寿司ウォーズ!
「かっぺかっぺかっぺっぺのかぁぺ寿司~♪」
「おい、恥ずかしいからやめろよ…」
「だって久々の寿司なんだぜ? その喜びを体全体で表現しているんだよ。くぅ~寿司食うのなんて1年ぶりぐらいだぜ!」
氏政が小躍りしながら『かっぺ寿司』のテーマソングを歌っている。俺はこの前の約束通り、彼に寿司を奢るべく駅前にある『かっぺ寿司』へと向かっていた。
『かっぺ寿司』とは正式名称『いなかっぺ寿司』と言い、日本の田舎を中心に展開している飲食チェーンである。略して『かっぺ寿司』だ。はたして都会ではなく田舎を中心に展開して儲けがでているのか甚だ疑問ではあるが…、しかしそのおかげでこの「ザ・田舎」とも言っていい色彩市でも気軽に安い寿司が食べられるのだからありがたい。
「…お寿司楽しみ。ちょうど食べたかった」
そして俺の隣には何故か冬梨がいた。寮を出る時に氏政と寿司を食べに行くと言ったらついていくと言い出したのだ。
「実家に帰った時に食べたんじゃないのか?」
「…その時はその時、今は今」
…相変わらず冬梨は食い意地がはっているようだ。いつもたらふく食べてるのにその栄養は一体どこに行っているのだろうか。あれだけ食べてたらもう少し色々大きくなってもよさそうだが。
「…なんだか兼続から失礼な視線を感じる」
「気のせいだ」
おっと、冬梨をジロジロと見すぎたか…。俺は慌てて彼女から視線を逸らした。俺たちは軽口を交わし合いながら『かっぺ寿司』へと向かっていった。
「しかし冬梨ちゃんも寿司好きだったとはなぁ~、実は俺達気が合うんじゃね?」
「…それは気のせい。冬梨はあなたを生理的に受け付けない」
「あっ、そうですか…」
氏政がどさくさに紛れて冬梨をナンパしようとするが速攻でフラれた。しかも「生理的に受け付けない」という異性に言われたら精神が破壊されるワードランキング第1位の言葉を使われてるよ…。俺だったら女の子にそんな事言われたら立ち直れないかもしれん。
「まぁいいや、今日は寿司食えるからどんなに罵倒されても大丈夫だぜ!」
氏政は一瞬ショックを受けたように見えたが、すぐにケロッとした顔で立ち直る。 相変わらずコイツの精神力は凄いなぁ。ある意味、人生クヨクヨ悩むよりコイツみたいに能天気に考えられる方が幸せかもしれん。俺は逆に少し悩みすぎなのかもな。
そんな事を話しているうちに俺たちは『かっぺ寿司』へと到着した。自動ドアをくぐり店内へと入店する。
「…無茶苦茶混んでるじゃないか」
『かっぺ寿司』店内はほぼ満席だった。おかしいな…もうお盆も終わったから空いてると思ったのに…。しかも俺達学生は夏休みだが、今日は平日であるにも関わらず大人の姿も結構見える。なんでこんなに混んでるんだ? なんかキャンペーンでもやってるのか?
「…今日は『かっぺ寿司』の社長が贔屓にしているソシャゲで推しキャラのSSR引いたからその記念で全品10%オフって書いてある」
冬梨が近くにあった張り紙を指さして言った。
「なんじゃそりゃ…」
滅茶苦茶な理由である。そんな個人的な理由で商品の割引決めてもいいのかよ…。社長が押しキャラのSSR引くたびにセールやってたら会社の売り上げが右肩下がりになりそうなんだけど…。よく今まで潰れなかったなここ。客としては商品が安くなって嬉しいけどさ。
「いらっしゃいませー。何名様ですか?」
「3名です」
「カウンター席ならすぐにご案内できますが…。テーブル席の場合は空くまでお待ちいただくことになりますがどういたしましょうか?」
個人的には周りを気にせずに食べれるテーブル席の方が良かったが、こんだけ混んでいるのだから仕方が無い。テーブル席が空くのを待っているとかなりの時間待たされそうだしな。
「カウンター席でいいか?」
「しゃあねぇべ」
「…冬梨はお寿司が食べれればどこでもいい」
「じゃあカウンター席でお願いします」
「分かりました。ではご案内いたします」
2人にも意見を聞くがカウンター席で問題なさそうだったので俺たちはカウンター席で寿司を食べる事になった。
○○〇
「ゲッ…またあんたたちなの…?」
俺たちがカウンター席に行くとそこにはお菓子系metuberの穴山梅子さんがカウンター席の端っこでスマホ配信しながら寿司を食べていた。夏休み中に会うのはこれで2回目である。こんなところでも配信するのか…。もはや配信モンスターだな。
「言っとくけどこっちには関わらないでよね。私配信中なんだから!」
よくもまぁキッズが「ギャハギャハ」とうるさいこの店内で配信できるものだ。視聴者は彼女の声聞こえてるのかね?
