再び登場のスイーツキングダム(海の家)!
秋乃と夫婦松から赤い顔をしながら拠点に戻って来た俺達、拠点で休んでいた千夏に「どうかしたの?」と聞かれたが、流石に岩場の影に隠れてセッ〇スしているカップルの声を聴いてしまったとは言えずに適当にはぐらかした。
秋乃の顔は相変わらずトマトのように真っ赤に染まっている。元に戻るにはしばらく時間がかかりそうだ。さて、俺はこれからどうしようかなと思っていると海パンの裾を誰かに引っ張られた。
誰だと思って見てみると冬梨が俺の海パンの裾を引っ張っていた。
「どうした冬梨?」
冬梨がこういう事をする時は俺に何か用がある時なので俺は彼女に尋ねた。ここ2カ月の付き合いで彼女の大体の性格は理解したつもりである。
「…兼続、今暇?」
「暇と言えば暇だけど…。何をするんだ?」
「…今色彩海岸に『スイーツキングダム』が海の家として出張してきている。そこの海の家限定メニューが食べたい」
「へぇ~、そうなんだ」
「…だから一緒に行こ?」
そういえば美春先輩が冬梨を海に誘う時になんかそんな事を言っていたな。あの店出張海の家なんてやってたのか。従業員の数とか足りてるのかな…。
時計を確認すると今は午後14時少し前。15時のおやつには少し早いがまぁいいだろう。
「分かった。俺もちょっと甘い物が食べたくなってきたところだ」
「…流石兼続、冬梨のスイーツ仲間」
彼女は俺の答えにニヤッと笑う。知らん間に俺は彼女のスイーツ仲間にされていたようだ。俺たちは砂浜の端にあるというスイーツキングダムの出張店へと向かう事にした。
○○〇
そしてやって来た『スイーツキングダム海の家出張店』。ここも例に漏れずそこそこ長い列が出来ていた。う~ん、中に入れるまでに何分ぐらいかかるかなぁ?
とりあえず列に並ばないと永遠に順番が回ってこないので、俺と冬梨は列の最後尾に並ぶ。
時間つぶしがてら彼女と世間話をしながら列に並んで待っていたのだが、ふとある疑問が俺の頭の中に思い浮かんだ。
それは冬梨なら別に俺を誘わなくても1人で勝手に目当てのスイーツを食いに行きそうという事である。…何故彼女は俺を誘ったのだろうか?
俺の背中に嫌な汗が流れる。先ほどは軽い気持ちでOKしたが、スイーツキングダムには正直良い思い出が無い。最初に行った時は寮長の悪ふざけに振り回され、2度目に行った時は秋乃と修羅場になった。2度ある事は3度あるということわざが俺の脳裏によぎる。
俺は恐る恐る彼女に聞いてみた。
「…なぁ冬梨、何でスイーツキングダムに行くのに俺を誘ったんだ?」
「…『スイーツキングダム海の家出張店』に海の家限定のカップル限定メニューがある。冬梨1人では注文できないから兼続を誘った」
やっぱりか! よりにもよってまたカップル限定メニュー…。あそこそういうの好きだなぁ…。メインの客層を女性とカップルに設定しているから仕方ないと言えば仕方ないのであろうが。どうかめんどくさい事がおこりませんように!
「…どうしたの兼続? 祈るようなポーズをして?」
「気にしないでくれ。只の神頼みだ」
冬梨がキョトンとした顔で俺の方を見て来る。彼女の目には俺が意味不明な事をしているように写っているだろうが、俺にとっては死活問題なのだ。せっかく海に来たのに精神力をすり減らしたくない。
「次の方どーぞ!」
俺が心の中で念仏を唱えているといつの間にか俺たちの順番が来たようだった。俺は若干構えながら店内に入る。海の家出張店と言うだけあって店の内装は南国風になっていた。実にトロピカルな感じだ。
俺と冬梨は2人用の席に通された。周りを見渡すと案の定カップルだらけである。本店の方はまだ女性オンリーの客やスイーツ好きの男性客がちらほらいたのだが、ここは見事にカップルしかいない。…ったく昼間っからイチャイチャしやがってよぉ。ただでさえ暑いのに店内だけ温度が2、3度他より高そうだ。
席に座った俺たちはメニュー表を見る。確か海の家限定メニューがあるんだっけ?
