第25話


 歩行者天国の中心。

 そこにいる――『何か』


 薄い青色の人型。

 地面から数センチ浮遊し、瘴気を纏ったその姿。

 顔とも言い難い、輪郭。

 遠くから見ると、それは人の顔だった。


「――京介」

「ああ」

 途端に京介の雰囲気が変わった。

 目つきが鋭く、覇気を纏った様な雰囲気が漂う。


「あれはなんだ?」

「おそらく、思念体と一種。――でも、人の形をしている……?」

「思念体――。本当にあるのか」


「おそらく、あれが今回の現況だろう。しかし――」

 京介の中で仮説を立てた。しかし、その仮説は自身の想像を遥かに超えていた。


 すると、数多の人が交差する中心で、人型の思念体は笑みを浮かべた。


「「っ!?」」


 笑った。

 人型の思念体が――笑ったのだ。


 瞬時に、人型の思念体を中心に、放たれる波紋。

 人型の思念体から周囲二十メートル。


 人々はそれに気づくことなく――気絶する。


「今、何をした――?」

「あれは――、波動」

 京介は目を見開き、その事実を疑った。


 波紋の正体。高圧的な衝撃波。

 高濃度の魔力を凝縮させて発動できる技の一つ。

 その魔力制御から波動と言う技自体、出来る魔法騎士は少ない。


 何より、あの思念体は魔法騎士では無い。――そのはずである。


「それか――魔法騎士だったのか」

 零れる様に京介の口から出た仮説。――ありえない。ありえないとも。

 それでも、京介は不思議とその仮説に確信があった。


「……何を言っているの?」

 魔法騎士だった――とは何のか。

 健斗は解せない眼差しを向けた。


 まさか、あの思念体がかつては魔法騎士――人であったと言うのか。

 そんな馬鹿な話は無いだろう――。脳裏で京介の仮説を否定する。


 数秒後、健斗は思い出す。

 アガリアが探し求めていたゼピュロス・システムの存在を――。


「もしかして、あの思念体は、魔法騎士の魔力……?」

 ゼピュロス・システムでは無いけども、それと同様の動力源ならば。


「信じがたいがな。仮にそうだとすれば、俺が検知した魔法騎士の魔力も合致する。――だが」

 答えを出した割に、京介の解せない顔は晴れない。


「――まあ、どちらにせよ、あれは『異常』だよ」

 何かを決断した様に京介は大きく息を吐いた。


 そして、白椿を地面に差し、両手を勢い良く合わせる。


「警報伝達(アラート・シグナル)」

 淡々とした口調で告げると、京介の右耳に赤色のイヤホンが出現する。


 信号伝達魔法・警報伝達(アラート・シグナル)

 拡声設備を用いることなく、特定の者への伝達を可能とする。

 魔法騎士たちが使用する伝達魔法の一つだった。


『魔法騎士、各位。

 こちらは、魔導十二星座・白鳥京介。

 第二都市オラシオン内、現エリアから半径十キロメートルの避難を要請する。

 敵は思念体の様なもの。魔力規模・能力などは一切不明。

 現在、波動にて、数十人の一般人を気絶させた模様』


 テレパシーの様な声が健斗の脳内に響いた。

 今の技は、魔法騎士のみに伝達が可能な技なのだろうか。


 その瞬間、数十メートル先にあった複数の魔力が揺らいだ。

 ――魔法騎士の様だ。


「健斗」

 眉間にしわを寄せたまま、京介は睨む様な目つきで思念体を見つめている。

 その様子は、思念体の能力が未知数なのか、余裕が無い様に見えた。


「ああ」

「数秒、あの思念体の気を引いてくれ」


「わかった!」

 覇気ある声で叫ぶと、黒椿を抜刀し、思念体へと向かう。

 健斗の気配に気づいたのか、思念体は健斗の方へと向いた。


 ――ついに僕はその『何か』と対峙するのだ。

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