第26話


 一瞬。


 思念体へ向かう健斗向け、高圧的な風属性が襲う。

 空間に響き、翔けるその衝撃波。

 これが京介の言う波動なのか。


 黒椿を横に構え、防ぐ。

 ――が、刀身に触れた瞬間、刀身を起点とした衝撃波が健斗を襲う。


「ぐはっ!」

 まるで、身体の全面すべてが殴られた様な感覚。

 健斗は強く押し出される様に吹き飛ばされた。

 これが衝撃波――波動なのか。


 ――しかし、僕もこれで倒れるわけにはいかない。


 吹き飛ばされる中、健斗は受け身をとり、態勢を立て直した。


「まだだっ!」

 アスファルトの地面を蹴り上げ、反撃を繰り出す様に思念体へ向け走り出す。

 まだ胸部や腹部が圧迫された様な痛みがある。――だとしても、僕は走る。


 健斗は悟ったのだ。

 この思念体はここで倒さなければいけない――と。


 黒椿を振り上げ、思念体へ向けゼロ距離での斬翔を放った。

 思念体を囲む球状の青い瘴気は、防壁の様に斬翔を纏った黒椿と激突する。


「京介!」

 さて、思念体の気は引いた。健斗はここぞとばかりに叫ぶ。


 健斗が叫ぶ寸前、すでに京介は思念体の方――倒れる人々へと向かっていた。


「瞬光――っ!」

 人々の近くへ着くと、京介は白椿を抜刀し、瞬光を発動させる。


 瞬光。

 かつて、アガリアを都市外へ飛ばした転移魔法。


 一瞬の白き世界――白光。

 視界が晴れた頃、思念体の周囲で倒れていた人々たちはその場から消えていた。

 京介が全員、安全な場所へと逃がしたのだ。


「さて――と」

 人々が転移したのを確認したのか、

 京介は白椿を鞘へと戻し、ゆっくりと息を吐いた。


 すると、息を吐いた京介の隣で、健斗が勢い良く吹き飛ばされてくる。


 思念体を囲んでいた球状の青い瘴気は、健斗のゼロ距離斬翔をカウンターの様に跳ね返し、健斗へと激突したのだ。


「カウンター――か」

 一部始終を見ていた京介が感心した様に思念体を見つめる。


「……接近戦は厳しいかもね」

 気持ちを切り替える様に大きく息を吐いた。


 痛みを堪え、健斗はゆっくりと起き上がると、思念体へ向け斬翔を放った。

 その斬翔は球状の青い瘴気に触れると、一瞬で弾け飛んだ。


「まるで、拒絶――だな」

 京介がそう言う頃、気がつけば周囲には健斗たち以外いなくなっていた。


 周囲。大通りにも関わらず、人の姿も気配も感じない。


 少し遠いところで、一般人がこの場から離れる様に歩いているのが見えた。

 避難は順調に進んでいるのだ。


「拒絶ね……。まるで、磁石の反発だね」

 弾け飛ぶ様はそんな風にも見えた。


「確かにな」

 そう言うと京介は白椿を振り、白き斬翔を思念体へ放つ。


 円を描く様に左回りで走り、さっきとは反対の位置に移動する。

 放たれた白き斬翔は、健斗の黒き斬翔と同じく弾け飛んだ。


「やはり、一緒か」

 走りながらも、わかっていた様に京介は呟いた。


 数秒後、思念体は健斗と京介に挟まれる。


 京介が白椿を大きく振り上げた瞬間――健斗もほぼ同時に振り上げた。


 僕らの一撃を今――ここに。

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