大学の4女神との対面
俺は重い足をなんとか上げながら女子寮への道を歩いていた。この大学の男子寮と女子寮は何故か対角の位置にあり、大学の端から端まで移動しなければならないのだ。うちの大学は田舎の大学にしてはそこそこ大きい大学なので徒歩で15分ぐらいはかかる。
昨日『女子寮での経験を生かして彼女つくるぞ!』と意気込んだのはいいものの、やはりいざ一緒に生活するとなると緊張と不安がどうしようもなく押し寄せてくる。
今まで女の子と碌に縁が無かったのに、いきなり大学の4女神と言われる美少女たちと一緒に生活することになったのだ。
RPGに例えるならゲーム序盤の村からいきなり魔王城の近くへワープして魔王側近の四天王に戦いを挑むようなものである。経験値が絶対的に足りてない。まぁ先輩たちは俺にその経験値を無理やり積ませるために行かせたんだろうけれども。
「いや、こんな事ではダメだ!」
俺は頭を振りネガティブな志向を振り払うと顔を両手で叩いて気合いを入れる。
「気張れ東坂兼続! そんな軟弱な思考なんだから彼女が出来ないんだ。一度決めたことを撤回するのよくない。俺は今回の女子寮での生活で経験値を積んで彼女をゲットするんだ。うおぉぉぉぉぉ!!!」
俺は空を見上げ、梅雨の時期には珍しく燦燦と照りつける太陽にそう宣言し誓った。
「何アレ? 太陽に向かって何かを宣言して自分に酔っているのかしら?」「目を合わせちゃダメよ。絡まれないようにしないと」
なんか通りすがりの女の子に何かしら言われたようだが、俺は気にせず女子寮へと足を進めた。
○○〇
歩くこと15分。俺は待ち合わせの時間である10時ちょうどに女子寮の前までたどり着く。
「おかしいなぁ。女子寮の前であのアラサ…甲陽寮長が待ってるって聞いたんだが…」
周りを見渡せど人の姿は誰1人として見当たらない。年代物の苔の生えた薄汚い石塀に囲まれた敷地の中央にこれまた年代物の古びた建物…女子寮がそびえたっているだけである。女子寮は外観こそ古臭いが、中は最近リフォームしたらしいので新しいらしい。そこは中も古臭い男子寮との大きな違いだ。
聞くところによるとトイレなんかはウォシュレットが完備されてあるとか…。男子寮なんて1階にボットン便所があるだけだ。この前朝信がスマホをボットン便所の中に落として大変な事になったのは記憶に新しい。
更に運の悪いことに彼がスマホを便所の中に落としたタイミングで俺が彼に電話をかけたものだからスマホのバイブレーション機能のせいで振動して徐々にう〇この海に沈んでいったと聞いた時は申し訳ないが笑ってしまった。南無三。
「ま、待ってればそのうち来るだろう」
そう思った俺は時間を潰そうとスマホをポケットから取り出し、苔の生えた石塀に体をもたれかけて流行りのソシャゲをやり始める。今日は他に予定もないのでのんびりと待たせてもらおう。
○○〇
「…遅いな」
スマホの時計はすでに10時30分を指していた。30分も待たされるとは思わなかった。まさか俺が女子寮に行くという話が伝わってないのだろうか? それともこの話自体、俺を騙すための中山寮長の嘘だったとか? ありえる。どうも話がうますぎると思ったんだよな。女子寮で女子と一緒に生活できるなんて…、常識で考えるならありえない話だ。
でも完全にありえないと言えないあたり、中山寮長と甲陽寮長がどれだけ型破りな人物なのかが良く分かる。あの2人本当によく寮長になれたもんだ。
「まぁ一応確認だけしておくか」
もし嘘だったら後であのオッサンをとっちめてやろう。そう思いつつ俺は女子寮の入り口へと足を進めた。日曜日だし女子寮の中には誰かしらいると思われる。そいつに話を聞けばすぐに分かる事だ。俺は女子寮の扉を開けると中に入っていった。
中に入るとそこからは男子寮とは明らかに違う匂いがした。なんというか非常にフローラルな香りがする。おそらく消臭剤を置いているのだろう。男子寮なんてそんなものは置いていないから入ると男臭い匂いが漂っている。おまけに寮長がよく筋トレをするものだから梅雨の今の時期は特に汗臭いのだ。
