なんか急に過去の回想が…
…あれ? 俺は何をしていたんだっけ? ダメだ…頭がぼんやりして思い出せない。それに何か凄く眠いし…。ま、いいか。このまま寝ちゃおう。
俺は意識をそのまま落としていった…。
○○〇
「…つぐ君、…ねつぐ君」
「ん?」
「大丈夫?」
俺が目を覚ますと目の前には少しぽっちゃりとした5歳ぐらいの男の子?が立っていた。こいつ…誰だっけ?
「誰?」
「えっ、酷いよ!? 僕達友達じゃなかったの?」
そう言ってぽっちゃりとした男の子は半泣き状態になる。友達? 俺にこんな小さい友達はいなかったはずだが…。俺は腕を組んで考える。
んん? 良く見てみると…俺もちっちゃくなってないか? 自分の姿、それからまわりを確認して見る。俺はTシャツに半パンという格好で、手には虫取り網を持っていた。髪型は丸刈りの坊主だ。いかにも田舎の悪ガキと言った風貌である。…俺も5歳ぐらいの姿になっているな。
そして周りには木や草が沢山生い茂っていた。ここは…俺の実家の近所の山の中?
あー、そうか。これは過去の記憶だ。だんだん思い出してきたぞ。俺の目の前にいるこのぽっちゃりとした男の子は「オブアキオ」と言って、昔俺の近所に住んでいた友達だ。小さい頃は毎日のように遊んでいたのを覚えている。どうやら彼と一緒に山に虫を取りに来た時の記憶を思い出しているらしい。15年ほど前の記憶だな。
確か彼は小学校に上がる直前に急に引っ越していってしまったんだよな。お別れの挨拶すらできずに引っ越していってしまったので非常に悲しかったのを覚えている。今彼はどうしているのだろう?
というか俺はどうして唐突に彼のことを思いだしたのだろうか? 昔のアルバムを見ていて彼の写真を見たなどのキッカケがあれば思い出すのは分かるのだが…。うーん、謎だ。
「思い出したよアキオ」
「はぁ、良かったぁ。兼続君が木から落ちた衝撃で記憶喪失になったのかと思ったよ…」
アキオは左手で胸を押さえながら、右手で木の上の方を指さした。どうやらセミを取ろうしてあそこから落ちたらしい。残念ながらお目当てのセミはもうそこにはいなかった。
「くそっ、逃げられちまったか…」
「それより兼続君、体の方は大丈夫なの? 結構高い所から落ちた気がするけど…」
俺は腕を振ったり腰を捻ったりして身体の様子を確認するが、特に異常は確認できなかった。まぁ、記憶の中だしな。
「大丈夫」
「兼続君は頑丈なんだね。流石だよ」
「それよりもアキオ、今日はカブトムシを取りに来たんだよな?」
「うん、まだ一匹も捕まえられてないけどね」
アキオは空っぽの虫かごを俺の前に掲げて見せた。当時の俺はまだガキだったからカブトムシは夜か早朝に山に来ないと捕まえられないという事を知らなかったのだ。とりあえず山にさえ行けばカブトムシやクワガタを大量に捕まえられると思っていたのである。この日も結局1匹も捕まえられなかったんだよな。
それを知らない当時の俺たちは意気揚々と山の奥へと足を踏み入れる。
「か、兼続君、蛇だ!」
「えっ?」
アキオがそう言ったので振り向いてみると、そこにはでっかいアオダイショウがいた。とぐろを巻いてこちらを威嚇している。
「ヤ、ヤバいよ兼続君。噛まれたら毒で死んじゃうかも?」
アオダイショウは毒を持っていないのでその心配は無い、しかし噛まれると感染症にかかる可能性はある。噛まれない方が良いのは確かだろう。
「そうだな。避けて行こうか」
俺たちはその大きい蛇を避けて山の奥に行こうと、少し遠回りをして歩き出した。だが…。
「シャー!」
蛇が何故かこちらに向かって来た。
「危ない兼続君!」
「ぶへぇ!」
結構蛇とは距離が離れていたのだが、焦ったアキオが俺にタックルをしてくる。アキオはぽっちゃり体型なので当時の俺より当然体重は重い。そしてその体重の重いアキオに吹っ飛ばされた俺は近くにあった木に頭をぶつけて気絶してしまった。またかよ…。
「ああっ、兼続君! うわーんごめんなさーい!!! しっかりしてぇ!!!」
俺の意識は再び遠くなっていった。
○○〇
再び俺が目を覚ますと舞台は変わっていた。ここは…色彩商店街? そこにあるベンチで俺はどうも寝ていたらしい。体の方も先ほどのアキオとの記憶の時より成長している様だ。これは…俺は高校生ぐらいの頃か?
