なんか知らんが絡まれたぞ
例の親睦会から数日が経った。なんだかんだ言ってあの親睦会から俺たちは少しずつだが仲良くなっていっているとは思う。悔しいが寮長の目論見が見事当たったようだ。
美春先輩はよりフレンドリーになった気がするし、冬梨は前より口数が心なしか多くなった気がする。それに高坂さんとも結構話すようになった。
唯一、秋乃だけは少し距離を置かれてまた距離が縮まるというおかしな反復横跳び具合を見せているが…まぁ相対的には仲良くなっていると言っていいだろう。
その理由は言わずもがな彼女の悪酔いのせいである。親睦会の次の日に彼女はこの世の終わりのような顔でみんなの前に現れた。絶望した顔で食堂に立っている彼女を見つけた時は幽霊か何かだと勘違いしたほどだ。美少女がしていい顔じゃない。
「ごめんなさい…。私…やらかしちゃった…。酒癖の悪い性悪女といして認識されちゃったぁ~!!! ああああああああああああああ、私はもうダメだぁ~~~~!!!!!!!!! あぁ…鬱だ、死のう…」
と、そのまま寮の壁に頭をガンガンぶつけて叫び始めたのでなだめるのが大変だった。朝起きて酔いが冷めて昨日の記憶が一気に戻って来たらしい。俺や高坂さんに迷惑をかけたと物凄い勢いで謝罪された。俺たちはそれを笑って許したのだが…。
しかし、やはり彼女からすると俺といるのが大変気まずいらしく、そのあと若干避けられるようになった。俺が近づくとまるで人に慣れていない野生動物のようにサササとどこかへ行ってしまうのである。
流石にずっと避けられたままでは気分が悪いので、本当に気にしていないという事を彼女に伝えた。
「秋乃、この前のことは別に気にしてないからそんなに避けなくても」
「…本当に? …ん? というか兼続君今私のことなんて言った?」
「あっ、ごめん。山県さん呼びに戻した方が良い?」
「ううん、むしろそのままで/// えへへ/// あっ! 今日の1限一緒だよね。よかったら一緒に行かない?」
というように何故かはわからないが、今では一緒に講義に出る仲にまでなっている。
○○〇
「おっす! 兼続」「グッモーニングですな兼続」
「おはよ」「おはよう!」
俺は大学内で同じ1限の講義を取っている朝信と氏政の2人と合流すると講義がある校舎へと向かう。
「待て待て待て待て!」
「ん? どうした氏政?」
「いや、サラッとスルーしたけどさ。お前何でそんなに山県さんと仲良くなってんの!?」
「そりゃ一緒の寮で生活していれば仲良くなるだろ?」
「いやいやいやいや、お前らこの前までそんなに仲良く無かったじゃん。何があったんだよ? まさか…?」
「いや別に何もねぇよ。朝から
「えっと…この人どちら様でしたっけ?」
「この前自己紹介したじゃないか!? 同じ学部でナイスガイの黄田氏政だよ! 氏政!」
「ああ! あの大学生にもなってオネショしたって噂の…」
「なんで漏らした所だけピンポイントで覚えてるの!? しかも微妙に内容違うし!?」
「そりゃションベン漏らしたインパクトが強いからじゃね? お前は大学内ではもう『ションベン漏らしの人』なんだよ」
「そんな『ハムの人』みたいに言うなよ!?」
「お前それは『ハムの人』に失礼だぞ…。あの人は長年あのCMに出てるから『ハムの人』と呼ばれてるんだぞ。お前みたいなのとは全然違う」
「てめぇ! 酷すぎる! 俺達友達じゃなかったのかよ!?」
氏政は流石に怒ったのか鼻息を荒くして俺たちに詰め寄って来た。
「ごめんなさい、黄田君。ちょっと近いかな…」
「ほら離れろよ。秋乃にションベンの匂いが移ったらどうするんだ?」
「秋乃!? お前いつのまに山県さんの事を下の名前で呼ぶようになったの? この前まで『山県さん』呼びだったよな?」
「この前からだけど…。仲良くなったら下の名前で呼ぶって普通じゃね?」
「私から下の名前で呼んでって頼んだの」
「へぇ、じゃあ俺も下の名前で呼んでもいいかな? 俺も秋乃と仲良くしたいし」
「気やすく下の名前で呼ばないで貰えるかな?」
「なんで!? なんか俺に対して辛辣じゃない!?」
「まぁまぁ落ち着くのですぞ氏政。貴殿が粗相をしたのは事実なのでここから汚名を返上していくしかないですぞ…」
「ハッ、そうか! これは神が俺にくれた試練なんだな!? どん底の状態からみんなの印象を良くして成り上がることで俺が彼女を作ることへのルートを示したと…?」
こいつのこういうポジティブな所だけは本当に凄いと思う。俺なら飲み会でションベンなんて漏らそうものなら自殺してしまいそうだ。
○○〇
俺たちが4人で講義がある校舎まで移動していると大学の広場に大勢の人達が集まって人だかりができていることに気が付いた。
「なんだあれ?」
気になった俺たちは人だかりができている場所に近寄っていく。何人かの人を押しのけ、人だかりの最前列まで行くとそこにはとある男がいた。周りにいる女の子がキャーキャーと黄色い声を上げている。
「誰?」
「ご存じないのですかな?」
「知っているのか朝信!?(氏)」
「あの美男子の名前は
「自分で豪語したのか…。というか1万2000人も物理的に付き合えるのかよ? 1日1人付き合ったとしても約33年かかるんだぞ。あいつ何歳だよ?」
「そこは…2股ならぬ100股ぐらいしていたのではないですかな? モテる男はトコトンモテるのが今の時代ですからなぁ」
「うさんくせぇ…」
「分かりませんぞ。世の中には1万人と売春した人とかいたりしますからなぁ。『事実は小説より奇なり』ですな」
見ると確かに綺麗な顔立ちをしており、背も高くスラッとしている。180ぐらいはあるだろうか? 髪型はスパイラルパーマという髪型で、今女性に人気のある髪型だそうだ。俺から見るとワカメが頭から垂れている様にしか見えないが…当然だがみそ汁に入れると不味そうである。総評すると女性に人気の要素を全て詰め込みましたといような容姿をしている。
「秋乃もああいうの好きなの?」
「私は…あまり好きじゃないかな。兼続君の方がよっぽど…やっぱ何でもない////」
「?」
最後の方が良く聞こえなかったが何と言っていたのだろうか? 俺たちがそう言う話をしていると件の人物が口を開く。
「ハッハッハ。この前ビーフボウルショップに行ってね。高級なビーフボォウルを食べて来たのさ。その味のエレガゥアントな事と言えば…もう筆舌に尽くしがたいね。美食の大家である北大路魯山人もあれには納得せざるを得ないだろうよ。おおっとソウリィ、帰国子女なんで外国語が思わず口から出てしまうんだ」
その男の言葉に周りの女の子たちは目を輝かせてうっとりと頷きながら話を聞いている。その様子と言ったらまるで新興宗教の教祖の説教を聞く信徒みたいだ。完全に心服状態と言っても良いだろう。所謂「
「ビーフボウルショップってなんだ?(氏)」
「さぁ? 我々には分からない未知の用語ですぞ。フランス料理の一種か何かですかな?」
「…ビーフボウルって牛丼じゃねぇのか?」
「なんと!? 流石兼続! 博識ですな」
「簡単な英語だろ!? お前らよくこの大学受かったな!?」
「それでね。その後コゥンビニエンスゥストゥアによって。非常に美味なジェラァートゥを食べたよ。君たちにもあの美味しさを味合わせてあげたかったね。ミシュラァンの審査員もびっくりして服を脱ぐ出来さ!」
「流石政宗様! 何言ってるのか分からないけどオシャレー!」「私もジェラァートゥとかいうやつ食べたいです!」「キャー! 政宗様こっち向いてー!」
「要するにコンビニに寄ってアイス食べたって事だろ? あいつが言ってるのは。大した事言ってないのにどうしてあんなに女の子がキャーキャー騒いでるんだ?」
「兼続、それはイケメンマジックと言われる奴ですぞ。イケメンが言うと例えしょうもない事でも好意的に取られるんですな」
「わかるわ。イケメンが言うと例え下ネタでも綺麗に思えてくるよな。例えばイケメンが『ち〇ぽ』と言うとするじゃん? 俺らが同じこと言っても只の汚い下ネタだけどさ。イケメンが言うとまるでそれがビームサーベルかのごとくカッコ良い剣のように思えてくるから不思議だぜ!(氏)」
「いや、それはねぇわ…」「黄田君って下品なんだね…(秋)」
「なんか好感度が凄く下がってる!?(氏)」
「下ネタ言うからだろ…。女の子に下ネタ言ったらそら嫌われるわ」
「まさか兼続に女の子論を語られるとは思わなかったわ…。あのお堅くて童貞の兼続が…風俗に誘ってもこなかった童貞の兼続が…成長したな。まぁかくいう俺もまだ童貞だが」
「変なことを大声で言うなよ…。だからお前彼女出来ないんだぞ…」
「ちょっとそこの君たち! さっきからティ〇ポだの童貞だの下品な事をつらつらとうるさいよ! 猥褻物陳列罪でポォリスメェンを呼ぶよ!」
俺たちが話しているとうるさかったのかイケメンがこちらに話しかけてきた。
「キャー政宗様がティ〇ポだって!」「私発情しちゃうー」「あいつションベン漏らしの氏政じゃない?」「俺の童貞貰ってくださーい!」
流石イケメンだ。下ネタを言ったぐらいでは好感度は下がるどころか上がるらしい。…なんか最後に変なのがいたが気にしない方が良いだろう。
「誰かと思えば…、糞漏らしの黄田とキモオタの南田、そして影の薄い東坂の我が学部が誇るバカ3人衆じゃないか」
「なんか俺小便漏らしからグレードアップしてね!?」「キモオタと呼ばれるのはむしろ我には誉め言葉ですぞ」
…えっ? 俺って影が薄いだけでこいつらと同じ扱いされてんの? このキャラが濃ゆい2人と? ちょっと理不尽すぎやせんか?
「ぬっ? そこにいるのは我が大学の4女神の1人にして『慈愛の女神』たる山県秋乃さんじゃぁ~ないか? 相変わらず荒野に咲く一輪のサボテンの花のようだ。そんなところにいると
「どんな菌だよ…」
イケメンの赤城に名指しされて、最初秋乃は困惑していたようだったがやがて口を開いた。
「えっ? 普通に嫌ですけど…」
「ホォワァイ? そんなアナァルからひり出たカスみたいな連中よりも僕の方が何百倍…いや、何兆倍も魅力的だと思うんだけど…」
「失礼な人! あなたより兼続君の方がよっぽど魅力的だよ」
そう言って彼女は俺の後ろに回ると俺を彼の前に突き出す。えぇ…なんでそこで俺が出てくるんだ?
「そう言えば東坂…お前女子寮に住むことになったんだってな? 我が大学の4女神と同居することを許された空前絶後のラッキィーボォイ。お前にそれはふさわしくないとここで宣言しよう!」
「その話なんでそんなに広まってんだよ!?」
「ゴメン! 俺が広めた(氏)」
「お前か!? ふざけんな! 余計な事言いふらしやがって…」
「お前だけ幸福なのは許せねぇ…。この話を広めれば大学の全男子の嫉妬がお前に行くからな。これでトントンだ(氏)」
「何その田舎の村八分理論!?」
こいつ…。散々俺の事を友達だのなんだの言っておきながら結局裏切ってるじゃないか。もうこいつは本当に見限った方が良いのかもしれない。
「女子寮に住むのは完璧なこのボォクこそふさわしいのさ! お前はとっとと女子寮から出ていくがいい」
「赤城が住むのもふさわしくないと思うぜ(氏)」
「そうだそうだ! このオタンコナスー、ワカメ頭ー(秋)」
「ちょ!? 秋乃!?」
何を思ったか秋乃が俺の後ろに隠れて俺の声マネをしながら赤城に悪口を言う。
「ほう? 君はいい度胸をしているね…。この僕に暴言を吐くなんて…しかもこのパーフェクトにクールな髪型を馬鹿にしたな?」
「いや、今のは秋乃が勝手に…」
「決めた! 僕は君が女子寮でやっている猥褻行為を告発することにする! そうすれば君は出て行かざるを得ないだろう。そしてその証拠を突きつけ、女子寮の4女神たちをこの変態男から解放しようじゃないか。そうと決まれば早速証拠集めだ。つかの間の幸せをかみしめて暮らすがいい!」
そう言うと彼は高笑いをしながら取り巻きの女性陣をつれて校舎の方へ行ってしまった。
「なんか面倒なのに絡まれたなぁ…」
そもそもどうやって証拠を集めるんだろうか?
「大丈夫だよ。兼続君が変な証拠あげられても私が弁護してあげる!」
秋乃がフンスと自信満々にそう言ってくるが、そもそも君があいつを煽ったのが原因だからね?
はぁ…めんどくさいことになりそうだ。俺はため息を吐きながら今にも雨が降り出しそうな6月の空を見上げた。
○○〇
(氏)が入っているのは氏政のセリフです。わかりやすくするために付けています。
イケメンが出てきましたが、この物語の男キャラは主人公以外ギャグ要員でしかないので安心してください
※作者からのお願い
もし当作品を読んで1回でも笑われたり展開が面白いと思って下さったなら♡や☆での評価をお願いします。作者のモチベにつながります。
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