寮に帰って来た4女神 …しかしどこか様子がおかしい

 8月17日、昨日寮に襲来してきためんどくさい3人衆(+氏政バカ)をなんとか追い払い、4女神も無事寮に戻って来た。またいつもの夏休みの日常が戻って来るのかと思いきや、…なにやら彼女たちの様子がおかしい気がするのだ。


 美春先輩は俺の方をなんだかチラチラと盗み見るように見ている気がするし、千夏は何故か俺と目を合わせてくれない。秋乃は話す時にぎこちない気がする。唯一冬梨だけはいつも通りなのが救いだ。


 何かあったのだろうか? 俺は別に何かをやらかしたつもりは無い…というか昨日まで彼女たちは実家に帰っていたのだから俺が何かできようはずもないのだ。


 唯一いつもと変わらない冬梨にヒソヒソ声で話しかける。


「(なぁ…あの3人何かあったのか?)」


「(…冬梨に聞かれても困る。冬梨は何も知らない)」


 冬梨も知らないらしい。となると考えられるのは彼女たちの実家で何かあったのだろうという事だが…。流石に実家であった事なんて俺にはどうしようもない。


「…あっ、そうだ。兼続はいこれ、お土産」


 冬梨は机の傍らに置いてあった紙袋を取ると俺に差し出してくる。


「あっ、これはご丁寧にどうも。…貰っといてなんだけどイナゴの佃煮はいらんぞ?」


「…心配しないで、ただのまんじゅう。お母さんが友達と分けて食べなさいって」


「あっ、そういう事か。じゃあこれは寮のみんなで食べるか。みんな! 冬梨のお土産だって!」


 俺はそう言ってまんじゅうの包み紙を開けるとみんなが取りやすいように食堂の机の中央に置いた。そしてついでに自分も1つとって食べる。


「おっ、結構いけるじゃないか! どこのまんじゅうなんだ?」


「…宇治抹茶まんじゅう。京都のお土産」


「へぇ、お盆の間京都に旅行に行ってたのか?」


 冬梨は首を振って答えた。


「…ううん、適当に家にあったやつ」


「なんじゃそりゃ…」


 何故実家に帰って来たお土産に京都の名産品を持って来るのだろうか? 冬梨の事は相変わらず良く分からない。彼女を真の意味で理解できる日はまだ遠いのかもしれない。


 …家に適当にあったやつって賞味期限とか切れてないよな? 俺は念のため箱に書かれてある賞味期限をチェックするがどうやら賞味期限は来週のようだった。とりあえず腹は壊さずに済みそうだ。


「うんうん、美味い美味い。みんなも食おうぜ!」


 俺はみんなにも冬梨のお土産を取るように促した。しかしながら冬梨のお土産を取ったのは寮長ただ1人だった。


 …おかしいな、何でみんな取らないんだ? それこそ和菓子と抹茶が大好きな千夏なんて我先に取りそうなものなのだが…。何故か彼女はずっとうつむいている。何か考え事をしている様にも見える。はて、どうしたのだろうか?


「千夏、食わないのか? お前和菓子好きだったろ?」


「へっ//// いや、うん。頂くわ…(どうしよう…兼続を見てるとどうしてもあの事が頭に浮かんできて彼の顔をまともに顔を見れないわ//// 私は…本当に彼の事が好きになっちゃったのかしら? 分からない…。だって異性を好きになった経験なんてないんだもの…)」


 彼女は俺が勧めるとやっとまんじゅうへと手を伸ばし口に入れる。しかし、その顔はやはり心ここにあらずと言った感じだった。…うーん? 


 美春先輩と秋乃もまだまんじゅうをとらない。


「2人とも食べないの? じゃあわたしが全部貰ちゃおうかしら?」


「おい!」


 寮長が意地汚くも残りの饅頭に手を伸ばそうとしたので俺は慌ててまんじゅうを彼女の手の届かない位置に移動させる。油断も隙も無いなこの人は…。6個しか入っていないので多く食べる奴がいると全員にいきわたらないのだ。


「秋乃? お腹の調子でも悪いのか?」


「えっ?//// あっ、うん、頂くね。冬梨ちゃんありがとう!(お母さんに教わった男の子を落とすための方法…試してみたいけど…。ダメ! やっぱりどうしても緊張しちゃう/////)」


 やはり秋乃もどこか様子がおかしい。なんだろう? 何かソワソワしているような…?


「美春先輩は?」


 俺はまんじゅうの残りを美春先輩に差し出す。


「…貰うわね(う―ん…。来週あたしは春海に偽の彼氏として兼続を紹介しなくちゃならない。彼は…快く協力してくれるかしら? あたしに好きな人ができるまで練習に付き合ってくれるとは言ったけど、流石にそこまで頼むはちょっと気が引けるわね…)」


 彼女はそう低く声を発するとまんじゅうを手に取った。…美春先輩らしからぬローテンションである。ここまでテンションの低い彼女は始めて見た。


 やはり3人ともどこか様子がおかしい。参ったなぁ…。みんなの様子がいつもと違うと俺までセンチメンタルな気分になってしまう。


「(兼続、お困りのようね)」


 3人の様子がおかしい事に彼女も気が付いていたのか、寮長が俺にヒソヒソ声で話しかけて来る。寮長は何か知っているのだろうか? 


 …この人のヒソヒソ声ってねちっこい感じがしてなんか嫌だよな。なんか耳にゴキブリが這ってる気分になる。あと息が臭い、生ごみの匂いがする。


 俺は生理的嫌悪感を感じたが、あの3人の様子がどうしておかしいのか知りたかったので我慢して彼女の言葉に耳を傾ける事にした。


「(寮長は何か知ってるのか?)」


「(当り前よ! わたしを誰だと思ってるの? 恋愛マスターにしてあんたたちより10年以上長く生きてるのよ。あの3人の様子がおかしい理由なんてすぐに分かったわ)」


 彼女は自信満々にそう答える。正直彼女の言う事はあまり信用ならない事の方が多いのだが…、俺にはあの3人の様子がおかしい理由がさっぱり分からなかったので藁をもつかむ気持ちで彼女の助言を聞くことにした。


「(あの3人の様子がおかしい理由…それはズバリ生理よ!)」


「(生理!?)」


 生理ってあの女の子に月に1回来る奴か? …そういえば確かに生理中は女の子の感情が不安定になりやすいって話を聞いたことがあるな。


「(男のあんたには分からないかもしれないけど、生理ってすごくつらいの。基本的に女の子の機嫌が悪い時は便秘中か生理中だと思っておきなさい)」


「(えぇ…、絶対他にも理由あるだろ…)」


 それこそ秋乃なんて寮長にチーズケーキを食われて大激怒していたと思うんだが…。彼女の鳥頭はその事を忘れたのだろうか。

 

 しかしこれに関しては女の子と今まで付き合った事の無い俺には全くない知識だった。そうか…生理か。女の子は大変なんだなぁ。


「(俺はどうすればいいんだ?)」


「(何もしないのが正解よ。彼女たちの生理の期間が終わるのを待つしかないわ。今の彼女たちは感情が乱れやすいから何かしたり話しかけたりするのは厳禁よ)」


 そうだったのか…。じゃあ俺がまんじゅうを食べるように催促したのはダメな行為だったんだな。しばらく彼女たちとは何も話さない方がよさそうだ。


 俺はそう判断すると中身のなくなったまんじゅうの箱をゴミ箱に捨て、自分の部屋へと戻ることにした。ちなみに残りの1つは冬梨が食べた。


「「「あっ!」」」


 俺が部屋に帰ろうと食堂のドアに手をかけると3人が揃って声を上げた。何だ? 俺に何か用事でもあるのか? しかし彼女たちには今はあまり話しかけない方がいいらしいので、俺はそれに気が付かないフリをして急いでドアを閉めると自分の部屋に逃げるように帰った。



