第24話


 青春の道。

 その名で呼ばれる様になったのはいつからなのだろうか。

 何より、そこは道と言うより、歩行者天国の道路である。


「んー、いつもと変わらないなー」

 健斗から見るその景色は、普段と変わらぬ景色だった。


 道沿いに並ぶ数々のチェーン店。

 ファーストフード店や喫茶店、洋服屋まである。

 それ故、夕方になると下校途中の学生で溢れかえるのだ。

 現に今も、健斗たちの目の前には数十人の学生が歩いている。


「そうだな……。さて――と」

 京介は気持ちを切り替える様に大きく息を吐く。


「それで京介、どうするの?」


「どうするの――とは?」


「えーと、現場とかわかるの?」


「あー、わからんな」

 途端に呆けた顔を返す。


「え」


「事件が不明確。無論、現場も犯人もわからんからなー」


「えー、どうするの」

 京介の言葉だけ聞けば、本当に噂話だったのだろうか。


「――さて、どうしようか」

 落ち込んだ様に俯き、再び大きく息を吐いた。


「……意外だね」


「意外?」


「京介でも、見切り発車するんだなーって」


「んー、そう言われると、否定できん」


「何か確信があったの?」


「確信は無かったけど、不思議と胸騒ぎがしたんだよなー」

 背筋を伸ばす様に両手を上げ、呑気に欠伸をする。


「胸騒ぎ? 嫌な予感とか?」


「そんな感じ。直感的なものだよ。言わば、本能ってやつ」


「あー、それなら従わないとね」


「そういうこと。で、いざ来てみてだが――何も変わらんな」


「そうだね」


「何も変わらない景色が一転するのが、事件だからな」


「――確かに」

 良くも悪くも、その事象は僕らの景色を一転させる。


 道路沿いの喫茶店の前に着くと、京介は立ち止まった。


「まあ――結局、何もなければ、それで良いんだけどな」

 そう言うと京介は、右手を前に出した。


 詠唱の様に何かを呟くと、ゆっくりと緑の瘴気が掌に収束されていく。

 その魔力の質。健斗の知る京介の魔力では無かった。


「それは?」


「この付近に残った魔力の欠片だよ。多ければ、数日前の魔力が検知出来る」


「それは凄いね。魔力の使用履歴がわかるとか?」


「そんな感じ。――これは魔法騎士の魔力だね」

 その魔力を知っているのか、京介は少し驚いた顔をしていた。


 京介の右手に収束する緑の瘴気――星屑たち。

 よくよく見ると、その星屑の形は様々だった。

 まるで、別々の魔力を示す様に。 


「魔法騎士がいたの?」


「ああ。でも、これは戦いと言うより――、俺と同じことをした感じだな」

 京介はそう言うと、辿る様に道路側へと歩いて行く。


「え、そうなの?」


「魔法騎士も調べていた様だな。でも、解決していない――のか?」

 歩きながら、京介は解せない様に首を傾げた。


 すると、京介の背後から今までとは違う星屑がやってきた。

 今までとは違う煌びやかな星屑。しかし、その魔力は何かが違った。


「この魔力は――?」

 眉間にしわを寄せ、京介は次第に深刻な表情へと変わっていく。


 瞬間。何かの出現を知らせる様に、背後で大きな魔力が発生する。

 禍々しくもありながらも、透明な魔力。

 その魔力こそ、先ほどの煌びやかな星屑の魔力だったのだ。

 

 振り向いた先。

 僕らの知らない『何か』そこにはあった――。


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