また随分と飛んだなぁと俺は頭をかきながら体を起こす。何故この時代の記憶を見さされてるのだろうか?
俺の高校生の時なんて特に印象に残る事件なんて何もなかったと思うけど…。文字通り何も無かったからな。せいぜい男連中とバカやってたぐらい。
とりあえず俺は商店街を歩き始める。これはせいぜい4年ほど前の記憶なので商店街は今とあまり相違はない。相変わらず活気のない寂れた地方の商店街と言う感じである。
俺はそのまんま商店街を進んでいくと、商店街の端にある「ファッションセンターのむら」というアパレルショップが目に止まった。おっ、懐かしいな。俺も昔はよくここで服を買ってた。今ではもっぱらam@jonなどの通信販売に頼ってるけどな。
そしてそのアパレルショップの前に服を見ながらたたずんでいる地味な女の子がいた。その女の子はその時流行りだった服をみながらため息を吐いている。
「どうかしたんですか?」
そうそう、何故かはわからないけどこの時の俺はその地味な女の子に話しかけたんだったな。なんかほっとけなかったというか、気になったというか…。
「えっ?」
地味な女の子は「誰コイツ?」という顔で俺を見て来る。まぁ当然か。いきなり見ず知らずの人に話しかけられたらこうなるわな。んー、それにしてもこの人…。良く見ると地味だけど凄く綺麗な顔をしているな。化粧したりオシャレすれば化けるタイプの人だと思う。
「悩んでいるような顔してたから」
俺がそう言うとその女の子は「フッ」と笑った。
「そうね、確かに悩んでいたわ。あたしにはこんな派手な服似合わないだろうな思ってね」
俺はその服と地味な女の子をマジマジと見比べる。
「そう? 実際着てみなきゃ分からないと思うよ。君スタイル良いし、顔だって綺麗じゃん。案外似合うかもよ?」
「そ、そうかしら?////」
女の子は照れくさそうにしている。今思うとこれナンパに片足突っ込んでるな。当時の俺はよくもまぁこんな恥ずかしいセリフを言えたものだ。
この時の俺は高校1年生ということで、まだ比較的女性関連に自信があった時期だからかな? このあとに自分のモテなさに絶望して徐々に自信が無くなっていくんだよな。
「ありがとう。あなたのおかげで勇気がわいたわ」
女の子はそう言いながら店に入店していく。服を買う決心がついたのかな? 俺のような人間の言葉でも悩んでいる人の助けになれたのなら嬉しい。ところが彼女は店に入る前に何かを思い出したような表情をしてこちらを振り返って尋ねて来た。
「あなた名前は?」
「えーっと…
「えっ…?」
俺は適当な名前を答えた。理由は自分の名前を正直に答えるのが恥ずかしかったからである。ちなみに「大蒜醬油権兵衛」と名乗ったのは、当時の俺は友達に勧められた大蒜醬油にハマって毎日食べていたからという理由だ。
当たり前の話だが…そのせいで俺はクラスの女子から「大蒜臭い」と言われて嫌われることになる。俺の黒歴史の1つである。もちろんそれ以降大蒜醤油は食べていない。むしろ嫌いになった。
…今思うと名前が件の「大蒜醤油真紀子」と被ってるな。あー、ヤダヤダ。
俺はそのまま商店街の出口の方へ向かう。そして商店街から出た瞬間、突然俺の体が宙に浮かびそのまんま天に昇っていった。自分でもこれが何を意味するのか分かった。現実世界の俺が目覚めようとしているのだ。俺の意識は記憶の世界から現実の世界へと浮上する。
○○〇
「う、ううん…?」
「あっ! 起きた」
俺が目を覚ますと目の前には美春先輩の顔があった。えっ? なんで? ってか近い!
そして後頭部には柔らかい感触が。どうやら俺は彼女に膝枕をされているらしい。先輩の柔らかな太ももの感触が俺の頭に伝わって来る。膝枕ってこんなに気持ちいいのか…ちょっと癖になりそう。そしておでこには濡れたハンカチ。これは…以前に秋乃が持っているのを見たことがある。秋乃のハンカチか。
「兼続大丈夫?」
「か、兼続君、本当にごめんね。私が吹き飛ばしちゃったばっかりに…」
先輩と秋乃が心配そうに俺の顔を覗き込む。俺は何をしていたんだっけ…? そうだ! 美春先輩の偽の彼氏になって妹の春海ちゃんと会ってたんだったな。そして春海ちゃんの煽りに先輩がブチ切れてキスをしようとしていたところに秋乃が突っ込んできて俺が木に頭をぶつけて気絶…と言った感じか。だんだん思い出してきたぞ!
「いえ、俺は大丈夫です。それよりも春海ちゃんは?」
「ああ、大丈夫よ。春海なら渇を入れておいたから」
先輩が横を向くとそこにはふてくされた表情の春海ちゃんがいた。おそらく先輩に説教されたんだろう。
「ごめんなさい、ちょっと煽りすぎた…」
彼女はペコリと俺に謝罪してくる。そして彼女はこう言葉を続けた。
「でもまだ2人が付き合ってるなんて信じてないからね!」
…うーん、どうやら春海ちゃんを納得させることはできなかったようだ。まぁ結局キスしてないしな。
でも俺は先輩とキスをしなかった事に逆に安堵していた。俺は所詮偽の彼氏なので、先輩のファーストキスは正式な先輩の彼氏にとっておいて欲しいという気持ちがあったからだ。煽りに乗ってキスしたんじゃ折角のファーストキスが台無しである。
ファーストキスというのは文字通り最初の1回しかそのタイミングが無い。しかるべき時にしかるべき相手にしてあげて欲しい。
…しかし困ったな、春海ちゃんを納得させるにはどうすればいいだろうか? 俺が悩んでいると俺のほっぺたに何か濡れた感触がした。
チュッ
「ん?」
「あっ…」
「あ゛あ゛ー!!!!!!(せ、先輩が兼続君のほっぺたにキ、キスを…。先を越されたぁ…。私が奪うつもりだったのにぃ…)」
えっ…? なにこれ? 美春先輩が俺のほっぺたに唇を当てている…? んん? どういうことだ? 俺はあまりの衝撃に頭がフリーズしてしまう。これって…キス? 先輩は俺のほっぺたから口を離すとぺロリと口周りを舐めた。
「キス…したわよ。春海は別に口にしろとは言わなかったわよね? ほっぺたにキスするのも恋人同士でしかやらないでしょ?」
先輩はしたり顔で春海ちゃんにそう言い放つ。それを見た春海ちゃんは少し怯んだ表情になった。
「ぐっ…(確かに友達程度ではほっぺたにキスはしない。これは…分からなくなったわね)」
「どう春海? これであたしたちが付き合ってるって信じて貰えたかしら?」
「…分かったわ。とりあえずは…2人が付き合ってるって信じてあげる」
「フフン♪ 当然よね」
…なんだか良く分からないけど俺たちは春海ちゃんに無事付き合っていると認められたらしい。はぁ~、良かった。ミッションコンプリート。なんとかバレずに済んだ。先輩のお願いを無事達成できたようだ。
○○〇
…その後、俺たちは春海ちゃんと別れた。先輩はルンルン気分で俺たちの前を歩いている。秋乃は逆に落ち込んでいる様だ。俺を吹き飛ばした事なら最初から怒ってないのに。というかなんで秋乃はあそこに居たんだ?
「これで姉としてと威厳が保てたわ。ありがとう兼続。今度何か奢るわね♪」
「は、はぁ…ありがとうございます」
俺は先ほど先輩にキスされた部分を撫でる。でもいくら嘘を貫き通すためとはいえ俺なんかのほっぺたにキスしても良かったのだろうか。彼女の中では口じゃないからセーフなのか?
先輩の唇が触れた部分は何故かまだ熱を帯びている気がした。それは夏の日差しが暑かったからか、それとも頬が熱を帯びていたのかは俺には分からなかった。
○○〇
次の更新は8/25(金)です。
※作者からのお願い
もし当作品を読んで1回でも笑われたり展開が面白いと思って下さったなら♡や☆での評価をお願いします。作者のモチベにつながります。
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