冬梨とデート なんだかんだいいデートだったな
美春先輩に事情を説明してなんとか誤解を解いた俺。時計を見るともう昼の12時を若干過ぎていた。もうそろそろお腹がすく時間である。
「冬梨、昼飯はどうするんだ?」
「…寮にあるものを適当に食べるつもりでいた。別に何か作ってもいい」
土日の昼飯も基本的に秋乃が作っているのだが、今日は俺のとのデートのために美容院へ行っているらしく不在だった。なので美春先輩も千夏も先に適当に食べたらしい。
「…冷蔵庫の中を物色する。秋乃の事だから何かしら食料を買ってあるはず」
「勝手に使っていいのか?」
「…問題ない。秋乃が少し怒るだけ」
「問題大ありだろ!? ただでさえ飯を頻繁に作ってもらっている立場なのに秋乃を怒らすなよ!?」
「…美春や千夏もよくやっている。別に冬梨だけじゃない」
えぇ…。そういえば大分前に美春先輩が夜に冷蔵庫の中身を物色しているのを見たことがある。確かカニカマを頬張っていたな。
「…だから兼続も一緒に共犯になろ?」
「ナチョナルに『共犯になろ?』とか言うなよ…」
冬梨が小首を傾けながらそう言うものだから少し可愛いと思ってしまった。容姿が良いって得だねぇ…。俺が同じことをやったら「キモッ」と言われて終わりだろう。
「俺は秋乃に感謝してるからそう言う事はしない」
「…仮にもデート中に他の女の話をするなんて…。兼続マイナス1万2000点」
「なんでいきなりデートの点数付けてんだよ!? それに秋乃の話は冬梨からふってきたんだろ!?」
「…デートの点数をプラスにしたければ冬梨と共犯になるしかない。このままでは兼続が初デートで女の子を怒らせたダメ人間になってしまう…。どうする兼続?」
「はぁ…。分かったこうしよう。今から俺がスーパーに行って弁当か何かを買ってくる。それでいいだろ? 秋乃に迷惑かけちゃダメだ」
「…兼続は秋乃に甘い。これが胃袋を掴まれたオスの末路…。嘆かわしい。オスとしての闘争心を奪われている。食料は本来他人から奪う物…」
「今は原始時代じゃないだろ…、令和最新版の時代だぞ…。あとお前らはもうちょっと秋乃に感謝しろよ…」
「…しょうがない。スーパーの弁当で我慢する」
「やっと分かってくれたか…。じゃあちょっくら行ってくるから待ってろ。20分ぐらいで戻る」
「…待って、やっぱり冬梨も一緒に行く」
「えっ?」
○○〇
俺と冬梨は大学の近くにあるスーパーマーケット『スーパーミチヨシ』に来ていた。この田舎の都市である色彩市にはスーパーは2つしかなく、1つは昨日先輩と行った『色バラ』の1階にあるスーパー。そしてもう1つは町はずれにあるこの『スーパーミチヨシ』となる。
別にどちらのスーパーに行っても良かったのだが、こちらのスーパーの方が大学の寮からは近いのでこちらになった。
そもそも色彩大学自体が色彩市の端の方の僻地にあるので、交通の便が何かと不便なのである。それこそ色々な施設が揃っている駅前まで徒歩で3、40分は余裕でかかるのだ。そういう意味ではあの辺りに住んでいる奴が少し羨ましい。ただその代わりあの辺りの賃貸は家賃が高いらしいが。
「…大学に行く以外で久々に外に出た」
冬梨はあのあと素早くパジャマから普段着に着替えると俺と一緒にスーパーに着いてきた。
現在彼女はパーカーにショートパンツというラフスタイルで俺と一緒に歩いている。パーカーのフードを深くかぶっているのは光が苦手だからだそうだ。…今日は曇ってるんだけどな。
「普段着なんだ?」
「…スーパーに行く程度でおめかしするのもめんどくさい」
確かに俺もコンビニやスーパーに行く程度では特に身だしなみを整えたりはしないが…、一応今は俺とのデート中なので冬梨のおめかしした姿を見てみたかったというのはある。少し残念だ。
「…冬梨の余所行き用の服、見たかった?」
「えっ? まぁちょっとは…」
「…じゃ今度見せてあげる。兼続は特別」
…今度? そもそも次に冬梨とデートする機会があるのだろうか。所謂「今度、今度とは言ったがいつとは言ってない。その気になれば10年後20年後でも可能ということだ…」って言う意味じゃないだろうな?
俺はスーパーに着くと買い物カゴを取って中に入っていった。冬梨もそれに続く。
「えっと…弁当のコーナーはどこだったかなぁ…」
久々にスーパーに来たので弁当コーナーの場所を忘れてしまった。俺も普段から買い物の手伝いとかするべきかなぁ。
「…兼続、こっちこっち」
「そっちか! よし」
冬梨が手招きをするので俺はそちらの方向へと向かった。しかし…。
「ってここお菓子コーナーじゃないか!?」
「…冬梨は別にお弁当コーナーとは言ってない。兼続に『こっち』と言っただけ」
「ああ、そうかい…。言っておくがお菓子は買わんぞ」
「…どうして?」
冬梨は可愛くキョトンとした顔をして疑問を述べる。クソッ、こういう時だけ自分の優れた容姿を最大限に活用しやがって…。
「はぁ…分かった。1つだけな」
「…流石兼続♪ 話が分かる」
冬梨はそう言うと高級そうなクッキーの缶を取って買い物カゴの中に放り込んだ。ゲッ…、これ海外の有名ブランドのクッキーで1缶3000円もするお高い奴じゃないか…。お中元などで送られているのを良く見る。
「…1つは1つ。冬梨は何も約束は
「…まぁいいか」
一応今はデート中なのだ。これくらいは買ってあげても良いだろう。千夏にもお菓子とか抱き枕買ってあげたしな。俺はクッキー缶を入れた買い物カゴを持ち上げると弁当のコーナーを探して店内をさまよっていった。
数分後、俺は弁当コーナーをやっとの思いで見つけると近寄っていった。現在の時間は午後13時近く、お昼の時間をかなり過ぎているという事もあってか弁当はすでに他の人に買い漁られ、あまり数は残っていなかった。
「あまりいいもん残ってねぇなぁ…。冬梨は何にする?」
「…豪華
「そんなんスーパーに売ってるわけ…あったわ…」
俺は冬梨が持っていた巨大な弁当を見て言葉を失う。弁当の中身を見てみると北京ダックやフカヒレ、上海ガニにアワビなどの高級食材がこれでもかと詰め込まれていた。えーっと…なになに…『満漢全席の多種多様なメニューの中でも特に人気のあるものを弁当に詰め込みました』お値段5000円!? 高っか…。でも満漢全席だしこれでも安い方か。
というか店はこれを売れると思って販売しているのだろうか? 富裕層向けのスーパーならワンチャンあるかもしれないが、こんな庶民向けのスーパーでこれを買う奴はあまりいないと思うんだが…。そりゃ売れ残るわな、廃棄出まくりだろこんなん。
「…兼続、冬梨これ食べたい…」
冬梨は懇願の眼差しを俺に向けてくる。くそっ…なんでそのスキルを友達作りとかに生かさないんだ…? しかしながら、俺も甘いなぁ…。
「分かったよ。ほら、カゴに入れな」
「…わーい。冬梨、兼続大好き♪」
「…あんまり嬉しくねぇな」
冬梨の弁当は決まった。後は俺が食べる弁当を決めるだけなのだが…何にしようかな。
「…兼続兼続」
俺が弁当を何にしようか悩んでいると冬梨が俺の服の裾を引っ張ってくる。
「なんだ?」
「…イナゴの佃煮弁当だって」
冬梨の指さした方を見るとご飯の上にイナゴの佃煮が大量にトッピングされた弁当が売ってあった。
俺は人生で初めてイナゴの佃煮を見たが…かなりのグロテスクさである。何より虫の姿がそのまんまで調理されているという事実に鳥肌が立った。せめて形を変えろよ…すり潰すとかさぁ。内陸県の人間はアレを喜んで食べると聞くが、かなりのカルチャーショックを感じる。俺は一生食べられそうにない。
「却下」
「…兼続、好き嫌いしちゃダメ」
「じゃあ冬梨が食べてみろよ。買ってやるぞ」
「…残念ながら冬梨は満漢全席弁当で手一杯」
「…あっそう」
俺は気を取り直して弁当を探す。うーん、やはり残っているのは値段が高い奴か内容が微妙な弁当ばかりのようだ。
「…兼続兼続」
「今度は何だ?」
「…あれあれ」
冬梨の指さした先を見てみると、弁当の容器の中に何か黒ずんだ物体のようなものが入ってあった。なんだありゃ!?
手に取って近くで見てみると黒いスライムのようなドロドロしたものが弁当の容器にへばりついているように見える。
「えっと…『美人店員の調理失敗弁当』…? 当店イチの美人店員である斎藤さんが調理に失敗した弁当です。焦げたチャーハンのように見えますが、そこはご愛敬。味ではなく愛情で勝負…。こんなん売りに出すなよ!? それにこれチャーハンだったのかよ!? ツッコミどころありすぎだろ!?」
食品衛生法とかにひっかからないのかこれ!?
「…でも安いよ? ボリューム満点で100円だって」
「いくら安くても買わんわ!」
この後も秋乃とのデートがあるのにこんな変なものを食べて腹を壊しては元も子もない。健康は金では買えないのだ。
結局、まともな弁当が無かったので俺は仕方なくカップラーメンを買って腹を満たすことにした。冬梨のクッキーと弁当合わせて8000円、俺のラーメン100円…、計8100円のお買い上げなり。悲しい出費だが、冬梨が喜んでいるみたいだからまぁいいか。
会計を済ませて外に出ると曇っていた空模様が若干だが晴れていた。俺たちはせっかくなのでスーパーの外に設置してあるベンチで弁当を頂くことにした。もうお昼の時間を大分過ぎているのでお腹ペコペコで寮まで持ちそうになかったからだ。
「…いただきます」
冬梨は満漢全席弁当の蓋を開けると物凄い勢いで口の中に入れていく。よほどお腹が空いていたのだろう。
「美味いか?」
「…流石満漢全席といった味。90点」
冬梨は親指を立て、グッとながら弁当の感想を言う。そりゃよかった。5000円も出したかいがあったというものだ。美少女の笑顔はどんなものよりプライスレス、冬梨の喜んだ顔が見れて良かった。
俺もカップラーメンの蓋を開けるとラーメンをすすった。くぅ~。いつもと変わらない安っぽい味だけど、空腹の腹に染みるねぇ~。空腹は最大の調味料とはよく言ったもんだ。
「…兼続口を開けて」
「なんだ? むぐっ!?」
いきなり冬梨に口の中に何かを突っ込まれる。なんだこれ? なんか生地のようなものの中にジューシーな肉が挟まっている。…これはもしかして北京ダックか?
「…ご名答」
「くれたのは嬉しいけどいきなり口の中に突っ込むのはやめてくれ…」
「…所謂『あ~ん』という奴をしてみたかった。どう、恋人っぽかった?」
彼女は無邪気な笑顔でそう言ってくる。冬梨のことだから純粋に厚意でやったんだろう。困ったなぁ…そんな顔をされたら否定なんてできないじゃないか…。
「まぁ…ちょっとは///」
「…照れてる?」
「うるさい///」
「…兼続は今日の冬梨とのデート楽しかった?」
「まぁ…そうだな。楽しかったよ」
「…冬梨も楽しかった」
思い返してみると冬梨に振り回されてばかりのデート?だったが、なんだかんだ楽しかったのも事実である。
デートとは男女が普段いかない場所にお出かけし、2人で新たな発見やら感動やらの感情を共有したりして仲を深めるものだと思っていたのだが、今日冬梨としたこういう何気ない、いつも通りの場所で過ごすのんびりとしたデートというのも一緒の恋人の形なのではないだろうかと改めて思った。正直、悪くはない。
俺はそのままデート終了の時間が来るまでまったりと冬梨とベンチで過ごした。
○○〇
※作者からのお願い
もし当作品を読んで1回でも笑われたり展開が面白いと思って下さったなら♡や☆での評価をお願いします。作者のモチベにつながります。
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