ああ、俺は女子寮に来たのだとその匂いで実感させられた。
「すいませーん! 誰かいませんかー?」
俺は寮の中に向かって声をかける。そうするとおそらく食堂のあたりからあわただしい声が聞こえて来た。
「ちょ、もう兼続君来ちゃったよ(秋)」「えっ、早くない? だってまだ9時…ってもう10時半じゃない!?(夏)」「千夏と秋乃がモタモタしてるからよ(春)」「だってぇ~(秋)」「とりあえず玄関に行くわよ! 30分も待たせてるんだからね(寮)」
そういう声と共にドタドタと激しい足音が聞こえ、5人の女性が俺の前に勢ぞろいした。
「ごめんごめん、あんたの歓迎会の準備してたら遅れちゃった。さて、改めて女子寮にようこそ! 歓迎するわ兼続、半年という短い期間だけどよろしくね!」
まず前に出て笑顔で俺を歓迎しているこの女性が寮長の甲陽四季である。小柄な金髪ショートカットの女性で、年は30代半ばのアラサーと呼ばれる領域まで達しているはずだが、化粧の魔力によってなんとか若作りしている怪物である。遠くから見ると20代に見えるが、近くで良く見ると小皺が見られ年相応だなという所を感じさせる。
性格に関しては「破天荒」の言葉が良く似合う女性で、そこは男子寮の中山寮長といい勝負である。何かと思い付きで行動を起こしては周りをトラブルに巻き込むトラブルメーカー的な存在で、男子寮・女子寮の寮生共に結構迷惑をかけられている。今回俺が女子寮に来ることになったのもこのアラサーが原因だ。
正直どうして彼女が寮長と言う職業に付けているのか不思議でならない。風の噂によるとこの大学の学長を脅しつけているとかいう話を聞くが真実は定かではない。
「はぁ、よろしくお願いします」
とりあえず俺が女子寮に住むという話が作り話ではなく本当だったようでそれは良かった。
「よっしゃ、これで雑に仕事を投げられる労働奴隷をゲットしたわ。正直最近年のせいか作業するのに腰が痛くなってきたのよね(良く来てくれたわ! この女子寮の女の子を男に慣れさせるために協力してね)」
「おい! 本音と建前が逆だぞ! 俺を呼んだのは労働要員としてかよ!?」
「おっと、ごめんなさい。心の声が漏れてたみたいだわ」
「………」
なんだか一気に帰りたくなってきた。この人のことだからそんなことだろうとは薄々思っていたけど。そういうのは最後まで隠しておいてほしかった。
「まぁウチの寮生たちを男に慣れさせるために呼んだってのも本当だから。仲良くしてやってちょうだい。えっと…顔はもう知ってるかしら?」
「えぇ一応は」
俺は自分の頭の中に入ってる人物のデータベースを検索し、顔と名前を一致させる。
まず寮長の後ろに立っている背の高い女性。彼女が3回生の内藤美春先輩。通称「美の女神」と呼ばれている人だ。女性にしてはかなり背が高く170cm前後あると思われる。ツヤツヤでサラサラの亜麻色の長い髪をしており、その髪が風になびかせながら歩く姿は綺麗でまるでモデルみたいだなと思った事がある。
ファッションセンスが良く、大学で見かけた時はいつもスタイリッシュな格好をしていて注目の的だった。それ故大学の女生徒たちから多くファッションの相談をよく持ち掛けられるようで、男性人気だけではなく女性人気も高い。いつも自信たっぷりな顔をして周りの相談に答えている。
俺個人の主観で言えば彼女は大人っぽくてカッコいいお姉さんという印象である。この人に男っ気が無いなんて俺は信じられないんだが…。
「(ニコッ)♪」
目が合うと彼女はニコリと笑いかけて来た。俺はその笑顔が眩しすぎて思わず目をつむりそうになる。あぁ…やはり美人だな。
そしてその隣にいる目つきがキリッとした女性。彼女は俺と同回生の高坂千夏。通称「知の女神」。知の女神と呼ばれてるだけあって優秀で、俺たちの学年でトップの成績を誇っているらしい。もちろん学業だけでなく他の事も優秀の一言である。運動はもちろん、飲み会の幹事などのまとめ役から事務作業などの地味な仕事までてきぱきとこなす。かといってそれを鼻にかけているわけでもなく周りにも優しい。
