そしてファッションショーは混沌にまみれる

「さぁ始まりました。第一回女子寮選抜下着ファッションショー! この激戦を勝ち抜き、見事『真に男心をくすぐる下着を理解している寮生』の称号を得るのは一体誰なのでしょうか? 司会はたとえどんな下着でもお姉様LOVE、板垣弥生がお送りします。そしてー」


「こんにちは。審査員の恋愛マスター甲陽四季よ。今日は幾多の恋愛を経験してきたわたしが挑戦者たちの下着がどの程度のものなのかを審査するわ」


「寮長さん、ありがとうございます。今回は彼女に加えてさらにゲストをお呼びしています」


 …えぇ。どうしてこうなった…? 


 俺は目の前で繰り広げられている光景に唖然とする。まるでTV番組の企画みたいに板垣さんが司会の真似事をして寮長もそれにノリノリで答えている。なんだこのカオスな空間…?


「お姉様に寄生するウジ虫こと東坂兼続、以上この3名で今回のショーの審査を進めていきたいと思います」


 しかも俺だけ挨拶もなしに勝手に紹介されて終わった。相変わらず酷い紹介である。


 板垣さんはしゃもじをマイクに見たててそのまま司会を続ける。


「さて、今回のファションショーの審査方法を説明していきたいと思います。まず参加者の4人の方には下着姿でこの食堂でアピールをしていただきます。そして参加者の方が着けている下着を審査員が1人10点の持ち点で評価、獲得した累計点数の多い方に『真に男心をくすぐる下着を理解している寮生』の称号が与えられます」


 今現在俺達審査員組は食堂の席に座り、4人の参加者が来るのを待っている状態だ。寮長はいつもの席に座り、板垣さんが美春先輩の席に、そして俺が冬梨の席に座っている。参加者たちは食堂の入り口に立ってアピールし、それを俺らが見て評価するらしい。


 流れで俺も参加することになったけど本当にいいのだろうか…。


「下着と言うのは奥が深いの。ただ露出度が高い下着を着れば点数が高いという訳ではないわ。自分の性格と体型にあった下着を着るのがベストよ」


「…流石寮長さん、わかっていらっしゃいますね」


 何が分かっているのか分からないが、あの2人の中では通じるものがあるらしい。


 あぁ…。俺の記念すべき夏休み1日目が…。訳の分からない寮長の思い付きで潰されていく…。俺の精神力も一緒に削られていく…。


「それでは早速始めましょうか! ではエントリーNo1番、その美貌はまさに傾国の美女! 世界三大美人も裸足で逃げ出す美しさ、内藤美春お姉様」


 板垣さんが審査開始の宣言をしてファッションショーと言う名の試験が始まった。


 1番初めに出て来るのが彼女の尊敬する美春先輩なだけあって凄い賛美のしようである。まぁ美春先輩が美人であることには同意するけど…。


 ちなみにエントリーの順番はじゃんけんで決めたそうだ。1番美春先輩、2番冬梨、3番秋乃、4番千夏らしい。


「フッフーン♪ 待ってました!」


 先輩はそう言うと食堂の扉をバンッと開けて勢いよく中に入って来た。その顔はやる気に満ち溢れている。そして彼女はそのまま下着姿でポーズを取り始めた。


 …一体何がそんなにこの人を駆り立てているのだろうか。


 女性の下着を見るの事には正直抵抗はあるのだが、俺も一応審査員になってしまったのだから見ない訳にはいかないよな…。


 俺は横に背けていた目を先輩の方に向ける。


 先輩は薄緑色で花の刺繍が入った下着を着ていた。均整がとれてバランスの良いスタイルとさわやかな色の下着が見事に調和している。


 綺麗だな…と一目見てそう思った。


 しかしそこで俺は「ハッ」として彼女から少し顔を反らした。今まで俺は下着だけだったり、エッチな本やAVなどで下着姿の女性自体は見たことがあるのだが、生で下着を着た女性をマジマジと見るのは初めての事なので何とも言えない気分になる。


 しかも相手は普段よく顔を合わせている相手なのだ。緊張と気まずさでどうにかなってしまいそうだ。このファッションショーが終わった後どういう顔をして会話すればいいんだよ…。


