第3話 悪戯?
「ぁ、ぃ……が」
「……………………」
当然と言えば、当然の結果。
フレイムドラゴンに多少の傷はあれど、タレンは片腕を失い、火傷や切傷が大量にあり……瀕死と言って過言ではない重傷を負っている。
パーティーを抜ける際に受け取った金を全て使い、この勝負に挑んだ。
魔砲剣、スクロールといった魔法の才能がなくても使用できる、使い捨てのマジックアイテムを使用したこともあり、ドラゴンにダメージを与えるという奇跡は起こせた。
いかに強力な武器を持っていようとも、使用するタイミングが悪ければ、打ちミスしてゴミと化す。
タレンの実力を考えれば、良くやったと言える結果だった。
(殺す……殺す、絶対に殺す、俺が殺る。まだ戦れる。殺す、絶対に、俺が、俺が殺る!!!!!!!)
良くやった……そう評価される結果など要らない。
タレンは己の欲を、信念を振り絞り、乾いた喉を震わせて立ち上がる。
「っ!」
そんな瀕死の男が発する執念に、フレイムドラゴンは後退った。
生物の頂点に君臨する生物が、瀕死の男に対して後退ったのだ。
もし、この場にタレン以外の人間がいれば、その事実に驚かずにはいられない。
凡と評することしかできない男が、ドラゴンを圧したのだ。
しかし……フレイムドラゴンとしては、自身の無意識の行動に憤りなど感じなかった。
何故なら……タレンか発せられる雰囲気は、ドラゴンが逆鱗に触れられた状態と同じだったから。
ドラゴンであれば、その恐ろしさを本能的に理解している状態。
種族して優れていても……ドラゴンとして最下級のワイバーンが逆鱗状態になれば、一切近づこうとしない。
そんな最凶凶悪と言える雰囲気を、フレイムドラゴンはタレンから感じ取った。
もう、爪を突き立ててればそれで消える命。
なのに……近づけば、喉を嚙み切られそうなほどの濃密な殺気、執念。
ブレスで焼き焦がせば良い?
己の視界を塞ぐような真似をすれば、その間に自分の身に何が起こる変ったものではない。
「…………」
その結果、なんと……フレイムドラゴンはタレンを殺さず、その場から立ち去った。
「ん、だ、よ……しっ、かり、殺して、ぃけよ」
瀕死の状態からなんとか立ち上がったタレンだったが、気力が尽きて再び倒れ込んだ。
その隙を狙って再びフレイムドラゴンが襲い掛かる、なんてことはなかった。
ただ、依然としてタレンの命が危険であることは変わりない。
(くそ、あぁ……本当に、死ぬんだな)
傷はギリギリセーフであっても、流した血が多過ぎる。
自身の執念が強烈な殺気がフレイムドラゴンを退かせた。
そんな偉業と言える出来事は……誰にも知られない。
以前のタレンであれば、心の底から惜しいと思った。
それを世の人に、同業者たちに知られれば、自分は仲間たちと比べて劣っていないと言えたから。
しかし、もうその様なことを考える気力すらない。
眼を閉じ、力を抜けば……安らかな死が待っている。
(……あれ、は)
そう思った瞬間、枯れた木に実る一つの果実が眼に映った。
(嘘、だろ……ふざ、けるなよ)
本当に神という存在がいるのであれば、目に映る光景は……神の悪戯としか言いようがない。
タレンは沈みかけた体を無理矢理動かし、地面を這って木の元まで移動。
もう、立てるかどうか分からない。
その果実を手に入れる前に死ぬかもしれない。
しかし、今のタレンの頭に……心に、その様なネガティブ要素は一欠片もなかった。
涎が止まらない。
全意識が……全細胞が目の前の果実に意識を集中させ、食らうために体を動かす。
「ふっ、ぬぉぉあああああっ!!!!」
最後の力を振り絞り、魔力を応用した斬撃を放ち、先程まで何もなかったはずの枝を斬り落とした。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
再び体を引きずり、なんとか落ちた果実の元まで辿り着き……手を伸ばした。
(これが、あの)
タレンは自身が所有するスキル、鑑定を使う間もなくその果実を食らった。
無我夢中で喰らい続けた。
先程まで殆ど動かなかった体が、その時だけは嘘みたいに動いた。
「っ!!!!!?????」
美味い、という感想が零れた瞬間、体が内側から爆発したような衝撃を感じた。
(や、ば……)
その果実の効力に関して、重要な部分を忘れていたタレン。
食い終わってからようやく思い出したが、時すでに遅し。
爆発的な衝撃を感じた直後、今度は本当に意識が飛んでしまった。
タレンが食べた果実の名は、龍魂の実。
木になる条件が殆ど解明されていない、幻の果実とも呼ばれている超が三つや
四つでは足りないほどの価値を持つ。
食べれば身体能力の向上、スキルの習得や限界値の上昇。
人によっては若返ることもあり、基本的に人体にとって利しかなく……戦闘者にとっては、喉から手が出てうっかり魂すら飛び出るほど欲しい果実。
その価値は、売れば孫の代まで遊んで暮らせるほどの金が手に入る。
国の規模によっては、国宝になってもおかしくないレベルの貴重品。
ただし……食べる際には、基本的に万全な状態でなければならない。
食せば、生まれ変わるという言葉が正しいレベルの衝撃を受け、文字通り能力に関しては生まれ変わった言っても過言ではない力が手に入る。
つまり……フレイムドラゴンと戦ってボロ雑巾状態のタレンが食べれば、そのまま衝撃に耐えられず、ころっと死んでもおかしくない。
「っ………………死んで、ない、のか?」
しかし、今回ばかりは悪運が勝ったのか、目覚めたタレンがいた場所は天国ではなく、龍魂の実がなっていた木の下だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます