第10話 今なら解る
「改めて、よろしくお願いします!」
「おぅ、よろしくな」
冒険者ギルドで声を掛けられたギールは、そのままムートとEランクモンスター、コボルトの毛皮を納品する依頼を一緒に受けた。
コボルト程度であればギールが生まれ変わる前でも一人で倒せたモンスターではあるが、あまり目立たない様に過ごすという目的を考えれば、一人で依頼を受けないという行動を取る方がギルド職員や同僚たちに色々と怪しまれずに済む。
「あの……ギールさんは、何で冒険者になったんですか?」
ほぼ初対面同士で行うありきたりな質問に対し、ギールは少し濁しながら返した。
「成し遂げたい目的があるから、かな」
「倒したいモンスターでもいるんですか?」
「大体そんな感じだ」
対象はモンスターではなく人だが、今現在は自分より遥か高みの位置にいる。
加えて、これからまだまだ強くなる。
故に、早く早く対象に対抗できる力を得るためには、冒険者という戦闘職が一番ギールに適していた。
「ムートはどうして冒険者になったんだ」
「僕は憧れた人が槍使いで、もうその時は引退してたけど、元冒険者として活動してたんです」
「憧れ、か……まっ、そういうのが動機だよな」
ギールも、タレンだった時の同期はムートと似ていた。
「あっ、ゴブリン……僕が相手をします」
「分かった。周囲の警戒は任せてくれ」
茂みから現れたモンスターは、薄緑色の皮膚を持つ小鬼。
ランクはFに該当される非常に弱いモンスターではあるが、決して油断はできない。
ずる賢い頭を持っており、死んだふりで冒険者たちを欺くこともある。
「はっ!!!」
「ギギャッ!!!」
まだ冒険者になって半年ほどのムートからすれば、例え相手がゴブリンであっても油断出来ない。
ただ、今まではその思いが強過ぎるあまり、一歩前に踏み出す勇気が出なかった。
「せやっ!!!」
そんな臆病なメンタルを持っていたムートであったが、ギールのアドバイスやボールドの指導により、一歩前に踏み出すメンタルを習得。
場面ごとによって適切な動き、攻撃を出せるようになり、見事一対一でゴブリンの討伐に成功。
「はぁ、はぁ……やりましたよ!!!!」
「見てたよ。おめでとう」
気合の入った一閃が頭部に突き刺さり、ゴブリンは機能停止。
死体となったゴブリンから魔石という名の紫色の小さな石を体内から剥ぎ取り、一連の流れが終了。
ゴブリンと一対一の勝負に勝利したムートは自信を身に付けたこともあり、その後に遭遇したホーンラビットやスライムとの戦闘の際には、進んで前に出て攻撃を繰り出し、連続勝利を収めた。
「やっぱり、火打ち石って便利ですね」
「持ってないのか? なら、今日の買い取り額で得られる報酬で狩っとけよ。持って帰られない肉とか、こういう時に食えると飯代が浮くからな」
冒険者は体が資本であり、健康を維持する……または、屈強な肉体をつくるためには栄養満点の料理を食べる必要がある。
しかし、冒険者になりたてのルーキーたちには、残念ながら理想的な健康生活を中々遅れない日々が続く。
ムートもそんな貧乏生活を送るルーキーたちの一人。
「……ギールさんは、本当に物知りですね」
「師匠的な人たちが良い人だったからな」
全てが嘘ではなく、タレン時代に知り合った先輩冒険者たちの多くは、会うたびに的確なアドバイスをくれ、飯を奢ってくれることもあった。
(今思い返せば、割と偶々出会う先輩たちには恵まれてたよな……多分、レオルという未来の英雄を少しでも生かしたかったんだろうけど)
過去を振り返れば、なんとなくではあるが当時の先輩たちがどういう思いで、自分たちにアドバイスを送ってくれたのか解る。
解るが、そのアドバイスのお陰で、タレンが冒険者として多少なりとも成長出来たのは事実。
本人もそれは自覚してるため、ふざけんな!! といった感情が芽生えることはない。
「さて、夕暮れ前には見つけないとな」
「そうだね」
たった一日で依頼を達成する必要はない。
ただ……冒険者にはどうしても金が必要。
ルーキーのうちはその日に依頼を受けて、その日に達成して日銭を稼ぐのが一種のルーティン。
コボルト自体は決して珍しいモンスターではないため、遭遇するのにそう時間は掛からない。
直ぐに見つかるだろう……と考えていたギールに向かって、奇襲が飛んできた。
「意外と頭が良い個体か?」
飛んできた凶器はそこら辺に落ちている石ころ。
ルーキーの中にはたかが石ころと決めつけてしまう愚か者が多いが、ゴブリンと同じでたかが石ころ、されど石ころ。
当たり所が悪ければ、一発で戦闘が終了してしまう場合もある恐ろしい狂気。
「でも、数は一体か……ムート、お前一人でやってみるか」
「えっ!!!???」
ギールと二人がかりで戦おうと予定していたムートにとって、予想外過ぎてがっつり敵から目線を逸らしてしまうほど衝撃を受けた。
「おいおい、敵から眼を逸らすなよ」
「うわっ!!??」
人間同士の話し合いが終わるまで待つほど、コボルトの気は長くない。
「俺は今のムートなら、一人で倒せると思うが……どうする?」
どうする? と言われても、さらっと言葉が出てくるわけがない。
ムート的には真剣に悩みたいが、真剣に悩める時間をコボルトが与えない。
普通に考えれば現時点でムートがコボルトにタイマン勝負を挑むのは……まだ分が悪い。
だが、ギールはムートの槍技に光る物を感じていた。
「無茶言ってるのは解ってるから、別にムートが断るなら俺一人で逃げようと考えてないから、安心しろ」
元々ギールのことは本当に短い付き合いではあるが信用しているため、心配していない。
後は……今朝の一戦で習ったことを本番で発揮出来たことを繰り返すだけ。
「分かっ、た! やってみる、やるよ!!!!」
ギールからの提案を受け、ムートはコボルトに突きを放ち、自身に意識を向けさせる。
戦場から一歩離れたギールは最初のゴブリン戦と同じく、周囲の警戒を行い始めた。
(そういえば、俺にしては珍しいというか……よく、ムートに対して苛立ちや妬ましいって思いが湧かなかったな)
知る人が聞けば、その感想は笑われてもおかしくない。
だが……ギールはムートの槍技に、レオルの剣技に近い才を感じた。
(まっ、ムートがレオルみたいな、がっつりイケメンタイプじゃないからだな)
別に将来妬むほどのモテ男にはならない。
私的な意見で自身の感情に納得したギールだが……ムートが将来モテるか否か、それはその時になってみなければ分からない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます