第19話 仄暗いもの

とある一室。

昼間だと言うのに、厚いカーテンは閉まったまま。

空気も心なしか澱んでいるようだ。

薄暗く、広いその部屋の豪華な椅子に座る人物。

異常にアルコールの匂いが漂う。


「……忌々しい姪。お前のようなものに国を納める器量はないわ。何度考えても腸が煮えくり返る。そしてこの身に流れる半血。あぁ全てが忌々しい……」


持っていたワイングラスを握り潰し、ガラスの破片で切れた皮膚からは、赤い血ではないものが絨毯に滴り落ちた。

次第に染みを作っていく。

段々と大きく、歪に。


コンコン


「あぁ、もう来たか。入れ。」


扉は静かに開き、ひょろっとした男が恭しく部屋に入る。

手にはなにやら古びた羊皮紙を持っていた。


「それを寄越せ。」


男は椅子の前まで来て、膝をおり頭を垂れ羊皮紙を差し出す。


『£$₹₩₴₪₡¤₠€₧₥』


呪文のような言葉を紡ぎ、ワイングラスで切れた指を羊皮紙に置く。


その赤ではない血液が、羊皮紙全体に染み渡り、仄かに黒い霧が羊皮紙を覆う。


「持っていけ」


羊皮紙を跪く男に投げつけ、早く出ていけとばかりに手を振る。


男は羊皮紙を拾い、表面を撫でてニタァと笑い、恭しくまたお辞儀をして部屋から出ていった。


「あぁ、忌々しい……」


誰に向けた言葉なのか。




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