前期終了のお疲れ様会!

「それでは、前期課程終了を祝って…カンパーイ!」


「「「カンパーイ」」」「…カンパーイ!」


 各々ジュースやお茶が継がれたグラスを手に持ち、周りの人間と乾杯をしていく。


 本日無事に前期の試験がすべて終了した俺たちは寮で「前期課程終了のお疲れ様会」をやっていた。ちなみに寮長は今月いっぱいまで兵糧攻めされているためいない。


 もちろん今日はアルコールはNGである。この前みたく事故が起こるといけないからだ。


 テーブルの中央にはアツアツのホットプレートが鎮座しており、そしてそのホットプレートの上には肉がジュウジュウと音を立て、その身を焼きこがしていた。


 そう、今日のメニューはなんとみんな大好き焼肉である。秋乃が奮発して良い肉を沢山買ってきてくれたのだ。ホットプレートの上にはカルビ、タン、ハラミ、ロースなどの焼肉の主役たちの他にウィンナーや鶏肉などの主人公とは言い難いが、名脇役と言った感じの肉も並んでいる。


 もちろん玉ねぎやカボチャなどの周りを固める野菜サブキャラなども忘れてはいけない。これらの登場人物が全てそろってこその焼肉なのだ。


 俺はコップの中に入っている麦茶を飲みながら、今日まで頑張って来て良かったと心から思った。試験を頑張り、めんどくさい奴らの対処をしてきた結果今日のご馳走があるのだ。

 

 焼肉は貧乏な学生からするとあまり食べられない高級な料理である。かくゆう俺も最後に焼き肉を食べたのは去年の学部の忘年会の時だった。そのあこがれの焼肉が…今俺の目の前で美味しそうな音を立てながら焼けているのだ。


「沢山あるから遠慮せずに食べてね♪」


 秋乃はそう言ってトングをカチカチとならす。秋乃の隣を見てみると肉のパックが所狭しと並べられていた。あれだけあるなら多少多めに食べたところで大丈夫だろう。


 これが男子寮ならみんな買い物が下手くそなので肉を数パック買っただけで予算は無くなり、お互いに少ない肉を奪い合う悲惨な焼肉になっていたはずだ。本来は慰労のために開かれるお疲れ様会が、肉を奪いあうバトルロワイヤルに変貌するのである。


 秋乃が買い物上手で良かった。あぁ…秋乃様! 本当にありがとう。俺は秋乃に最大級の感謝を述べながらホットプレートの肉に手を伸ばす。


 まずは王道のカルビだ。俺はちょうど焼けていたカルビを箸でとると、焼き肉のタレにからめ、口の中へと運んでいく。脂がのったカルビが噛むたびに肉の旨味を出し、口の中でジューシーにとろけていく。あぁ…至福の時。


「兼続君、美味しい?」


「ああ、流石秋乃の買った肉だ。美味いよ」


「そう言われると買ってきた甲斐があるなぁ。えへへ///」


「…ただ買ってきただけじゃないの」


「やだなぁ千夏ちゃん。兼続君はそれだけ私に『肉を見る目があるね』って言ってくれてるんだよ」


「お、おう…(そこまで考えて言ってないんだけどな…)」


「ほらぁ♪」


「でも確かに秋乃は食材を見る目があるわよね! いつも新鮮で安い食材を買ってきて凄いと思うわ。熟練の主婦みたい」


「もう美春先輩、褒めてもお肉ぐらいしか出ませんよぉ…/// そんな『秋乃は女子力が限界突破してるわね』だなんて」


「そこまで言ってないわ」


「…パクパク」


「ちょ…冬梨、お前カルビとロースばっか食いすぎだろ! 高い肉ばかりとって食いやがって…」


「…焼肉は戦争! 早い者勝ち!」


「こらこら、まだお肉沢山あるから喧嘩しないの。あと野菜も食べないとダメだよ」


 この5人との食事にも慣れたもんだ。俺がこの寮に来た当初はお互いに緊張しながら食事をしていたのが、いまや家族…は少し言い過ぎか、仲の良い親友との食事に思えるぐらいに愉快で楽しい。なんだかんだ女子寮に来て良かったなぁと思える瞬間である。



○○〇



 その後も俺たちはわいわいと焼肉を楽しみ、秋乃が買ってきた肉をほぼ食べきってしまった。お疲れ様会も終盤だ。


 俺は満腹になった腹をさすりながら今後の事を考えていた。いよいよ明日から夏休みが本格的に始まる。2カ月もの長い夏休みだ。


 何をやろう? もちろん勉学も大事だが、遊んでリフレッシュすることも大事だ。みんなで海に行ったり、夏祭りに行ったり、花火をしたりと楽しみな事は多い。


 しかし、忘れてはならないのは夏休みの間も寮長から頼まれた依頼を遂行しなくてはならないという事だ。


 俺が寮長から頼まれた依頼、それは女子寮の4女神の抱える問題を解決して彼氏が出来るようにすること。


 ここで4女神の抱える問題を改めて整理してみようと思う。


 まず美春先輩はインチキ恋愛アドバイザーの言葉を真に受けてしまったがために、見た目こそ良いが中身…というか彼女の恋愛観が残念な事になってしまっている所。あと板垣弥生とかいうめんどくさい女の存在。


 なので解決方法としては彼女にインチキ恋愛アドバイザーの言葉を信じさせないようにさせ、尚且つ病巣になっている板垣弥生をなんとかしなければならない。


 次に千夏は過去のトラウマが原因で他人に自分の本性を見せられない。それ故に異性と深い付き合いが出来ないこと。


 解決方法だが…これに関しては千夏自身に自分のトラウマを乗り越えてもらうしかないだろう。もちろん、そのためなら俺は何でも協力するが。


 そして秋乃は確か…異性限定のコミュ障だったかな?


 だが寮に来てから今までの秋乃の言動を観察してきたが、異性とは普通に話せている気がするし、俺とも仲良くやれているので秋乃に関してはそこまで問題ではないと思われる。このまま行けば異性とのコミュ障も改善されるんじゃないかな?


 最後の冬梨は単純にコミュ障が原因だ。コミュ障なので初対面の人とうまく話せずに仲が中々深められない。


 これに関しては改善の兆しがみられる。夏休み前にバラムツさんという1回生の友達を無事ゲットすることに成功したし、その後彼女とも仲良くやれているようだ。後はバラムツさんを足掛かりにして徐々に交友の範囲を広げ、コミュ障を脱却できればいいのだが…。


 ま、所詮は童貞の俺にどこまで出来るのかは分からんが…。引き受けた以上は全力で事にあたるのが俺のやり方だ。夏休み中も彼女たちの問題解決のために頑張ろう!


 後は…俺にも彼女が出来れば言うことなしなのだが、これに関しては後まわしでも良いだろう。まずは4女神の問題解決を優先だ。


 夏は恋の季節ねぇ…。俺にもその季節が来てくれるといいのだが…。



○○〇


 side~美春~


 う~ん、ひさびさにお肉一杯食べたわぁ。満足満足♪ 明日からいよいよ夏休みかぁ…。思いっきり遊びたい! …と言いたいところだけど、あたしは3回生だから就活の準備にゼミの課題とやることが山積みなのよねぇ…。


 そ・れ・に! 兼続にいつまでもダメだしされたまんまなのは気に入らないわ!

あたしの初デートで大蒜醬油先生のアドバイスを参考にした完璧なデートプランを考えたはずだったのにぃ…。モテないおっさんのようなデートプランだって言われちゃった。もう激おこよ!


 それ以外にも色々とダメ出しされてるし…。あぁ~悔しぃ~!!! あたし負けたままでいるの凄く嫌いなのよねぇ…。


 彼をドキドキさせてやると言ってみたはいいものの…、ちっともドキドキしてくれてる気配無いし…。どうしてあたしの女子力溢れるアピールにときめかないのよ! 弥生で試した時は目をハートにして鼻血が出るほど喜んでくれたのに…。


 決めた! こうなったら夏の間に絶対に1回は兼続をドキドキさせて見せるわ! 幸い夏は色々なイベントがあるし、このチャンスを逃さない手はないわよね。


 …でないとあたしの女としての自信がなくなっちゃう。


 フフン、このあたしにダメ出ししたことを後悔させてやるわ! 覚悟しなさい兼続! キミをあたしの魅力で鼻血ブーにしてあげる♪


○○〇


 side~千夏~


 はぁ~、やっと明日から夏休みね。冬休みから長かった…。これで毎日ゆっくり昼寝出来るわね。エアコンの聞いた部屋で扇風機回しながらベットに潜って眠るのって最高なのよね!


