親睦会…だと? 寮長企画の無茶苦茶な親睦会

 その日の講義が終わった俺は女子寮に帰り自分の部屋で今日出された課題をやっていた。


(腹減ったなぁ…)

 

 実質昼飯を食い損ねたようなものなので腹の虫が先ほどからグゥグゥうるさいぐらいに鳴いていた。時間はそろそろ19時、女子寮の夕飯の時間がどれくらいかは分からないが、昨日を参考にするならそろそろ夕飯のはずなのだが…。


「ダメだ。いったん課題は中止にしよう」


 流石に腹が減りすぎて頭が回らなくなってきたので俺は課題を中断し、絨毯に寝転びながらこれからの事を考えた。


 今日一日中俺は女子寮の娘たちにどうすれば男性というものを分かってもらえるかというのを考えていたのだが、特に妙案は浮かんでこなかった。寮長は普通に生活しているだけでいいと言っていたが、本当にそれでいいのだろうか?


「兼続ー。夕飯よー」


 俺が寝転びながらボーっとしていると寮長がご飯が出来たことを知らせに来る。俺はムクリと起き上がると飯を食いに行くべく食堂へと向かった。


「そうそう、聞いてると思うけど夕飯の後に親睦会をやるから」


「えっ、何それ?」


「もしかして聞いてない? 冬梨に伝えるように頼んだんだけど…。忘れたちゃったのかしら…」


 そういえば…今日の昼に冬梨が俺の所にきていたのはなんでだろうと疑問に思っていたのだが、それを伝えに来ていたのかもしれない。


 残念ながら伝え忘れたようだが。というかreinでよくね?


「親睦会って何やるの?」


「フッフッフ…それは後のお楽しみ! 人が仲良くなるのに必要不可欠な事よ。女の子たちに男性というものを知ってもらうのにいいと思って」


 なんだかんだ言って寮長もちゃんとそこら辺の事は考えているらしい。実際、俺一人ではどうすればいいのか行き詰っていたので助かった。俺もあの娘たちのために、そして自分のために頑張ろう。



○○〇



 そして夕食後、俺たちはそのままテーブルの自分の席に着いて待機していた。寮長は何かを取りに行ったまま戻ってこない。


「親睦会って何やるんだろうな?」


「寮長の事だからどうせろくでもないことでしょ(夏)」


「あはは…(秋)」


「でも仲良くなるために親睦会は賛成よ♪(春)」


「………(冬)」


 寮生の面々が思い思いのことを口に出す。まぁ確かにあの寮長の考えることは9割が突拍子もなくてとんでもないことであることは確かだ。でもたまに…本当にたまにだが役に立つこともあるはず…。


「待たせたわね! 兼続、重いから手伝って」


 そう言う話をしていると寮長は息を切らしながら大きなビニール袋を抱えて帰って来た。とても重そうだったので俺はご指名の通り補助に入る。俺は彼女からビニール袋を受け取るとそれを食堂のテーブルの上に置いた。かなり重かったが何が入ってるんだ?


「いやぁ、重かったわぁ。やっぱこういう時に男の子がいると助かるわね。ありがとう兼続!」


 この程度の事で感謝されるとは思わなかったので俺は少し照れくさくなって横を向き頬をかく。


「おっ、こいつ照れてるわよ。ちょっと褒めたぐらいでこうなるなんてやっぱ童貞はちょろいわね」


「おい!」


 やっぱり寮長は寮長だった。クソッ、このアラサーババア…。 


「こんなに沢山何を買ってきたんですか? まさか寮の経費使ってないでしょうね(夏)」


 高坂さんが寮長をジト目で睨む。あの人も結構苦労してるんだろうなぁ…。


「そりゃ親睦会に必要なものよ。大丈夫よ、今回はわたしのポケットマネーから出したから」


 そう言って彼女はビニール袋から中に入っている物を取り出した。


「ジャジャーン! 親睦会と言えばこれ! アルコールよ! これでみんな仲良く語り合いましょう!」


 なんと中から出て来たのは大量のアルコール飲料だった。日本酒、焼酎、チューハイ、カクテル、ワイン、ブランデー、ウォッカ、ウィスキーにスピタリスetcetc…。よくこれだけの量を買った来たなという量がビニール袋の中には入っていた。


「なんてものを買ってきてるんだ! あんたバカなんじゃないか!?」


「古今東西、仲良くなるには王道の飲みニケーションよ! アルコールを飲んで語って、お互いに心も体も柔らかく溶け合っちゃいましょうって寸法よ! 腹の中まで吐き出して話せば仲も深まるでしょうって話」


「あんた仮にも寮長だろ!? 寮生にアルコール摂取を推奨してどうするんだ!?」


「寮長…。流石にこれは…(夏)」


「まぁまぁ、そんな硬い事言わずに! あんたたちもアルコール好きでしょ?」


「一応まだ20歳になってないし…」


「何カマトトぶってんのよ? どうせあんたたちも大学に入った時の新歓で飲んでるんでしょう? 今更よ今更!」


「確かに俺は飲んでるけど高坂さんや山県さん、冬梨は飲めないかもしれないだろ?」


「大丈夫よ。その娘たちにはわたしがすでに寮の新歓で飲ませてるから。だから飲めることは確認済みよ」


「何やってんだあんた!?」


 あまりの破天荒ぶりに俺は頭が痛くなる。この人は…。よく寮長を首にならないものだ。隣を見ると高坂さんも頭を抱えている。


「あの時は私も愚かだったわ。ジュースにカクテルを混ぜられて知らず知らずのうちに…(夏)」


「あはは…。あの時は私もやっちゃったなぁ…(秋)」


 俺の両隣に座る高坂さんと山県さんが遠い目をしている。


「ヤリサーが女の子酔わす時にやる手口と一緒じゃないか!? 普通に犯罪じゃないのか!?」


「兼続…。あんたどうしてそういうの知ってるの? まさか…(寮)」


「やってない! 俺はやってない! TVとかで見て知識として知ってるだけだ!」


「まぁ、あんたが童貞なのは知ってるけど」


「こいつ…」


「細かい事気にしないの! そんなんじゃ女の子にモテないわよ(寮)」


「それ以前の問題だろ!」


 俺はツッコミ過ぎてゼエゼエと息を吐く。寮長が俺らの事を思ってお互いの事を理解する場を作ってくれたこと自体は感謝しているが、しかしそのやり方が無茶苦茶すぎる。


「確かに寮長の言う事も一理あると思うわ(春)」


 そこで内藤先輩が寮長が買ってきたカクテル缶を1本とり、フタを開けてグビリと一口飲む。


「あたしたちは男性という物を知らなくてはならない。そのためにはお互い遠慮しないで本音を話せた方が良いでしょ? そのためにはアルコールで枷を取っ払うのも1つの方法だと思う。それにあたしアルコール好きだし♪(春)」


「美春先輩は飲みたいだけでしょ(夏)」


「あ、バレた? 最近アルコール飲んでなかったから久々に飲みたいのよ(春)」


「流石美春ね! 分かってるじゃない。千夏は硬すぎなのよ! もっと柔らかくならないと彼氏できないわよ。だからあんた貧乳なんじゃないの? まな板みたいに体も思考もカッチカチ!(寮)」


「それとこれとは関係ないと思いますけど! 特に胸の部分!(夏)」


「まぁ…少しだけならいいんじゃないかな? せっかく寮長が買ってきてくれたんだし(秋)」


「秋乃は優しすぎるのよ。寮長みたいな人は厳しく言わないと、どんどん言動がエスカレートしていくのよ(夏)」


 それに関しては高坂さんと全く同意見だ。この寮長を甘やかすと碌なことにならないだろう。ここは俺も高坂さんに乗っかってもっと厳しく言わないと…。


「あらぁ~兼続…、えらく反抗的な目をしてるわねぇ…。もしかして忘れたのかしら? この寮ではわたしのご機嫌をとらないとえらいことになるって…。どうしようかなぁ~…。この寮のみんなに嫌われてもいいのかしらぁ♪(寮)」


「僕も寮長に賛成します! さぁ飲みましょう!」


「兼続君!?(夏)」


 俺は寮長のその言葉を聞くや否やすぐに寝返った。寮のみんなに嫌われる工作をされたのでは俺のこの寮での立ち位置も危うくなるからだ。高坂さんがジト目でこちらを睨んでいるが…すまん、権力には逆らえないんだ…。


「はぁ~…、しょうがないわね…。少しだけよ(夏)」


 高坂さんもしぶしぶ納得したらしい。俺も泥酔しない程度に控えめに飲んで粗相をしないにしよう。


「じゃあみんな好きなアルコール飲料を手に持って! 乾杯するわよ!」


 寮長の音頭により各々好きなアルコール飲料を手に取る。内藤先輩は最初と同じくカクテル、高坂さんはスパークリングワイン、山県さんはビール、冬梨は甘いチューハイ、寮長は最初からブランデーと飛ばしている。俺は日本酒が好きなのでチョイスしたかったが、悪酔いする訳にもいかないので度数の低いチューハイを選んだ。


「じゃ、カンパーイ!」


「「「「カンパーイ」」」」「…カンパーイ(冬)」


 こうして魔の親睦会がスタートしたのであった。



○○〇


書いていてかなり長くなったので前編・後編に分けます


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