ラブコメといえば…ラッキースケベだよなぁ!

 突然だが「ラッキースケベ」というものをご存じだろうか? よくラブコメ漫画やラノベなどで主人公が美少女の下着を目撃したり、ぶつかった拍子にありえない体勢になって美少女の胸や下半身に顔や手を突っ込むアレである。


 俺もラブコメは好きでよく読むのだが、所詮アレは創作の出来事であってリアルに起こりえることではないのだと思っていた。


 というか今までの人生でラブコメの主人公みたいに多数の女子にモテるイケメンを何人か見てきたが、所謂「ラッキースケベ」と言った現象は1度たりとも確認することはできなかった。もしかするとイケメンの周りでは発生しているのではないだろうかと思ったのだが非常に残念である。


 まぁ「ラッキースケベ」には主人公以外がヒロインの下着姿を見たり、良い思いをしてはならないという不文律があるらしいので、どちらかというとモブのような人種である俺にはそのようなものを見る機会など最初っから与えられて無かったのかもしれない。


 しかし冷静になって考えてみると「セクハラ」と言う言葉が大分世の中に浸透した現代で、下着を見たり下半身に手を突っ込んだりしようものなら問答無用で警察の御厄介になりそうなので遭遇しなくて良かったのかもしれない。あれは創作だからこそ許されている行為なのだ。


 そういう意味では今女子寮に住んでいる俺もそういった「セクハラ」と呼ばれる事案に遭遇することがないように気をつけなくてはならないのだが…。



○○〇



「ふわぁ~あ…。今何時だ…?」 


 俺は布団からムクリと起き上がるとスマホを探して時刻をチェックする。


「げっ!? もう日が回ってるじゃないか」


 スマホの時計を見るともう日曜日は終わり、月曜日の0時10分ほどになっていた。今日は大学の講義がある日である。どうやら夕食を食べた後、満腹になって寝てしまったらしい。


 今日の夕食はスパゲッティ・ナポリタンだった。それは良いのだが、料理担当の山県さんが「男の子は沢山食べるよね?」といって皿に大盛りにしてきたのだ。俺だけ大盛なのも申し訳ないし…と言って辞退しようとしたのだが、断る暇もなく山のように皿の上に乗せられてしまった。


 残すのも悪いのでそれを完食した俺は案の定腹の中がパンパンになってしまった。満腹で張った腹がしんどかったので俺は先に部屋に戻らせてもらい、布団の上で横になって食物が消化されるのを待った。そしていつの間にかそのまま眠ってしまったようだ。


 俺は起き上がると半分寝ぼけた頭で今日の予定を確認し、講義で必要な教科書やレポート類をカバンの中に入れていく。


 あと忘れたものはないかとボーっとした頭で考えているとそういえばまだ風呂に入っていないことに気が付いた。ここが男子寮なら「別に朝起きてから入ればいいか」となったかもしれないが、俺が今いるのは女子寮である。朝起きた時に不潔だと「兼続君臭ーい」と嫌われかねない。


 そう思った俺はタオルと着替えを持って1階にある風呂場へと寝ぼけながら向かっていった。


 思えばこの時もう少し慎重に行動していればよかったのだが、寝ぼけた俺の頭はそこまで考えられるほどまだ回転していなかったのだ。



○○〇



 寮の風呂はそこそこ広く、1度に複数人が入れるようになっている。小さい銭湯みたいな感じだと言えばわかってもらえるだろうか? なので男子寮では基本的に他の奴が入っていてもみんな気にせずに風呂に入って来る。男同士ということもあるし…ま、裸の付き合いも大事という奴だ。決して俺らがホモという訳ではない。


 俺は寝ぼけた頭のまま脱衣所のドアを開けた。


(風呂場に明かりがついているな…。誰か入っているのだろうか…? この時間に入っているとなると高広先輩かな? あの人基本夜型だからな)


 そんなことをぼんやりと考えながら俺も上から順に服を脱いでいき、パンツ1丁となる。


 そう、この時の俺は頭が寝ぼけてぼんやりしていたが故に自分が女子寮にいると分かっていながら、のである。


 さて、服も脱いだし俺も風呂に突入するかと思っていると「ガララ」という音がして風呂場の入り口が開いた。


 俺は寝ぼけまなこで湯気に包まれたその人物を見る。うーん…? 高広先輩にしてはえらく体の線が細く見える。あの人は背が高くて脱げば意外と筋肉質なのだ。細マッチョというやつである。


