海と食事と秋乃さん

 俺達6人は食事取るべく海の家へと移動する。寮長は午前中ずっと男を引っ掛けようとしていたようだが、1人も引っかからなかったみたいで機嫌が悪くなっていた。


「このわたしのセェクシーで魅力あるボデェに全く反応しないなんて…、最近の男どもはち〇こついてないんじゃないかしら? 午前中に会った男どもはみんな性欲の無い去勢したカスどもだったのよ。そうに違いないわ!」


 寮長が独り言をブツブツつぶやいて何か勝手に納得している。そりゃスリングショット着てる36のオバハンの誘いに乗る奴なんていないだろうよ…。明らかにヤバい人じゃん。普通の水着だったらワンチャンあったかもしれないのに。完全にチョイスミスだな。


「なんかみんなちょっと距離遠くない?」


 俺たちは寮長と知り合いに思われたくないので、彼女とは少し離れて歩いていたのだが気づかれてしまったようだ。


「いや、知り合いと思われたくないし…」


「何でよ!? 今世紀最大の美女であるわたしと一緒に歩いているのに知り合いと思われたくないってどういう事よ?」


「仮にさぁ。男子寮の中山寮長がブーメランパンツで海に来て、汚ったねぇ尻ふってたらアンタどうするよ? 知り合いだと思われたくないから距離取るんじゃないのか?」


「わたしも一緒に尻ふるわ。景虎ちゃんとわたしのコンビで落とせない獲物はいないの。昔はコンビ組んでブイブイ言わしてたんだから!」


「どうしてそうなるんだ…」


 今の俺たちの心境を説明しようとしたのだが寮長には理解できなかったようだ。この人は本当に…。一回頭の中がどうなっているのか覗いてみたい。いや、やめておこう。逆に浸食されて俺の脳が変になりそうだ。


「しかし混んでるなぁ…」


 俺たちはとりあえず1番近くにあった海の家を覗いてみたのだが、どこもお昼時は満杯みたいで人でごった返していた。他の所はどうかと思って浜辺に出ている海の家を何件か回ったのだがどこも一杯である。残念ながらお昼争奪戦に出遅れたみたいだな。


「どうする? 並んで順番が来るまで待つか、それとも時間をずらすか、はたまた海の家は諦めて近くのスーパーにでも行って何か買ってくるか…」


 幸いにもここから5分の所にスーパーがある。行けば弁当や飲み物などが買えるだろう。


「せっかく海に来てるのにスーパーのお弁当ってのも味気ないわね…」


 美春先輩が不満顔でそう述べる。まぁ確かにそうだな。旅行で遠くに行ったのにそこの名産品を食べずに全国チェーンの店の料理を食べるようなものである。せっかく海に来ているのだから海の家で普段はあまり食べない海産物を食べたいものだ。他の面子も美春先輩に賛成のようだった。


「じゃ並んで順番が回ってくるまで待ちますか」


 俺たちは並んでいる人が1番少ないであろう海の家を選んで列の後ろに並んだ。そでも30分ぐらいは待たされそうである。うーん、先読みしてあらかじめ席を取っておけばよかったなぁ…。



○○〇



「おい、あの子たちむっちゃ可愛くね?」「えっ、どこ? うわ、ホントだゲキマブじゃん!!!」「フリーかな? 遊びに誘っちゃう?」「でも男と一緒にいるぜ?」「それよりあの変な水着着てるオバハンなんだよ…。目が腐る」


 俺たちが昼飯を食べるべく海の家に並んでいるとどこかからそんな声が聞こえて来た。見回して見ると周りの男性たちがこちらの方を指さしたり、興味津々と言った目つきで見ている。


 ああ、なるほど。俺の後ろに並んでいる4女神の事を指して言っているのかと俺はピーンと来た。この4人は本当に見た目は凄くいいからな。…中身は結構残念なところもあるけれども。


 冷静になって考えてみると、そんな可愛い4女神たちと海に来ている俺は結構勝ち組なのではないだろうか。


 高校時代、クラスで1番の可愛いと言われていた子と付き合っていた男友達が「美人と一緒に歩くと周りが羨ましそうな目で見てきて凄い気持ちいいぜ」と言っていたのがなんとなく分かる気がする。


 別に4女神は俺の彼女というワケではないが…、あそこで4女神の事をチラチラ見ている輩よりかは彼女たちと仲が深いので俺はちょっとだけ優越感を感じた。これも少しずつ彼女たちの信頼を勝ち取った結果だろう。


「ねぇそこの可愛い彼女たち! 暇なら俺たちと遊ばない? 俺ボート持ってんの。みんなで一緒に乗らないかい?」


 見るからにチャラそうな男がこちらに話しかけて来た。ナンパだ。それに対し美春先輩はどうでも良さそうな顔を、千夏はうんざりとした顔を、秋乃は困ったような顔を、冬梨はガン無視を決め込んだ。4人ともこの男のナンパに対して快く思ってなさそうだ。


 ここは…俺の出番かな? 彼女たちの友人としてガツンと言ってやらないとな。俺は咳ばらいをすると彼の前に躍り出ようとした…のだが。


「なになに? それってわたしの事?」


 俺が出るより前に寮長がその男に絡んでいった。


「いやぁ、わたしの事を可愛いだなんて見る目あるわねアナタ。ボート持ってるんだっけ? いいわね。一緒に漕ぎましょうよ。2人の初めての共同作業よ」


「あっちいけよオバサン! アンタには言ってねぇよ!」


「オバサン…? そんな人どこにいるのかしら?」


 寮長はキョロキョロと周りを見渡す。これはガチで分かってないなあの人。


「アンタだよ! アンタ! キモイ水着着やがって…。猥褻物陳列罪で訴えんぞコラァ!」


「それってわたしが性的に魅力的って事? ヤダァ! 嬉しい事言ってくれるじゃないのぉ。これは2人の愛称バッチリかもしれないわね! ボートのオールを漕ぐついでにあなたの股間のオールも漕ぎましょうか?」


 凄いポジティブシンキングだなぁ…。あと下ネタやめろよ。4女神も聞いてるんだぞ。


「ひぃぃ…なんだこのオバサン、話が通じねぇ…」


 チャラい男は寮長に恐れをなして逃げ出してしまった。それを見ていた他の男たちも寮長にドン引きしているようだ。彼女のおかげでもう4女神にナンパを仕掛けようとする輩はいないだろう。


 これに関しては寮長グッジョブと言わざるを得ない。本人は意図してやったわけじゃないんだろうけどね。うまく魔除けとして機能してくれた。


「まーた逃げられちゃったわ。わたしの魅力が分からないなんてまだまだ青いわねぇ…」


「次の方ー? 6名様でお待ちの甲陽さーん?」


 そんなことをしているうちに海の家の席が空いた様だ。俺たちは腹ペコの腹をさすりながら席に着いた。



○○〇



「ふぅ、食った食った…」


 海の家では腹ごしらえを済ました俺たちは再び海岸に戻って来た。まだまだ帰るまで時間はたっぷりとある。さて、次は何をしようかなと思っていると秋乃から話しかけられる。


「ね、ねぇ兼続君。ちょっとあっちの夫婦松の方に行ってみない?」


「夫婦松?」


 『夫婦松』とは色彩海岸の外れに生えている2本の松の木のことである。近くに色彩松原があるので松の木が生えているのは当たり前と言えば当たり前の話なのであるが、この2本の松の木だけはなぜか松原から少し離れた位置に2本だけで生えているので『夫婦松』と呼ばれる。また『夫婦松』近辺には何もないので観光客もあまり来ない。


 氏政から聞いた話によると人が来ないのを良い事に密かにカップルの人気のスポットになっているのだとか。


「別にいいけど…なんで夫婦松?」


「ちょっと人に酔っちゃって…。あのあたりなら人がいないから酔いを醒ますのにちょうどいいかなぁ~なんて…(せっかく海に来たのにまだ兼続君と全然お近づきになれてない。あまり人気のない所に呼び出して2人っきりになって攻勢をかけるのよ!)」


「??? 分かった行こうか」


 なんだか良く分からないが、秋乃が行きたいと言っているのだから別に断る理由はない。


「ありがとう兼続君! えへへ/// じゃあ行こうか?」


 そう言って秋乃は俺の腕に抱き着いてくる。ちょ!? 水着でそれはヤバいって…。


「あ、秋乃? 流石に水着で腕に抱き着くのはやめて貰えると…」


 彼女の胸の柔らかさがダイレクトに俺の腕に伝わる。柔らかくて弾力もある素晴らしい感触だ。この感触に慣れると戻れなくなりそうなのでやめてもらいたい。


「少しぐらいいいじゃない。さぁ行くよ。こっちこっち!(この日のために恥ずかしいけど露出が多い水着にしたんだもん。有効活用しなくちゃ。ふふふ♪ 効いてる効いてる)」


