でも試せるようなものをお土産として買ったりはしないだろう。これを買う奴はよっぽどの変人だけだ。
「これ醤油かけないで食べた方が絶対美味しいわよね?」
「…冬梨もそれに賛成」
幸いにもプリンの上にかける醤油は個包装の袋が別に付けられており、後からかけるタイプのようだ。俺たちは満場一致で醤油をかけないで食べる選択をした。今食堂にいるのは俺と美春先輩と千夏と冬梨の4人である。秋乃は買い物に行っているらしい。
最近はみんなの感情も落ち着いてきたようで、以前のように普通に話が出来る仲に戻っている。秋乃はまだ少しぎこちない気がするけど。
俺たちは食堂の戸棚からスプーンを取り出して食べる準備を整え、いざプリンを食べようとしたところにそいつは現れた。
「…いただきま…ッ!」
最初にそいつの出現に気が付いたのは冬梨だった。それを見つけた彼女はプリンを食べようとしていた手を止める。
「…兼続、兼続、あれ!」
俺は彼女に指さされた方向を見る。すると食器棚の端に黒光する昆虫が鎮座していた。こっちの寮にもやっぱり出るんだな。
そいつはまるで獲物に飛びかかろうとするトラのように虎視眈々とこちらを睨んでいるようにも見えた。
美春先輩と千夏もそいつの存在に気がついたようだ。
「ひえっ…」
「あら、Gね」
美春先輩はGが苦手なのか少し怯えているようだ。反対に千夏は淡々としている。見慣れているからだろうか?
「…千夏の部屋で飼ってるやつ?」
「失礼ね…。私の部屋は必殺のブラッ○キャップ置いてるから出ないわよ…。冬梨の部屋から来たんじゃないの? あなたいつもお菓子食べてるじゃない?」
「…冬梨はお菓子のカスは綺麗に掃除している。汚部屋の千夏と一緒にされたら困る。あなたとは違う」
「言ってくれるじゃない…」
2人は睨み合う。相変わらず仲が良いのか悪いのか分からんなこの2人は。しかし今はそんな事をしている場合じゃない。あのGをどうにかしないと。殺虫剤ってどこにしまってあったかな? こういう時に限って殺虫剤の場所に詳しそうな秋乃がいない。
俺がキョロキョロと殺虫剤を探していると美春先輩がプリンを片手に俺の近くまでやって来る。そして俺の後ろにサッと隠れた。
「先輩?」
「あたしGスッゴク苦手なのよ…。お願い兼続、どうにかして!」
いつもは自信満々の先輩がブルブルと震えながら俺の後ろで涙目になっている。そのギャップに俺は心が少し
あぁ、男って単純だなぁ…。可愛い娘にちょっと頼まれたぐらいでやる気になるんだから。
「殺虫剤ってどこにしまった? 確かGを凍らせるスプレーがあったよな?」
以前寮の掃除を手伝った時にチラリとどこかでみた気がする。どこで見たのかは忘れたが。
実はGを殺すには凍らせるのが1番良いらしい。普通の殺虫剤で殺そうとすると死ぬまでの間に卵を産みつけられる可能性があるし、もし逃げられた場合は殺虫剤に耐性のあるGが誕生する可能性があるのだ。
また、Gを叩きつぶすのもその場にGのフェロモンが残って別のGを呼び寄せる可能性があるのであまり良くないらしい。
熱湯や食器用洗剤を当てるのも即効性があって効果的らしいが、こちらは中々当てるのが難しい。
「…あれはこの前寮長が酔って制汗スプレーと勘違いして使い果たした」
「マジかよ!?」
何やってんだあの人は? 本当に碌な事をしないな。俺たちがそんな会話をしているうちにGがこちらの方にカサカサと動いた。
「ひぃぃ、兼続早く、こっちにきちゃう!」
先輩が更に涙目になって俺の服を引っ張る。よほど嫌いなんだろう。彼女の綺麗な肌に鳥肌が立っているのが見えた。殺虫剤がないなら仕方がない、叩き潰すしかない。
「な、なんか武器になるものは無いか? 新聞紙とか?」
流石に素手で相手にするのは嫌なので何か叩き潰せるものを探す。
「…はい、スリッパ」
冬梨が自分の履いていたスリッパを俺に手渡してくる。射程が短いがこれしかないのならしょうがない。俺はスリッパを受け取るとジワリジワリとGに近づいていく。
「そこだ! くらえ!」
俺はGに狙いを定めてスリッパを振り下ろす。しかしその黒光りする虫は小癪にも俺の攻撃を避け、食器棚の後ろへとヌルリと逃げ込んだ。クソッ、あそこに逃げ込まれたらスリッパでは無理だ。
「何やってるのよ…」
「スマン、手元が狂った」
千夏が呆れた顔で俺を見てくる。次こそは命中させてやるぞ…。
Gが隠れてしまったのでは仕方ないと俺たちは一旦Gの討伐を諦め、再びプリンを食べようと椅子に座ろうとした。しかしその時、Gが食器棚の向こう側から再びカサカサと出現した。
「ま、また出たぁ」