○○〇


☆another side☆


 ―兼続が部屋に戻った後の食堂―


「うーん…(どうやって偽の彼氏役を頼もうか悩んでいるうちに兼続行っちゃったわ…。春海と約束しているのは来週だけど、偽の彼氏だってバレないように色々口裏を合わせておく必要があるのよね…。そう考えると兼続に彼氏の役を頼むのは早い方が良い…。なんとか彼を捕まえて話さなくちゃ!)」


「………(兼続行っちゃったわ。…自分の気持ちがよく分からない。どうやって確かめればいいのかしら? こういうのって教科書には載ってないのよね…。はぁ…日本政府は恋愛の授業を必修化すべきよ! そうすれば私みたいな恋愛音痴も少しは救われるかもしれないのに…。誰か教えてー!?)」


「あっ…(あー! 私がトロトロしているうちに兼続君行っちゃったじゃない。もぉー!!! 私のバカバカ! そうやっていつも怖気づいているから15年も片思いする結果になるんだよ…。ここはひとつ勇気を出して、彼の部屋に突撃してみ…待って! 彼と部屋で二人きり…? 男と女2人…地下の密室…何も起こらないはずはなく…。キャー//// そんなのダメダメ! まだ早いよぉ////// でもお母さんはそういうのも大事って言ってたし…/////)」


「秋乃? 何クネクネしてるの?」


 突然クネクネし始めた秋乃を見て寮長がドン引きした様子で彼女に話しかける。


「ハッ!!!///// な、なんでもないですよ寮長////(危ない…また妄想の世界に行くところだった…///)」


「あっ、そうそう。3人…いや冬梨もあわせて一応言っておくわね」


「「「?」」」「…?」


 寮長が突然改まった様子で話を始めたので4人は顔を見合わせる。


「あんたたちも大変なのは分かるわ。わたしも色々苦労したからね。でもその負担を兼続に押し付けちゃダメよ。そういう事をする女性は嫌われるわ(生理中のイライラを男…というか他人にぶつけるのはダメ。私も昔これで当時付き合っていた彼氏と別れたのよね。この娘たちにはそんな事がないように助言しておかなくちゃ。わたしって凄くいい女よねぇ!)」


「ッ!!!(確かに。寮長の言う通りいくら兼続が自分を練習台にしていいからって言ったとしてもあたしの都合で偽の彼氏役を頼むのってさすがに都合が良すぎよね…。でもどうしよう…そうすると春海にまた馬鹿にされちゃう…。レンタル彼氏ってのも監視してるって言ってたし本当にどうしよう…)」


「うっ…(久々に寮長がまともな事言っている。明日は大雨が降るんじゃないかしら? 自分自身の気持ちが分からないからって彼を避けてちゃダメよね。兼続に失望されちゃったかしら?)」


「うん?(それって…私が兼続君に付きまとっているせいで彼が迷惑してるって事? でも考えてみると彼の事が好きだからって最近ちょっとやりすぎだったかも? 兼続君が優しいからって彼氏が出来た時の練習に付き合ってくださいとか言ったり、海で無理やり2人きりになろうとしたり…。あれ? これってもしかして私イタイ女だと思われてる? だから兼続君が寮長に遠回しに忠告してくれって言ったのかな? うわー!? どうしよう!? 彼に嫌われちゃったかも…)」


「…?(冬梨、最近兼続に何か迷惑かけたっけ?)」


 まさに勘違いが勘違いを呼ぶ大喜劇である。この状況を正確に理解している人物はこの場にはいないであろう。


「ま、年長者からの忠告よ。ありがたく受け取っておきなさい」


「「「はぁ…」」」「…?」


 冬梨以外の3人は大きなため息を付いた。果たして大きな勘違いをした3人と兼続はどうなるのだろうか? 女子寮の夏休みは更に波乱を極める事となる。



○○〇


 ※少し補足。今回の話は3人が個々人の悩みがあって難しい顔をしているのを寮長が生理だと勘違いして兼続に告げる→兼続はそれを真に受けて3人を避ける→勘違いしたままの寮長が3人に説教をする→3人はその意図を勘違いして受け取る。


という勘違いが勘違いを呼ぶすれ違いの連鎖となっております。分かりづらかったらすいません。


次の更新は8/7(月)になります


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