 俺はそのまま秋乃に引っ張られて夫婦松の近くまで連れていかれた。



○○〇



「見事に誰もいないな…」


 海岸の方には人が沢山いるのにこの夫婦松の近くには全然人がいなかった。ここら辺でも全然泳げると思うんだけど何故人がいないのか不思議である。


「よいしょっと…」


 秋乃は松の木の下に座ると背中を松の木にもたれかけさせる。


「ここ結構涼しいよ。兼続君もこっち来なよ」


 俺も秋乃に習って松の木の下に座り、背中を木に預ける。松の葉がちょうど太陽の日差しを受け止めてくれて上手い事日陰になっており、尚且つ海風が結構な頻度で吹くので他の所よりは比較的涼しい。


 俺たちは2人揃って海を見つめた。母なる海がざぁざぁと波の音を奏で、遠くから風を届けてくれる。あぁ…のどかだなぁ。昔の人が言った「いとおかし」とはこういう感情の事を言うのだろうか。食後の休憩にちょうど良い。


 確か秋乃は人に酔ったって言ってたっけ? じゃあしばらくの間ここでのんびりしているか。俺はそう思いそのまま波の音に耳を傾ける事にした。


「兼続君。き、聞きたいことがあるんだけどいいかな?///」


 数分程経った後、秋乃が少し顔を赤くしながら俺にそんな事を尋ねて来る。秋乃、また顔が赤くなってるな。秋乃は熱中症になりやすい体質みたいだから気を付けてみてやらないと…。


「俺に答えられることなら」


 秋乃は一呼吸置くと言葉を続けた。


「か、兼続君って今好きな人とかいたりするのかな?///(彼に今付き合っている人はいない事は知っているけど、好きな人がいないとは限らない。もしいれば私の恋愛大作戦に大きな障害をもたらす可能性大…)」


「俺に? いや、いないけど…どうして急にそんな質問を?」


「えっ?//// いや、そのぉ…私この前兼続君に彼氏が出来た時の練習を頼んだじゃない? もし兼続君に好きな人がいたら悪いなぁと思って…(よし! 好きな人はいないと…。ならば、一気にここで攻勢をかけるのよ秋乃!!!)」


「ああ、そういう事か。秋乃は律儀なんだな」


 俺が女子寮に来た理由は4人の問題を解決するためなので、それまで彼女を作ったりする気はない。だからそんな事は心配なんてしなくていいのに。


「それでね、兼続君に提案なんだけど…////(恋愛の神様、私に勇気を下さい!!!)」


 秋乃が改まった様子で俺の方に向き直って来る。


「兼続君に今好きな人がいないのなら、私が彼氏を作る練習がてら…えっと…その。お試しでつ、つき、合って…////」


 えっ? 「突っ突き合って?」最後の方が秋乃の声が小さくてよく聞こえなかった。秋乃はそのまま顔を真っ赤に染めて黙り込んでしまう。


 俺が秋乃の言った言葉の意味を考えていると、夫婦松の近くにある大きな岩の影から突然とんでもない声が聞こえて来た。


「ああ~ん////// ジョージィ、もっと来てぇ/////// シーハーシーハー////」


「ああ、薫子。僕ももうイクよ///// あぁ~///// オゥ! イェスゲイ////」


 えっ!? これってあれか? もしかして男女が岩の影でヤッていらっしゃる? 行為に及んでいらっしゃる? 氏政からここはカップルが隠れてイチャイチャするスポットだと聞いていたが、まさか本当に事に及ぶ輩がいるとは思いもしなかった。野外だぞここ!?


 ハッ! その時俺の頭に電流が走った。


 先ほどの秋乃の「突っ突き合って」ってあのカップルがセッ〇スしている事を言ってたのか? それなら彼女が顔を真っ赤に染めている理由も理解できる。男女の交じり合うボイスを聞いて恥ずかしかったんだな。正直俺も聞いていて恥ずかしかったから分かるぞ秋乃。


「ッ/////////(ひ、人が告白しようとしている所でなんてことしてるのよ! もぉ~///// 全部台無しになっちゃったじゃないバカァ~!////////)」


「と、とりあえずここから離れようか…」


「…うん////」


 俺は秋乃の手を引っ張ってそこから離れた。秋乃の顔はそれからしばらくの間真っ赤だった。



○○〇


次回の更新は7/26(水)です


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