「絶対にあいつの才能を奪う」正当な理由で追放された男の逆ギレ劇? 

Gai

第1話 真っ当過ぎる追放理由

「タレン……すまないが、君には僕たちのパーティーから抜けてほしい」


「えっ、ちょ! 冗談だよな!!!」


とある酒場……ではなく、宿の一室で周囲のメンバーと色々と似合わない男が、彼らの中心人物から優しい追放宣告を受けた。


追放宣告を受けた男の名はタレン。

短髪の黒髪を持ち、身長は百七十半ば。

体つきは冒険者という過酷な仕事を乗り切るために、それなりに鍛えられてはいる。


だが、この場にいるもう一人を除いて……共に冒険者として行動するパーティーの中では、一番顔面偏差値が低い。

見るに堪えないブサイクと言うほど醜くはないが……凡。


まさに凡という評価が正しい。

そしてそれは容姿だけの話ではなく、冒険者として息抜き……上へ登る力、才能も凡だった。


「なぁ、タレン。レオルが冗談でこんな事言う訳ねぇだろ」


「リリー……いや、それなら本当に俺のことをシュバリエから追い出すのかよ!!」


綺麗な銀髪をあえて整えず放置している褐色肌の……タレンやレオルと普通の人間ではない、獣の様な耳を生やした獣人……狼人族の美女からリーダーの言葉は冗談ではないと伝えられる。


「タレン、追い出すという言葉は良くないわね。あなたの力じゃ、この先付いてこれないの。それは、あなたも薄々気付いてたでしょ」


「み、ミレイユ……でも、そんな、いきなり」


美しい緑髪をロングにし、ミステリアスな雰囲気を纏う尖った耳を持つエルフの美女、ミレイユから現実を……眼を逸らしてはいけない問題を突き付けられる。


冒険者にとって強さの基準となる項目は主に二つ。

持っているスキル……才能の数と、己の限界を超えた数。


スキル剣技を持っていると、持っていない人物よりも技術に優れ、扱う際の身体能力が僅かではあるが上昇する。


そして限界を超えた数。

己の殻を破り、次のステージに進むことで、身体能力……スキル習得で得られる技、魔法の発動などに必要な魔力量の増加。

それらが大きく増加することで、個の戦力が大きく上がる。


冒険者にはランクという評価制度があり、一番下はF。一番上はS。


FからEの間であれば、限界を超えた数は一回、持っているスキル数はゼロから二。

DからCの間であれば、限界を超えた数は二回から三回。所有スキルの数は二から四。

BからAの間であれば、限界を超えた数は四回から五回。所有スキルの数は四から六。

Sという人外の領域に足を踏み入れば、限界を超えた数は六以上。所有スキルは七から八というのが一般的な定義。


世の中には使用者にスキルを与える、マジックアイテムという便利で有難い道具があるが、一般人からすれば失神するほど値段が高い。

冒険者として成功している部類であるレオルたちであっても、使用者にスキルを与えるマジックアイテム……ルーン石は購入するか否か、数日悩んでも悩み足りない代物。


「タレンよ。この先今よりも激しい戦場へ向かえば、もうお主を絶対に守ってやれると断言出来ないんだ」


「て、テオン……それは、ぁ……」


他種族の中でも一番体型が特徴的であり、基本的に横幅で毛深い種族であるドワーフのテオンからも、これから先お前は付いてこれないと宣告されたタレン。


タンクであるテオンから何度も守れ、テオンに重傷を負わせてしまったことがあるが故に……これ以上、強くは言えない。


因みに、タレンが限界を超えた数は二回と、所有スキルの数は二つ。

短剣技と鑑定だけであり……仲間が優秀であるという点も加えて、ギリギリCランクになれた。


レオルたちに関しては全員がBランクであり、全員がまだ限界に達しておらず、Aランクという実質的な頂点を目指せる力を有している。


(お、俺だって……俺だって才能があれば!!!!!!)


仲間たちから現実を突き付けられ、意気消沈しかけるが……それと同時に、ある部分に対して怒りがこみ上げる。


才能。


どの職に就くにしても、上を目指すとなれば絶対に必要な要素。

タレンはとある時期から、自分にはなく……仲間たちには眩しい程備わっている要素に対し、憎しみに近い感情を抱き始めた。


だとしても……まだ、自分は彼らの仲間であることに変わりはない。

タレンは自分とレオルの三人でパーティーを組んだ、始まりのメンバーである人族の金髪ポニテの巨乳美女、クリスタに懇願の眼を向けた。


「っ……テオンの言う通り、この冒険を続ければ……タレン、あなたは本当に死んでしまうかもしれない。私は……そんな未来は、訪れてほしくない」


「っ!!!!」


最後の頼みの綱が消えた。

後で恨めるような、タレンを心の底から下に見る様な発言ではなく、純粋に仲間の……友人の命を心配する言葉を向けられた。


(クリスタ……お前まで、俺を……なんで、何でなんだよ!!)


理不尽だ!!!!! と叫べない、掴みかかれない内容なのは本人も理解している。

理解しているからこそ、拳を握りしめ、震えるだけにとどまっている。


Aランク冒険者になろう。


それは、タレンとレオン、クリスタの三人でパーティーを結成した時に決めた目標。


(……そう、だよな。俺が……ただ、俺がその目標に、付いて行けなかっただけなんだ)


握り拳の力が緩み、震えが止まった。


現実を受け入れることが出来た?

そんなに直ぐ受け入れられるわけがない。

まだ怒りや憎しみの感情も消えていない。


ただ……もう現状を維持することは不可能なのだと、心が理解してしまった。


「……分った」


小さく、消えてしまいそうな声で、パーティーからの追放宣言を受け入れた。

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