ハチャメチャビーチバレー
なんとか微妙な雰囲気から抜け出した俺たちは気を取り直して海を楽しむことにした。俺はアツアツの砂浜を駆けていき、冷たい海にザブンと飛び込む。
「ふぅ~、気持ち良い~」
冷たい海が夏の日差しで温められた体温を奪ってくれる。久々に海で泳いだけどやっぱり涼しくて気持ちがいいな。俺はそのまま波に身を任せながらクラゲのように海に浮かぶ。
あぁ~…極楽極楽。日頃のうっぷんから解放されて何も考えずにゆらゆらと海に浮かぶのは趙気持ちいい。6月ぐらいから散々ストレスのたまる人たちの相手をしてきたからな。こういう何も考えずにリラックスできる環境は久々だ。海に来ているうちに思う存分堪能しておこう。
俺はひとしきりリラックスできる時間を楽しむと他の4人は何をしているのかとキョロキョロと探す。美春先輩は俺と同じく海で泳いでいる様だ。結構沖の方まで行っているな、大丈夫だろうか。
この色彩海岸は急深型の海岸で、岸から5メートルぐらいまではなだらかな深さになっているのだが、そこからは一気にガクッと深くなっているのである。美春先輩がいるあたりはもう結構深いはずだ。先輩なら大丈夫だとは思うが。
千夏と秋乃は波打ち際で水の掛け合いをしている。それにしても美少女同士の水の掛け合いってどうしてこんなにも絵になるのだろうか。朝信辺りが居たらまた百合がどうのこうの言いそうな清さである。やはり美少女は見ているだけで癒される。なんというかマイナスイオンが出ているよね。
あとは…冬梨はどこ行ったんだ? また腹が減ったから売店に食べ物を買いに行ってるんじゃないだろうな。…と思ったけど砂浜で何やら作っているみたいだ。定番の砂の城とかかな。
俺はしばらくの間泳いでいたので、少し休憩をとるべく砂浜に上がると何かを作っている冬梨に話しかけた。
「冬梨、何作ってるんだ?」
「…バッキンガム宮殿」
…バッキンガム宮殿ってイギリスの王様が住んでる城じゃなかったっけ? 確かに城と言えば城だけどまたファンキーな物を作ってるなぁ…。
「…できた!」
俺は冬梨が作った砂の城を見る。…ん?
「…バッキンガム宮殿ってこんな形だったか? ってかこれ良く見たらタージ・マハルじゃねえか!?」
俺は遠い昔に世界史の教科書で見た世界の歴史的遺産の建築物の写真を脳内に思い出す。バッキンガム宮殿の城のてっぺんにこんな丸い球体の様なものはついていなかったはずだ。モスクが多数立ち並ぶこの形はおそらくタージ・マハルであろう。
ちなみにタージ・マハルとはインドにある皇帝の妃の
「…そうとも言う」
「…そうとも言うどころか国も違えば建物も全然違うんだが」
相変わらず冬梨の感性は独自である。しかし建物は違えど冬梨の作った砂の城の出来は素晴らしかった。俺も実物は写真でしか見たことが無いが、細かいところまでちゃんと作ってあるようだ。砂でここまでやるとは…冬梨、できるな。
「ねぇ2人とも! ビーチバレーのスペースが空いたからやらなーい?」
そこで美春先輩が俺達にビーチバレーのお誘いをかけて来る。ビーチバレーかぁ。いいね。
「冬梨もやろうぜ?」
「…兼続がやるなら」
「良し、決まり。じゃあ行こうぜ!」
俺は冬梨の手を引っ張ってビーチバレーのコートへと連れて行った。
○○〇
そしてやってきましたビーチバレーのコート。メンバーは俺、冬梨、美春先輩、秋乃らしい。千夏は少し疲れたらしく休憩中とのことだ。
「チーム分けどうする?」
「ここは公平に『グッパ』で決めましょうか?」
グッパとは「グッパでホイ!」の掛け声に合わせて各々グーとパーを出し、同じ組み合わせを出した者同士でチーム分けをするという物である。結構地域性があり、掛け声が「グットッパ!」「グーパーショス!」「グーとパーで分かれましょう?」と言う所もあれば、グーとパーではなくグーとチョキで分かれる所もある様だ。
「(兼続君と同じチーム、兼続君と同じチーム!!! 確率は2分の1!)」
秋乃が何やら右手に願掛けをしている。たかがビーチバレーでそこまで必死にならなくてもいいのに。
「さぁ行くわよ? グッパで…」
「「「ホイ!」」」「…ホイ」
先輩の掛け声に合わせて俺たちはグーとパーを出した。
チーム分けの結果は…俺と冬梨がグーを出し、先輩と秋乃がパーを出したようだ。見事に1回で決まったな。決まらない時はグダグダと何十回も続く時があるので1回でスパッと決まってよかった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ー!!!(兼続君と同じチームになれなかった…。ガックシ…)」
何故か秋乃が雄たけびをあげる。そんなに先輩と同じチームになれたのが嬉しかったのかな? 美春先輩は運動神経が良いのでチームを組むなら最適な相手だろう。
「…兼続と同じチーム」
「ああ、よろしくな」
「…うん」
「秋乃と同じチームね。負けないように頑張りましょ?」
「はい…(うぅ…。まぁ兼続君を好きな疑惑がある先輩を彼と離す事が出来たと思えば…)」
俺たちはそれぞれのチームに分かれてコートに移動する。じゃんけんの結果、最初は美春先輩のチームからサーブをする事になった。
「フッフーン♪ あたしのサーブを受けきれるかしら? 行くわよ! 必殺の『美春トルネードォ!』」
えぇ…何その小学生が考えたみたいな技名。しかし先輩のサーブはそのダサい技名とは裏腹に本当に
早ッ!? ボールの動きに全く反応できなかったぞ…。冬梨も口を半開きにして唖然としながら固まっている。
「やったー♪ まずは1点先取よ!」
「やりましたね先輩!」
美春先輩と秋乃がハイタッチをする。これはヤベェぞ…。美春先輩の運動神経が良いのは知っていたがここまでだとは…。苦戦は必須かもしれない。
「こっちが得点取ったからサーブ権はまたこっちね」
バレーボールはサーブ権を持っているチームが得点を取るとそのままサーブ権が継続するというルールである。このままでは美春先輩のサーブだけでゲームが終わってしまう…。
「じゃあいっくよー!」
次は秋乃がサーブを打つようだ。あっ、そうか! サーブはチームのメンバーでローテーションするから次のサーブは秋乃になるのか。秋乃は先輩程強力なサーブは打たないと思うので彼女のサーブは絶対に打ち返すしかない。
…しかし胸の大きい秋乃がボールを持つとボールが3つあるように見えるな。おっと、邪念は捨て去っておこう。
「えい!」
思った通り秋乃のサーブは先輩程強くない。それどころかヘロヘロサーブだ。俺は秋乃のヘロヘロサーブを受け止めてレシーブする。俺が受け止めた球はちょうど良い具合に冬梨の真上に舞い上がった。
「冬梨! そのまんまアタック頼むぞ!」
「…任された! はあぁぁぁぁ! ホッ!」
冬梨は高く飛びあがりアタックの姿勢を見せる。そして彼女の手がボールにジャストヒットした。ボールはそのまま勢いよく相手のコートにたたきつけられる…かと思ったのだが…。
冬梨の背が低すぎて彼女のアタックでは向こうのコートにボールが届かず、むなしくもネットに当たってこちらのコートに跳ね返ってきた。
「…そんな、冬梨の渾身の一撃が…」
冬梨は膝と手をついてガックリとうなだれる。
「またこっちの得点よ!」
美春先輩と秋乃が先ほどと同じようにハイタッチする。これは…万事休すだな。このままでは俺たちのチームは1点も取れずに先輩のチームに敗北してしまうかもしれない。
「作戦ターイム!」
俺と冬梨は作戦会議を開いた。その結果、冬梨はレシーブとトスに専念し、向こうのコートへのアタックは俺がする事に決定した。作戦会議が終わった俺たちは元のポジションに戻り、試合を続行する。
サーブ権は引き続き先輩のチームが持ち、また先輩がサーブを打つターンがやって来る。
「瞬殺の『美春ライトニングゥ!』」
美春先輩がまた小学生が考えたような技名のサーブを打って来る。だがやはりそのサーブは早く鋭い。まるで稲妻の如き動きで俺たちのコートに襲来する。俺は何とか先輩のサーブを受け止める事に成功し、そのボールを上に打ち上げた。
「冬梨! トス頼む」
「…任せて!」
冬梨は俺の要望通りにちょうど良い位置にトスを投げてくれる。ナイスだ冬梨!
俺達意外といいコンビかもしれないな。
「おらぁ!」
俺は渾身の力を込めてスパイクを相手のコートに打ち込んだ。俺の打ち込んだスパイクは秋乃の方へと向かっていく。コートのスレスレの場所を狙ったのだが、少し狙いがズレたらしい。
「きゃ!?」
秋乃は俺のスパイクをなんとか受け止めてレシーブした…んだけど…。秋乃、今手じゃなくて胸でレシーブしなかったか? ボールは「ボヨヨン!」と上に勢いよく跳ね上がる。なんていう弾力なんだ…。ハッ! ダメだダメだ。今はバレーボールに集中しないと…。
「ナイスよ秋乃!」
先輩は秋乃が打ち上げたボールに狙いを定めてアタックを打つ態勢になり、そのままこちらのコートにボールを打ち込んだ。
「クッ!」
俺はなんとか先輩の放ったボールを受け止めようとするもボールは無残にもコートに叩きつけられた。先輩のボール早すぎる…。
結局俺たちはそのまま先輩たちのチームに押し切られ、2セット取られてストレート負けしてしまった。
「くっそー負けたぁ~」
「…負けちゃった」
とにかく美春先輩が強すぎる。この人チートキャラかなんかかよ!? 例えるなら戦場で呂布や本田忠勝と遭遇した一般兵士の気分を味わった。まるで歯が立たなかったぞ…。
「うーん、久々に体動かすと気持ちいいわね~♪」
「楽しかったですね(ううっ…。ボールが当たった時の衝撃でちょっと胸が痛い…。赤くなってないかな?)」
確かに負けたけど楽しかったと言えば楽しかった。また機会があればみんなでやりたいな。
「フッフーン♪ それじゃあお待ちかねの罰ゲームタイムね!」
「えっ、何ですかそれ? 聞いてないですよ?」
「今決めたもの。せっかく勝負したんだし、罰ゲームが無いとつまらないでしょ?」
「えぇ…」
普通そういうのってゲームが始まる前にお互いのやる気を引き出すために決めるものじゃないだろうか? まぁいいけど。
「わかりました。で、どんな罰ゲームをするんですか?」
「あら、素直ね。そうねぇじゃあ兼続と冬梨には…」
先輩はニヤニヤしながら俺たちの方を見つめる。お手柔らかに頼みますよ…。
「砂に埋まってもらいまーす♪」
先輩はスコップを掲げて笑顔でそう述べる。
…ホッ、何をやらされるのかと思ったらそんなことか。それくらいなら別に受けても良いだろう。俺は砂浜の方に向かうとそこに寝そべった。
「さぁどうぞ」
「フフン♪ 鼻血が出ないように気を付けなさい(名付けて『むっちゃ至近距離で兼続を埋める作戦』よ。これなら彼もドキドキするかもしれないわ)」
「そんな秋乃じゃないんだから…」
「先輩、私も兼続君埋めても良いですか?(…乙女が鼻血を垂らしたことを人に言うなんて…。私ちょっと怒ったよ)」
「えっ?」
秋乃も笑顔でスコップを持ち参戦してくる。心なしか秋乃ちょっと怒ってるような…?
「もちろんよ。秋乃も勝者ですもの」
「わーい♪ 兼続君、覚悟しててね?」
「お、お手柔らかに頼むよ…。というか冬梨は?」
「冬梨は逃げたみたいね」
「あいつ…」
危機回避能力に関して冬梨はクソ高いからな…。しょうがない。罰ゲームは俺だけで受けるか。
「じゃ、始めるわよ」
そう言って先輩はスコップで堀った砂を俺の体にかけて来る。どうやら先輩が俺の上半身、秋乃が俺の下半身担当の様だ。
…うん? なんか先輩もの凄く距離近くないですか? 俺の目の前で先輩のそこそこ大きい胸が揺れる。息を吹けばかかりそうな距離である。
「ほい♪ ほい♪」
その後も先輩は俺に至近距離で砂をかけて来る。俺は先輩の胸をなんとか見ないようにしようとするが、目の前でプルプルと揺れているとどうしても気になるのである。あれだ。耳元で蚊が飛んでいると気になって眠れないみたいな感じ。とりあえず無心でいよう。瞑想瞑想…。
「ムッ…(兼続君、先輩の胸ガン見してる…。女の子はそういうのすぐにわかっちゃうんだからね!)」
2人は黙々と俺の体に砂をかけていき、やがて俺の体は全て砂に埋まった。
「完成ね(うーん、やっぱり兼続ドキドキしてなかったみたいね。どうすれば彼をドキドキさせられるのかしら? ビーチバレーには勝ったけど…未だに彼をドキドキさせられてないのよね…。勝負に勝って試合に負けた気分よ)」
そしてその後に何を思ったのか秋乃が俺の胸の部分に大量に砂を乗せて巨乳にしてきた。
「ちょ、秋乃!? これ恥ずかしいんだが…」
「おっぱいがだぁ~い好きな兼続君にはこれがお似合いだと思うよ?」
笑顔でそんな事を言ってくる彼女。やはり少し怒っているらしい。俺秋乃を何か怒らすような事したかな? あっ、もしかして秋乃の胸にスパイク打った事を怒ってるとか…? あれは俺も方向を調整できなかったんだ。不可抗力だから許して欲しい。
そこで正午を告げる鐘が鳴る。ここら辺は田舎なので正午になると市役所から正午をお知らせする鐘が鳴るのだ。もうお昼か、時間が過ぎるのは早いなぁ。
砂に埋まりながら上の方を見ると、寮長がトボトボとこちらへ歩いて来ているのが見えた。男を引っ掛けるのは成功したのだろうか?
「あーあ、ダメね。わたしの魅力を理解しないバカ男ばっかり…。みんな! お昼になったしとりあえず腹ごしらえするわよ!」
やはり捕まらなかったらしい。俺もちょうど腹減ってたし、飯にするか。俺は埋められた砂から出るとみんなと一緒に海の家の方に向かった。
○○〇
次の更新は7/24(月)です
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