第20話 修繕と発見

「もう少しこっちへおいでよ、アビちゃん。」


「第3皇子、そんなにひっつくな。アビステイル殿が窮屈だろう。」


「じゃ、勇者くんが向かい側に座りなよ。三人並べばキツイに決まってるでしょ?空間認知能力無いの?」


「さっきからアビステイル殿に馴れ馴れしい。謁見の時に斬りかかってきたくせに。離れろ。」



ガダゴドガダゴドと馬車に揺られながら、こんな不毛なやり取りを頭の上でずっとされている。


(やだやだやだやだやだやだ。帰りたい帰りたい帰ります!!)


「ねぇねぇアビちゃん、結界は簡単に直せるものなの?」


「(さりげなく手に触るな!握るな!)問題ない。」


さっと絡められた手を引き抜き、前を向いたまま答える。


「これまでも結界の綻びは、アビステイル殿が一人で修繕してたのか?」


「(こっちも当然の如く私の手を自分の膝に置かせるな!指を絡ませるな!)大がかりなものはそうだ。」


「アビちゃんの魔力は無尽蔵みたいだし、流石だね。あ、さっきのクッキーの欠片が付いてるよ。」


そう言うとムスタスは、私の口の端に付いていたクッキーのカスを指で取り、自分の口に入れた。


出掛けにアランお手製のクッキーを一人で頬張ってきたのがバレた!くっ不覚……


「……アビちゃん、今のは赤面して照れるところだよ?ま、そんな鈍感なアビちゃんも好きだなぁ。」


「第3皇子、今すぐ降りろ。」


「あははは、それそっくり勇者くんに返すよ。」


馬車に乗ってからは、ずっとこんな調子でいい加減頭が痛くなってきた…


「魔王様、到着致しました。」


とある森の入り口。ここから先は人間国の領地だ。


御者がドアを開ける。

真っ先に私は飛び出した。


「こらこらアビちゃん。レディーは最後に降りるもんだよ?せっかくエスコートしようとしたのに。」


そんな事を言いながら、降りるときにさりげなく勇者の足を踏みやがったな第3皇子……


「魔王殿、何か……異様な気配がする。」


しれっと続けて降りてきた勇者。

ムスタスを無視する方向らしい。

ふむ、大人な対応だ。5点あげよう。


いかんいかん、真面目に仕事をせねばな。


「……こんなに瘴気が漂っているなんて…。おかしい。」


この国は土地柄か瘴気が発生する。

そんな中で、ずっと暮らしてきた魔族は瘴気に対し免疫がある。

魔獣なんかは、体内に瘴気を貯めていたりするが、こんなに濃度の高い瘴気は滅多にないし、さすがにこの中にずっと居ると気分が悪くなってくる。


ふと顔を上げると、キラキラとした細かい破片が空中に浮かんでいる。


(割れた結界の破片か…。取りあえず修復しなきゃ。)


手の平に魔力を集める。

細く細く…出来るだけ細く細やかにに魔力を練り上げる。

結界が割れた所の断面に、練り上げた魔力を塗っていく。

もう片方の手で、割れて粉々になった所を新しく作っていく。


「すごいな……。あんな魔力量をこんな繊細に扱えるだなんて。流石アビちゃん。」


「………」


塗った断面と、新しく作った面をくっつける。


『『強固に。強固に。我が国を守る為、綻びなきように。我が名に掛け、永久に。』』


結界は一瞬輝いてから、スウッと見えなくなる。


「終わったのアビちゃん。すごいね!」


「(結構しんどいんだよな、これ。早くベットで寝たい)終わりだ。帰還する。」


「魔王殿、まだうっすらと瘴気が残っている。あれは……」


突然勇者が走り出した。

すると茂みの中からなにやら抱えてきた。


「人間……の子?」


「そうらしい。ただ、かなり衰弱していてさらに悪いことに……」


「瘴気がまとわりついてるな…。取りあえず城に戻る。その子もだ。」


「そんな面倒な事しなくても、その子を森に置いとけば、同族がなんとかするんじゃないの?しかも人間だよ?アビちゃんが助ける意義ないんじゃないの?王様がそんな迂闊に行動しちゃダメだよ?」


「ムスタス、お前の国ではそうかもしれないが、私は助けられる命があれば、人間だろうが獣人だろうが助けようとする。しかもまだ子供だ。理解しろとは言わないが、私の行動は私が決める。」


勇者を見ると、小さく頷き馬車に子供を抱え乗り込む。


「……その甘さ、後で命取りにならなきゃいいけどね。」


続いてムスタスも馬車に乗り込んだ。勇者と子供の反対側に乗ったので、私は勇者の隣に座る。


ムスタスは不貞腐れたように、頬杖をつき窓の外を見ている。


やれやれ。













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