「どう兼続? あたしの下着姿にドキドキする? あたしの持ってる下着の中で一番良い奴持ってきたの!」


 何故か先輩は俺を名指しで感想を聞いてきた。


「えっ? あ、はい。いいと思いますよ」


 正直に言うと初めて見る生の女性の下着姿に結構ドキドキしていたのだが…。隣に板垣弥生がいるので俺は何とも思っていないような返事をした。ここで「ドキドキしています」と答えたら最後、彼女は猛烈に俺を責めたてるだろう。触らぬ神に祟りなしだ。


「なんか煮え切らない返事ねぇ…。もっと『先輩に興奮して鼻血でそうです』とか言ってもいいのよ? で、何点?」


「はい!はい!はい! 弥生は美春お姉様の下着に興奮しすぎて鼻血が出そうです!!! あぁ…今まで生きていてよかった。う゛っう゛っ…まさかお姉様の生の下着姿が見られるなんて…。お姉様の美しさはもはや10点というチンケな点数では表現できないわ! 100万点よ!」


「なんで100万点なんだよ!? 一人10点だって言ったろのお前だろ…」


 でもこれに点数を付けるのって難しいな…。


 俺が悩んでいると寮長が口を開いた。


「面白みのない下着ねぇ…。なんというか綺麗すぎるのよ。7点ね」


「ちょっと寮長さん! どういうことですか? 美春お姉様のこの神聖なる姿にたったの7点しかつけないなんて…」


 寮長のつけた点数に不満だったのか板垣さんが食って掛かった。


「確かに美春は綺麗よ? でも綺麗すぎて触れたくない気分にさせるのよ。男性の下心を失わせてしまいかねない美しさなの。そういう部分を考慮して7点ね。これは美しさを競う試験じゃなくて男心を分かっているかの試験だからね」


 なんとなくだが寮長の言っていることは分かる。


 先輩のこの美しさを例えるなら彫刻品のような美しさだ。見ている分には良いが、触るのには躊躇してしまう。板垣さんの言葉を使うなら「神々しい」と言えばいいのだろうか。触りたくても恐れ多くて触れない。劣情よりもそちらの感情の方が先に来るのだ。


 というか寮長…感性が完全におっさんじゃねえか。


「えっ…? そうなの?(嘘でしょ!? この下着なら兼続をドキドキさせられると思ったのに…。まさかの失敗!?)」


 寮長の評価を聞いてガックリとする先輩にすかさず板垣さんがフォローの声を上げた。


「そんなことはないです美春お姉様! 何故なら弥生は常に美春お姉様に下心を抱いていますから!!! 弥生の心のち〇ぽはお姉様にビンビンに反応しています!」


「どさくさに紛れて変な事言ってんじゃねーよ!? 先輩、こいつとはとっとと縁を切った方が良いですよ! 完全にヤバい奴だ!」


 暴走する板垣さんをなんとか抑えつつ、美春先輩には一旦退場して貰い彼女の審査は終わった。ちなみに俺は悩んだ末に8点と言う点数を付けた。


「これで美春お姉様の取得点数は合計100万15点ね。この点数を抜ける人は今後出ないでしょうね」


「なんで100万点を加点してんだよ!? お前の点数を10点に直して合計25点な」


「チッ…」


 やはりこいつを審査員に呼んだのは失敗だったろ。はぁ…1人目から非常に疲れた。次は冬梨か…。



○○〇



「えー…次はエントリーNo2番の馬場冬梨さん。入場お願いします」


 美春先輩の出番が終わったので板垣さんの司会が適当になる。まったく…やるならちゃんと最後までやり切れよ。


 板垣さんのアナウンスに従って冬梨が入って来た。彼女は白いパンツに同じく白いキャミソール姿で入場してきた。冬梨…という名前から連想するように雪のように真っ白い下着だ。


「清楚系の下着で固めたのかしら? 本人の幻想的な雰囲気にも合ってるわ。これは弥生的に好印象よ。7点」


「うーん、悪くは無いんだけど…。今の時代清楚ってだけで男の心は動かないわよ。5点。冬梨、あんたの体型ならクマさんパンツとか穿いた方がウケがいいんじゃないかしら?」


「…ムッ、冬梨は白が好きだから白い下着を穿いてる。それに冬梨はもう18歳、つまり成人した大人の女性。そんな子供みたいなパンツは穿けない」


 冬梨が寮長に反論する。そういえば冬梨は子供扱いされるのが嫌いだったな。自分の小さい身長にコンプレックスがあるのだろう。


「じゃあもっと色気のある下着穿いてきなさいよ。これ一応試験なんだからね」


「…それは、恥ずかしいからヤダ///」


 冬梨は赤面して手で自分の体を隠すようにしながらそう答える。まぁそうだよな。普通他人に下着を見せるのなんて恥ずかしいよなぁ。美春先輩と秋乃は何故かノリノリだったけど。あの2人は露出癖でもあるのか? 