 でもまぁ…夏だし少し外に出てみるのもいいかもしれないわ。私は別に外に出るのがめんどくさいだけで外に出ること自体は嫌いじゃないもの。


 夏といえば…海。ううっ、やっぱり外に出るのやめようかしら。絶対にみんな私の胸を見ていじってくるのよね。おかあさんは大きいのに何で私はこんなにふくらみが無いのかしら。遺伝してるはずよね?


 というか別に貧乳でもいいじゃない! 江戸時代までの日本はむしろ貧乳の方が人気だったのよ! 巨乳が人気になったのなんてここ100年ぐらいの話なんだから!


 そう言えば彼は…兼続は貧乳と巨乳どちらが好きなのかしら? …ってなんで私は彼の事が頭に浮かんでいるのよ!?


 確かに彼とは結構仲が良いし、私の本性を知っている数少ない異性の一人だけど、だからと言って別に恋愛対象として見てるとかそんなんじゃないんだからね!


 ただ…ちょっと気になっただけ。


 本当に…ちょっとだけ…。



○○〇


 side~秋乃~


 夏…ついにやって来る恋の季節。その暑さゆえに人は正常な判断能力を失い、男と女がくっつきやすくなる時期…。


 つまり…私と兼続君が距離を縮める大チャンス到来って事だよね!?


 去年彼は男子寮にいたし、私も勇気が出なくて話しかけられなかったから全く進展はなかったけど…。


 今年彼は女子寮にいるし、私も結構彼と話せるようになったし、もっと言うと彼のreinのIDも知っている…。


 これっていつでも遊びに誘い放題って事じゃない!?


 この機会を生かさずにどうするの秋乃? これは恋愛の神様が私に恵んでくれたチャンス…「恋のフィーバータイム」よ! 15年にも及ぶ思い…この夏で見事成就させてみせるわ!


 とりあえず目下の目標は「海」ね。夏と言えば「海」と言われるほど「海」。どこかの政治家みたいな構文だけど今はそんなことはどうでもいいわ。


 おそらく寮長が去年みたいに「寮のみんなで海に行かない?」って誘ってくると思うから、それに備えて私がすべきことはまずは水着選びね! 恥ずかしいけど…ちょっとダイタンな水着を着て兼続君を誘惑だよ! 彼がおっぱいに弱いことはすでに証明済みだもんね♪


『秋乃…。その水着凄く魅力的だよ。いますぐ君を襲いたい』


『あっ、兼続君待って、まだ心の準備がぁ~ ああーーー!』

(※秋乃の妄想です)


 イケる! これはイケるわ! そうと決まれば気合いを入れて水着を選ばなくちゃ♪



○○〇


 side~冬梨~


 …うーん、お腹いっぱい。焼肉久々に食べた。


 …大学に入ってから色々あった。初めての友達もできたし。


 …そして明日から夏休み。1日中部屋でゲームが出来るし、お菓子深訪もできる。


 …あっ、でも兼続やバラムツを誘って一緒にゲームするのもいいかもしれない。この夏は冬梨のいつもの夏よりちょっとだけ騒がしくなりそう。


 …思えば冬梨の周りが騒がしくなったのは4月に兼続と出会ってから。それから静かだった冬梨の周りは今までより騒がしくなり始めた。


 …自分では騒がしいのはあまり好きじゃないと思っていたけど、寮のみんなや兼続、それにバラムツたちと騒ぐのは凄く楽しい。


 …できればこの楽しい状態がずっと続いてくれればいいな。


 …でも最近少しだけ冬梨の体調に変化がある。兼続の事を考えると少し胸の中がポカポカする。これって…何だろう? 初めての事だから良く分からない。まぁいいや。そのうち治ると思う。



○○〇



 各々の思いが複雑に混じりあう夏が始まろうとしていた。

 


○○〇


 今回は各ヒロインの今の時点での感情を入れて見ました。徐々に変化していくヒロインたちの感情。(若干1名すでに好感度MAXですが)


 ここまでが1章となります。1章が無事終わったという事で…これから兼続君とヒロインたちはどうなっていくのか? 次回から笑いに恋に大忙しの2章、夏休み編が始まります。主人公とヒロインたちはもちろん、氏政や寮長などのサブキャラも大暴れ!?


 続きが気になると言う方は☆やハートでの評価をお願いします。


 次回の更新は6/22(木)です

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