これが…部屋? なんかの間違いじゃね?
「えっと…それで俺の部屋はどこにあるんだ?」
荷物を置いて来いと言われても部屋が何処か分からないのでは荷物も置けない。
「ああ、そうだったわね。部屋に案内するわ。こっちよ! 他のみんなは食堂で待機しておきなさい」
そう言うと甲陽寮長は俺を右側の通路の方へと案内する。俺は靴を脱いで靴箱の適当な所へつっこむと自分の持ってきた荷物を持って寮長の後に着いて行った。
寮の内部構造はリフォームしたとはいえ男子寮とほぼ一緒のはず…とするとこちらは倉庫などがある方向になる。地下室が見つかったという事だがどこら辺にあるのだろうか?
寮の簡単な構造を説明すると、玄関を上がるとまず左右2つの通路に別れる。左側の通路を進むとまず食堂があり、食堂に入らずにそのまま通路を進んでいくと2階へと続く階段がある。そして階段を上らずに更に左へ進むと管理人室。階段を上って2階に上がると寮生用の部屋が4部屋設けられている。
逆に玄関から入って右側の通路を進むと風呂場とトイレ、洗面台などの水回りが集まっている部屋があり、その部屋に入らずにそのまま進むと備品などを貯蓄してある倉庫がある。
それ以外のものはない。学生寮というと学生たちが交流するレクリエーションスペースやトレーニングルームなどの施設が揃っていると想像する人も多いと思うが、うちの寮にはそんなものは無い。この大学の寮は生活に必要な最低限の物以外はすべて排除した只々安いだけが取り柄の寮なのである。
俺は寮長の後ろについて、まるで上京してきた田舎者のように女子寮内を観察しながら進んでいった。去年リフォームしただけあって内装が凄く綺麗になっている。床を踏むたびにギシギシと音が鳴り、所々壁に打ちつけてある釘が木に生えたきのこの様にニョッキリと出ているオンボロの男子寮とは大違いだ。
女子寮がボロいとか弱い女の子たちが犯罪に巻き込まれる可能性があると甲陽寮長がゴネて学長にリフォームを納得させたらしいが、そういうところは男子寮の中山寮長も見習って欲しい所である。
「期待しときなさいよ。普通の寮の部屋の倍ぐらい広いんだから」
「それは広いな」
ウチの寮の部屋はたったの4畳しかなく、最初から設置してあるベットと勉強用の机が置いてあるスペースを除くと自分が自由に使えるスペースは実質その約半分程度しかない。なのでかなり狭い。ちなみに風呂、トイレ、洗濯機などは全て1階にあり共用である。
自分の私物の他に大学の講義で使う資料や図書館でレポート書くために借りて来た本などを部屋に置いておくとあっという間にスペースがなくなる。定期的に整理しないと自分が座る場所すら危うくなるのだ。
朝信などはそれに加えて漫画やアニメのグッズ、エ〇ゲのでかい箱などを部屋に置いているのでアイツの部屋はマジで足の踏み場が無い。一体どのスペースで生活しているのか気になる所だ。
俺の部屋となる予定の地下室は寮の部屋の倍ぐらいの広さらしい…となると8畳ぐらいか。結構な広さだ。地下室ということでどうなることか心配していたのだが、今まで暮らしていた部屋より広くなるのなら悪くは無いのかもしれない。俺は若干ウキウキしながら寮長の後に着いて行った。
寮長は通路の突き当りの倉庫のドアを開けると中に入っていく。地下室は倉庫の中にあるのだろうか? 俺も寮長に続いて倉庫に入る。倉庫を見渡すと中には洗剤やトイレットペーパーなどの日用品が所狭しと並べられていた。
ここも男子寮とは大違いである。まず男子寮は日用品は無くなれば気が付いた誰かが買いに行くという非常に適当なルールなため、常にストックが無い。それ故にトイレットペーパーが無くなった時などは大変である。
トイレで用を足した後にトイレットペーパーが無いことに気づいた場合。誰かに電話してトイレットペーパーを買いに行ってもらわないといけないのだ。当然その間トイレからは出られない。
酷い時は寮長と寮生の誰にも電話が通じない時があり、その場合は電話が通じるまでずっとトイレで待っておくか、急いで半裸で風呂場にダッシュしてケツを洗い流さなくてはならないのだ。
朝信が一度その地獄を経験している。たまたまその日は全員外出していた日で、加えて誰にも電話が通じなかったのだ。朝信は朝の9時から夕方の18時に先輩が帰って来るまでずっとボットン便所にウンチングスタイルで待機するはめになったという。
その話を聞いて以来恐ろしくなった俺は密かに自分用のマイ・トイレットペーパーを押し入れに備蓄しておくことにしている。備えあれば患いなしだ。
そんな適当な男子寮に引き換え、女子寮は日用品が常に備蓄してあって羨ましい。
「千夏がそういうのにうるさくてね。この寮の日用品の管理は大体あの娘がやっているのよ」
「へぇ」
高坂さん、流石「知の女神」と呼ばれるだけあってこういう所はしっかりしている。男子寮の野郎共も見習って欲しいぐらいだ。
「ここよ」
「へ?」
寮長の指をさした先を見るとなんと倉庫の奥の床に地下室への入り口のようなものがあった。寮長が地下室への入り口を持ち上げて開き、地下へと続く梯子へと足をかける。俺も彼女の後に続いて梯子を下りていった。
○○〇
「どう? 広いでしょ?」
「ここ地下室ってか地下牢じゃねーか!?」