 俺はその冬梨のまともな感性に同情して7点を付けた。すまんな冬梨、恥ずかしい思いをさせて。


 そこで俺は寮長に思った事を述べる。


「なぁ寮長。このファッションショーやっぱり無理があるんじゃねえか? 仮に男性の下心をくすぐるような下着を持っていたとしてもだ。彼氏でもない俺達にそんなのを晒したくないだろうよ」


「何言ってんのよたかだか下着ぐらいで。考えても見なさい。水着を他人にみせるのと露出度的にはさほど変わらないじゃない。どうして水着はよくて下着はダメなのかしら? 私なら意中の男を捕まえるためなら例え町中であろうとも脱ぐわよ! チャンスを逃さない貪欲さを持っている人間が最終的に勝利するの」


「最後の一文だけには同意するけど、それ以外はねえわ。それはアンタが特殊なだけだろ…。普通の人は恥ずかしいと思うぞ」


「確かに…弥生も美春お姉様の頼みとあれば例え町中であろうとも脱ぐわ」


「いや脱ぐなよ!? アンタらには尊厳とか羞恥心とかいうものは無いのかよ!?」


「兼続、わたしはね。そんなものは親のお腹の中に置いてきたの」


「親絶対泣いてるだろ」


「東坂兼続、羞恥心でお姉様の愛は買えないのよ…」


「美春先輩も町中でいきなり脱ぎだす奴にはドン引きすると思うぞ…」


「美春お姉様の軽蔑の視線…。それはそれで…イイかもしれないわね/////」


「ダメだコイツ…。早く何とかしないと…」


 俺はストレスで若干痛くなってきた胃を押さえながらも残りの2人の審査に望むことにした。


 冬梨は審査の後に寮長に無事ハーゲ〇ダッツを貰って喜んでいた。



○○〇



「じゃあ次ね。エントリーNo3番、山県秋乃さん入場お願いします」


「は、はーい!」


 少しうわずった声を出しながら秋乃が部屋に入って来た。彼女は恥ずかしそうに手で体を隠しながら俺たちの前にその姿を現した。


 審査員である俺たちの前に立った彼女は身体を隠していた手を恐る恐るのける。


 彼女が着けているのはよくある赤い刺繍の入ったブラとパンツだった。しかし俺の目を引いたのは彼女の下着ではなく、その豊満なスタイルの方だった。


 彼女のスタイルが強烈過ぎて、どうしても下着よりもそちらの方に注視してしまう。モジモジしているのが逆に艶めかしい。


 秋乃は服の上からでも分かるぐらいの暴力的なスタイルをしているのだが、改めて服を取っ払って下着だけになった彼女のスタイルは凶悪と言って差し支えなかった。その大きさに思わず圧倒されてしまう。


 少し下着のサイズが小さいのか、ブラとパンツが胸と太ももに食い込み、歩くたびに「ムチッムチッ」と音が鳴ってそうである。これは…男性の目には毒だな。


「ううっ…///(よく考えたら兼続君だけならまだしも寮長と弥生ちゃんがいるから恥ずかしくてセクシーな下着なんてつけられないじゃない//// 直前で気づいて普通の下着にしちゃったけど、これ絶対評価低いよね? はぁぁ、これじゃあ兼続君の好みも分からないし、ただ恥ずかしい思いをしただけだよ…)」


「秋乃、あんたのスタイルならもっとセクシーなのを着た方が良いんじゃないの? 普通過ぎるわ。6点」


「そ、そんなの恥ずかしすぎますよぉ///」


「下着のサイズが小さいのはワザとかしら? あざといわね。弥生そういうの大嫌いなの。マイナス5点」


「マイナス!? 酷いよ! 私の知らないうちに成長してただけだって」


「まだその大きさから成長していると言うの…? ケッ、下品な乳ね。まさに牛の乳だわ。美春お姉様の美しい胸アフロディーナバストを見習いなさい。マイナス10点に変更よ」


「そんなぁ…」


 秋乃が板垣さんの言葉を聞いて涙目になる。板垣さんは巨乳が嫌いなのだろうか。美春先輩もどちらかと言うと巨乳の部類に入ると思うが…。


 いや、…この人の事だから美春先輩より大きいのが許せないだけだろうな。ってかさっきから変な点数付けすぎだろ…。


 俺は秋乃が可哀そうだったので9点を付けた。だが俺の付けた点数に他の審査員から待ったがかけられる。


「こいつ下着じゃなくて乳に点数入れたわね。あんな下品な乳のどこがいいのかしら? これだから男は…。下半身に脳みそが付いているんじゃないかしら?」


「兼続、これは下着の審査であって胸の審査じゃないのよ」


「いやいや、それを言うなら板垣さんのマイナス10点だって明らかに大きい胸への私怨入ってるだろ!」


「弥生は下着を審査したうえで乳の態度が気に食わなかったから更にマイナスしただけよ」


「それこそ下着関係ないじゃないか!? 言っておくが俺は別に胸に入れたわけじゃないぞ」


 俺は全力で否定する。まぁ半分くらいは当たっているのでそれ以上は何も言えなかったけれども。


「えへへ////(兼続君の付けた点数は私が今の所一番上…。総合点が低くても彼の点数が一番高ければそれはもう私の『勝ち』なんだよ)」


 今までで1番低い合計点数だったにも関わらず、秋乃は何故か上機嫌になり部屋から退場していった。うーん…相変わらず秋乃は良く分からんな。


「これで美春お姉様が25点、馬場さんが19点、山県さんが5点ね」


「結局マイナスも換算するのかよ!? せめて1から10の中で点数付けてやれよ…」


「仕方ないわね。じゃあ1点にするわ。合計で16点ね」


「………」


 俺は呆れた目で板垣さんを見つめた。本当にこの人といると疲れるわ…。しかも今日は寮長もいるので疲労感2倍である。せめてもう一人ツッコミ役が欲しい。



○○〇



 そしていよいよ最後の千夏の番となる。


「このファッションショーもいよいよ大詰め。エントリーNo4番高坂千夏さんの入場です」


 板垣さんのアナウンスと共に食堂の扉が開いた。千夏は少し顔を紅潮させながら、その姿をあらわにする。なんだかんだ言って反対していた彼女もちゃっかり参加するんだな。


 千夏は青いナイトブラと俺でも分かるぐらい安そうなボクサーパンツを付けて登場した。


 「ナイトブラ」…と言うと、いかがわしいものを想像する人もいるかもしれないが、ただの睡眠時に着用する楽なブラの事である。シャツを切って上半分だけにしたものを想像して貰うと分かりやすいだろうか。


 当然ながら色気など皆無である。まぁ…下着など着られさえすればいいと思っている千夏がそんなセクシーな下着を持っているとは思ってなかったけど。他人に見えない所はとことん手を抜くのが彼女だ。


「何よ兼続その顔…。これでも私の持ってる下着の中で一番可愛い奴を選んできたんだからね!」


 俺の思っていたことが顔に出ていたのか、千夏は俺に抗議をしてきた。


 うん、知ってる。他にはスーパーで買った上下セットで980円の安い下着しかないのだろう。


「千夏…あなたはもっとマシな下着を買いなさい。2点」


「弥生でももっとセクシーな下着を持ってるわよ…。もちろんお姉様意外には見せる気はないけれど。お情けで3点あげるわ」


「うん、まぁこれからに期待して5点」


「くぅぅ//// あなたたち寄ってたかって私を馬鹿にして! だから見せるの嫌だったのよ!」


 千夏はそう言うと涙目になり走って食堂から出て行ってしまった。


 …可哀そうだが仕方が無い。彼氏が欲しいなら下着にも気を遣えって事だな。これも千夏が彼氏を作るために乗り越えなければならない壁だろう。


 こうしてファッションショーは幕を閉じた。なんだかんだ各々今の自分に足りない改善点を理解できたんじゃないかな。


 それにしても疲れた。絶対もうやりたくない。そもそも板垣さんがいるとまともな審査にならんよ。


 ちなみに試験結果だが…、みんなまだ男心を理解していないという事で全員落ちたらしい。『真に男心をくすぐる下着を理解している寮生』の称号も誰も貰えなかったようだ。


 なんじゃそりゃ…。



○○〇


※すいません。次回の更新なのですが、この土日がかなり忙しいため執筆時間が取れそうになく、申し訳ないのですが6/26(月)は1回お休みにさせていただいて、次回更新は6/28(水)にさせていただきます。本当に申し訳ないです。


※作者からのお願い


もし当作品を読んで1回でも笑われたり展開が面白いと思って下さったなら♡や☆での評価をお願いします。作者のモチベにつながります。

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