美春ストーキング!
10月中旬のとある日の事。俺は氏政に用があったので、彼の家に行って用事を済ませた後、寮へと帰宅していた。そんな中、電柱の影に隠れてコソコソしている怪しい人影を発見する。
「あれは…美春先輩?」
グラサンをかけて変装しているが、どう見ても美春先輩である。
…みんなグラサン好きだなぁ。一体何をしているのだろうか? 気になった俺は彼女に声をかけてみる事にした。
「美春先輩? 何してるんですか?」
「ふぁい!?????」
俺が話しかけると彼女は驚いてビクっと飛び上がった。そして驚いた拍子に顔からずれたグラサンをかけ直してこちらを向く。
「な、なんだ兼続か…驚かさないでよね」
「何やってるんですか?」
「あっ、そうだったわ。兼続も隠れて」
俺は彼女にそう促されて同じく電柱の後ろに隠れる。そして先輩の指さした方向を見ると、そこには男女2人がカフェで仲良くおしゃべりしている姿が確認できた。
あれは…甘利さんと青峰君か? おそらくデート中なのだろう。
「甘利さんと青峰君ですか」
付き合い始めこそ2人の間には色々あったみたいだが(主に美春先輩の頓珍漢なアドバイスのせいで)今はまさに理想のカップルと言った感じである。仲が良さそうで微笑ましい。
「で、先輩は何をやってるんですか?」
「
皐月と言うのは甘利さんの下の名前である。他人がどのような内容のデートをするのか気になるという気持ちは分からなくもないが…ストーカーまがいの事をして付け回すのは正直どうなんだろうと思う。
「先輩、あまり他人のデートを覗き見するのは…」
「分かってるわ。でもあたしも他人のデートがどんなのか気になるのよ。ちょっとだけ、ちょっとだけだから…」
「そんな『先っちょだけだから…』みたいなことを言われても…」
独自の感性を持つ美春先輩にとって、他のカップルがどのようなデートプランを練っているのか気になるのだろう。先輩のデートプランだと温泉の足湯とか定食屋に行く事になるもんな。俺は嫌いではないけど。
俺はそれを聞いて少し悩んだ。本来であれば…他人のデートを覗き見するという行為はあまり褒められた行為ではないので止めるべきである。
しかし俺の目的である女子寮の4女神の問題を解決するという観点から見ると…美春先輩に普通のカップルはどのような所にデートに行くのか知ってもらうのは、彼女の問題を解決する上で大いに役に立つと思われる。なので少しぐらいは容認するべきではないのか…という考えが俺の中でぶつかっていた。
そしてしばらく考えた結果…少しぐらいなら良いかという考えの方が勝ってしまった。
「はぁ…少しだけですよ」
「流石兼続ね。話が分かるわ。そうと決まれば兼続もバレないように変装よ。はい、サングラス」
先輩はポケットからサングラスを取り出すと俺に渡してくる。何故サングラスを常備してるんだ?
「なんか秋乃が変装道具を沢山持ってるって冬梨から教えて貰ってね。で、秋乃に変装するから貸して! って頼んだら貸してくれたわ」
…そういえば俺も冬梨から同じ話を聞いたなぁ。秋乃がどうして変装道具を沢山持っているのか気になるが…今はありがたく借りておくことにしよう。俺は受け取ったサングラスを身に付けると先輩と並んで甘利さんと青峰君のカップルの様子を観察することにした。
「…デートにオシャレなカフェってのは王道ですよね」
「ふ~ん…あたしオシャレなカフェってなんか落ち着かないのよね。兼続は好きなの?」
「う~ん…俺は別にデートはどこでも良い派ですからねぇ…。好きな人と一緒ならどこでも楽しいというか…」
「確かに好きな人と一緒ならどこでも楽しいかもね」
先輩とそんな話をしていると甘利さんカップルは移動し始めた。俺と先輩もコソコソと2人の後に着いて行く。
○○〇
「
次に甘利さんカップルがやって来たのは四色公園という色彩市の南側にある公園だった。
「ここは確か…公園内にある池でボートに乗れるんでしたっけ? ウチの市の定番のデートスポットらしいですよ」
昔、色彩市のおススメデートスポットが載っている雑誌を読んだ時に見つけた。ボートに乗って誰にも邪魔されずに2人きりの時間を楽しめるのがウリらしい。
「ボート! それはちょっと面白そう」
先輩はボートに興味がわいた様だ。体動かすの好きそうだもんな。甘利さんカップルはやはりボートに乗りに来たらしく、レンタルショップでボートを借りている。
「兼続、あたしたちもボートに乗るわよ!」
「いやいや、どう考えてもバレるでしょ!?」
先輩がとんでもない事を言い始めたので慌てて止めた。いくらグラサンを被っているとはいえ、近くに行けば確実に2人にバレるはずだ。それは流石に不味い。
ただでさえ甘利さんは怖いお人だと言うのに、デートを尾行している事がバレたら…その先はあまり想像したくない。俺たちはバレないように池の近くの茂みに隠れて2人を観察する事にした。
「ううっ、ボートに乗りたかったわ…」
「今度来た時に乗りましょう」
「絶対よ。約束だからね!」
普段は大人っぽい人なのに、こういう所は子供っぽい…そのギャップが彼女の可愛い所ではあるのだけれど。
俺たちは引き続き茂みに隠れて2人を観察する。青峰君はボートを漕ぎながら甘利さんと楽しそうに会話していた。微笑ましいねぇ。見ているこっちまで笑顔になる。そのまま2人の間に穏やかな時間が流れるように見えた。
だが次の瞬間、ボートが風に煽られてバランスを崩しグラグラと揺れた。青峰君はとっさに甘利さんが不安にならないようにしっかりと抱き留める。数秒後、風が止みボートの揺れも治まった。そのまま2人は離れるかと思ったのだが、むしろ見つめ合いそして…この先を言うのはヤボだろう。
俺はそれを出来るだけ見ないように顔を反らす。あまり見るもんでもないだろうしな。だが先輩はそれをバッチリと見てしまったようで顔を真っ赤に染めていた。
「キスって…あんなにも自然にするものなのね/////」
先輩がボソッと口から漏らす。まだキスも未体験の先輩には刺激が強かったか。俺もまだだけど…。
「悔しいわ…」
「どうしてですか?」
「あたしと皐月って1回生の時からの仲なんだけど、その皐月に知らないうちに大分差を付けられちゃったみたい」
先輩の負けず嫌いに火が付いたのだろう。友達が自分より先に進んでいたことに悔しさを隠しきれないようだ。
「…恋愛のペースなんて人それぞれだと思いますよ。焦って恋人を作ろうとして変な人を捕まえてもそれはそれでマイナスでしょうし…。先輩は先輩のペースでいけばいいと思います。大丈夫、先輩にはきっといい恋人が見つかりますよ!」
「兼続…ありがとう。俄然やる気が出て来たわ! さぁ勉強のために皐月たちをもっと観察するわよ!」
うーん…やる気を出してくれたのは嬉しいのだが、やる気を出す方向性が別の様な…。もう十分2人を観察したし、そろそろ撤退のし時だと思う。あまり他人のデートをジロジロ見るのもな。俺はそう声をかけようとしたのだが…。
俺たちが話をしているうちに2人はボートから降りて別の場所に移動し始めたらしく、それに反応して先輩は2人の後を忍者のように俊敏に追跡していった。
しまった!? 声をかけそびれた。俺は仕方なく先輩の後に着いて行った。
○○〇
次の更新は12/7(木)です
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