第2話 ある意味、死と同じ
話が纏まり、正式にタレンが所属パーティー、シュバリエから抜けることが決定した。
基本的にパーティーメンバーが抜ける時は、最後の最後ということで宴会などを行うことが多いが、今回は離脱理由が全くもって前向きではない。
一応レオルたちとしてはレストランの個室でお別れ会を開こうと考えていたが、タレンはそれをやんわりと断った。
「……これから、どうしようか」
パーティーを抜ければ、当然同じ宿にいれるわけがない。
これから生きていく金に関しては、パーティーの貯金からきっちり六分の一を貰ったため、当分困ることはない。
タレン自身はあまり貯金するタイプではないが、Bランク冒険者が貯めていたパーティー貯金の六分の一ということもあり、これから新生活を送るにしては申し分ない額。
加えて、タレンの年齢はまだ二十二。
人生まだまだこれからの年齢であるため、いくらでも再スタート出来る。
「冒険者は……これ以上、無理だよな」
伊達に優秀な仲間たちと一緒にいた訳ではなく、総合的な戦闘力であれば、Cランクに相応しい実力を持っている。
冒険者の中でも十分食べていけるランクであり、中には美人、可愛い揃いな受付嬢と結婚する者もいる。
(とりあず、この街じゃ再スタートなんて出来ねぇ)
一般的に考えれば、幾らでも再スタート出来る年齢であり、そのための資金もある。
しかし……シュバリエという、これからまだまだ伸びる超有望株のパーティーから追放されたというのが不味い。
タレンが色んな意味でレオルたちと釣り合っていないという話は、パーティーを抜ける前から出ていた。
それでもレオルたちがその話に嚙みつくこともあり、今では表立って口にする者はいなくなっていた。
だが、冒険者ギルドには円満的な理由で抜けたと報告はしているが、ギルドはこれからの冒険にタレンが付いていけないから、という理由を見抜いていた。
それは同業者たちも同じ。
将来有望なパーティーから、実力不足故に追放された。
それはもう消せない事実であり、それだけで同業者から下に見られる場合が多い。
加えて……現在、タレンはパーティーを抜けて大量の金を持っているため、チンピラ同然の冒険者に狙われる可能性が高い。
総合的な戦力はCランク相当であっても、同ランクの冒険者複数に狙われては、どう足掻いても負けてしまう。
「…………死んだ方が、良いか?」
故郷を、生まれた国を捨てて他国で再スタートするという手段もある。
悪くない道ではあるが、今のタレンにそれを実行出来るほどの気力はない。
だからといって死ぬというのは極端過ぎるが……今のタレンにとって、現状はそう思ってしまう程の絶望と変わらなかった。
もう、自分でも解らないほど前から、上を目指そうという気力は消えていた。
若い頃の……幼い頃の情熱は時間が経つとともに、甘い汁を吸い続けようという卑しい気持ちに変わっていた。
その情熱を燃やし続ければ、今でも変わらずレオルたちの傍に居れたのか?
そんなタレンの言葉に答える者はいない。
いない、が……それでもタレンが非凡たちに追い付くのは不可能というのが、変えられない現実だった。
本人がその事実を知る由もないが……情熱が失せた頃から、タレンは本能的にその差を感じ取っていた。
「うん、そうだな……もう生きてる意味なんてない」
逆恨みという名の逆ギレを起こし、シュバリエに……レオルに牙を立てる?
今のタレンではどう足掻いても返り討ちにされ、犯罪者になるのがオチ。
「でも……どうせ死ぬなら、華々しく死んでやるか」
冒険者や騎士……戦闘を生業とする者たちから見て、その目にはあまり好ましくない覚悟が宿っていた。
戦場に死に場所を求め、生きて帰る気がない。
「おい、タレン……お前、何するつもりだ」
現在滞在している街で付き合いがある武器屋の店主はその眼に気付き、その胸の内を尋ねた。
店主はタレンがシュバリエから追放されても、態度を変えない良識人といえる存在。
金を持ってるのであれば、文句を言うことなく武器は売る。
それでも……幽鬼に近い眼をしているタレンを止めずにはいられない。
「どうせ一人になったんだから、根性を見せようと考えてるだけですよ」
「根性って、お前……」
しかし、店主はその目から自分が何を言っても止められない、質の悪い強さを感じ取った。
「……自暴自棄になっても、良いことなんてねぇぞ」
「解ってるよ……でもさ、もう……生きてる価値を、感じねぇんだ」
だからこそ……冒険者として、自分は今猛烈に生きていると感じにいく。
(ありゃ、もうレオルたちの言葉でも届かねぇか)
店主には掛けられる言葉がなく、用が済んだタレンは次の店へ向かった。
そして翌日……タレンは街を出て、とある場所へ走り続けた。
「……やっぱり、ブルっちまうな」
向かった場所は、竜の谷。
ほぼ一日中走り続け、ようやくたどり着いた……戦うことを生業とする者たちにとっては、墓場とも呼べる場所。
奥地は生物ピラミッドの頂点に君臨するモンスター、ドラゴンたちが多く住む。
気軽にドラゴンと遭遇できるが、踏み入れば二度と帰ってこれないとも言われてい死地。
そんな墓場に……タレンは確かな恐怖を感じながらも、足を踏み入れた歩み始めた。
(……恐ろしいほど静か、だな)
静かさに、恐ろしさを感じる。
無音、無言の恐怖を感じながら数十分後、タレンの元に一つの火球が飛んできた。
「っ!!!???」
音、視線、気温の変化。
様々な要素から自身に向けられた攻撃を察知し、ギリギリで反応。
見事に回避してみせたタレンだが……火球の熱さに反し、冷や汗が止まらない。
「フレイムドラゴン、か」
「…………」
現れたドラゴンの名は、フレイムドラゴン。
Bランクのモンスターであり、シュバリエであれば誰一人死なず倒せるが……苦しい戦いになるのは必然の相手。
どう足掻いても、奇跡を起こしてもタレンが一人で倒せる相手ではなかった。
「華々しく死ぬには、丁度良い相手じゃねぇか!!!!」
恐怖を圧し殺し、己の武器を全て使い……最後の戦いへ挑む。
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