第6話 ワンランク下がっても強敵
「こいつは、ワイルドベアか」
既に目的地を決めて移動中のギール。
その道中、初めてCランクのモンスターに遭遇。
フレイムドラゴン戦以降の、強敵とのタイマン勝負。
体はギールの三倍以上はあり、鋭い爪は容易に木を切断する。
魔力をと纏えば、鉄すら切り裂く切断力を持つ。
脅威となる武器は爪だけではなく、その巨体から繰り出されるパワープレイは数々の冒険者たちを圧し潰してきた。
体が大きく、力がある。
単純明快なその強さに、元Cランク冒険者といえど、一人で立ち向かうのは無謀が過ぎる。
(っ! クソ恐ろしい迫力だな!!??)
ワイルドベアの迫力に文句を言いながらも、両手を使って地道に攻めていく。
ワンランク上の怪物、フレイムドラゴンに勝利したギールではあるが、その勝利はまぐれも良いところ。
その勝利を自分の力だけで手に入れられたと勘違いするほど、ギールも落ちぶれてはいない。
実際にタイマン勝負でフレイムドラゴンに勝利はしたが、偶然に偶然が重なった結果。
ギールが非常にハイな状況になっており、限界値以上のベストパフォーマンスを出せたのも勝利の要因。
本来、ギール一人で戦うと仮定するのであれば、Cランクのモンスターですら脅威。
Dランクのモンスターが相手でも、一歩間違えれば致命打を食らい、それが原因で死ぬこともある。
故に、龍魂の実を食べて身体能力などが非常に強化されたギールであっても、ワイルドベアとの戦いは死闘と言っても過言ではない。
(っとに、疲れるな……今更、だけど、もうちょっとちゃんと、リリーに体術、習っておけば、良かったな!!)
当然、今回の戦いでもオルディ・パイプライブを発動。
倒せば身体強化のスキルを手に入れられるが、その代わりギールが実行しなければならない縛りは、両手のみの攻撃。
武器や脚による攻撃をフェイントに使うのは構わないが、万が一当たってしまった場合……オルディ・パイプライブに使用した魔力が無駄になる。
身体強化は最初こそ発動効果が薄いものの、極めれば純粋に強い。
過去にはどんなに努力を積み重ねても身体強化しかスキルを習得出来なかった冒険者が、その身体強化だけを極めたことで、トップクラスの冒険者に上り詰めた例がある。
レオルが剣技を聖剣技に進化させたような例もあるため、極めれば非常に優秀なスキルであるため、ギールとしてはなんとしてでも倒して奪いたい。
(クソっ! せめて足払いとか、出来れば良いんだが、多分アウトだよな!!)
龍魂の実を食べて基礎的な身体能力が上がり、更にフレイムドラゴンとの一戦に勝利したお陰で自身の壁を一つ越えたお陰で、身体能力に関してはワイルドベアに負けていない。
くわえて、考える力がワイルドベアと比べて高い人間であるため、戦闘技術に関してはギールに分がある。
ただ……体力と防御力に関してはややワイルドベアに分があるため、攻めているのはギールだが、中々決着が着かない。
体勢を崩すためとはいえ、足払いは攻撃に入る……というギールの考えは正しく、やはりフェイントでしか使えない。
(使える魔力の量が劇的に増えたのは、本当に幸いだな!!!)
魔力を纏った攻撃、であれば魔力による攻撃とは判定されないため、唯一の攻撃力増加の手段。
(スタミナも増えただろうけど、あんまり時間は、かけたくねぇ、な!!!!)
木を壁に使って跳び、ワイルドベアの頭部を鷲掴み。
「おらっ!!!!」
余った片方の手で眼玉から頭部に貫手をぶちかます。
いくら毛皮や骨の防御力が高くとも、さすがに目玉や頭部の中身は頭蓋骨以外は柔らかい。
その頭蓋骨も魔力を纏った攻撃で直接当てることが出来れば、粉砕出来なくはない。
「はぁ、はぁ、はぁ……くそ、疲れた」
えげつない攻撃を見事に決め、なんとか強敵との死闘に勝利。
「……今日の飯は、こいつの肉にするか」
ワイルドベアの死体を解体し、早速ブレスで木にを火を付けて調理。
最初の頃は初めて使用する技に四苦八苦していたが、今では大分威力調整が出来るようになった。
もう焚き火に使う木を消し炭にしてしまうことはない。
「…………昨日食べたフレイムドラゴンの肉には負けるけど、やっぱりワイルドベアの肉も美味いな」
調味料が欲しくなるところだが、それでも素の味が上手く、次々に焼いていく。
(そういえば、顔変わったんだよな……今の俺の顔ってどうなんだ? モテるのか?)
先日、小池に寄った時に自分の顔が以前の自分と異なる事に気付き、本気で腰を抜かしたギール。
さすがに嘘だと思い、全力で頬を叩くが、紛れもない現実だった。
(前より良い顔になってるとは思うんだが…………今までレオルの奴が全部持ってってたからな)
冒険の道中、同じ冒険者……街の住人たちの中で、気になる人物は偶に現れる。
同業者であれば、ところどころでカッコつけて気を引こうとするが……裏目にこそではないが、レオルが自然とそれ以上のカッコイイ部分を見せてしまうため、ギールの好意が意中の相手に刺さったことは今まで一度もなかった。
(あいつ、俺と同じ平民出身って言ってたけど……本当はどっかの貴族の子供だったんじゃねぇのか?)
改めてその可能性について考えるが、レオルは紛れもなく平民出身の冒険者。
剣技を聖剣技へと進化させる特異な存在だが、そういった存在だからこそ、未来の英雄候補と言える。
(今の顔なら、俺もそれなりに遊べるよな……いや、あんまり遊んでたら、上の連中に眼を付けられるよな)
現在、ギールは一人で行動中。
基本的に生きる目標が目標なため、これからもソロで行動しようと考えている。
ソロで行動する時点で冒険者内では目立つ。
そこで更に目立つような行動をすれば、同業者から良い顔をされないのは目に見えている。
(でも、折角良い顔になったんだし、少しぐらい遊んでも大丈夫か……とりあえず、数年単位で計画立てないとな)
一番の親友で、戦友であったからこそ、レオルの底知れない強さを知っているため、色々と慎重にならざるを得ない。
そしてあれやこれやと考えながら移動すること数日、ようやく目的の街へ到着した。
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