「ちょ、先輩!? 私を盾にするのやめて下さい!?」
「…ここはウォールチナツの出番。冬梨も鉄壁の壁に隠れざるを得ない」
先輩と冬梨が千夏を盾にして彼女の後ろにサッと隠れる。
「冬梨…あなた私に喧嘩売っているのかしら? 誰の胸が鉄壁の壁だって?」
自らの貧乳をネタにされた千夏が冬梨を睨みつけた。あーあ、やっちまったな冬梨。千夏は自分の胸の大きさをいじられるのが大嫌いなのだ。
「…別に冬梨は千夏の胸の事を壁と言ったワケじゃない。千夏の凹凸のないフラットなスタイルが壁に似てるからそう言っただけ」
「一緒の事じゃないの! 冬梨、ちょっと待ちなさい!」
自らの危機を察知した冬梨はサッーと俺の後ろに逃げ込む。逃げるなら最初から言わなきゃいいのに…。
「兼続! 冬梨をこっちに渡しなさい!」
「…千夏知ってる? ストレスが多いと胸が成長しづらくなるらしいよ?」
冬梨は俺の背中からコソリと顔だけを出してそう呟く。
「誰がストレス溜めさせてると思ってんの!?」
「まぁまぁ落ち着けよ千夏。今はそれよりGの始末が先だろ?」
「くっ、Gを始末したら次はあなたを始末してあげるから覚えておきなさいよ…」
千夏は自分のスリッパを片方脱いでGに向かって構える。そして可愛い掛け声と共に思いっきりスリッパを振り下ろした。
「ていやっ!」
だがまたしてもGはスリッパの攻撃を避けて食器棚の裏に逃げ込んでしまう。すばっしっこい奴め…。あそこの狭い隙間に逃げ込むと人間が手出しできないのを彼らは本能的に熟知しているのかもしれない。
「秋乃に頼んで凍らすスプレー買って来てもらうか。どうせ今後も必要になるだろうし」
建物に住む以上、人間はGとの死闘を繰り広げなくてはならないのだ。ならスプレーはあった方がいいだろう。そう思った俺は買い物に出ている秋乃に電話をかけたが、秋乃は気づいていないらしく何回コールしても出なかった。
「出ないか…」
出ないなら仕方ない、俺がスマホをポケットにしまったその時だった。またしてもGが食器棚の隙間から出て来た。まるで俺を殺してみろと挑発しているようにも見える。この野郎…人間様をおちょくったらどうなるかを見せてやるぜ!
「せいやっ!」
俺は再び渾身の一撃をGにお見舞いする。しかしながらGはまたもやそれを華麗に避けてみせた。俺の攻撃を流れる様に避けたGは美春先輩の方へカサカサと向かっていく。
「こ、こっちに来ないでぇ〜」
先輩は半泣きになりながらGから逃げ、俺に勢いよく抱きついて来た。先輩のそこそこ大きいものが俺の腕に当たる。
「…ねぇ、兼続。あなた先輩に抱きつかれるためにわざと外してないわよね? (やっぱり兼続が巨乳の人に抱きつかれてるのを見るとイライラするわね)」
「そんなワケないだろ!? Gが先輩の方に行くなんて予想できるかよ!?」
「本当かしら?」
千夏がジト目で俺を見つめる。風評被害も甚だしい。俺は決してそんなつもりでやったのではない。
Gは今食堂の入り口付近にいる。俺は今度こそ仕留めようとGに近寄った。
「ただいまー。みんな食堂に集まって何してるの?」
そこで秋乃が買い物から帰って来たのか食堂のドアをガラリと開けて中に入ってきた。
「秋乃! 足足、足元!」
「どうしたの? ッ!」
秋乃がGを踏んづけそうだったので俺は慌てて声をかけた。秋乃もGの姿を確認したようだ。彼女は無言でスリッパを脱いで構える。
だがGはまたもや食器棚の隙間に逃げれば余裕だぜと言わんばかりにそちらの方へ移動し始めた。
「…動くな」
秋乃が物凄いプレッシャーと共に低い声でそう言い放った。これは…秋乃がブチ切れている時に放つプレッシャー!?
その恐ろしいプレッシャーを浴びたGの動きはピタリと止まる。秋乃はその隙にGをスリッパで叩き潰した。彼女は始末したGをティッシュで包んでゴミ箱に捨てる。
「暑いから出てきたのかな? でも人前に出てこないGだけが良いGなの」
凄え、Gすらもプレッシャーで止めてしまうなんて…。流石女子寮最恐の女…。
こうして女子寮からGの危機は去った。考えてみると俺全然活躍してないな。
○○〇
すいません次回なのですが、またちょっと忙しいので8/27は1回お休みにさせていただいて8/29(火)に更新します。楽しみにしてくださっている方には申し訳ありません。
※作者からのお願い
もし当作品を読んで1回でも笑われたり展開が面白いと思って下さったなら♡や☆での評価をお願いします。作者のモチベにつながります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます