氏政の考える事はやはり糞

「えー…それでは『100日後に彼女ができる氏政』企画の第13回目の内容を決める会議を始めたいと思います」


「どんどんぱふぱふーですな」


「あー頭痛い…」


 俺達3人は講義の終わりに大学内のカフェで次の氏政のmetuber企画を考える会議を開催していた。


 氏政のmetuber企画は第1回の撮影でのグダグダ具合から失敗する…かと思いきや、意外に動画を投稿してみると盛況だったらしい。


 …と言っても氏政が当初予定していた「氏政に彼女が出来るまでのドキュメンタリー風の動画」としてではなく、所謂コント系のネタ動画としての人気だが…。


 第1回目の撮影の際、氏政が変な事をしでかす度に俺はカメラの撮影を止めて氏政にツッコミをしていた…と自分では思ったのだが、どうもカメラの撮影が止まっていなかったらしく、俺のツッコミがそのまま録音されていたらしい。


 それを編集担当の朝信が面白おかしく編集して投稿した結果、動画は妙なバズリを見せたということだ。


 今では氏政のmetubeちゃんねるには登録者が2000人程おり、このままいけば収益化も夢ではないらしい。なんとも複雑な気分である。


「それで次の企画をどうするかだが…何か意見ある奴いるか?」


 氏政はそう言って俺達を見渡す。


「なぁ…これ本当に100回もやるのか?」


「当然だろ。100回やらないと動画のタイトル詐欺ということになっちまう」


「でももう思いつくことは大体やったぞ」


 動画も次で13回目ということで、今まで12回も「氏政にどうすれば恋人ができるか?」という無理難題を考えて動画を撮影してきた。


 ナンパ、自分磨き、男性アイドルオーディションを受ける(当然書類選考の時点で落ちた)、話術口座…その他もろもろ。


 だが所詮俺たちは素人、ネタ切れであった。正直あと87回もネタが浮かんでくる自信が無い。


「俺思ったんだけどさ…こういうのってあらかじめ終着点をある程度決めておいてから撮影を始めるもんじゃないの?」


「どういうことだ兼続?」


「うーん…だから最初から氏政と付き合う予定の女の子、もしくはもう付き合ってる彼女がいて、その彼女と氏政がまだ付き合っていない体でこれから2人がどう付き合うのかってのを動画で見せていくのが本来のこういう企画だと思うんだけど…。俺たちはただ行き当たりばったりに思いついたことをやってるだけじゃん」


「つまり…ヤラセってことか?」


 氏政にしては頭の回転が速い。もしあらかじめ氏政に付き合う予定の彼女がいるなら、最終回で2人が無事付き合うように設定し、あとはそれに向けて物語の山場などを演出しつつ作っていけばいいだけなので比較的ネタが考えやすい。企画が失敗する可能性もないしな。


 それに引き換え俺たちは毎回「どうすれば氏政に彼女が出来るのか?」という東大生も頭を悩ます問題をゼロの状態から考えているんだからそりゃネタも無くなる。


「最初から企画倒れだったんだよ。こんな状態であと87回もやるのは無理だからもう止めにしようぜ? 動画投稿をしばらく止めておけば失踪したと思われて炎上もしないだろ」


「いや、それは俺のちゃんねるを登録してくれた視聴者に申し訳ない。要するに俺に彼女がいればいいんだろ?」


「いや、だからそれが無理だから困ってるんだろ?」


 こいつに彼女出来るなんて夢のまた夢だ。日本経済が再び活性化するのと同じぐらい難易度が高いだろう。


 氏政は「ああでもない、こうでもない」と色々頭を捻っていたようだが、やがて顔を上げると俺と朝信を見渡した。


「思いついたぞ、次の企画! 題して『片っ端から告白して付き合ってくれる女の子を見つけよう!』ってのはどうだ? こうすれば俺に彼女が出来てネタも考えやすいだろ?」


「…いや無理だろ」


 そんな簡単に告白して付き合ってくれる女の子がいるならこいつにはすでに彼女がいるだろう。


「しかし同志氏政、女の子と付き合ってしまったら企画自体が終わってしまうのではないですかな?」


「朝信馬鹿だなお前、さっき兼続が言ってたじゃねえか。ヤラセにするんだよ。いいか、まずこの告白作戦は第13回目のネタとして動画投稿するんだが、その際に俺が告白して彼女ができた部分をカットして投稿するんだ。そうすれば視聴者には俺にはまだ彼女が出来ていないように見えるので動画の企画が続くし、撮影する側にとっては俺に彼女が出来たから最終回までのネタも考えやすくて済む。どうだ? 俺って天才じゃね?」


「なるほどそう言う事でしたか! 流石同志氏政ですぞ、我は感動のあまり思わず脱帽してしまいましたな」


 なにやら2人で盛り上がっているようだが、その「氏政が告白して彼女が出来る」という部分がほぼ実現不可能な事を理解しているのだろうか?


「よし、そうと決まれば早速大学の正門で撮影準備するぞ! 正門から出て来た女の子に片っ端から告白だ!」


「そもそもいきなり告白する事自体が迷惑かかるからやめろよ…」


「兼続、迷惑をかけてない人間なんてこの世にいないんだ。人は多かれ少なかれ人に迷惑をかけて生きてるんだぞ!」 


 氏政はこちらを向いて俺の肩に手を乗せ、キメ顔でそう言ってくる。


「…なんかいい話に持っていこうとしてるけど、意図しないでかける迷惑と意図してかける迷惑は別物だからな」


「大丈夫だ、問題ない!」


「問題大ありだろ! おい、ちょっと待て!」


 俺の静止ももむなしく、氏政と朝信は大学の正門に向かってしまった。仕方ない…、せめてこれ以上あいつが迷惑をかけないように監視するか…。


 俺はため息を吐きながら氏政の後に続いた。



○○〇



「よぉ~しじゃあ行くぞ! 兼続カメラの準備は良いか?」


「ああ、いつでもいいぞ…」


「撮影開始ですな!」


 俺たちは大学の正門の前までやってくると早速撮影を開始する。俺は心の中で大学の女性たちに「迷惑をかける事になるがスマン!」と謝りながらスマホの撮影ボタンをタップした。


『はい、みなさん! 今回の氏政ちゃんねるは…彼女を作る手段として大学から出て来た女の子に片っ端から告白してみようと思います。果たして俺の告白に応じてくれる女の子はいるのでしょうか? もし告白が成功したら高評価ボタン押してね!』


 氏政は今回の動画の企画をカメラに向かってつらつらとしゃべる。はぁ…撮影する前から心労で心臓が痛いわ。


 しかしこれで氏政の悪評がまた増えるな。ションベン漏らしにナンパ野郎に…あとは睾丸に脳が付いている男とかもあったな。次は何だ? 告白魔とかか? 氏政もこれだけ悪評が流れてるんだから少しはおとなしくしとけばいいのに…。


『おっ! 早速正門から女の子が出てきましたね。では告白してみようと思います。そこの綺麗なお姉さん! ちょっと待って』


 氏政は正門から出て来た茶髪で髪をポニテにしている女の子に声をかける。


『はい?』


『あなたを一目見て好きになりました。どうか俺とお付き合いしてくれませんか?』


『ええっ!?///』


 おっ、意外だなぁ…。てっきり氏政を無視して通り過ぎるかと思ったのに茶髪の女性は氏政の告白を聞いて赤面している。


『あの/// その//// 困ります////』


『お嬢さん、あなたのその綺麗な茶色の髪を見て俺の心はまるでショットガンで撃たれたかのような衝撃を受けました。あなたはまるでこの世に咲き誇る一輪のキョウチクトウ…。どうか俺の告白を受け入れて下さい!』


 氏政はなんだか良く分からない口説き文句で女性を口説く。「茶髪の髪を見てショットガンで撃たれた」て…、茶色の髪なら誰でもいいと言わんばかりの口説き文句だな…。


 この大学には茶髪の女の子が結構な数存在しているので氏政の心は四六時中ショットガンで銃撃されている事になるのだが…。


 あとキョウチクトウってヤバい毒持ってる植物じゃなかったか? そんなんを例えに出すなよ…。ツッコミどころ満載すぎる。


『え//// あの//// 近いです/////』


 しかしそのツッコミどころ満載の口説き文句にも関わらずその茶髪の女の子は顔を赤くさせてモジモジしている。


 えっ…これってもしかして脈ありなのか?


