彼女が欲しいならこのチャンスを生かすべきだって?

「はあぁぁぁぁ!?」


 ひょんなことから女子寮に引っ越すことを命じられた俺こと東坂兼続。俺は今まで人生で碌に女の子と接点なかった。そんな俺が女子寮で美少女たちと共同生活をするとか…どうしたらいいのかわからずに困惑する。


「行かないって選択肢は?」


「兼続、残念ながらもう決定事項だ。あきらめて受け入れろ。美少女たちとの共同生活だぞ、年頃の男なら泣いて喜ぶところだろうに。それともお前はホモなのか? それなら近くのハッテン場を紹介してやってもいいが…」


「俺はホモじゃねーよ!! というか何でハッテン場の場所知ってんだよ!?」


「じゃあ問題ないな」


「いや、大ありだろ! 年頃の男と女が同じ屋根の下で生活とかありえんだろ!」


「古臭い考えだな。そんなんじゃ時代に置いて行かれるぞ。この少子化の時代、我々も学生カップルの誕生を推奨している。結婚して子供を産んでくれたらなお良しだ!」


 この人の頭の中は一体どうなっているんだろうか? 筋トレのしすぎで脳細胞まで筋肉になってんじゃないだろうか。普通こういうことは寮長が寮の管理人として反対しなければいけない立場だろうにむしろ奨励してどうするんだ。あのアラサーになんか弱みでも握られてるのか?


 寮長は「はぁ」とため息を吐くと、憐れむような眼で俺を見て言葉を続ける。


「あのなぁ…。だからお前は童貞チェリーボーイなんだよ」


「確かに俺は童貞だけどぞれは関係ないだろ!? そんな目で俺をみるんじゃねぇ」


「…なぁ兼続。お前以前から彼女欲しいっていってたじゃないか。これはむしろチャンスだと思えばいい」


 俺と寮長が押し問答を続けていると高広先輩が横から口を挟んでくる。


「チャンス…ですか?」


「女の子との共同生活、距離が近い分小さな切っ掛けから恋に発展する可能性も十分考えられる。お前が上手いことやればこの大学で4女神と呼ばれるほどの美少女と付き合えるかもしれないんだぞ」


「いや、それは先輩がイケメンだからそう考えられるだけでしょ。俺はそうポジティブに考えられないですよ」


「イケメンかどうかなんて関係ねぇよ。兼続、お前に彼女が出来ない原因は女性経験の少なさからくる自信の無さと女性への知識の無さだ。だからこれは『女性』という物を学ぶ良い機会だと俺は思うぜ。なんなら別に女子寮の連中と付き合わなくてもいい。この経験を糧にして将来別の女性と付き合えればそれでいいんだ」


「う゛っ」


 先輩にぐぅの音も出ないほどの正論を吐かれて俺は言葉に詰まる。確かに先輩の言う通り、俺は今まであまり女性と接してこなかったので女性に対する自信と知識がない。


「決まりだな。男として一皮むけるチャンスだ。チ〇ポの皮と一緒にな」


 寮長がサラッと下ネタを言うが、俺は反応したら負けだと思ったのでスルーした。


「決まりだな。男として一皮むけるチャンスだ。チ〇ポの皮と一緒にな」


「………」


「決まりだな。男として一皮むけるチャンスだ。チ〇ポの皮と一緒にな」


「いやもう分かったよ!? どんだけ反応してもらいたいんだよ!?」


 別に特に上手い事を言ってるわけでもないのになんでそんなに構って貰いたいんだよこの人は?


「そういえば先輩は女子寮のどこに住むことになるんですか?」


 そこで定満が素朴な疑問を口にする。


「そ、そうだ! 女子寮に空いてる部屋なんて無かったはずだ。俺が住むところがないのなら女子寮に行かなくてもいいよな?」


 女子寮も確か男子寮とほぼ同じ作りだったはず…。ということは1階に寮長室、食堂に風呂場や倉庫、2階に寮生の部屋が4部屋だけのはず…。俺が住めるような部屋など無いはずだ。 


「いやそれがな。最近女子寮の地下に部屋がされてな。兼続にはそこに住んで貰う事になってる」


「発掘って部屋に使う言葉じゃねぇだろ!? 想像するだけで汚なそうなんだが…。病気になりそうで嫌だなぁ…」


「まさにお部屋ならぬ汚部屋おへやってか? ハッ、上手い事言うじゃないか」


「笑いごとじゃねぇよ!! こっちは健康に被害受けるかもしれないんだぞ!」


「心配すんな。そこはちゃんと掃除してるってよ」


「ホントかなぁ…」


「兼続、何事も経験だぜ。それに帰ってきちゃダメってルールは無いんだろ? ダメだったらいつでも帰ってくればいいさ。愚痴ぐらいは聞いてやるよ」


「僕も自分に出来る事ならお手伝いしますよ」


「ぬふふ、我も微力ながら助太刀させてもらいますな」


「みんな…」


 男子寮のみんなに背中を押され、俺は少し前向きな気持ちになる。先輩の言う通り、これは今までの人生で女子にあまり接点の無かった俺への神様がくれた最後のチャンスなのかもしれない。この機会を逃すと俺はこの先一生彼女が出来ない…そんな気がした。