梯子を降りてった俺の目に飛び込んできた光景。それは俺の思い描いていたような地下室…ではなく、ミステリー作品に出て来るような地下牢だった。部屋の入り口には鉄格子がはめられ、コンクリで固められた床には申し訳程度の絨毯が敷いてある。あとは一応机と布団はあるようだ。
「なんでこんなもんが寮の地下にあるんだよ!?」
「さぁ?」
「『さぁ?』って…使って大丈夫なのかこんなところ? なんか過去にここに捕まってた人の怨念とかがこびりついてそうで嫌なんだけど」
「なんか『封』って書いたお
「いやそれ絶対剥がしちゃダメな奴だろ!? なんか出てきちゃうやつでしょ!?」
「あと敷いてある絨毯で血の跡みたいなのも隠しているし…」
「処理が雑すぎるだろ! 事故物件の清掃業者でももっと綺麗に血の跡は処理するぞ!?」
「まぁ…大丈夫でしょ…。いざとなったらわたしの知り合いの住職呼んであげる」
「絶対ここに住むの嫌なんですけど!?」
「冗談よ。本気にしないの。まぁ…夜は気を付けた方が良いと思うけど…」
「本当に冗談かどうか怪しいんですけど!?」
「アッハッハ。あんたやっぱり面白いわねぇ。わたしのボケにここまで丁寧に突っ込んでくれる人中々いないのよ。来たのがあんたでよかったわぁ」
「ふざけんな!! 俺はあんたに突っ込むためにここに来たんじゃねぇ!」
「えっ、兼続私にツッコミたいって…? それセクハラよ。でも大学の4女神という美少女を差し置いてアラサーのわたしを選ぶなんてあんた見る目あるわね。いいわよ。今日の夜、寮長室に来てぇん♡」
寮長は顔を赤くさせて体をクネクネさせながらそんなことを言ってくる。
「絶対嫌だよ! 鳥肌が立つわ! ハァハァ…。突っ込みすぎて疲れた」
俺と寮長がそこまでしゃべった所で梯子の上の倉庫からパタンと何かが落ちた音がした。気になって見上げてみると顔を赤くさせワナワナと震えている山県さんがそこにいた。
「『遅いなぁ…』と思って2人を呼びに来たら…。か、兼続君…、寮長と何やってたの…? 息遣いが何か荒いし、さっき『ツッコミ過ぎて疲れた』って言葉が聞こえたけど/////」
「いやいや、勘違いだから! 山県さんの思うようなことは何もしてないから」
「いやー、若いっていいわね。わたしにずっと突っ込んでくれるんだもの」
「う、ううっ///// か、兼続君のへ、へんたーい///// 寮長のバカー。うえーん」
「えっ、ちょ? 山県さん!? 寮長てめぇふざけんなよ! 勘違いされたじゃねぇか!!」
「オホホホホホ! この後が楽しみだわねぇ…」
「このクソババァ! そんな性悪だから結婚できないんだよてめぇは!」
「あらぁ~そんなこと言っていいのかしらぁ?」
「ここに来たってことは兼続も下心があって来たんでしょう?」
「そんなことは…」
『無い』とは言えなかった。俺がここに来た目的は自分が女性の扱いに慣れ、いつの日か彼女をつくるためという目的もあるのだ。それは完全に下心と言っても差し支えないだろう。
「隠すな隠すな♪ 若い男が性欲まみれのお猿さんだなんてピュアな女の子以外誰でも知ってる事よ。で、誰が好みよ? お姉さんの美春か? クールな千夏か? 優しい秋乃か? ロリの冬梨か? ん? 言ってみ? 誰にも言わないから♪」
『誰にも言わないから』という言葉を話す人間で本当にそれを誰にも言わない人間を俺は見たことが無い。仮に言おうものならこの先ずっとそれをネタにゆすられ続けるだろう。
「別に誰が好みでもねぇよ」
「まだ決まってないってこと? まぁいいわ。でも言葉には気を付ける事ね。あの娘たちを攻略しようとするならわたしの好感度上げは必須よ。さっきみたいに変な事言っちゃうかもしれないしぃ~♪ そうなればあなたはあの娘たちから好かれるどころか軽蔑されるでしょうねぇ♪」
寮長はゲス顔をし、愉悦を極めた顔で俺にそう言ってくる。クッ、こいつ…。
「だから別に好きな奴なんていないって」
「あなた…秋乃に勘違いされたままでいいの? あの『慈愛の女神』なんて言われてる優しぃ優しぃ秋乃から勘違いされ、変態の烙印を押され避けられる兼続…。みんなからどういう目で見られるでしょうねぇ…。わたしが協力してあげれば…その勘違いは簡単に解けるわよ♪ 逆を言えばわたしが協力しないのであれば…中々勘違いは解けないでしょうねぇ」
「俺を脅すのか?」
「さぁ? でもわたしに対する態度には…気を付けておいた方が良いんじゃないかしら? さて、お腹も減ってきたし食堂に行きましょ。この後はあなたの歓迎会よ」
そう言うと寮長は高笑いをしながら梯子を上って行ってしまった。
「チクショー! あのババア足元みやがって…」
だがここでしばらく生活することになった以上、寮生の4人から変な目で見られるのは死活問題である。不本意…非常に不本意だが…しばらくの間は寮長に媚びを売っておいた方がよさそうだ。
初日から俺の女子寮生活は困難を極めることとなった。
○○〇
最初のうちは説明が多くなるのでギャグはどうしても少なめになっちゃいます。
※作者からのお願い
もし当作品を読んで1回でも笑われたり展開が面白いと思って下さったなら♡や☆での評価をお願いします。作者のモチベにつながります。
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