セクハラのお詫びにスイーツショップでお菓子を奢る

「兼続君はいこれ。女子寮の主な決まりとかが書いてあるから暇な時にでも読んでおいて、あ、あとお風呂の時間とかも一応決めておいたから///」


「ありがとう高坂さん。助かるよ」


 流石高坂さん、優秀な人である。『知の女神』や完璧超人の名は伊達ではない。俺が女子寮での生活に困らないようにこういう資料を手早くまとめてくれたのであろう。この紙1枚作るのにも結構な労力がいるだろうに…。ありがたいことだ。俺も彼女の頑張りに答えられるようにしなくてはならない。


 俺は決まりごとが書かれた紙を受け取ると上から順に呼んでいく。ふむふむ、だいたいは男子寮と一緒だな。注意事項として「女の子の部屋に入る際は絶対にノックすること」とか「セクハラ厳禁」だとか「寮長の悪ノリに乗らないこと」や「男子がお風呂に入るのは22時以降」とかが付け足されているぐらいだろうか。


 これらは俺が女子寮で生活していく上での必須事項だと思うので問題ない。俺が気を付ければいいだけの話だ。もう絶対ラッキースケベなんてしない。


 そこで俺はそう言えば…と思い至る。この前のラッキースケベの時に高坂さんに許す代わりに何かしらを奢れと言われていたな。後冬梨にも。ちょうど良い機会だから何か奢るか。


「そういえば高坂さん、今日時間ある?」


「あるけど…どうしたの?」



○○〇



「へぇ、こういう店初めて入ったけど中々いい感じね(夏)」


「…早くお菓子食べたい(冬)」


「わたしもここに一回来て見たかったのよねぇ(寮)」


「…なんであんたがいるんだよ寮長」


 俺はこの前のラッキースケベのお詫びとして女性たちの間で話題になっているスイーツショップ『スイーツキングダム』に3人を連れてきていた。『スイーツキングダム』は去年この色彩市に出来た店で、手ごろな価格でお菓子が食べ放題という事で女性たちの間で大人気の店らしい。


 何故ここにしたかと言うと…、経験不足の童貞には女性の好きなものというとお菓子ぐらいしか思い浮かばなかったからだ。悲しい。


 高坂さんと同じく何かしら奢れと言ってきた冬梨を誘って来たのだが…、何故か寮長までついてきたのである。この人は暇なのだろうか? 寮長としての仕事をいつやっているのか疑問である。


「年下にたかるなよ…。なんでアンタの分まで払わなきゃならんのだ。俺が奢るのは高坂さんと冬梨だけだぞ」


「この絶世の美女であるわたしに奢れることを誇りに思いなさいな。わたしの若い頃なんてそこら辺の男が我先に奢って来たわよ」


、だろ? 今のあんたはただのウザいおばさんだ」


「あらぁ? そんなこと言っていいのかしら。わたしの不評を買うとどうなるか知らない訳じゃないでしょ?」


「クッ、分かったよ…。払えばいいんだろ?」


「流石兼続、太っ腹。後であんたのreinにわたしのセクシーな自撮り画像送っとくわ」


「死んでもいらん。スマホが腐る」


 不本意ではあるが、平穏な女子寮での生活のために俺は食べ放題の費用として1人あたり2000円、何故か寮長の分も入れて合計8000円を支払った。痛い出費だが仕方が無い。来月はちょっとバイトのシフト増やそう…。


「この前は本当に申し訳なかった。これでチャラにしてくれると助かる。今日は思う存分食べてくれ」


「しょうがないわね。謝罪、ちゃんと受け取ったわ。乙女の素肌を見て2000円で許してもらえるんだから感謝しなさいよね」


「…ん、問題ない」


「やったわね兼続! これは破格の値段よ。世の中のおっさん連中はウン万円出して若い娘のパンツ見せて貰ってるんだからね」


「あんたは黙ってろ! 話がややこしくなる」


 あぁ…本当にこの人といると頭が痛い。わりとガチで寮長は疫病神の生まれ変わりか何かなんじゃないかろうか。俺はため息を吐くと席に座り店員さんが持ってきた水を一口飲む。


「俺が荷物見てるから先にお菓子とってきていいよ」


 俺がそう言うと3人はウキウキとしてお菓子を取りに行った。まぁ寮長とかいう予想外の異物がいるが、2人にはこの前の事を許してもらえたし、喜んでもらえているようで良かった。やはり女の子はなんだかんだ言ってお菓子が大好きなのだろう。


 俺は水を飲みながら店内を見渡す。店の外観こそファンシーな感じで男がこんなところに入っていいのか思ったが、中は意外とまともで助かった。清潔感を感じさせる白い壁に観葉植物などが置いてあるよくある店の内装だ。


 店の名前がキングダム…王国を意味するだけあってお菓子の充実具合は流石だった。チョコレートやクッキー、ケーキなどの王道のお菓子はもちろんのこと、ソフトクリームやかき氷などの氷菓、まんじゅうや団子などの和菓子まで取り揃えている。更には甘い物に飽きた人用にカレーやスパゲティなどもあるのだからすさまじい。


 俺は店内を見回しながらもし彼女が出来たら…デートなどで使うのも悪くはないのではないだろうか。と、ふとそんなことを妄想した。まぁ俺にはまだ早すぎる話だ。まずはこの女子寮での生活で女の子と言うものを学ばないと始まらない。


 俺がそんなことを考えているといつの間にかコップの中の水が空になっていた。しまったな…早く飲みすぎた。おかわりを貰いたいが、店員さんは近くにいないし、水のサーバーも比較的遠くにある。今席を離れる訳にはいかないのでしばらく我慢しなくてはならない。


 しょうがないのでコップをテーブルに置いてスマホをいじる。なんか面白いニュースでもないだろうかとインターネットサーフィンをしていると、隣でコトリと音がした。見ると高坂さんが俺に紅茶を持って来てくれていた。


「飲み物が無くなっていたようだったからついでに持ってきたわ。迷惑だったかしら? 確かあなたは紅茶派だったわよね?」


「いや、全然。ありがとう…」


「お菓子は好みが分からないから自分でとってきなさいよね」

 

 俺はコーヒーか紅茶かでいうと紅茶派だ。どうやら彼女は俺がこの前なんとなく言っていたことを覚えてくれたようだ。こういう何気ない好みを覚えていてくれると結構嬉しいんだよな。こういう所が彼女の人気の秘訣なんだと思う。


 細かい所に気が付いて気が利く。慈愛の女神と呼ばれている秋乃も優しいが高坂さんもなんだかんだ優しいと思う。裸を見たのに2000円で許してくれたし。本当に良い人だ。これで美人で頭も良くて仕事も出来るんだからそりゃ完璧超人なんて言われるわな。


 彼女は自分の席に座ると取り皿に取って来たお菓子を食べ始める。和菓子と日本茶という渋いチョイスである。


「へぇ、高坂さんて和菓子好きなんだ」


「悪い? あんこが好きなのよ。それよりも荷物は私が見てるからあなたもお菓子取ってくれば?」


「いや、全然いいと思う。俺も和菓子好きだし。じゃあお言葉に甘えて俺もお菓子を取りに行かせてもらうよ」


 俺は紅茶を一口飲んで自分の席を立つとお菓子を取りに出かけた。



○○〇



 俺は取り皿を取るとお菓子を取るべく物色し始める。さて、何を食べようか? 高坂さんが和菓子を食べるのを見ていると俺も和菓子を食べたくなってきたので、俺は和菓子コーナーに向かうことにした。


 和菓子コーナーに向かう途中で俺はあるものを発見する。それはチョコレートの滝だった。確か正式名称はチョコレートファウンテンとかいうらしい。チョコレートが上から滝のように流れていて、そこに果物やらマシュマロやらを突っ込んでコーティングして食べるアレである。


「ほぉ~、あれ一回やって見たかったんだよな」


「…やめておいた方が良い。さっきあれにハエが突っ込んでいるのを見た」


「マジか…。やめとこ…」


 いつの間にか俺の隣にいた冬梨がそう忠告してくれる。同じ茶色だからう〇こと間違えて突撃したのだろうか? 常識的に考えると飲食店にハエとかゴキブリはどうしても存在するものではあるが…、いざそれを見てしまうと食欲がなくなってしまうものだ。


「あっ、チョコレートファウンテンじゃない。わたしこれ好きなのよねぇ」


「あっ、りょうちょ…」


「う~ん、やっぱりマシュマロにチョコは合うわよねぇ」


 止めようと声をかけるより早く寮長がマシュマロをようじに刺してチョコレートファウンテンに突っ込んでいた。


 うわぁ…ハエが突っ込んだチョコ食べてるよあの人…。まぁでも寮長だし良いか。あの人もウザいことに関して言えばハエの仲間みたいなものだし、同族のエキスを思う存分味わってもらおう。


 改めて隣にいる冬梨を見てみると、両手に取り皿を持ってその上にお菓子を山の様に乗せている。


「そんなに食い切れるのか?」


「…問題ない。これくらい朝飯前」


 冬梨は地味に食い意地張っており、寮での食事も結構バクバクと食べる方である。


 彼女はどちらかというとインドア派で、あまり外に出ず運動もしないのにそれでいてあれだけ食って太らないのだからある意味凄い。


「…ちなみにこの店のお菓子は元を取るならケーキ類がおススメ。そこそこ美味しくて元々の単価が高い。逆に飲み物で元を取るのはおススメしない。飲み物は基本的に不味い上に単価が安い」


「詳しいな。確かにさっき飲んだ紅茶はなんかアスファルトの味がしたな」


「…当然、安いクズみたいな茶葉を使っている、だから不味い。ちなみに寮長が今持っているコーヒーもドブの様な味がする。この店の飲み物は水が安定」


「うへぇ…」


「…この色彩市のスイーツショップは大体網羅してる。お菓子の事なら冬梨にお任せ」


 彼女は自信満々のドヤ顔で親指をグッとしてくる。彼女がお菓子が好きなのは知っていたが、スイーツショップを回るほどお菓子が好きだったとは…新たな発見である。てっきりずっと部屋に引きこもってゲームしてると思ってたが違ったらしい。


 仲良くなるとその人物の新たな一面も見えてくるから面白いものだ。


「…基本的に外に出るのは嫌いだけどお菓子を買うとなれば話は別、例え嵐の中でも、雪の中でも、変質者が出没する中でも冬梨はお菓子のために出陣する」


「さすがに命の危険がある時はやめとけよ…」


「…冬梨の命=お菓子。お菓子尽きる時命も尽きる」


「そこまでなのか!?」


「…冬梨の体はお菓子で出来ている。血は砂糖で心は小麦粉。…そして尿は糖尿」


「ダメじゃねえか!? お菓子食うの控えろよ!?」


「冗談…。冬梨の体は健康そのもの。兼続は冬梨の思った通りのつっこみくれるから好き」


 そう言って彼女はニヤリとほほ笑む。相変わらず良く分からん奴だ。果たして女子寮での生活中に冬梨を理解することは出来るのだろうか? 今の所俺は彼女の事はゲームとお菓子が好きなコミュ障女子という事しか知らない。


「…そうそう、この店の1番のおススメはそこにあるイチゴのショートケーキ。中々良いイチゴを使っている。兼続には特別に教えてあげる。後はカップル限定メニューのイチゴのパフェが美味しいと聞くけれど、冬梨には彼氏がいないから食べたことない…」


「へぇ! じゃあ俺も冬梨のおススメのショートケーキ食ってみるか」


「…カップル限定メニューのいちごのパフェが美味しいと聞くけれど、冬梨は食べたことない」


「なんでそんなにパフェをごり押しするんだよ!? もしかして食べたいのか?」


 彼女は俺の言葉にコクリと頷く。


「えっ、でもカップル限定なんだろ? どうやって頼むんだよ?」


「今だけ兼続と偽造カップルになる…」


「それ大丈夫なのか? 店の人にバレて怒られそうな気がするけど…。俺と冬梨だけならともかく、高坂さんと寮長もいるんだぜ? 彼女がいるのに他の女の子連れてるっておかしくない?」


「…問題ない。カップルがその友達と一緒に来たという設定にすれば大丈夫」


「えぇ…」


「…あー、なんだかパンツを見られたときの痛みが再発してきちゃったー…」


「パンツを見られたときの痛みって何だよ!? どこもケガしてなかっただろ!?」


「…乙女の心の痛み。変態にパンツを見られた心の痛みは山より高く海より深い。清少納言も1000年前から枕草子にそう書いている。『ようよう白くなりゆきパンツはいとわろし』って」


「なんでいきなり清少納言が出てくるんだよ!? それに色々混ざりすぎだろ!? はぁ…分かったよ。それで今度こそチャラな」


「…流石兼続。話が分かる」


 俺と冬梨は席に戻ると高坂さんと寮長に事情を話し、カップル限定カフェを注文するのに協力してもらうことにした。



○○〇



長くなったので前編・後編に分けます


※作者からのお願い


もし当作品を読んで1回でも笑われたり展開が面白いと思って下さったなら♡や☆での評価をお願いします。作者のモチベにつながります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る