4女神の実家での出来事
side~山県家~
ごくごく普通の一般家庭のような家で秋乃とその母親は麦茶を飲みながらまったりと過ごしていた。秋乃は麦茶を一口飲んだ後に前々から母親に聞いてみたかったことを口にする。
「そういえばお母さんってどうやってお父さんを落としたの?」
「ブッ! ゴホッ、ゴホッ。いきなりね…。あっ、あんたもしかして好きな人でも出来たの?」
娘に突然変な事を聞かれた秋乃母は飲んでいた麦茶が気管に入って咽る。そして娘がそんな事を聞いてきた理由を推測した。
「ふえっ?//// え、えっと…ソ、ソンナコト…ナイヨ?」
「その顔は図星ね。あんた昔から本当に隠し事下手ねぇ…。それで…どんな子? ほら、お母さんに言ってみ?」
秋乃母はニヤニヤと娘に詰め寄る。今まで全くと言って良いほど浮いた話が無かった娘に現在好きな人がいると言う。母親が興味を示すには十分な理由だった。
「えっと…カッコ良くて優しくて私の希望を叶えてくれて友達の信頼も厚くて…////」
「へぇ、結構良さそうな子じゃない? でも超絶奥手のあんたにそんな子捕まえられるかしらねぇ…。指くわえて見てるのが関の山じゃない?」
「だ、だからお母さんに聞いてるんじゃん!////」
秋乃は恋愛面に関してはかなりの奥手と言って良い。想い人である兼続に(最近はマシになって来たものの)積極的にアタックできないのはもちろんの事。自分の友達にすら恋愛の話を恥ずかしくて相談できないぐらいには奥手だったのだ。
「そうねぇ…。いい? 男を捕まえるには昔から『3つの袋』を押さえろって言われてるのよ」
「『3つの袋?』」
「『胃袋、給料袋、キン〇マ袋』の3つよ!」
「キン〇マ袋!?///」
母親のいきなりの下ネタに秋乃の顔は赤く染まる。
「まぁ聞きなさい。まず胃袋は料理で相手の心を掴めって事。これはあんたそこそこ料理上手いから大丈夫でしょ?」
「う、うん。その人も美味しいって言って私の料理を食べてくれてるよ」
「おっ、もう料理を食べさせる仲になってるんだ? あんたにしてはやるわね。じゃ後はあんたの料理にその男を依存させるのよ。あんたの料理ナシじゃ満足できない体にさせるの。私だってお父さんを必殺のカレーで落としたんだから! プロポーズの時に『もうお前の料理無しでは生きられない』って言わせてね」
「依存させる…」
秋乃はスマホのメモアプリを開いて母親のアドバイスを記録する。
「2つ目の給料袋は…あんたたちにはまだちょっと早いわね。これは今は置いといて…。最後のキン〇マ袋の話ね。男は本能として自分の性欲を満たしてくれる相手が近くにいると安心するようにできてるの。逆に満たせないとそこら辺中に精〇をまき散らすわ。要するにあんたの傍から離れて行っちゃうって事」
「そこまで!?///」
「だからキン〇マ袋を押さえておく必要があるのよ。あんたが相手の性欲をキチンと搾り取っていれば他の女に行かれる心配は無いの。女は男より性欲が少ないからあまり重要視する人はいないんだけど、男にとっては性欲の処理は死活問題なワケ」
「う、うーん////」
「恥ずかしいかもしれないけど、男も女も性欲を発散するって大事よ。それが原因で別れるカップルなんて山のようにいるんだから。あんたいいもん胸にぶら下げてるんだからそれを使ってアピールして見なさい!」
秋乃母はそう言って自らの胸より明らかに大きく育った娘の巨胸をバシンとはたく。それに伴い、家の中にいるのでノーブラだった秋乃の胸がボヨンと跳ねた。
「い、痛いよ…」
「あっはっはっは。そうか、秋乃にもやっと好きな人がねぇ…お母さん嬉しいわ」
「じゃあお母さん、私にそのお父さんを落とした必殺カレーの作り方教えてよ」
「いいけど…その人もカレー好きなの? その人の好きなものじゃないと意味ないと思うわよ」
「あっ…」
「あんた料理食べされる仲までなってんのに相手の好きな料理も知らないの? 我が娘ながら大丈夫かしらねぇ…」
こうして山県家の時間は過ぎていった。
○○〇
side~高坂家~