 しかし、目の前の人物は俺よりも背が低く体の線が細かった。もしかして定満後輩か? 俺より背が低く体の線も細いとなると彼しか思い浮かばない。朝信は肥満体なのですぐに分かる。


 こんな時間に定満後輩が風呂に入っているのは珍しい。彼は高広先輩とは逆に朝型の人間なので夜の0時には寝てしまう。なので基本的にはそれより前の時間に風呂に入っているのだ。


 俺はそんなことをボーっとする頭でぼんやりと考えていた。


 時間経過によりその人物が周りにまとっていた湯気が徐々に剥がれはじめ、その人物の裸体があらわになる。


(んん? 誰だこれ? こんな体の奴うちの寮にいたかなぁ…)


 その染み一つ無い白い綺麗な肌はまるで陶器のようで男性のものとは全然違っていた。男の筋肉質じみたゴツゴツとした体とは違い触ると指がどこまでも沈んでいくような柔らかさを感じさせる。俺は今まで見たこともない体に思わず視線が吸い寄せられた。


 湯気が剥がれた下の方から目線を上にやると肉付きの良い太ももとふくよかな臀部が見えた。男性の引き締まった尻とは違い、丸みを帯びていてどこか艶めかしい。


 そして更に視線を上に移すとわずかにふくらんだ胸が見え、その先端には桜色の突起がその存在を主張していた。その胸のふくらみはわずかとはいえ、男の硬い胸板とは全く違うということを一瞬で理解させられる。


 俺の寝ぼけた頭はやっとこの変で違和感を覚え始める。明らかに俺の知る男性の体とは別物だった。


(あれ? そういえば俺は今女子寮にいたんじゃなかったっけ? …ということはこれはもしかして女子寮の誰か!?)


 俺の背中に嫌な汗が流れ始める。湯気が完全に無くなり、その人物の顔があらわになった。


「へっ!?//////」


 その人物も脱衣所でパンツ1丁で佇んでいる俺に気づいたらしく、顔を赤く染めて急いで腕でその胸を隠す。それと同時に寝ぼけていた俺の頭も急速にクリアになっていった。


 風呂場から出て来た人物は高坂千夏。女子寮の住人で大学の4女神の1人である。


(これはヤバい…。俺の人生終わったか…?)


 おぉ…兼続よ。数時間前に人生始まったと思い始めたばかりなのにもう終わってしまうとは情けない。俺の頭の中にパトカーのサイレンの音が大音量で鳴り始め、それと同時に自分が逮捕される光景が脳裏をよぎった。


 高坂さんが顔を真っ赤に染め、その口を開いて絹を割くような甲高い悲鳴を叫ぼうとする。


「キャ…」


「イヤァーーーーー!!!!!!」


 しかしそれより先に俺は自分が警察に連行される光景を想起して人生が終わってしまうことを絶望し叫んでいた。


「ってなんであんたが先に叫ぶのよ!? 叫びたいのはむしろこっちの方よ!//////」


「ああ…、あぁ…、ああああああああ!!!!! どうしよう…どうしよう…。俺の人生が終わってしまった。ああ、あぁ…、あああああああ!!!!!」


 俺はまるで銃で撃たれたゾンビのように、絶望でその場で頭を抱えて体をくねらせ意味不明な言葉を口から発していた。人の精神が絶望に染まるとこういう状態になるということを俺はこの時人生で初めて思い知った。


「『あーあー』うるさい! 深夜だから静かにしなさい!」


 彼女が顔を赤くしつつツッコミを入れてくるが俺はそれどころではない。この状況はどうすればいいんだ? 俺は混乱した頭をなんとか正常な状態に戻し回転させる。…そうだ! とりあえず謝って…そしてこの場から逃げよう。


「す、すいませんでしたー!!!」


 俺はそう言うと脱いでいた衣服を持って超特急でそこから逃げ出した。


 

○○〇



 脱衣所から脱兎の如く逃げ出した俺は半裸のまま服を持って自分の部屋である地下室まで逃げようとしていた。しかし高坂さんの裸を見ないように目をつむりながら逃げていたせいか脱衣室を出たところで誰かとぶつかってしまう。


「うおっ!」


「…痛い」


 俺はバランスを崩してその人物を巻き込んで転んでしまう。


「いたたたたた…」


 何事かと思い目を開けてみると目の前にはなんか模様の入った白い布のようなものがあった。その横には柔らかそうな肌色の物体が見える。俺の頭はその物体に挟まれているらしく、もちもちと柔らかい感触が俺の顔を襲う。それに加えてなんだかお菓子のような甘ったるい香りがした。


(なんだこれ?)