「それで? 海の家限定メニューというのはどれなんだ?」
「…『海の家カップル限定! ドキドキ、トロピカルフルーツジュースアイス乗せ!』ってやつ。各種フルーツを絞った新鮮なジュースに北海道から取り寄せた牛乳を使用したアイスが乗っている。じゅるり…」
冬梨は味を想像して口の中に涎が溢れている様だ。説明だけ聞くと確かに美味しそうである。でもなぁ…カップル限定という事はどうせまた写真とか取られるんだろうなぁ。…でももう店の中までもう来ちゃったし、俺も覚悟を決めるか。
冬梨が注文をするべく店員さんに声をかける。
「はーい! 只今伺います。あら?」
「あれ? 甘利さん、お久しぶりです」
注文を取りに来たのはなんと甘利さんだった。美春先輩の友達で1年の青峰政景君の彼女であり、スイーツキングダムでバイトをしている。おそらく今日はこちらのバイトに駆り出されているのだろう。彼女は夏らしくミニスカでノースリーブの涼し気なメイド服を着て接客していた。
うーん…またもや甘利さんか。「2度あることは3度ある」を順調にたどっている気がする。俺の背中に悪寒が走る。
「今日はどうしたんですか? 2人でデート? 東坂君ついに相手を1人に絞ったんだ?」
甘利さんはクスクスと笑いながらそんな事を言ってくる。甘利さんには寮長の悪行の事はすでに話してあるので、これはただ単に彼女が俺をからかう目的で言っているのだろう。意外とお茶目な所のある人だ。
「いえ、寮のみんなで海に来たので休憩がてら寄っただけです。美春先輩もいますよ」
「…えっ? 兼続は冬梨とは遊びだったんだ…。冬梨ショック…。昨日あんなに激しくしたのに…」
「…東坂君。女の子を悲しませるような事を言っちゃダメですよ。メッ! 責任はちゃんと取らなきゃ」
しかしそこで冬梨が明らかに演技と分かるオーバーなリアクションをし、それを真に受けた甘利さんがジト目で俺を見て来る。
「いやいや、本当に違うんですってば! 冬梨も勘違いされるような事を言うなよ…。そもそも昨日は一緒に対戦ゲームしてただけじゃねえか!?」
俺と冬梨は昨日1日中メリオカートをやっていたのだ。中々白熱した熱い試合だった。彼女は俺がそれを指摘するとニヤリと笑った。こいつ! 俺をおちょくって楽しんでやがるな…。
「甘利さんも明らかに嘘と分かる演技に騙されないで下さいよ…」
「本当ですかねぇ…。東坂君って結構ヤ〇チンっぽいですし…」
引き続きジト目で俺を見て来る甘利さん。俺ってそんなにヤ〇チンっぽいか? まだ1回も使った事ないんだけど!?
「違います! そもそも俺はモテないしまだ誰とも付き合った事もないんですよ!?」
「こりゃ美春も大変だ(美春から色々相談受けてるのよねぇ…)」
何故そこで美春先輩が出て来るのだろうか? 意味が分からないよ…。俺は話の流れを変えるべく別の話題を繰り出した。
「それよりも注文お願いします。『海の家カップル限定! ドキドキ、トロピカルフルーツジュースアイス乗せ!』で。あっ! 一応言っときますけど冬梨が食べたいって言うから頼むだけですからね! 他意はないですからね!」
俺はこれ以上甘利さんに何か言われないように勢いで事情を説明して早口でまくしたてる。
「一応それカップル限定なんですけど…。カップルじゃない東坂君にはお出しできないですねぇ…」
「なんとかそこをお願いしますよ…」
「しょうがないなぁ…。東坂君たちのおかげでマサ君と付き合えたのもありますし、今回だけね」
「恩にきります」
マサ君というのはおそらく青峰政景君の事だろう。2人は仲睦まじいようで微笑ましい限りだ。甘利さんは注文を受け付けるとオーダーを通すべく厨房の方へと向かった。はぁ…疲れた。まさか注文するだけでここまで肩が凝るとは…。
「冬梨も変な事言うなよ…。もうカップル限定メニューがあってもついてこないぞ…」
俺は肘を机に付けて拳に顔を乗せながら冬梨を睨む。まったく…俺の心労を増やさないでくれ。
「…それについては謝罪する。冬梨は
「そんな『ヤバいと思ったけど我慢できなかった』みたいに言われても…」
