第22話 人の子

その頃魔王では………


「こらっ!ライアン待ちなさい!、」


「待てと言われて、待つバカは居ないよー!」


城の長い廊下を二つの影が疾走している。


「あらやだ、ライアンってばまたアランと遊んでる~」


結界の修繕の際に、瘴気をまとって倒れていた人の子をアビステイルは城に連れ帰り、治療を施した。名をライアンと言うらしい。


で、現在ではすっかり元気になり、三大側近相手にちよっかいをかけては遊んでいた。


「昨日はサイレスが落とし穴に落ちたわね。」

アビステイルはため息をつかながら、その光景を思い出していた。


「そうなのよ~まったく笑っちゃう~」


ディーダはケタケタと声をあげて笑い転げている。


「ディーダー!」


「え?なあに?」


ディーダが顔を上げると、ビシャッと音がして魔鳥の卵が顔にクリーンヒットした。


「ラぁーイぃーアぁーンー…………」


「うわぁディーダが怒った怒ったー!」


「こんのぅクソガキがぁーーー!!」


疾走する影が3つに増えた。


「やれやれ、静かに過ごしたいのに、毎日毎日騒がしい……」


すると急に向きを変えて、ライアンがアビステイルの元に走ってきて抱きついた。


「アビー、二人とも怖ーい」


「それはそなたがからかうからであろう?

これ、頭をグリグリ押し付けるな。くすぐったい。」


「こらーーっ!魔王様に抱きつくんじゃないっ!!」


「魔王様、そのままクソガキ捕まえてて!」


「きゃーぁ♪」


「やだ怖ーい」


「ん?ムスタスもなんで抱きつくんだ?」


モフモフの尻尾がパタパタと動いている。


「このしがない第3者皇子!どさくさに紛れて、魔王様に抱きつくんじゃないっ!!」


「クソガキがぁ!観念しなっ!」


「アビー助けてー。きぁあ♪」


「アビー♪大好きー♪」


あぁ、勘弁して……


みなが騒ぎ疲れ、侍女がいいタイミングでお茶の用意をしてくれた。


「ねぇアビ。今日はブレイブ来ないの?」


「勇者か?毎日は来ないな。」


「でも好きな人には毎日会いたいでしょ?」


ブハッと盛大にお茶を吹き出した。


「な?何?」


「母様が言ってたよ?大好きな人にいつでも会いたいって。会えないと死んじゃうって。」


クッキーを食べる手を止めて、ライアンは呟く。


「父様は母様に会いに来ないんだ…。母様は毎日待ってるのに。」


「ライアンは母様好きか?」


「うん!大好き!優しく髪を撫でてくれるの。……だけど最近は泣いてることが多いの…。そうすると僕を……」


「……殴るのか………。」


ライアンの体には新古様々な大きさの内出血があった。


着ていた服はボロボロになってはいたが、元は高級な素材であっただろうと思われた。


貴族の子?隠し子とかか。

よくある話だ。


「人間の愛は薄くて脆い。生涯を誓った相手を簡単に変える。よくある話だ。」


ムスタスが吐き捨てるように言った。


「でもね、朝が来ると優しい母様に戻るんだよ。抱っこもしてくれるし、ぎゅっとも……」


大きな瞳からポロポロと涙がこぼれていた。


「ライアン…。」


私はライアンを引き寄せ、ぎゅっと抱き締めた。


「母様ぁ母様ぁ」


腕の中のライアンは

堰を切ったように泣きじゃくる。


私はただただライアンの綺麗な金髪を撫でていた。











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