千夏は現在高坂家の本家と言われるところに来ていた。千夏の父は現高坂家当主の次男である。千夏も興味が無いのであまり詳しくないが、本家はどうやらこの地で代々続く名家らしい。千夏の家自体はそんなにお金持ちの家ではないのだが、今いる高坂家の本家はかなりの金持ちらしく、邸宅も広い庭付きでここら辺では結構大きな和式の家である。
そんな大邸宅の何畳あるのか分からない畳張りの大部屋に高坂家の親戚一同が集まり、料理を食べながら各々の近況を報告しあっていく。
千夏は本家だとか分家だとか、親戚の近況だとかにまったくもって興味は無かったので「早く帰りたい」と思いながら出された料理を黙々と食べていた。おそらくどこぞの料亭から取り寄せられた良い料理なのだとは思うが…、こんなものよりかは千夏はチープなスナック菓子の方が好きだった。早く寮に帰ってチーズおかきの残りを食べたい。
そんな中千夏の隣に座る女性が話しかけて来る。その人は千夏の父の妹。千夏にとって叔母に当たる人である。悪い人ではないのだが、所謂昔ながらのおせっかいおばさんと言う感じの人で千夏は苦手だった。
「千夏ちゃん、しばらく見ないうちにまた綺麗になったわねぇ…。あなたのお母さんにそっくりだわ!」
「いえ、私なんてまだまだです。叔母様の方がお綺麗ですよ。オホホ…」
千夏はいつもの営業スマイルで叔母さんに応対する。内心では「そんなことはどうでもいいから早く帰らせて!」と思っていたが当然それは顔に出さない。
「まぁ! お世辞も上手ねぇ…。しっかりしてるわ。これなら兄さんも安心ね。勉学の方も成績優秀らしいじゃない? うちの娘にも見習って欲しいわぁ…。そういえば彼氏はもう作ったの?」
…来た。千夏がこの叔母さんを苦手な理由は昔からこういう風に色恋沙汰にうるさいからであった。千夏が中学生ぐらいになった頃からだっただろうか。「好きな人は出来た?」とか「彼氏は出来た?」とかよく色恋の話を聞かれるのである。
「いえ、中々これはと思う人が居なくて…」
千夏はあらかじめ用意しておいたテンプレの回答を述べる。頼むからこれで引き下がってくれと思いながら。
…しかしその時、千夏の脳裏に1人の男の顔がよぎった。その男の名は東坂兼続。その男の顔を思い出して千夏の顔が紅に染まる。
「ッ/////」
千夏は「どうしてあいつの顔が出て来るの?///」と頭を振り払い雑念を吹き飛ばす。確かに彼が女子寮に来てからというもの色々な事があったが、でも自分が彼の事を好きなんて…と千夏は自分の感情が良く分からなくなっていた。
「あら? その顔…。もしかして千夏ちゃん好きな人でもできたのかしら?」
千夏のその様子を叔母は見逃してはくれなかった。
「い、いえ。先ほど食べたしし唐がちょっと辛くて…。オホホ…」
「千夏ちゃん辛いの得意だったでしょ? しし唐ぐらいで顔が赤くなるはずないわ」
千夏は混乱する頭の中で思いついた精いっぱいの誤魔化しをしたが、それは容易く叔母に見破られてしまう。
「ほ、本当にそんな人はいないので…」
「いい人がいるなら一度本家に連れていらっしゃいな。なんせこの名門の高坂家の一員になるかもしれない人だもの。一度見ておかなくちゃ。ねぇ兄さん?」
叔母は千夏の隣で食事をしていた父に話を飛ばす。
「千夏に彼氏が出来ただって? パパそんなの許しませんよ!?」
「まぁまぁ兄さん落ち着いて。千夏ちゃんの器量ならむしろ遅かったぐらい…。それに兄さんだって義姉さん(※千夏の母親)の親から義姉さんを奪ったじゃないですか? 女の子の父親ならいつかは経験しなくちゃいけない事なんですから」
「グッ…」
その話を聞いていた周りの親族たちもガヤガヤとし始めた。あぁ…めんどくさい事になったと千夏はため息を吐きながら天井を見上げた。
○○〇
side~馬場家~
冬梨はお盆を利用して実家に帰っていた。彼女は自分の家のインターホンを押してチャイムを鳴らす。
「…こちら1番隊隊長冬梨、帰還した」
「了解した。只今ゲートのロックを開ける。しばし待て」
何やら軍隊風の挨拶を交わす馬場家。だがこれは馬場家では見慣れた光景であった。冬梨の両親も彼女に負けず劣らずの変人なのである。