そして待つこと数分後、甘利さんが注文した商品を持ってこちらにやって来た。バカでかいカップにオレンジ色のジュースが入れられ、その上にはアイスが乗っている。そしてジュースにはハート形のストローが刺さっていた。うわぁ…恋愛物のドラマなんかで良く見る奴だ。…見ているだけで恥ずかしくなってくる。
「はい、おまちどおさまです。こちら『海の家カップル限定! ドキドキ、トロピカルフルーツジュースアイス乗せ!』になります!」
「…おおっー!」
冬梨が目を輝かせて喜んでいる。喜んでいるのはいいのだが…。
「甘利さん、もしかしてこれも写真撮ったりするんですか?」
「もちろんです! しかも今回はシチュエーション指定付き、2人で見つめ合いながらストローでジュースを吸っている所を写真に撮ります!」
えぇ…。何そのこっぱずかしいシチュエーション…!? そもそも写真撮ることを考えた人は何を考えて写真を撮ることにしたのか疑問である。
「…ちなみに写真撮影拒否したりは?」
「出来ますけど…その場合は料金が元々の金額になりますよ? カップル限定商品はカップルの写真を撮る事によって値段が引かれるシステムになってますからね」
「えっ!? そんなペナルティあったんですか?」
俺は急いでメニュー表を見てみる。すると確かに小さく赤字で「写真を取らなかった場合は元々の料金を頂きます」と書いてあった。
ちっちゃ! もう少し大きく書けよ! えーっと…元々の値段は5000円!? こんなジュースが5000円もするのかよ!? ちなみに写真を撮ると値引きされて2000円にまで下がるらしい。
「東坂君、今フルーツってすっごーく高いんですよ」
俺の表情から思っている事を先読みされたらしく、甘利さんがそう言ってくる。そうか、今フルーツ高いのか。
俺は悩んだ。…5000円は学生にとっては大金だ。5000円を払うぐらいなら…潔く写真を取られた方が良いか。俺は冬梨の方を見て確認を取った。
「冬梨はいいのか? 俺と写真撮られて?」
「…冬梨はスイーツが食べられるならそれで構わない」
そうか…、冬梨はそういう奴だったな。彼女が良いというのならいいか。
「…甘利さん。お願いします」
「了解でーす! それではお2人ともストロー吸ってー?」
甘利さんはノリノリでカメラを構えて来る。俺はストローに吸い付くと冬梨の方を見つめた。冬梨もストローにカプリと吸い付くと俺の方を見つめて来る。
俺と冬梨はジュースを挟んで2人で見つめ合う。…これ思ってたよりかなり恥ずかしい//// それは冬梨も同じようで普段は無表情な彼女の顔が少し赤くなっているように見えた。
「…/////」
「では行きますよ~? イチ足すイチは~?」
…この状況で「2」なんて答えられんよ。そもそも口をジュースを吸うために使っているのだから笑えるはずがない。俺と冬梨は赤くなりながら2人でジュースを黙々と吸った。
「はい。ありがとうございます。いい写真が取れましたね。あっ、写真は帰りにレジで受け取れますので。ごゆっくり~♪」
甘利さんはクスクスと笑いながらカメラを持っておくに引っ込んでいった。俺は彼女が居なくなるとすぐにストローから口を離した。
「はぁ~、恥ずかしかった////」
熱くなった顔を手で扇ぐ。冬梨はスプーンを手に取ると今度はジュースの上に乗っているアイスに手を付けるようだ。彼女もまだ若干顔が赤い。
「冬梨も恥ずかしかったんじゃないか?」
お菓子を食べるためにここまでやるなんて…。よほど彼女はお菓子が好きなんだろう。
「…別に兼続と写真を撮るのは嫌じゃないから////(なんだろう…? 少し心がぽかぽかする…?)」
「…そうか」
俺は苦笑しながらアイスを食べる冬梨をそのまま眺めた。
○○〇
本当はこの次の話と1話でまとめたかったのですが、長いので分けました。海編も次回でラストです。
次の更新は7/28(金)です
※作者からのお願い
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