第21話 願い

人間国の勇者達の拠点である宿場。

その一室に魔王討伐メンバーが揃っていた。


「で、ブレイブが言いたいのって魔王討伐を止めるってこと?」


「そうだ、ミランダ。」


「ダメですよ!残虐非道な魔王をこのままのさばらしては、世界の為になりません!」


「ではマリアンヌ、魔王の残虐非道な行動とはなんだ?」


「子供達を拐って、他国に売りさばいていたり、村を襲って村人を惨殺したり、それと…」


「その数々の行動は、我々人間が行っていたことだ。魔王は逆に奴隷市場を制し、子供達を解放した。村人を惨殺したのは、盗賊だ。」


「そんなこと!なんでブレイブは魔王を擁護するのです!まさか本当に魅了の魔法に掛かって…」


「それはないよな?勇者のギフトがあれば精神魔法にはかからないもんな?」


「…一種の魅了なのかもしれないな。」


豊富な黒髪を、必死に撫で付けている深紅の瞳のかの方が脳裏に浮かぶ。


「おいおい、ブレイブ。そんなしまりのない顔をするなよ。」


「わたしは了承できないね。討伐が終われば、報奨だってたんまり保証されてるもの。

第一途中で止めたらアンが……」


「アンって誰ですの?」


「なんでもない!とにかくわたしは反対!絶対に!!」


ミランダはバンッ!と乱暴に部屋の扉を閉めて出ていってしまった。


「ブレイブ、みんなの想いは一つです。魔王討伐し、世界に平和をもたらさなければ。」


「魔王が悪と誰が決めた?その残虐非道な行いを自分の眼で確かめたのか?」


ブレイブは真っ直ぐにマリアンヌを見て静かに言った。


「わ、私は見てはいませんが、魔王のせいで酷い怪我の騎士達を治療したことはあります!それはもう酷い有り様で……」


「その酷い怪我の騎士は、本当に魔王から受けた傷なのか?」


「そ、そんなの…本人がそう言っていたので、間違いありませんわ!騎士ですもの!」


ふうぅ。と長いため息をつき、ブレイブが今度はデンを見た。


「俺は、報酬があれば魔王だろうが、目がいっちまってる国王だろうがかまやしない。」


両手を上げておどける表情のデン。


「本当に倒さなければならないのは、誰なのか。もっと考えて欲しい。噂や嘘に惑わされずにな。」


「……ブレイブは真の悪は他に居ると?」


ブレイブは肯定とばかりにマリアンヌを見た。


「みんなあの国王に討伐が無事終えたら、"望みを一つ叶えてやる"と言われて、何を望んだ?」


「俺は郊外に広い土地と家。妻と子供達と牧場でもしようかと思ってな」

カカカカとデンが笑う。


「デン!?奥さんと子供が居ましたのー!?知りませんでしたわ…。」


「マリアンヌ、お前さんは何を望んだんだ?」


「わっわたくしですか!?……孤児院の増設……ですわ。」


「はっはー!嘘はいけねーぞ!ミランダが言ってたぞ。マリアンヌの言った望みは、素敵な貴族男性との結婚ーってな。」


「ちよっ!違っ!」


慌ててイスから立ち上がったので、机に置いてあったコップがガシャンと床に落ちた。


「で、そのミランダはなんだっけな?」


「…ミランダのことだから、財宝だとか金貨なんじゃないですの?」


赤い顔をプリプリに膨らませ、床を布で拭きながらマリアンヌが答える。


「それぞれの思い。と、願い…か。」


ブレイブは窓の外を眺めた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る