第22話
創成高校。
昼休み。
健斗たちはいつも集まる四人で屋上にいた。
四人でしゃがみ、囲む様にご飯を食べている。
「なあ、健斗」
金髪で短髪の孝司が総菜パンを加えながら、やる気の無い声を出す。
「どうしたの?」
「最近の噂、知っているか?」
「噂――?」
噂とは。学校の噂だろうか。
「噂って何?」
孝司の隣で不思議そうな声を出す少女の様な少年。
高城悠樹(たかじょうゆうき)。
小柄な容姿に、黄緑色のセミロングヘア―。
くりんとした柔らかい目元。
少し高く落ち着いたその声は、可愛らしい声だった。
しかしながら、悠樹は健斗たちと同じ男子生徒である。
高校から知り合った友人で、どうしてか普段は孝司と一緒にいることが多かった。
「え――あっとな、青春ロードってわかるか?」
「うん」
菓子パンを加え、悠樹はゆっくりと頷く。
青春の道(ロード)とは。
下校途中のカフェやファーストフード店がある大通りのことだ。
「最近、そこで学校の生徒が不審者に襲われる事件があるらしいんだ」
「……それって噂なの?」
事実なんじゃないの。
悠樹は不思議そうに首を傾げている。
「噂じゃないよな、それ」
追撃の様に健斗も言った。
京介は何も言わずに、無糖の缶コーヒーを飲んでいる。
「噂だよ。だって、被害者が誰かもわからないし、詳細もわからない。ネット上で騒がれはしているんだけどな」
「ネット上では?」
「ああ。防犯カメラにも映らない不審者――ってな」
「はあ」
そんなはずは無いだろう。健斗は呆れた様な声を漏らした。
「それでその噂がどうしたの? 気をつけろって話?」
少しだけ眉間にしわを寄せ、悠樹は解せない眼差しを孝司に向ける。
悠樹は容姿だけの話をすれば可愛い。
いや、容姿≪も≫可愛いか。
男子のはずなのに、普通の女子よりも可愛い感じがある。
――なぜだろう。
無論、美咲の方が可愛いけど。――僕にとっては。
「んー、確かに気をつけろとも言いたいが――なー」
腕を組み、悩ましいと言いたげな複雑な顔をする。
「孝司が何とかするのか?」
すると、缶コーヒーを飲み干した京介が何食わぬ顔でそう言った。
孝司が何とかする。
つまり、孝司がその犯人を捕まえる。
そう言うことだろうか。
京介の一言で、この場に沈黙が訪れる。
確かに京介の言いたいこともわかる。
しかし、無理があるだろう。
加藤孝司と言う男は、
誰かのために何かをする男では無かった――はずだ。
「……何とか出来たら、何とかしたいさ」
ため息交じりに孝司は呟いた。
「何とか……ね……」
孝司の言葉に悠樹は思いつめた顔で俯く。
沈黙の数秒。
沈黙を破る様に京介が立ち上がった。
「出来るさ」
京介が淡々と告げる。
「――出来る?」
呆然とした顔で孝司は首を傾げる。
「ああ。孝司、今のお前なら出来るよ――きっと」
確信した様な安堵の表情で告げると、京介は屋上を出て行った。
いったい、どう言う意味か。
不思議と京介の言葉の裏を考えてしまう。
出ていく京介の背中を健斗は呆然と見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます