デートしろだとぉ!? 寮長企画の荒治療

「ねぇ兼続、そこのせんべいとって」


「…はいよ」


 あの一件があって以来、千夏は俺に本性を隠そうとしなくなった。今も食堂でダボダボのTシャツにショーパンという非常にラフなスタイルであくびをしながらせんべいをかじり、スマホをいじっている。


 以前からすると考えられないことだ。前はキチンとした格好で俺の前に出てきていたのだが、そういうのはもうやめにしたらしい。


 というかその生地の真ん中に「唯一神」とか書いてあるTシャツどこに売ってるんだ?


「am@zyonよ。ちなみにお値段2000円」


「マジかよ!? なんでも売ってるなam@zyon」


「マネしないでね。これは私のお気に入りだから」


「しねぇよ…」


 例え家の中でもそういうTシャツを着るのはちょっと憚られる。それをお気に入りとまで言うとは…千夏ってもしかしてセンスがアレなのか?


 本人曰く「いつも気合いの入った服装をしてると疲れるでしょ? 寮にいるときぐらい楽な格好をさせなさいよ」ということらしいが、それにしてもラフすぎないかと思う。まぁ…それだけ俺に気を許していると前向きに解釈しておくことにしておこう。


 彼女の心のうちにどんなトラウマがあるのかは知らないが、俺にそのトラウマを解消する手伝いが出来るのであれば、俺は喜んで手伝わせてもらおう。


「あはは…でも良かったね千夏ちゃん。兼続君が受け入れてくれて」


「そこに関しては感謝してるわ。あなたのおかげで少しだけ…前に進めた気がする」


「そりゃどうも」


「やっぱり千夏はこっちのダラダラスタイルの方が落ち着くわ」


「…(コクリ)」


「大学で会った時の千夏なんてドラ〇もんの『きこりの泉』に落ちたのかってぐらい性格違うし」


「…大学の千夏は綺麗な千夏。寮の千夏は汚物の千夏」


「そこまで!?」


「…冬梨、あんた後で覚えておきなさいよ…」

 

 美春先輩と冬梨も千夏はこちらのスタイル方が見慣れているらしい。基本的に俺がこっちに来てからはバレないようにずっと寮でも優等生モードで通していたので、2人からすると違和感の方が大きかったようだ。


「それで私たちを全員集めて寮長は一体何の用かしら?」


 現在俺たちが寮の食堂に勢ぞろいしているのは寮長から招集がかかったからである。あの寮長の事なので9割方どうせ碌でもないことを考えているとは思うが、たまに、本当にたまにだが…この前の千夏の一件みたいにいいことをするので聞いてみる価値はある…と思いたい。


「はぁーい! 寮生の諸君、待たせたわね! 超美人で天才的な頭脳をもつ寮のアイドル! 甲陽四季ちゃんの登場よーん!」


 食堂の扉が「バンッ」と開かれると非常にハイテンションの寮長が入室してきた。彼女はサンバらしきものを踊りながら自分の席へ向かい、ドカッと席に座ると俺たちの顔を見回す。


「それで寮長、私たちを集めた理由はなんですか? 私忙しいんで早く自室に戻りたいんですけど」


「どうせ千夏は自分の部屋に戻ってもベットに寝転がってゴロゴロするだけでしょ? どう見ても暇じゃない」


「それだけじゃないですぅー。一応次の講義の予習もしてますぅー」


「あんた兼続にバレてから遠慮なくなってきたわね」


「別にいいでしょ」


「まぁ千夏の話は置いといて、みんなも待ってるようだし早速本題に入るわね。実はね。今度の土日にみんなにデートして貰おうと思ってるの!」


「へぇ~、デートねぇ」「土日は昼寝したいんですけど」「そういえばもう醤油が無かったなぁ…」「…ガサガサ(せんべいの袋をあさる音)」「なんだデートか…驚かせやがって」


「「「「………ん?」」」」


「「「「はぁ!? デートぉ!?」」」」」「………」


 寮長の意味不明な発言に俺らは頭の上にはてなマークを浮かべて困惑する。


「どういうこと寮長?」「あぁ…頭が痛いわ…」「ででで…デートぉ/////」「…バリバリ(せんべいを食べる音)」「また変なこと考えやがって…」


 ある者は興味深々に、またある者はあきれて、またある者は混乱しながら、またある者はせんべいを食べながら寮長の言葉を聞く。


「落ち着きなさい。これはあんたたちの恋愛下手を治療するためにはわたしが考えたスマートな方法よ」


「どういうことだよ?」


「兼続が女子寮に来て2週間。あんたたちもそこそこ仲が良くなって、お互いにどういう性格なのか分かって来たころだと思うけど、まだ足りないわ。兼続、例えばだけど…同性の友達と仲良くなりたい時はどうする?」


「えっ…。う~ん…一緒に遊ぶとか飯食うとか?」


「そう。異性関係も一緒よ。仲良くなるのは一緒に遊んだりご飯食べに行ったりするの。長時間一緒に行動したりしゃべったりすることによって相手の事をより深く理解していくのよ。それに…これはあんたたちに本当に恋人が出来た時に本番のデートでやらかさないための予行練習も兼ねてるわ。特に美春、あんたよ!」


「えっ? あたし?」


「言いたいことは分かるが…」


 寮長の言っていることは理解できる。理解できるのだが…それでもいきなりでデートというのはちょっと無理やりすぎではないかと思う。


 俺にとっても女性というものを理解する上でいい経験になるし、女子寮のみんなにとってもプラスの経験になるというのは予測できるが。でもいきなりデートなぁ…。とりあえずみんなでどこかに遊びに行くとかじゃダメだったのか?


「ということであんたたち4人。次の土日に兼続とデートね。お代は兼続が出してくれるそうよ」


「へぇ」「それなら行ってもいいかも」「か、兼続君とデート////」「…兼続のおごり?」


「はぁ!? ちょっと待て。勝手に決めるなよ。俺そんなに金持ってないぞ」


 男子寮にいた頃、高広先輩や定満後輩が彼女とデートした時の話を聞いた事があるのだが、デート1回につき数万円は飛んでいくという話を聞いた。買い物やランチにディナー等、動物園や水族館に行く場合は入園寮なども必要になってくる。それを4人分…とんでもない額の金が飛んでいく計算になる。


「はぁ…あんたねぇ。あんたみたいな何の変哲もない凡人が大学で4女神と呼ばれるほどの美少女たちとデートできるのよ。たかだが数万ぐらい出しなさいよ。例えお金を持っていたとしても、彼女たちとデートできない男なんて山ほどいるんだからね。いい女には金がかかるのよ」


 クッ…確かに。これほどの美少女たちとデートできる経験なんて俺の人生ではもうないのかもしれない。それに俺だって彼女を作りたいんだ。これは俺が彼女を作る上で貴重な経験になってくれることは間違いないだろう。それなら将来の自分のための投資として…数万円出すか…。


 俺は数分間、悩みに悩んだ末に涙を呑んでその提案を受け入れた。


「分かった…。デート代は俺が出す…」


「あんた顔が噛んだ後のガムみたいになってるわよ。不細工ねぇ」


「うるさいよ! 俺だって貯金と相談して苦渋の決断だったんだよ! 人が悩んでる時の顔をそういう風に言うなよ!!!」


「か、兼続君…別に無理しなくても…」


「秋乃…これは俺自身が成長するために必要なことだと思うんだ。だからお金は俺が払うからデートに協力してくれないか? 俺とのデートなんて嫌かもしれないけど」


「ううん//// 別に嫌じゃないよ。私も男の人を知る上で役立てたいと思ってるから…。えへへ///」


「…秋乃」


 やっぱり秋乃は優しいなぁ…。慈愛の女神と呼ばれている所以が良く分かる。彼女の笑顔を見るだけでも数万円払う価値がありそうだ。当日はつまんないと思われないように入念にプランを練っていこう。


それに引き換え…。


「…どこのスイーツショップに行こう? 冬梨お腹空いてきた」「できだけ高い店に行った方が得よね?」


 この2人は俺に出来るだけ金を払わせようとしているな。まぁ…おごりじゃないと俺なんかとデートしたくないってのは分かるが、もうちょっと隠して欲しかった。複雑な漢心である。


「でも寮長、土日で4人デートってどうするの?」


 美春先輩が寮長にそう質問する。確かに俺も気になる。土日で1人ずつなら分かるが土日で4人デートってどうするんだろう?


「そこは考えてあるわ。4人には土日の昼の部と夜の部に別れてそれぞれデートして貰おうと思ってるの。土曜の朝9時~15時、16時~22時。そして日曜の9時~15時、16時~22時よ。1人6時間ずつね。どの時間帯がいいかは相談して決めて頂戴」


「私は1番最初の土曜の昼がいいわ。土日は出来るだけ寝ていたいもの」


「…ダメ人間ルートまっしぐらじゃないか」


「うるさいわね…。私はベットの上でゴロゴロするのが何よりも好きなのよ」


「あたしは夜がいいわね。夜の方が色々なお店が空いてそうだし♪」


「…冬梨はいつでもいい」


「私も夜がいいかな。理由はその…美春先輩と一緒かな////(言えない…色々期待して夜にしたなんて言えない////// 兼続君と…キャー/////// 当日の下着は気合い入れて行こう/////)」


 こうして相談の結果、土曜の昼が千夏、夜が美春先輩、日曜の朝が冬梨、夜が秋乃とデートすることになった。


 俺にとって初めてのデート緊張するが、これもおれの成長と女子寮のみんなが成長するためである。頑張ろう!



○○〇



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