第24話 魔核
「ほらライアン、少しじっとしてて。」
「アビーまぁだぁ?」
「あと少しだ。よし、今日はおしまい。」
「んー体がなんだかポカポカするよ!ありがとうアビ!」
ライアンは走りながらアビステイルにお礼を言うと、疾風の如く走り去っていった。
「また誰かにイタズラしに行くんだろうなぁ。」
アビステイルがボソッと呟くと同時に窓が開き、ブレイブが入ってきた。
「勇者よ、普通にドアから入って来れぬのか?」
呆れた声色を出したつもりが、いつも勇者の手土産に餌付けされているアビステイルの表情は、嬉々としていた。
「わずかだが、異質な魔力を感じる…。大丈夫か?」
ブレイブの表情が険しくなる。
「あぁ、やはり勇者だな。わかるか?ライアンの中にある魔核を融解していた。その名残かな。」
アビステイルの目線はブレイブがテーブルに置いた紙袋。
「魔核だと?なんでそんなものがあの子にあるんだ?」
「埋め込まれたんだろう。父親あたりかな。酷いことをするものだ。」
ウキウキしながら紙袋を開けようとすると、ブレイブがアビステイルの手を掴んだ。
「父親にだと!?なぜそれが分かったんだ?」
「うちの側近は優秀でね。諜報活動も得意なんだよ。あの子の母の名はリリア。現国王妃だ。」
なんとか捕まれた手を離そうとジタバタするが、がっしりと掴まれびくともしない。
「国王妃だと!?じゃあ父親は…国王カノーシュ!!?」
「しかもリリア妃は国境にある離宮に幽閉中だ。もしかするとライアンが生まれてからずっとかもな。」
「…何の為に子に魔核を?」
「我が国には強固な結界が張ってあるのは知ってるだろう?代々魔王が自分の魔力を凝縮して注いである。とても強力だ。それは防御と共に、魔族が勝手に他国に侵入するのも防いでいる。無益な戦いはしない方が良いからな。」
まだ手が自由にならず、体をあちこちに捻りながら逃れようとする。
「国民は、商業で交易をする場合を除き、勝手に結界の外には出られんし、出ようとはしない。が、周りは違うらしい。」
どう足掻いてもこの拘束は外せないらしい。ではどうするか……
「人間国側が壊そうとしているのか?」
「少し前は獣人族もだったが、ムスタスがこちらに来てからは、それは無くなった。」
ムスタスの名が出た瞬間、ぐっと力が入った。
「ちょっ!勇者!痛いであろうがっ!早くその袋を寄越せ!」
「結界の壊し方は?」
「…同種類の魔力で相殺できるが、量がはんぱないぞ。だが、」
「針の穴くらいなら開けられるか……それが無数となれば、壊すことは容易いな。」
ブレイブの手の甲をぎゅうぎゅうつねる。
しかしその手はびくともしない。
「その針の穴を開ける為に、魔核を使うのか?」
「有機物に纏わせると、開けやすい。それが生命体ならなおさらだ。ってかいい加減、手を離せっ!!」
「なぜ国王はそこまでして魔国を制したいのだ?」
「欲深い権力者ってのは、上を目指すからな。私は違うぞ。平和がいい。平穏万歳だ。」
急にふっとブレイブの顔が柔らかくなり、掴んでいた手とは反対の手で、紙袋から取り出したスコーンをアビステイルの口に入れた。
「ふごっ!ふががっ!ふごごごごっ!」
「そういう風に言える魔王が愛しいよ。…同種類の魔力と言ったか?では魔核に込められていた魔力は、魔族のそれか?」
いきなりなかなかの大きさのスコーンを口に入れられ、ふごふごと口を動かしていたアビステイルは、勇者の問いかけしか聞こえなかった。
「うぐっ、うぐうっ、ごくんっ。勇者よ、いきなり入れるでないわ。安定の美味しさだったが…。そうだ、魔族の魔力が感じられる。かなり微力だがな。その魔力に覚えがある。」
「誰だそれは。」
アビステイルは残りのスコーンに手を伸ばしかけたが、またもや勇者に阻まれる。
「その輩に、話を聞きに人間国に行こうと思ってな。っておいっ!口に入れようとするなっ!自分で食べられる!」
「それはダメだ。俺が食べさせたいんだ。自力摂取は諦めろ。」
「ぐぬっ!なんだこの圧は…。戦いの時より気迫があるじゃないか。」
「では行こうか。」
アビステイルの口についたスコーンのカスを指で拭って、勇者が片手を握って窓の方へ向かおうとする。
「人間国の案内を勇者に頼もうとは思っていたが、窓からは出んぞ。」
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