「わかったよ。行けばいいんだろ!」


「そうこなくっちゃな。じゃあ早速甲陽寮長に派遣する奴が決まったと連絡しとくわ」


「いつから行けばいいんだ?」


「今日が土曜日だから明日には向かってもらう。だから今日中に準備しとけ。平日はお前ら講義があるだろ?」


「えらく急だな。別に来週とかでもいいんじゃないか?」


「『思い立ったが吉日』が甲陽寮長の座右の銘だ」


「あっ、そう。で、どれくらいの期間向こうにいればいいんだ? 1か月ぐらいか?」


「予定は今年いっぱいまでだそうだ。というか1カ月で異性に慣れるなんて無理だろ」


 今が6月の頭だから…約7カ月。半年以上もか、結構長いな。まぁでもそれくらいの期間共同生活しないとお互いに異性に慣れたりできないか。


 …先輩も言っていたがこれも人生経験だと思って頑張ろう。我が大学の4女神と呼ばれている美少女たちが俺なんかと付き合ってくれるなんて思ってもいないが、彼らと触れ合うことは俺にとって良い経験になる気がする。将来の役に立つこともあるだろう。


 そうと決まれば部屋に戻って明日の準備をしないとな。


 と言っても持っていくものはあまりないが…。着替えと生活用品と…あとは大学の講義で使う物ぐらいか? 漫画やゲームは流石になぁ…。


「それにしても羨ましいですぞ兼続。我が大学が誇る4女神と同じ屋根の下で生活できるなんて! まさに『それなんてエ〇ゲ?』的シチュエーション」


「ですね。僕も今の彼女が1番…という前置きはしておきますけれども、あの4人との共同生活は少し憧れます。4人とも綺麗で可愛らしい方々ですし」


「だな。大学の他の男連中が知ったら嫉妬で殺されかねんぞ兼続。くれぐれも夜道には注意しとけよ」


 3人が思い思いの事を口にする。クソッ、こいつら自分が行かないからって好き放題言いやがって…。あまり女性が得意ではない俺からすると女性との共同生活なんて未知の生物と触れ合うみたいなものだ。いつ食われないか心配で今から心臓バクバクである。あぁ…心臓が痛くなってきた…。でもその未知の生物を理解しないと彼女は作れないんだよな。


「女を食うのはお前だろ? カマトトぶりやがって」


「人の心読むなよ!? あとさっきから下ネタ多くない!?」


 この人はよくこんなので寮長になれたものだ。倫理感のチェックとかそういう試験的なものはこの大学には無いのだろうか?


「おっ! 甲陽寮長から返信が来たぞ。『OK! 了解した。兼続が来るのを楽しみにしてる』だそうだ」


 寮長がスマホを取り出して画面をポチポチしながら確認する。向こうの寮長も承認した。もう後戻りはできない。


 この女子寮での経験を少しでも自分の人生の糧にするために頑張るのだ。女の子と触れ合って『女性』というものを理解しよう。そしていつか念願の彼女を作るのだ。俺は神様のくれたと思われる最後のチャンスをつかむ覚悟を決めた。


「よし、兼続がいなくなったから1人当たりの晩御飯のおかずの量が少し増えるな」


「アンタそれが本音かよ!?」



○○〇



 そして次の日の日曜日。俺は着替えと日用品、そして大学の講義で使うレジュメや筆記用具、ノートPCなどの最低限の物を持って男子寮を離れる準備をする。


 俺が男子寮の出口まで来ると寮生の3人と寮長が見送りに来てくれていた。


「兼続、頑張って来いよ。そしてできれば彼女ゲットして来い。俺は応援してるぞ」


「先輩、なんかあったらすぐに連絡してくださいね。力になりますから」


「フォカヌポゥ。我も応援していますな。あっ、これ選別にあげますな」


 朝信が俺に紙袋を手渡す。何かと思って紙袋の中身を覗くと中には『学校の手違いで何故か女子療に住むことになった件』というエ〇ゲが入っていた。


「これからの生活の参考にしていただきたく候」


「……………ありがとよ」


 おそらくなんの参考にもならないと思うが気持ちだけは貰っておこう。


「俺からはこれをやろう。俺も半ばお前に無理やりこんな役目を押し付けて申し訳ないと思っている。でもこれもお前のこれからを想っての事なんだ。所謂愛のムチってやつよ。女子寮で色々学んで彼女でもなんでも作って来い!」


「寮長…」


 なんだかんだ言ってこの人も寮長なのだ。寮生の事を想って行動してくれている…んだと思う。今回に限って言えば俺の女性苦手意識克服のために荒治療を提案してくれたんだと好意的に解釈することにした。

 

 それにしてもあのドケチな寮長が俺に餞別をくれるなんて珍しい。寮の備品が壊れたら新しいものに買い替えずにとりあえずガムテープかアロ〇アルファでくっつけようとするぐらいケチな人なのに…。俺は寮長から貰った小さいビニール袋の中を覗く。


 なんと中に入っていたのはコン〇ームだった。寮長は親指を立てて「グッドラック!」と俺に笑顔を向けてくる。


「学生の間は避妊はしろよ!」


「ふざけんな!!!」


 少しでもこいつに感謝しようとした俺が馬鹿だった。俺は寮長にコン〇ームを投げ返すと女子寮へと向かった。



○○〇


ヒロインたちは次回から登場します。


男同士のギャグも多めに考えています。


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