 俺はその意味不明な物体に困惑しながらもこれは何だと頭を捻らす。


「…兼続///// …この変態/////」


「あたっ」


 何か本のようなものでポカポカと頭が叩かれているようだ。そしてついでに冬梨の声もする。俺はそれで少し冷静になって目の前の物体の正体を推測する。


(んん? これもしかして…。冬梨のパンツか!?)


 急いで頭を持ち上げると彼女のスカートがフワッとめくれ、俺は今までそこに顔を突っ込んでいたことを理解した。冬梨はいつもの眠そうな顔ではなく、めずらしく顔を赤くさせて怒っているようだった。


「…冬梨はえっちなのはあまり好きじゃない/////」


 そう言って彼女は分厚い辞書のようなものを振り上げて俺に迫ってくる。これは…とりあえず謝罪して逃げるしかない。


「ご、ごめーんーーー!」


 俺は2連続で起こったこのハプニングで完全に気が動転し、自分の部屋の方とは逆の方に逃げてしまった。



○○〇



 俺は自分の部屋とは逆方向…食堂の方向に逃げてしまう。


「なぁに? うるさいわね~?」


 そういいつつ食堂から顔を出したのは3回生の内藤美春先輩だ。口をもごもごさせていることからおそらく食堂で夜食でもつまんでいたのだろう。


「ちょ…兼続。なんて格好してるのよ…/////」


 先輩が少し顔を赤く染めて目をそらす。そういえば俺は今パンツ1枚しか履いていないんだった。完全にニュースでよく出て来る変態の格好である。要するに事案だ。気が動転するあまり半裸のまま俺は逃げ回っていたようだ。


 これは不味い…。警察に通報待ったなしである。高坂さんや冬梨だけでなく内藤先輩まで…。あぁ…俺の人生が完全に終わってしまった。


「でも兼続…良く見ると結構いい体してるのね////」


 先輩が顔を赤らめながらそんなことを言ってくる。男子寮の寮生はデブの朝信以外寮長の筋トレによく付き合わされているため、そこら辺の男子よりは引き締まった体をしている。俺も高広先輩ほどではないが、そこそこ体は引き締まっているつもりだ。…しかし今はそんなことを言っている場合ではない。


「キャーーー////////」


 俺は両手で胸板を隠して本日2回目の叫び声をあげるとまたもその場から逃げ出した。もう頭がパニック状態で自分でも何をやっているのか分からない。


「あっ…。ちょっと胸の筋肉とか触ってみたかったなぁ///」



○○〇



 やみくもに逃げすぎて俺はもはやどこにいるのか分からなくなっていた。俺の部屋である地下室はどっちだろう? そもそもここは1階か2階か?


「わぷっ!」


「ふぇ!?」


 暗い所を逃げていた俺はまたもや誰かにぶつかってしまう。そしてそのまま相手側の方へ倒れてしまった。


 床に倒れた衝撃が体に走る…かと思いきやとても柔らかいクッションのようなものが俺と床の間に挟まり俺は衝撃をあまり感じなかった。


「ご、ごめん…」


 俺は謝りながら、立ち上がろうとその柔らかいものに手を突く。なんか知らんがムニュムニュして凄く柔らかい。なんだろうこれ? 例えるなら大きい肉まんのような…暗いので良く分からない。


「ちょ、そこだめぇ/////」


「んん?」


 この声は山県さんか? 彼女の声が俺の下から聞こえるということは俺は彼女とぶつかったという事だろうか? 優しい彼女にまで嫌われたらおしまいだ。急いで起き上がって謝罪しなければならない。俺は早く起き上がろうと手に力を込める。


「こ、こんなことまではまだ許してないからぁ/////」


 バシン!


「ぶへっ!?」


 俺はどうやら彼女にビンタされたようだ。かなり強烈な一撃だったらしく、脳が揺さぶられるのを感じる。俺はそのまま意識が遠くなるのを感じた。


「あぁっ! 兼続君。ごめん、強くやりすぎた。ごめんね」


 遠くなっていく彼女の声を聴きながら俺は深い闇に沈んでいった。結局あの柔らかいものは一体何だったのだろうか?



○○〇



 俺が目を覚ますと目の前にはニヤニヤした寮長の顔があった。俺は驚いて飛び起きる。慌てて周りを見渡すとここは地下牢…俺の部屋のようだった。


「うおっ!?」


「アッハッハ。聞いたわよ兼続。入寮早々やらかしてくれたみたいじゃないの?」


 俺は気絶していたせいか昨日の記憶が混濁していた。えっと…俺昨日なにやったんだっけ?