見た目に関しては背は160cmぐらいで女性にしては少し高め、髪は黒髪のポニーテールである。凛々しく綺麗な顔をしており、可愛いといよりは美人系であろう。
個人的な感想で言えば完璧な女性…という印象である。俺の友人をして「高坂千夏の欠点はその絶壁のような乳だけ」と言わせるだけの事はある。ちなみに同回生だが俺は恐れ多くてあまり話したことが無い。
「なんだか失礼な視線を感じるわね…」
おっと…友人の言葉につられて彼女の胸元に目線が行っていたようだ。こういった言動は気を付けなければならない。これから一緒に暮らすのだから嫌われるような言動はよそう。
そして美春先輩の後ろに隠れるようにして俺の方をチラチラ見ているのが、同じく2回生の山県秋乃さん。通称「慈愛の女神」。
慈愛の女神と呼ばれるだけあって彼女は優しい。凄く優しい。同じ学部の男連中がそろいもそろって「彼女にはバブみを感じる。俺の母ちゃんになって欲しい」と言われる程度には優しさに満ち溢れている。バファ〇ンもびっくりの優しさの内包量である。それに加えて服の上からでも分かるその大きな胸のふくらみがそれを助長しているのだろう。
俺も彼女とはたまに講義や飲み会で一緒になって話すことがあるのだが、なんと俺みたいな人間にまで料理をよそってくれたり、お酌をしてくれたりするのだ。なんという慈悲深さだろう…慈愛の女神の名は伊達じゃない。個人的には4人の中で1番女神っぽいと思う。
身長は女性の平均程度。濃い茶色のフワフワした髪をハーフアップにしている。顔は少しあどけなさの残る可愛い系の顔だ。
「ええっと///// あの…その…」
今日は何故か顔を赤くして恥ずかしがっている様だ。やはり異性と一緒に暮らすのに抵抗があるのかもしれない。
そして最後の1人。他の連中とは少し離れた位置でこちらをじっと見ている少女。彼女が1回生の馬場冬梨。通称「愛玩の女神」。
「愛玩」ってなんぞや? と思うかもしれないが、その理由は彼女のその幻想的な容姿にある。背は低く150cm程度、雪を思わせる真っ白い髪を両側でまとめておさげにしており、肌も髪と同じく染み一つ無い真っ白で絹の様に綺麗な肌だ。端正で人形の様な顔立ちをしていて、まるでおとぎの国から飛び出て来たような神秘的な容姿をしている。
個人的には女神ではなく妖精の類ではないかと思っているのだが、その愛くるしい容姿故に学内の人気は高く「愛玩の女神」と呼ばれ男女問わず愛されているのだ。
…最も本人はそれを凄く迷惑に思っている様だが。彼女はあまり社交的な性格ではないため、自分に近寄って来る大勢の人間の相手をするのがめんどくさいらしい。なんとも贅沢な悩みである。
彼女とは4月当初に色々あり、たまに話す程度の仲ではある。
「………」
相変わらず眠そうで何を考えているのか分からない顔をしている。
以上が我が大学の4女神と呼ばれている美少女たちである。
「えっと…俺の方も自己紹介した方が良いですかね? 2回生の東坂兼続です。今日からお世話になります」
「改めてよろしくね!(春)」「まぁ知ってるけど(夏)」「よ、よろしくお願いしましゅ!//////(秋)」「…よろしく(冬)」
「うんうん、顔合わせが済んだようね。じゃああなたに歓迎会をするから荷物を置いたら食堂にいらっしゃい」
こうして俺の波乱万丈な女子寮での生活が幕を開けたのだった。
○○〇
文字数とかは多くないでしょうか?
多ければ話を分けます。
一応よっぽどのことが無い限りは1話4000字前後で書いております。
しばらくの間は誰が言葉を言っているのか分かるように「〇〇〇(春)」というように名前の一部を入れていきます
※作者からのお願い
もし当作品を読んで1回でも笑われたり展開が面白いと思って下さったなら♡や☆での評価をお願いします。作者のモチベにつながります。
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