俺達は左から冬梨、俺、氏政の順でカウンター席に座った。冬梨の更に左隣が穴山さんである。
「よりにもよってあなたが隣なのね…」
「…心配しないで、今日の冬梨はお寿司を食べに来た。アへ顔女に用は無い」
「だからアへ顔女って呼ぶなつってんでしょ!?」
「…じゃあガンギマリ女? それとも汚い声で鳴くオホ声女と呼んだ方が良い?」
冬梨はニヤリと笑いながら穴山さんの方を見つめた。
「ちょ!? なんであなたまた私の限定配信の事知ってんのよ!? あの配信は私の信者しか聞いてないはずなのに…」
「…あなたのメンバーシップ登録者からメンシギフト貰ったから有効活用させてもらった。下品な声で鳴く女を穴山梅子なんて贅沢な名で呼ぶ必要はない。あなたは『オホ』で十分」
「くぅ~、あいつら余計な事しやがって…」
どうやら偶然穴山さんのメンシ登録者からギフトを貰った冬梨が極秘に穴山さんの限定配信に潜入していたらしい。穴山さんよ、いくら金がもらえるからってそういうのを安売りするのはどうかと思うぞ…。
しかしあの2人は相変わらず仲が悪いな。犬猿の仲と言って良いほど会うたびに口喧嘩している気がする。
「いいわ。無視よ無視! 私は私で自由にやらせてもらう。いい? 私とあなたの間に壁があると思いなさい! ウォールマ〇ア、ベルリンの壁、万里の長城!」
「…その日人類は思い出した。ヤツらに支配されていた恐怖を」
「壁壊そうとするんじゃないわよ!? 私に関わってくんなって言ってんの!?」
「…店員さーん、ヒラメお願いします」
「無視するんじゃないわよ!?」
「…うるさい。冬梨はお寿司が食べたいの。関わってくるなって言ってたのはオホの方。それなのにオホの方が冬梨に話しかけてきてる」
「くぅぅ~///」
穴山さんは涙目になって冬梨を睨む。完全に冬梨に遊ばれてるな。さて、俺も寿司食うか。寿司食うの久しぶりだなぁ。
「なぁ兼続、あのギャルみたいな娘誰だ? なんかmetubeやってるって聞こえたけど…。紹介してくれね?」
あぁ…そういえばこいつがいたな。めんどくせぇ…。俺は適当にはぐらかして説明し、何とか氏政の興味を削いだ。
○○〇
その後、俺たちは寿司を楽しんだ。回転寿司って色々なネタを手ごろな値段で頼めるのが良いよなぁ~。注文もタッチパネルで楽々だし…。5貫ほど食べたところで、俺は氏政の右側の席が3席ほど空席になっている事に気が付いた。椅子の上には「予約席」と書いてるプレートが置いてある。
「氏政の隣、予約席なんだな」
「ん? ホントだ。気が付かなかった。でもカウンター席を3席予約って珍しいな。普通テーブル席で予約取らね?」
「確かに」
飯を食べに来るほど仲の良い3人組ならテーブル席の方を予約してもいいと思うんだが、となると…あまり仲の良くない関係という事か? 何だろう、会社の偉い人の接待で寿司屋予約したとかかな? でも会社の接待なら回転寿司ではなく、回らない高級な寿司屋の方に行きそうではある。
3席空いている…。なんだか俺の背中に嫌な汗が流れた。最近の俺の嫌な予感って結構当たるんだよなぁ…。
「こちらでございまーす」
そこで店員さんが新しい客を連れて来た。その3人はどうやら予約していた3人のようで予約席に座った。
あー…。やっぱり俺の嫌な予感は当たってしまったか…。
「ぬ? お前は東坂兼続! ここで会ったがワンハンドレッドイヤー目!」
「陽キャ、ファー!!! 我が宿敵の東坂兼続じゃないか!? 奇遇だな。お前も寿司食いに来たのか?」
「あなたと一緒に寿司食べるなんて寿司が不味くなるわよ…」
「なんでまたお前らと会うんだよ…」
俺の悪い予感は当たった。予約席に座った3人組はあのめんどくさい3人衆だった。この3人の関係ならカウンター席を予約したのは納得だわ。あくまで俺を女子寮から追い出すという目的のためだけに集まった寄せ集めの3人だからな。
数日前に会ったばかりなのになんでまたこいつらと会わなきゃならんのだ…。やはり弥太郎の力が強まったせいで俺に厄が集まっているのかもしれない。またお札買ってくるか…あれも安くは無いんだけどなぁ。1枚800円もするんだぞ!
