美春とデート 先輩ゲーム好きだったんですか?
俺は千夏と別れた後、美春先輩とのデートのため彼女との待ち合わせ場所である「色彩バラエティ」という大型総合商業施設まで急いだ。
この「色彩バラエティ」も駅周辺にあり、近年の色彩市の再開発によって建てられた最新の商業施設だ。6階建ての建物の中には色々な店が入っており、ここに来るだけで様々な用途が満たせるようになっている。
まず1階にはフロアまるまる使ったスーパーマーケット。色彩市最大のスーパーマーケットで食料品や日用品を買うならここにくれば事足りる。
そして2階、3階には多種多様なテナント店が立ち並ぶショッピングエリア。服屋、本屋、雑貨屋、電機屋、スポーツショップにゲームショップなど人々の生活を彩る様々な品を買うことが出来る。
その上の4階にはお腹が減った時に便利なフードコート、全国から有名飲食チェーン店がテナントとして出店している。5階にはゲーセン、学生たちのたまり場だ。6階にはなんとここらへんで唯一の映画館がある。
事前にネットや雑誌で調べた情報によるとこの「色彩バラエティ」…長いので以後略して「色バラ」と呼ぶが、ここもデートスポットとして結構有名な所らしい。
その理由は多数の店があるので単純にカップルでウィンドウショッピングするだけでも楽しいし、お腹が空いた時は4階にフードコートで食事を取れるし、更には6階に映画館もあるのでデートにうってつけの場所ということだった。
色バラの前に着いた俺はスマホで時計を確認する。只今の時刻は15時50分。先輩との待ち合わせの時間まであと10分である。
色バラ前で待ち合わせ…という事はおそらく先輩はここでデートするつもりなのだろう。
先輩の事だからとりあえず2、3階のショッピングエリアでウィンドウショッピングでもするのだろうか? 服なんかを2人で見て回ったりして…という事を頭の中で想像する。そしてその後はオシャレなレストランやバーなどに行って夕食…といった具合だ。うおおお、物凄くリア充っぽさを感じる。
しかしどうしよう…、俺センス無いからオシャレな服なんて分からないぞ。今日の服だって服屋の店員さんにコーディネートして貰ったもので俺自身で選んだものではない。
今になって物凄く不安になって来た。なんせあの美春先輩とデートするのだ。キラキラに輝いていてオーラが凄くてみんなの人気者。そんな人とデートするなんてレベルが違いすぎて失敗してしまうのではないかとの懸念が俺の心を襲う。
例えるならネトゲでレベルがカンストに近い人とゲームを始めたばかりの初心者がパーティを組んでクエストに挑戦するようなものである。どうしよう…先輩にあきれられるかもしれない。
…いいや、そんな弱気になってどうするんだ東坂兼続! 高広先輩にも最初から負けた気になってどうするんだって言われたばかりである。俺だってこの日のために色々勉強してきたのだ。
今日のデートは先輩が予定を立てるとは言っていたが、もしも予定通りに行かなかった時のために先輩が好きそうな店を下調べしたり、面白いジョークの本なんかを読んで会話を楽しませるすべを学んだりしたじゃないか。
例え俺のファッションのセンスが壊滅的だったとしても他の事でデートを楽しんで貰う様にすれば良いのだ。
俺はそう決心して覚悟を決めた。俺は太陽に向かって拳を振り上げ誓いを立てる。見ていてください我が国の最高神である太陽神アマテラスよ。
…今日は曇り空なので太陽は見えないけど。
「…何してるの兼続?」
「えっ? 先輩? いつの間に…。すいません、え、えっと…太陽が見えないか探してたんですよ///」
俺が誓いを立てている間にいつの間にか先輩が到着していたらしい。先輩は曇り空に向かって拳を振り上げている俺を見て怪訝な顔をしていた。これは恥ずかしい所を見られてしまった。クソッ、最初からやらかしちまったな…。
「そ、それよりも予定よりも早いですね」
「実はね、あたしは今日が楽しみで仕方が無かったのよ」
えっ? それはどういう事だろうか? 先輩が俺とのデート楽しみにしてくれていたという事でいいのだろうか。
「このデートであたしが魅力あふれる女であることを証明して見せるわ! もう寮長なんかにしのごの言わせない!」
ああ…そう言う事か。びっくりした。
「先輩はすでに魅力で溢れていると思いますよ」
「そう? ありがとう兼続。でも何故か知らないけど彼氏は一向に出来ないし、寮長にはよくダメだしされるのよね」
先輩はそう言ってムッっと膨れる。そういえば…寮長は美春先輩には頓珍漢な所があると言っていたな。俺が見ている限りではそういう所は見られないが…。
「そうそう、そう言えば…今日の服どう? この夏の新作コーデらしいんだけど…似合っているかしら?」
彼女はクルリと周り俺にその服を見せつけてくる。先輩が着ていたのは白いシャツにデニムパンツというシンプルながらも涼し気で大人っぽいコーデの服だった。シンプルな服装だからこそオシャレ感を出すのが難しかったりするのだが、先輩はそんな服を見事に着こなしている。
というかこの人が着ているとなんでもオシャレに見えてしまうから困る。ファッション雑誌のモデルに採用されたとしてもおかしくはないだろう。
「はい、良く似合ってますよ。凄くオシャレだと思います」
「フフン、伊達に普段からファッション雑誌を読みこんではいないわ。当然よね」
先輩はドヤ顔で俺にアピールしてくる。やはり普段からファッションの事を深く勉強しているのだろう。自信満々の様だ。…俺もファッション雑誌の1冊ぐらいは読み込んでみるべきか。
「兼続の服も涼しそうで良く似合っているわよ」
「あ、ありがとうございます」
俺の服はサマーニットにテーパードパンツという店員さんに選んでもらった服なのだが、自分で選んでないので喜んでいいのかどうか微妙だな。
「それじゃあ、さっそく行きましょうか。色バラ内にレッツゴーよ♪」
先輩はそう言うといきなり俺と腕を組んで引っ張って来た。
「ちょ、先輩!?」
「どうしたの兼続? あっ、もしかしてぇ…腕組むの恥ずかしかった?」
先輩はニヤニヤしながら俺の方を見てくる。
「そりゃ恥ずかしいですよ/// 先輩みたいな綺麗な人と腕を組むのは」
「フフン、それだけあたしが魅力的って事よね♪ そぉれ! もっとくっ付いてあげる。サービスよ」
美春先輩はイタズラっぽい顔になるとさらに俺にくっ付いてきた。先輩の大人な体が俺に密着し、その柔らかさを感じさせる。更には香水かシャンプーかは分からないが先輩のいい匂いが俺の鼻を刺激し、俺の胸はドキドキと鼓動を速めた。
最初からこれは飛ばしすぎではないだろうか? もしかすると俺はこのデート最後まで立っていられないかもしれない。
こうして先輩とのデートが幕を開けた。
○○〇
俺と先輩は色バラ内に入るとエスカレーターで上の階へと昇っていく。先輩はそのまま2階のショッピングエリアでウィンドウショッピングとしゃれ込む…と思ったのだが意外にもこれをスルーしてさらに上の階へと昇って行った。
「あれ? 2階で降りないんですか?」
「ショッピングもいいけど。今日は別の目的があって来たのよ」
これより上の階…というと6階に映画でも見に行くのだろうか。映画と言えばデートの定番だしな。4階のフードコートに行くには流石に時間が早すぎる。
俺は今何の映画やってたかなと思い出しながら先輩と一緒にエスカレーターを上っていった。
…ところが先輩は6階の前の5階でエスカレーターを降りてしまう。あれ? ここで降りるのか? 5階って確かゲーセンじゃなかったっけ?
「降りるわよ兼続」
「あっ、はい」
俺は先輩に続いてエスカレーターを降り、そのまま着いて行った。彼女はゲーセンの奥にあるとあるゲーム機の前で立ち止まる。
「じゃじゃーん! 今日はこれをやりに来たのよ。みんな大好き『ゾンビハザード12』」
先輩に案内された先にあったのは100円を入れると起動し、画面に映った敵を銃で撃ち殺してハイスコアを競うあのゲームだった。銃は2つあるので2人プレイにも対応している。
俺は予想外の出来事にポカーンとする。まさか色バラに来た目的がショッピングでも映画を見るでもなくゲームをすることだとは思いもしなかった。
というか先輩がこういうゲームをやるという事に驚きを隠せなかった。先輩とゾンビ…コーヒーに青椒肉絲みたいなカオスな組み合わせである。
「どうしたの兼続? トイレに入ったら紙が無かった時みたいな顔してるけど…」
「い、いや…。先輩もこういうのやるんですね」
「意外だった? あたしこのゲーム大好きなのよ。冬梨に前作のCS版を貸してもらってやってるぐらい」
そうなのか。先輩の新たな一面発見である。思えば寮のメンバーで先輩だけ年上で、他の3人と比べると話す機会が少なかったせいもあってか先輩について知る機会があまり無かった気がする。そうか…先輩はゲームも好きだったのか。
仲良くなるとその人物の新たな一面に出会えるので面白い。俺たちは機体に100円を入れるとゲームをプレイすることにした。
「さぁ兼続、ゾンビが出て来たわよ。あたしは右を担当するから兼続は左をお願いね」
「わかりました」
先輩はこのゲームのシリーズをやり慣れているだけあって流石に上手かった。出て来るゾンビを的確にヘッドショットし、スコアを稼いでいく。俺もゲームは苦手ではないのだが、先輩と比べると下手くそと言わざるを得ない。なんとか先輩の足を引っ張らないように着いて行き、1面をクリアする。
「きゃあ~/// 見なさい兼続。あたしたちが1面のハイスコア1位だって~」
「やりましたね」
先輩は1位をとれたのが嬉しかったのか、興奮した様子で喜んでいる。何気にこんな先輩を見たのは初めてかもしれない。年上で大人っぽい人だなと思っていたけど、こういう子供っぽい一面も持ち合わせていたようだ。
俺は先輩の子供っぽい表情に少し胸がドキリとする。千夏の時もそうだったが、やはり俺はギャップに弱いのかもしれない。
「2面が始まるわよ。準備はいい?」
「バッチこいです。ちなみにどれくらいでクリアなんですか?」
「確か10面まであるはずよ」
10面か…結構長いな。1面が7、8分あったので全クリしようとすると1時間以上かかる計算である。デートの時間を1時間以上ゲームで潰すことになるが…でも先輩は楽しそうにプレイしてるし、まぁいいか。
俺たちはそのまま順調にクリアしていき、8面までクリアした。
「やったー! あたしもここまで来れたのは初めてよ。やったわね兼続。あたしたち相性がいいのかもしれないわね」
先輩はそう言って俺の腕に抱き着いてくる。よっぽどここまで来れたのが嬉しかったようだ。先輩のそこそこ大きいものが『むにゅん』とあたって少し恥ずかしい。
…あと先輩に抱き着かれながら「相性がいいわね」なんて言われたら大抵の男は少し勘違いしてしまうかもしれないのでやめて欲しい。
「でも聞いた話によるとこのゲームは9面からが本番らしいわ。気張っていきましょう♪」
「了解です」
難しいと噂の9面がスタートする。俺と先輩は若干緊張しながら銃を構えた。
○○〇
「…いやいや、難しすぎでしょ9面。いきなり難易度が跳ね上がったぞ」
俺と先輩の9面チャレンジは失敗に終わった。9面に達した俺たちが見たもの。それは今までのステージの5倍以上の数で押し寄せてくるゾンビたちだった。それまでは多くても画面に10体ぐらいだったのだが、9面が始まって1分ぐらいで画面が埋まるほどのゾンビが出現したのである。さながらその様子はコミケに殺到するオタクたちのようであった。
それだけならまだ良い。そのゾンビたちの中にえらく俊敏なゾンビがいて、そいつらに全く弾が当たらず、こちらが一方的に攻撃を受けるのである。
「『
「縮地ゾンビ!? あのすばしっこいゾンビの名前ですか?」
縮地ってあれだよな。バトル漫画とかでよくあるむっちゃ早く移動する技。元々は中国の仙人の使う技が元ネタで、術を使って相手との距離を縮める方法のことらしいが。なんでゾンビがそんな技使えるんだよ!? あいつらって仙人だったの!?
「公式HPに敵キャラの名前と説明が載ってるのよ。縮地ゾンビはゾンビが早く走るために修行した結果、一部の才能あるゾンビがその技を身に着けることができらしいわ」
「ゾンビって修行するんですか!?」
そもそもゾンビには知能みたいなものが無いように思うんだが、修行なんてできるのだろうか? 俺は頭の中で必死に走る練習をしているゾンビを思い浮かべる。シュールだなぁ…。どうなってんだよ…ゾンビハザードの世界観。
「ゾンビ社会でもとろくさくて人間に殺されるのは自己責任という風潮が広まっているみたいね」
「えぇ…。何それ世知辛い」
まるで現代日本みたいだ。
「だからゾンビたちも生き残るために必死に修行してるのよ…」
「そもそもあいつら生きるどころかもう死んでると思うんですがそれは…」
死んでるのに生きるとは何ぞや? 新手の哲学か何かか?
「とりあえず縮地ゾンビに関しては早すぎて追いきれないから現れる場所を予想して撃つしかないわね。兼続、もう1戦いくわよ」
「…わかりました」
このゲームは失敗しても1度だけリトライが許されているらしい。2度失敗すると最初からになるようだ。俺は再び気を引き締めて銃を握った。
どうにか縮地ゾンビを攻略し、9面をクリアした俺たちはラストステージである10面へと進んだ。
「とうとうラストステージね。このステージのラスボスを倒せば全クリよ」
「せっかくここまで来たんで頑張りましょう」
…と言ってラストステージに挑戦したのだが、やはり難しく俺たちは失敗し最初からになってしまった。
「いやぁ…残念でしたね。やっぱりラスボスは強かった」
ラスボスは巨大なゾンビの集合体みたいな感じの気持ちの悪い奴で、肛門から無限にゾンビを産み落としてくるのがクソウザかった。その量の多い事たるや否や、ゾンビの処理が間に合わず俺たちは攻撃を受け続けあえなく敗退となったのである。
スマホで時計を確認するとゲームを始めてからもう1時間半ほど経過していた。結構ここで時間を潰したことになる。
流石にデート中ずっとゲームをするわけではないと思うので、この後どこかに移動すると思うのだが…。どこにいくのだろうか? 今回のデートプランは先輩が考えているのでどこに行くのか楽しみである。
しかし、そんな俺の考えとは裏腹に先輩はとんでもない事を口にした。
「…もういっかい」
「…えっ!?」
「悔しいからもう1回挑戦よ兼続! このまま終わるのはあたしの主義に反するわ!」
「ち、ちょっと待ってください先輩。これ以上時間をここで消費してこの後の予定とかは大丈夫なんですか?」
「全てキャンセルよ! あたしはこのゲームをクリアするまでここから動かないわ!」
「えぇ…」
先輩がこんなにも負けず嫌いな人だったとは知らなかった。先輩は財布から100円を取り出すと機械に投入する。ホントにやる気だこの人!?
「フフフフフ、待ってなさいあのクソゾンビども…。とりあえずあの集合ゾンビの尻穴に鉛玉をぶちかますのは確定ね」
「それ某野球球団から怒られますよ」
先輩が暗黒面に落ちている気がする。こうして俺は先輩がゲームをクリアするまで付き合うことになった。
○○〇
デート編もできうる限りギャグを差し込んでは行きますが…。やはりどうしても普段よりは少なめになります。
※作者からのお願い
もし当作品を読んで1回でも笑われたり展開が面白いと思って下さったなら♡や☆での評価をお願いします。作者のモチベにつながります。
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