『お嬢さん、どうか告白の答えを教えてください』


『あの…////』


 俺と朝信は固唾を飲んでその様子を見守る。


『ズボンのチャック空いてますよ?』


『へ?』


 茶髪の女の子はそう言うとスタスタと歩いて向こうへ行ってしまった。カメラで氏政のズボンの股間部分をズームアップしてみると確かに社会の窓が開いている。


 もっと言うとチャックからパンツの布がはみ出している。氏政は無言でズボンのチャックを閉めた。


「まぁこういう事もあるさ。さっきトイレに行った時に閉め忘れたんだな。次行こう次!」


 そのメンタルの強さは流石だよ…。


 氏政はその後も正門から出て来た女性に片っ端から告白していった。が…やはり大抵の女の人には無視されていた。もうそろそろ20人ぐらいに無視されたんじゃないかと数えるのが面倒になって来たその時、久々に立ち止まってくれる人が現れた。今度は青髪ツインテの女の子だ。


『お嬢さん、俺はあなたに一目ぼれしました。どうか俺とお付き合いしてくださいませんか?』


『いいですよ♪』


 えっ、いいの!? というかいきなりOK出すって正気か?


 俺と朝信は顔を見合わせて、こりゃ変わり者の女性もいたもんだと氏政とその女の子の行く末を注意深く観察していく。


『本当ですか? ヤッター!!! やっと俺に初彼女が…。見たか兼続、朝信! やっぱ神様は努力している奴をちゃんと見ているんだよなぁ。今まであきらめずに色々やってきた甲斐があった…。うおおおおおお』


 氏政はよほど嬉しかったのか顔に腕を当てて男泣きしているようだ。えぇ…まさか本当に成功するなんて…。俺は困惑しながらも氏政にカメラを向け続けた。


『その代わり…ちょっとあたし今お金に困ってましてぇ…。このパワーストーンを買っていただけませんか? なんとあの霊峰富士の奥深くに眠っていたかもしれないと言われるパワーストーンで恋愛成就、家内安全、金運アップ、更にはおまけに安産の加護までついてなんとお値段今なら5万円だぁ!』


『買ったぁ!』


「おいおいおい! ちょっと待て!!!」


 俺はスマホのカメラをいったん止めて氏政と青髪の女の子に詰め寄る。なんかトントン拍子に事が進んでおかしいなと思ったらこれ思いっきり悪徳セールスじゃねぇか!?


「氏政、お前騙されてるぞ。そんな石っころに恋愛成就や金運アップの力なんてあるわけないだろ!?」


「うるせぇ!!! 自分の彼女が金に困ってるって言ってんだ。男なら彼女を助けなくてどうするんだよ?」


「お願い、すぐにお金が必要なの。5万円ないと病気の妹が…。この石本当に凄い力を持っててね。あたしも何度も助けられたの」


「もし本当にその石に不思議な力があるんなら、どうしてアンタはお金に困ってるんだ? 金運アップの効果があるならアンタは金に困らないはずだろ?」


「チッ…」


「おい、コイツ今明らかに舌打ちしたぞ!?」


「えっ? 嘘だよな富子ちゃん…。富子ちゃんが俺に嘘をつくなんて…」


「富子ちゃんて誰だよ!? お前ら自己紹介してないからお互いの名前すら知らないだろ!?」


「フッ、バレたら仕方ないわね。そうよ。あたしはあなたを騙すために告白を受けたのよ。コイツのせいでバレちゃったけどね。ちなみにあたしの名前はこずえよ」


「一文字もかすってないじゃないか!?」


「そんな…美也子が俺の事を騙していたなんて…」


「さっきと名前違うじゃねぇか!? こずえだって言ってんだろ!?」


 俺はツッコミすぎて肩で息をする。…この2人初対面のはずだよな? 凄い息のあったボケようである。


「はぁ~あ、良いカモ見つけたと思ったんだけどなぁ…。しょうがないからパパ括でもして稼ぐか。じゃあねモサ男ども」


 青髪の女の子はそう言うと大学の外に走り去っていってしまった。


「そんな…告白を受け入れてくれたのは俺を騙す嘘だったなんて…。やすえ…」


「もうツッコまないぞ…。疲れるからな」


 俺は疲れたのでその後少し休憩をとることにした。



○○〇



 そして休憩が終わり撮影が再開する。俺は「もうあきらめようぜ」と提案したのだが、氏政はまだまだやる気満々らしい。


 俺はしょうがなくスマホのカメラを氏政の方へと向ける。


「こっちは準備OKだ…」


「よっしいくぞ!」


 俺はスマホの撮影ボタンのスイッチを入れた。


『さぁ、引き続き告白チャレンジをしております。おっ、また女の子が出て来ましたね。早速声をかけましょう』


 氏政は懲りもせず正門から出て来た女の子に話しかける。今度の子は金髪のロングか。


『こんにちは。俺は一目見てあなたに惚れました。どうか俺と付き合ってくださいませんか?』


『えっ? そんな…いきなり告白されても…。ウチらあまりお互いの事を知らないし…』


 金髪の女の子が少し赤面する。うーん、やはり氏政は顔自体は悪くないので彼の中身を知らない人からすると、少しときめいてしまうのかもしれない。まぁ…その後の言動で全て台無しになるんだがな。


『ならまずはお友達から始めませんか。この後時間はあります? 俺とどこかに遊びに行きません?』


 氏政は押せば落ちると思ったのか、ナンパに切り替えて女の子の警戒心を解く方向に行くようだ。方法自体は間違ってないと思うんだけどね…。


『少しだけなら…。どこに行くの?』


『そうですね…まずは俺の家でコーヒーでも飲みながら優雅にAVでも一緒に見ません? お気にの女優の新作が入ったんですよ。ハッハッハ』


「はい、カーットぉ」


 俺はもう疲れてツッコむ気力が無かったので適当に撮影を打ち切る。


「おい、兼続なんでだよ?」


 氏政がこちらに詰め寄って来る。金髪の女の子はその間に呆れて向こうに行ってしまったようだ。


「お互いを知るために一緒に遊びに行くのになんでお前の家でコーヒー飲みながらAVを見なあかんのだ…。何を知る気だよ?」


「そりゃ…ナニを…」


「下ネタやめろよ! そんなんだから女の子が寄ってこないんだって俺何百回と言ったよな?」


「そうだっけ?」


 彼はとぼけた表情でそう答える。


「お前ガチで一回医者行って来い。真面目に記憶に関する病気持ってる可能性あるから」


「兼続お前さぁ…。この前から俺のナンパにダメ出ししてばかりじゃねえか。そんなに言うんだったらお前が見本見せてみろよ見本を!」


「いや、俺でなくてもダメ出しすると思うよ…」


「俺はもうスネたからな。兼続が見本を見せてくれるまでここから動かん!」


 氏政はそう言ってよりにもよって正門の真ん中にドカリと座り込んでしまう。おいおい、そんなとこに座ったら他の学生の通学の邪魔になるじゃねーか…。


「仕方ねぇな…」


 俺はため息を吐くと氏政に「分かった」とナンパの承諾をする。非常に不本意だが…氏政をこのままにしておいては他の学生に迷惑が掛かってしまう。


 仕方が無いので1度だけナンパをしてみよう。ナンパをした女の子には後で事情を説明して誤ればいい。


 俺は覚悟を決めると正門へ向かって来る女の子を探し始めた。よし、あの茶髪のハーフアップの子にしよう。俺はその女の子に習いを定めて歩き出した。


「ねぇそこの彼女♪ 君、凄く可愛いねぇ♪ あっ今暇? 美味しいお菓子食べれる店知ってるんだけど一緒に行かない?」


「ふぇ、兼続君!?//// えっと、その//// はい、よ、喜んで…////(えっ? なんで兼続君が…?//// これってデートのお誘い?//// もしかして兼続君も私の事が好きだったの?////)」


 ん? なんか聞いたことのある声してんなぁ…。って!? 良く見たら秋乃じゃねーか!? 


 不味い…どうしよう…。精神的に疲弊していたせいで秋乃だと気が付くのに時間がかかってしまった。なんか知らんが秋乃むっちゃ乗り気だし…。これ謝って許してくれるかなぁ…。


 そしてその様子を見ていた氏政がまた騒ぎ出した。


「なんでお前は1回でナンパ成功するんだよぉ!? 俺なんて今まで何百回とやって来て成功ゼロなんだぞ! こんなのは不公平だぁ!!!」


 そう言って氏政は道路の方に走り去ってしまった。あっ、チャリに轢かれてこけた。そして朝信はいつの間にどこかに消えていた。


「え、えっと//// それで兼続君どこに行く? えへへ、私はどこでもいいよ////」


 う~ん…このカオスな状況をどうすればいいのだろうか? 残念ながらそれに答えてくれるものは誰もいない。



○○〇


次回の更新は6/10(土)です。


※作者からのお願い


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