「覚えてないの? あんた昨日千夏の裸をガン見して、冬梨のパンツを嗅いで、美春に自分の裸体を見せつけて、秋乃のおっぱいを揉みしだいたのよあんた。1日でここまでやらかすとは流石のわたしも予想してなかったわ。素質あるわね」


 寮長にそう言われて俺の頭の中に昨日記憶が蘇ってくる。そういえば…そのような事をやってしまったような…。


「あ、ああ。あああああああ!!!! 俺はなんてことをしてしまったんだぁ! もう終わりだ。みんなに嫌われた…。うおおん、おん」


 俺は頭を抱えて泣きながらコンクリの壁に頭をガンガンと打ち付ける。


「まぁ落ち着きなさい」


「これが落ち着いていられるかよ! 俺は犯罪者になってしまったんだ! 警察に捕まって全国のニュースで事案として放送されてついでに顔も晒されて刑務所の中に入って臭い飯を食べさせられるんだ。昔の同級生とかがTVのインタビューで顔に黒い目線を入れて『普段はおとなしい奴ですけど、あいつは将来やらかしそうな気がしてましたね。なんというか目がいやらしいんですよ』とか言われるんだ! クソックソッチクショー! うおおおおおん」


「アッハッハ。想像力豊かねぇ」


「笑い事じゃねぇよ!!!」


 ひとしきり喚き散らした俺は力尽きてうなだれる。


「あぁ…鬱だ、死のう…。寮長、ロープ貸してください」


「そこまで!? まだ捕まると決まったわけじゃないんだから諦めなさんな」


「絶対捕まるでしょ!? 前にTVで見たぞ、最近は気に入らない男性から話しかけられるだけでもセクハラになるって。話しかけられるだけでもセクハラなのに胸を揉んだり裸を見たりとかそれ以上のことをしてるじゃないか! あぁ…終わりだ…。俺の人生始まったと思ってたのにすぐに終わってしまった…」


「あんたも大概女性に対して偏見あるわねぇ。いいわ。あんたの偏見もついでに直しなさいな。みんな、入って来て」


 寮長のかけ声と共に寮生の4人が俺の部屋に入って来た。彼女らに俺の罪を糾弾させるつもりだろうか? 終わりだ…。緊張とストレスで俺の脳がキュと締め付けられる。


「えっと…ボクはダレ? ココはドコ?」


「現実逃避しすぎて記憶喪失になっちゃってるじゃない…、ほら、しっかりしなさい」


 寮長は俺の背中をバシッと叩く、ああ…そうだ。犯した罪は償わなければならない。俺は覚悟を決めると地下牢に入って来た4人の前で土下座をした。


「今回の事は誠に申し訳ございませんでした! どうぞ警察に突き出すなりしてください」


 俺は逮捕される覚悟でそう言った。犯した罪は償わなければならない。


 …しかし、俺の予想に反して帰って来たのは違う答えだった。


「か、兼続君。顔を上げて…/// そこまで怒って無いから(秋)」


「まぁ…あらかじめ風呂に入る時間を決めておかなかった私たちにも否はあるし…///(夏)」


「ねぇねぇ…今度胸筋さわらせてくれない? 一回男の子の筋肉触って見たかったのよ!(春)」


「…ん、許す(冬)」


「…えっ? 俺警察に突き出されるんじゃないの?」


 4人は不思議そうな顔で互いに顔を見合わすとクスリと笑った。


「そこまでしないよ…。確かにちょっと恥ずかしかったけど…(秋)」


「その代わり、後でなんか奢りなさい。それで水に流してあげるわ(夏)」


「…冬梨にもなんか奢って。お菓子が良い(冬)」


「さっきも言ったけど筋肉触らせてくれたらチャラにするわ(春)」


「…ありがとう! みんなありがとう…」


 俺は寮のみんなの優しさに涙があふれてしまった。間違いなく警察に突き出されると思ったのに…。どうやらここの寮のみんなは心が優しい娘たちばかりらしい。


「ね? 優しい娘たちばかりでしょ? こういう娘たちばかりだからわたしも彼女たちに幸せになって欲しいのよ」


 本当にそうだ。俺も彼女たちが幸せになれるように精いっぱい協力させてもらおう。


 でも…ラッキースケベはこりごりです。もう2度と遭遇したくないね…。



○○〇


といいつつ主人公はこれからもラッキースケベに遭遇します。主人公なので


※作者からのお願い


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