第二章 魔法騎士編

第21話

 ~第二章 魔法騎士編~


 魔族アガリアの襲撃から二週間が経った。


「なあ、京介」

 下校中、健斗はふとした顔で前を歩く京介に声を掛けた。


 あれ以来、大きな事件は起きていない。

 無論、事件なんて起きなくていいのだけど。


「ん? どうした、浮かない顔して」

 何食わぬ顔で京介は首を傾げる。

「んー、京介って、なんで魔法騎士だったの?」

 そう言えば、なぜ京介は魔法騎士『だった』のか――。


 なぜ、ここへ来る前は魔法騎士で裏切り者と呼ばれていたのか。


 魔法騎士の入隊やアガリアの事件で困惑していたが、

 よくよく考えれば大きな疑問である。


 すると、京介は考え込む様に立ち止まった。


 眉間にしわを寄せ、困っているのか、考え込んでいるのか、不

 思議な表情をしている。


「俺がなぜ魔法騎士だった――か」

「うん。そう言えば、聞いたこと無かったなって」

「それもそうだな」

「と言うより、魔法騎士って隣の都市にもあるの?」

 腕を組み、不思議そうに首を傾げる。


 魔法騎士と言う組織自体、

 魔法都市(オラシオン)以外にもあるのだろうか。


「あるよ。隣の魔法都市、アルカディアにも魔法騎士はあるさ」

 無論だとも、そう言いたげに力強く頷いた。

「やっぱり、あるんだ……」

 ここだけ特別では無いということだ。

「そもそも、魔法騎士はすべての魔法都市に存在し、各魔法都市に支部を作っている。まあ、ここならオラシオン――魔法騎士 第二支部だよ。ちなみにアルカディアは第三支部」

 そのすべてを知るような口調。

 本当に京介は何をどこまで知っているのか。

「ん? 第一支部は?」

「第一支部は――どこだったかな」

 眉間のしわが深くなり、京介は思い出せないと言いたげな顔をしている。


 本当に思い出せないのか、言いたくないのか――。

 まあ、どっちでも良いか。


「それで、京介は第三支部のアルカディアでも魔法騎士だったんだよね?」

 無論、魔法騎士の裏切り者と言われるからには、魔法騎士だったのだろう。

「それはな」

「どうやって、魔法騎士になったの?」

 僕みたいに誰かの推薦で入隊したのだろうか。

「事件に巻き込まれて、なんだかんだ戦うことになってな」

「うん」

「――気がついたら、魔法騎士になっていた」

 少し呆然とした顔で京介は言った。

「えっ」

「まあ、健斗みたいな感じだよ」

「はあ……」

 ため息交じりの声を出す。

 全然理解していないけど。

「それから、多くの事件をこなして、魔導十二星座になった」

 果たして、数をこなせば魔導十二星座になれるのだろうか。

「――でもさ」

 仮に京介の言うことが正しいとしても。

「ん?」

「どうして、京介は『この』魔法都市の魔導十二星座なの?」

 解せないように健斗は眉間にしわを寄せた。


 だとして、京介はなぜオラシオンの魔導十二星座なのだろうか。

 本来は、オラシオンでは無く、アルカディアの魔法騎士であるのに。


「あー、それか」

 健斗の言葉の意図がわかったのか、途端にめんどくさい顔になった。

「うん。だって、京介は最近ここに来たんだよね?」

 そうだ。突然、転校してきて、うちに住むことになったんだ。

「住居したのは最近だよ」

「住居したのは――?」

 なんだその意味深な言葉は。

「当時の俺は第三支部に属していながらも、第二支部の仕事もしていたからな」

「ほお」

 思わず感心した声が出る。

 だから、最初に出会った中年の魔法騎士の人も、入隊試験の神崎さんも京介を知っていたのか。

「まあ、それで第二支部での活躍が評価されて、魔導十二星座になった訳だよ」

 結果的にな。京介はそう補足する。


「ほお……。いつ、魔法騎士じゃなくなったの?」」

 恐る恐る聞く。

 そりゃ、裏切り者って言われるんだから、何かあったに違いない。


「魔法騎士じゃなくなったのは――一年くらい前かな」

 空を見上げ、何かを思い出している様に呟いた。

「一年くらい前なのか」

 と言うことは、京介が魔法騎士になったのは一年以上前と言うことである。

「除名に近いよ」

 そう言うと京介は大きくため息をついた。

「除名……」

 つまり、その名を除かれる、消されるということだ。

「そりゃな。班一つ、壊滅させたんだから」

 どこか諦めた様なあっさりとした口調。

「壊滅?」

「ああ。そのままの意味さ。俺は自身の班を結果的に壊滅させたんだよ」

「そうなのか……」

「だから、俺は魔法騎士からすれば、仲間を見殺しにした裏切り者なんだよ」

 泣きそうな顔で京介は告げると、前を向いて再び歩き出した。

「京介……」


 仲間を見殺しにした。

 きっと、そうせざる負えない理由があったのだろう。


 儚げな背中を健斗はただ見つめることしか出来なかった。


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