デート明けのドタバタ まぁこうなるよね…
俺が4女神とデートをした次の週の月曜日。当然だが平日は大学の講義があるので俺たちは講義のある校舎へと向かっていた。同じ講義を履修している千夏と秋乃、そして途中で合流した朝信と氏政の計5人で談笑しながら大学の中庭を横切り校舎へと向かう。いつもの5人だが、同じ学部なので履修科目が多少被ってしまうのは仕方が無い。
昨日、一昨日のデートを通して俺は4女神たちに彼氏が出来ない理由というのを理解した。となれば後はその問題の解決に向かって行動しなければならない。
まぁ…かといって具体的にどういう行動をすればいいのかはまだ全然決まっていないのだが…。
幸いにも時間はまだあと半年もある。しかも来月からは2カ月もの長い夏休みに突入するのだ。大学が休みになる分、その時間を思考する時間に当てることが出来る。なのでそこら辺は寮長なんかと相談しながらおいおい詰めていけばいいだろう。そう思った俺は一旦そのことを頭の隅に追いやって1限目の講義のことを考え始めた。
1限目の講義の教授、よく当ててくるんだよなぁ…。教室に着いたら今日やる範囲もう一度見直しとこう。
○○〇
「氏政、お前またナンパに失敗したのかよ…」
「うるせぇ! まさか相手が女装していたとは思わなかったんだよ。髭も綺麗に剃ってたし…。危うくケツの穴掘られるところだったぜ…」
「いや、声の低さとか体格とかで分からんか?」
「しかしここまで女性に縁が無いのも凄いですな…」
「氏政は顔だけはそこそこ良いからな。1人ぐらいナンパにひっかかる女がいてもおかしくないのにな」
「おい! その言い方はまるで俺が顔以外はダメな人間みたいじゃないか?」
「違うのか?」
「えっ?(氏)」
「えっ?」
まさかこいつ…、自分の性格や能力を優れていると思ってるんじゃないだろうな。見ての通り性格は無茶苦茶だし、成績なんて下から数えた方が早いのに…。
「俺って…性格いいし、将来性も抜群だよな?」
「…お前がそう思うんならそうなんだろ、お前の中ではな」
「ん? それってもしかして褒められてる?」
…どうやったらこんなポジティブシンキングになれるんだろうか? 真面目に方法を聞いてみたい。
「あなたたち相変わらずアホな会話してるのね…」
千夏が呆れた目線で俺達を見てくる。俺をこいつらと同じ扱いにするのはやめて欲しい。
「千夏く~ん!!!」
俺たち5人が大学の中庭を歩いていると、遠くから千夏を呼ぶ声が聞こえた。誰だろう? 俺の知っている声ではない気がする。
名前を呼ばれた千夏はうんざりとした顔をしながら、たまたま近くにあった自販機の裏に体を隠すようにして身をかがめた。
「どうしたんだ千夏?」
「兼続、彼がここに来たら私はいないって言って頂戴。みんなもお願いね」
「彼?」
良く分からないが、あまり会いたくはない人物なのだろう。仕方ない、千夏のために一肌脱ぎますか。
どこから声が聞こえたんだと周りをキョロキョロ見回していると、大学の入り口の方からものすごい勢いで男が走って来た。すごいな…あんな遠くから声が届いたのか…。
男は俺たちの傍まで来ると肩で息をしながら千夏の居場所を尋ねてくる。
「すまん、君たち。さっきここに千夏君がいなかったかな?」
「いや、知らんが」
「おかしいな…。さっき君たちと一緒に行動していたように見えたのだが…」
そう言って男は眼鏡をクイッっとあげる。誰だこいつは…? 千夏のことを下の名前で呼ぶということはかなり親しい人物なのだろうか? でも千夏は嫌そうな顔してたしな…。
改めてその男を観察してみる。髪は黒髪のセンターパート、身長はかなり高く190センチ近くあるのではないだろうか? 体つきは服の上からでも分かるほどの筋肉質であり、相当鍛えていることがうかがい知れる。男子寮の中山寮長といい勝負かもしれない。
眼鏡をかけており、賢そう…というか文武両道で真面目そうな雰囲気を醸し出している。堅物委員長系と言えばいいだろうか?
俺は記憶の中のハードディスクを漁ってみるが彼に見覚えはなかった。割とガチで「誰だこいつ?」案件だ。
俺がそんなことを思っていると、隣にいた朝信が俺の服のそでをチョイチョイと引っ張って来る。
「(なんだ?)」
「(兼続、彼の名前は
「(へぇ~。で、その秀才様が千夏に何の用なのかね)」
「(フォカヌポゥ! 兼続はご存じないのですかな!? 少し前に高坂氏に告白したというのはこの御仁ですぞ!)」
「(マジで!?)」
俺が女子寮に行く前に千夏に告白した奴がいるという話は聞いていたのだが…。それがこいつだったのか。知らなかったわ。
緑川は周りをキョロキョロと見回しながら千夏を探しているようだ。まだ俺の言った事が信じられないのだろう。
「緑川君、千夏ちゃんは先に講義室にいったよ」
そこで秋乃が緑川に千夏はここにはいないという事を告げる。ナイスフォローだ秋乃! 千夏の親友である秋乃が言えば流石に彼も信じるだろう。
「ムッ! そうなのか…。大学の入り口から見た時は君たちと一緒にいたと思ったんのだが…」
「あはは…千夏ちゃん忙しいから」
「山県氏の言う通りですな。さっきアンパンを加えて向こうに行ったのを見ましたぞ」
「そうだったな。あいつアンパン咥えて『遅刻遅刻~』とか言いながら向こうに行ってたぞ」
俺たちは適当に口裏を合わせて千夏がここにはいないという事を偽造する。
「千夏君がそんな下品なことするはずないだろ…。どうも怪しいな」
しまった…。あまりにも適当な事を言いすぎたせいで逆に不信感を持たれてしまったらしい。緑川が俺達を訝し気な目線でみてくる。
そういえば大学での千夏は完璧超人で通っているんだったな。最近は寮にいるダラけた千夏を見慣れていたせいですっかり忘れていた。
「(俺に任せろ! 天才である俺の機転でこの局面を見事乗り越えて見せるぜ!)」
「(氏政?)」
俺たちがどうしようかと悩んでいると、何を思ったのか氏政が一歩前に出て緑川と対峙する。こいつの機転って碌なもんじゃなさそうだが…。心配だな。
「だからさっき山県さんも言ってたけど先に講義室に行ったって言ってるだろ? 俺達を疑っても高坂さんは出てこないぞ?」
おおっ、氏政にしてはマシな受け答えである。おそらくこの中では一番信頼のあるであろう秋乃の言葉を強調し、尚且つ自分たちを疑っても利益が無いことを相手に促す。
…疑ってスマンかった氏政。やればできるじゃないか。
「そこの自販機の裏になんて絶対隠れてないからとっとと講義室に行けよ!」
「おい!?」
前言撤回。やっぱりこいつアカンわ。こいつを少しでも信用した俺が馬鹿だった。
「何!? 千夏君は自販機の裏にいるのか?」
「どうして分かったんだよ? ハッ! そうか…高坂さんの体の一部が自販機からはみ出ていたんだな!」
「お前がバラしたんだろ!?」
「えっ…?」
「理由が分からないような顔するのやめろよ!? そんな風に言ったら誰だって居場所が分かるだろ普通!?」
「いや、ごめん。てっきり高坂さんの『私はいないって言って』は緑川に見つけて欲しい『フリ』だと思ってたわ…」
氏政は頭をポリポリと掻きながらそう悪びれる様子もなく言う。
「芸人じゃないんだからそんなまどろっこしいことするわけないだろ!? 馬鹿なんじゃないかお前!」
氏政に居場所をバラされた千夏は観念したのかしぶしぶと自販機の裏から出て来た。千夏の顔は氏政を恨んでいるように見える。まぁ…当然怒るよな。
「千夏君! そんなところにいたのか。探したんだぞ!」
千夏を見つけた途端、先ほどまでの寡黙な表情とは打って変わって顔をパアッと輝かせ、上機嫌になる緑川。いくら惚れた相手とはいえここまで表情が柔らかくなるものなのか…。孫を前にしたおじいちゃん並みの表情の柔らかさである。
千夏はため息を吐きながら緑川の前まで来るとめんどくさそうな顔をして彼を見上げる。
「はぁ…。私に何か用、緑川君?」
「そうだった。千夏君! 君にとても大事な事を聞きたくて会いに来たんだ!」
「大事な事?」
緑川は改まった様子で千夏に向き直ると一呼吸おいて話し始めた。
「この前の土曜日…千夏君が男とデートしていたという話を耳にしたのだが…所詮噂だよな? 千夏君はそんな事してないよな?」
緑川の言葉に俺は思わず千夏と目線が合ってしまう。土曜日に千夏とデート…間違いなく俺の事である。
でも冷静になって考えてみるとそうだよな。別に顔を隠してデートをしていたわけではないので、土日のデートを大学の誰かに見られる可能性というのは大いにありえたわけだ。ただでさえ人気の高い大学の4女神、しかも全員恋人がいないと来た。その4女神が男とデートしている…。噂になるのは至極当然の話と言えよう。
千夏はこれにどう答えるのだろうか? まぁ正直に白状するとめんどくさい事になるのは確実なので千夏の事だから黙っている…と思ったのだが…。
「本当よ。私はこの前の土曜日に男性とデートしていたわ」
あっ、言っちゃうんだ…。でもどうして白状したのだろうか? 緑川は千夏にフラれたと聞いているが、あの様子だと確実にまだ千夏に未練があるはず…。だとするならデートしたことを彼にバラせば厄介な事になるのは必然だと思うのだが…。
「な、なんだって!? ど、どこの誰とだい? 俺よりも君にふさわしい相手なのか?」
「別に誰とでもいいでしょ? あなたよりは好感の持てる相手よ」
「そ、そんな…」
ははーん、なるほど。どうして千夏がデートしていた事を緑川にバラしたのかと疑問に思ったが、自分が他の男に気があるように見せかけて、緑川には全く芽が無いぞと自分を諦めさせるために言ったんだな。
それに加えて相手の名前をぼかす事によって俺の方に被害が行かないようにしてくれたんだな。流石千夏だ。
緑川は見るからにガックリとうなだれ意気消沈している。どうやら相当堪えたようだ。よしよし、このままどっかに行ってくれるとありがたいのだが…。
「千夏君! 俺にもう一度チャンスをくれないか? 今度の日曜日俺とデートしよう。絶対にそいつより君を満足させてみせると約束する」
緑川は必死の形相で千夏にそう誘いをかける。諦めの悪い男だなぁ…。千夏も大変だ。
千夏は緑川の嘆願を聞いてうっとおしそうな表情をしていたが、何かを閃いたような顔をして俺の方を見てきた。
「兼続、少し良いかしら…」
「えっ? ちょ!?」
俺は千夏に腕を引っ張られ、自販機の裏に連れていかれる。
「私にちょっと協力してくれないかしら?」
「それはいいけど、どうするんだ?」
「あなたと私がすでに付き合ってるって事にしましょう。そうすれば流石に彼も諦めてくれると思うわ」
「えっ!? でもそれってさらにめんどうな事になりかねなくないか?」
「嫌なの? あなた私の胸2回も見てるんだからちょっとは協力しなさいよ!」
それを言われると弱い。俺も彼女の大事な所を見てしまった罪悪感があるのでしぶしぶとそれを承諾した。
「じゃあ決まりね。彼氏の役ちゃんとやりなさいよ!」
「…はいよ」
千夏は俺と腕を組んで自販機の裏から出ると緑川の前に俺を連れて行く。そしてニッコリとして彼に言い放った。
「緑川君。今まで隠していたのだけれど、私、彼と付き合ってるの。土曜日にデートしたのも彼よ」
「すまん、今まで黙ってたけどそう言う事だ」
「なん…だと!?(緑)」「は!?(氏)」「なんと!?(朝)」「ふぇーーー!???(秋)」
そりゃみんな驚くよな。いきなり付き合ってるだなんていわれたら。でも秋乃は少し驚きすぎじゃないだろうか?
「馬鹿な…ありえん。よりにもよって我が学部の3馬鹿で有名な東坂と…。俺がコイツに負けたというのか…」
緑川は衝撃の事実に絶望し、脱力して地面に膝をついた。前から思ってたけど、氏政と朝信は分かるが、3馬鹿に俺が入るのは理不尽すぎると思うのだが…。俺って影が薄いだけだろ? 小便漏らしと同じレベルとは思えん。
「あ、あ、ああ、あああああああああああ。そういえば土曜日に高坂さんと水族館にいたな! あれは2人でデートしてたのか!? まさか…兼続に彼女作るのを先を越されるなんて…しかも4女神の1人である高坂さんと付き合っただとぉ!?」
氏政が絶望のあまりブリッジをしながら俺を見つめる。衝撃を受けたのは分かるがどういう体勢をしてるんだよ…。
「おめでとうございますな兼続。我は友に彼女が出来て嬉しいですぞ」
朝信は嬉しそうに微笑みながら俺に拍手を送ってくれた。朝信の素直な祝福に俺の良心が叱咤される。付き合っているというのは嘘なので、祝福してくれている彼を騙している気がして申し訳ない気持ちになったからだ。すまん、朝信。
「そうだ。中山寮長から兼続に彼女が出来た時に渡してくれと頼まれたものがありますな」
そう言うと朝信は背負っているリュックの中からビニール袋を取り出して俺に手渡す。なんだろう?
「ソーダ味のコン〇ームですな。意外と美味しかったですぞ」
「人に渡す前に封を開けてんじゃねえよ!? それに食ったのかよ!?」
「美味しそうだったものでつい…」
…食い意地張ってんな、だからデブなんだよ。やはりこいつも碌でもない奴で間違いはない。
「かかかかかか、兼続君と千夏ちゃんが…!? この前までそんなそぶり全くなかったのに…私のじゅうごねん…あばばばばばばばばばばば」
「秋乃!?」
秋乃は意味不明な言葉をつぶやきながら痙攣して泡を吹き倒れてしまった。俺は倒れる彼女をなんとか受け止めて地べたに寝かす。何故秋乃はこんなにもリアクションがオーバーなのだろうか? 親友と男友達が付き合っていたというのがそんなにショックだったのか? まぁ後で事情は話すから大丈夫だと思うが…。
「認めん…認めんぞぉ! 今日は致命的な精神ダメージを受けたので撤退させてもらうが…。俺は絶対お前と千夏君が付き合うのなんて認めんからなぁ!!!!!」
緑川はそう言うと涙目になりながら走り去っていった。あれ? これ結局あいつ諦めて無くない? 事態をややこしくしただけじゃないか?
「どうやら失敗したみたいね…」
「ダメじゃん!?」
その後、3人には千夏と付き合ったというのは緑川を騙すための嘘だと説明した。秋乃は心底ホッとしたような表情をしていたが…。うーん、女心と言うのは良く分からんな。
○○〇
新たなギャグ要員が登場しました。彼は次回登場時にハジケます
※作者からのお願い
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