「っていうか赤城の家って金持ちなんだろ? こんな安い店じゃなくて高い店に行けよ!」
「ボォクは別にそれでもかまわないのだが、この2人に配慮した結果さ。彼らは庶民だからボォクのようにお金を持ってないからね」
「貧乏、ファー!!! 悲しいねぇ!」
「うるさいよ!」
緑川の奴上半身裸で下は短パンという格好で入店してるけど大丈夫なのかこいつ…。店員さんもよく入店許可したな。
「だが感謝するがいい。俺たちは今日はお前と相対する気はない。ボォク達は寿司を食いながら『東阪兼続をどうやって貶めるか』の会議をするだけだからな!」
「横に本人がいるのにそんな会議するのか…。丸聞こえなんだが」
「あいつら…アホなのか?」
「フッ、例え聞かれていたとしてもボォク達の考えるパーフェクチョな作戦はお前にはどうすることもできないのさ! 回避不能これぞまさに孔明の罠!」
「
「だからうるさいよ!!!」
緑川は席に座りながら腰を振り始める。わいせつ罪で警察呼んだろうかな…。
「…兼続、冬梨アレのせいで気分悪くなってきた。吐きそう」
「同感だ…。でも吐くのはトイレ行ってからにしてくれ」
「…了解した。オホの方に吐く」
「なんでよ!? 壁あるって言ってんでしょ!? というかオホって呼ぶのやめなさいよ!?」
「…オホはオホ。オホォ~」
「あああああああ!!!////// だからやめなさいってば!!!」
こっちはこっちである意味仲良く?やっているらしい。
「正直弥生もこんな奴らと組みたくないけど、あなたを女子寮から追い出すためには仕方のない事なのよ。敵の敵は味方と言う奴ね」
「あっそう」
板垣さんが呆れた顔でそう言うが…なんかもう疲れて来た。せっかく寿司食いに来たのになぁ…。
○○〇
「今度の東坂兼続を貶める作戦だが…、彼の鞄に下着を入れるのはどうだろう? そしてその後に彼の鞄の中を御用改める」
「下着はどうやって調達するのよ?」
「ボォクのグランドマザーの勝負下着でも入れておくよ」
「………」
…全部聞こえてるんですけど。作戦の内容がバレてちゃ相手に対策されるだけだと思うんだが…。しばらくの間鞄は持ち歩かないようにしよう…。というかグランドマザーの勝負下着って…。ふんどしとかの世代じゃないのか?
はぁ…。まぁ当面の彼らの嫌がらせの対策は出来たという事で良しとしておこう。彼らにまともに付き合っていたら俺の精神力がどんどんすり減っていってしまう。
俺はせめて寿司を楽しもうとマグロを手に取り食べた。
「!!!? なんじゃこりゃ!?」
その寿司にはわさびが大量に入ってあった。クッ…鼻が…ツーンとする…。作った人が誤って入れたのか?
「ハッハッハ! ひっかっかったな東阪兼続!」
横を見ると赤城がドヤ顔しながらこちらを蔑むような眼で見ていた。まさか…?
「そうだとも! このボォクがお前がマグロを取るのを予想して中にしこたまわさびを仕込んでおいたのさ! ハッハッハ。効いただろ?」
こいつ…少し前に「寿司テロ」で散々話題になってたの知らないのかよ…。飲食物に何かを入れるって器物破損罪になるんだぞ。お前も一応刑法の講義で習ったろ!?
「あっ、弥生はやってないから関係ないわよ。全部赤城がやったんだからね」
「そうだとも。俺も無関係だ。流石に捕まるのはゴメン、ファー!!!」
緑川と板垣さんは流石にそれを知っているらしく、自分は無関係という事を主張してくる。流石の彼らも逮捕は嫌らしい。…緑川は別件で逮捕されそうな格好をしてるけどな。
「お前なぁ、店に迷惑かけるのやめろよ! 俺がもし取らなかったらどうるすつもりだったんだよ?」
「フッ、そんな事はあり得ない。このボォクのパーフェクチョな頭脳が君が100%マグロ食べると予測したからね。あっ、警察にいっても無駄だよ。僕はこれは仲間内の悪ふざけと証言するからね。もし警察に行けばお前もボォクの悪ふざけの仲間として逮捕だ。まぁもしボォクが捕まってもファザーとグランドファザーの力でどうにかするけどね。ハッハッハ!」
こいつ…知っててやったのか。その上で自分は身内の力でどうにかなるから俺にわさびを食わせて来たと? クソッ! どこまでクズ野郎なんだ。小さい頃から身内の力で散々甘やかされて来たんだろうな。でも彼のバックに権力者がいる以上俺には何もできない…。くやしい…。
俺は腹がったので席を立ち、店から退店することにした。クソッ、これが親ガチャの力か…。
…しかし数日後、事態は思わぬ変化を見せる事になる。なんと穴山さんの配信に赤城が寿司にわさびを入れている所がバッチリと映っていたらしい。それを見た穴山さんのリスナーが警察と『かっぺ寿司』に通報。さらにその切り抜き動画がネットに拡散され大炎上することになった。
流石にこの事態は赤城の親族でも揉み消すことはできなかったらしく、赤城は大学を停学処分になったらしい。
なんか知らんがざまぁ! たまたま配信していた穴山さんに感謝だな。これでうっとおしいのが1人消えたぞ!
○○〇
ちなみに赤城はまた蘇ります
次回の更新は8/13(木)です
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