彼女が門をくぐり、家の中に入るとそこには彼女の両親がコスプレをして待ち構えていた。父親はスー〇ーマン風の衣装を、母親はプリ〇ュア風の衣装を身にまとっている。彼女の両親も所謂オタクと言われる人たちであり、オタク知識の造詣が深い。
「お帰り、マイプリティ冬梨!」「ウェルカムバック、マイスイートハート冬梨!」
「…パパ上、ママ上。ただいま!」
一見すると感動の親子再開の場面である。…が、絵づらのせいでどうもシュール感はいなめない。
実家に帰還した冬梨の腹が「グゥ」と鳴る。それを聞いた両親は苦笑し、さっそくご飯を食べることした。
食卓に並べられたご馳走をもぐもぐと食べる冬梨。両親はそれを見てニッコリとしながら娘に大学での近況を尋ねた。
「冬梨、大学はどうだい?」
「…楽しい。それに友達もできた」
両親は顔を見合わせて娘の成長を喜ぶ。あのボッチで中々話の合う相手のいなかった自分の娘についに友達が…。
「男の子? 女の子?」
「…両方」
更に両親は驚いた。まさか冬梨に異性の友達が出来るとは思いもしなかったのである。
「そうかい、大切にしなさい(冬梨に異性の友達? これはチェックしとかないと…)」
「…うん」
冬梨の頭に友人であるバラムツ、そして兼続の顔が浮かぶ。冬梨は兼続の顔が思い浮かんだ瞬間、何故か心がポカポカと温かくなったが彼女はまだこの感情の正体を知らなかった。
○○〇
side~内藤家~
美春は実家の居間に寝転び、ファッション雑誌を読んでゴロゴロしていた。そこに彼女の妹である
「おねえ、またファッション雑誌読んでるの? どうせおねえに彼氏なんてできないんだからやめればいいのに。お金の無駄だよ」
「うるさい」
妹の春海はただいま高校2年生であるが、こしゃくにも美春より先に彼氏を作っていた。妹に先を越されたという事実に美春は嫉妬を感じざるを得なかった。美春は大の負けず嫌いなのだ。
春海は姉の隣にドスンと腰を降ろすと姉の大学での近況を聞いていく。
「で、おねえ結局彼氏できたの? 確か今年の正月に帰省した時は『絶対今年中に彼氏作る』って息巻いてたよね? もう今年はあと4カ月しかないよ?」
妹はニヤニヤしながら勝ち誇った顔で美春にそう言った。
「うっ//// それは…」
「えっ? 何て言ったのか聞こえないなぁ~。まさか8月にもなって何も成果が得られなかったって事は無いよねぇ?」
妹の春海は人をおちょくるのが大好きなタイプである。美春は腹がったのでそれ以上何も言わないことにした。どうせ何を言っても「やっぱりおねえに彼氏なんてできるわけないよね~。プゲラッチョ!!!」と煽られるだけなのだ。
そんな姉の様子をつまらなく思ったのか妹はさらに言葉を続ける。
「春海ね。来週彼氏と2人で旅行に行くんだ♪ なんと湘南だよ湘南! あの有名な!」
高校生の癖に彼氏と泊りがけの旅行だなんて生意気な。自分だってまだしたことないのに…。美春はニヤニヤしている妹を睨みつける。
「もしかしたらおねえのスゴク、スッゴク先に行っちゃうかもしれないけどごめんねぇ~♪ まだ
カッチーン!
突如美春の頭の中にその音が鳴り響いた。妹にこれ以上好き勝手言われるのは彼女の乙女として、姉としてのプライドが許せなかったのだ。
「…いるわよ」
「えっ? なんて?」
「彼氏ぐらいいるって言ったの!!!」
美春は勢い余ってとんでもない事を言ってしまう。「しまった…」と思った時はもう遅かった。
「へぇ~、じゃあ今度春海に見せてよ? その彼氏」
妹は姉に彼氏などできるはずがないと思っているので、余裕たっぷりと言った表情で姉をニヤニヤと見つめる。
「うっ/// いいわよ。来週は春海旅行だったわね。じゃ、再来週に見せてあげる!」
「言ったわね? あっ、レンタル彼氏を借りようとしても無駄よ。春海ちゃんとチェックしとくからね?」
「上等よ」
美春は自信たっぷりにそう言い放つが、内心は「どうしよう…」と焦りまくっていた。彼女の背中に冷や汗が流れる。
言ってしまったものは仕方が無い。こうなった兼続に頼むしかないと美春は覚悟を決めた。
○○〇
次の更新は8/5(土)です
※作者からのお願い
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