第4話 文字通り生まれ変わった
「……痛みが、全くないな」
傷だらけだった筈の体は、完全に元通り……どころか、明らかにパワーアップしていた。
「筋肉が、厚くなってる? 駄目だ、医者とか学者じゃないから解らないな」
肉体の見た目に関しては、目に見えて変わってはいない。
元々ある程度の筋肉はあったため、筋肉質な肉体は変わらずそのまま。
しかし……まだ実際に動いていないにもかかわらず、依然と肉体の中身が違うことに気付く。
「っ、そういえば、あの噂はどうなんだ」
龍魂の実を食べれば、新たなスキルを得られる。
鑑定を行わずに完食してしまったため、その話が本当か否か、自身のステータス欄を見て確認するしか方法はない。
「…………すげぇ。でも、オルディ・パイプライブって……なんだ?」
冒険者としてそれなりに活動してきたタレンのa頭の中には、既存のスキルについてそれなりの知識が入っていた。
しかし、オルディ・パイプライブという名のスキルは一度も聞いたことがない。
「えっと、敵対する相手との戦闘時に縛りを行うことで、相手を倒す……もしくは敵が負けを認めた場合、相手のスキルを奪うこと、が、出来、る……はっ!!!???」
まさかの効果ない様に、タレンは現在竜の谷にいることを忘れ、大きな声を出して驚いた。
まだオルディ・パイプライブについて詳しい内容は解らない。
それでも……倒した敵のスキルを奪うことが出来る。
破格過ぎるその性能に……鼓動が無意識に高鳴り始める。
(スキルを、奪うって……いや、え!!?? 嘘だろ、なんだよそれ…………ヤバい、本当に……嘘じゃ、ないのかよ)
ステータス欄に記載されたオルディ・パイプライブの説明を読み、書かれてある内容が嘘ではないと把握。
鑑定を使う前に食べてしまったタレンにはもう知る由もないが、龍魂の実を食べることで得られるスキルは……その人物の深層心理が関わってくる。
タレンの心は……他人の才能、スキルに深く嫉妬していた。
限界を超えた数が二回と、所有しているスキルの数も二つ……鑑定というスキルは少々珍しくはあるが、マジックアイテムを使えばカバーできる。
シュバリエに在籍していた頃は斥候の役割を担当していたが、それはタレンではなくとも人族より聴覚や嗅覚が鋭いリリーでも対応出来る。
他職業の者たちとの交渉術に関しては……タレンは相手の懐に潜るのが上手かったが、レオルやミレイユたち美男美女たちはそんな交渉術を無視するかのように事を上手く進めることが出来る。
「って、ちょっと待て……名前が、消えてる?」
ステータス欄の自身の名前が表示される筈の部分に、タレンという名前が消えていた。
「ど、どういうことなんだ?」
名前が消える。
これに関しては、噂による話も聞いたことがない。
「…………物理的に生まれ変わった、ってことなのか」
新しいスキルを得て、確かめずとも身体能力が上がっていると解かる。
それはもう、生まれ変わったも同然ではないのか?
その考えは……まさにその通りだった。
まず、タレンは二十二歳だったが、十七歳まで若返っていた。
それでいて身体能力は上がっているのだから、まさに夢が詰まった幻の果実と言えるだろう。
加えて、ここに鏡はないのでタレン本人は気付いていないが、容姿はタレンが十七歳だったころと比べて……少々レベルが上がっていた。
レオルの様な正統派イケメンという容姿ではないが、良い意味で悪ガキ感が残る青年。
それが今の顔である。
「新しい名前、か…………………ギール、にするか」
昔読んだ英雄譚に出てきた、英雄の仲間である一人。
英雄の名前にしなかったのは……生まれ変わったとしても、自分が英雄の器ではないと本能的に理解していたから。
そしてタレンが心の底から臨んだ名前を口にしたことで、タレン改めギールとして生まれ変わった。
「にしても、とんでもないスキルを手に入れたな」
縛りという枷がどれだけ重いのか、まだ正確には解っていない。
それでも明らかに壊れている内容であることに変わりはなかった。
「待てよ……」
相手のスキルを奪うことが出来る。
改めてその内容を理解したギールの表情に……黒く、邪悪な笑みが浮かんだ。
「っ!?」
次の瞬間、圧倒的な気配が自身に向かってくるのを感知。
「あいつは、さっきの」
異常な気配……しかし身に覚えるがある気配の二つを感じ、飛んで現れたのは……先程タレン改めギールを瀕死まで追い詰めたフレイムドラゴン。
まだ傷は癒えていないが、それでも両者の差は大きい。
「……どうせなら、試してみるか!!!!!」
龍魂の実という幻の果実を口にしたギールは、高揚感や無敵感が限界突破しており、無謀にもフレイムドラゴンを相手にオルディ・パイプライブを発動。
その結果……一定の生物しか習得出来ないスキル、ブレスを条件さえ満たせば手に入れられることが確定。
そして縛りはの内容は……負ければ、死。
あまりにも重過ぎる内容、と思われるかもしれないが、前回のようにフレイムドラゴンがギールを見逃せばペナルティは発動しない。
ブレスを手に入れることは出来ないが、死ぬこともない。
だが……今回、フレイムドラゴンはギールを明確な敵として認識。
前回のように気まぐれで見逃すことは、まずあり得ない。
前回とは状況が違うことを理解している.
それでも、龍魂の実を食べて文字通り生まれ変わったギールはアドレナリンの分泌が加速。
最高にハイな状態で死闘に身を投じた。
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