第16話


 同時刻。

 研究所出入口。


 京介は通り道にいた全ての魔獣を倒し、この場に来ていた。


 出入口の吹き抜けのホールへと着いた頃。

 突如、頭上から大きな魔力を検知する。


 慌てて見上げると、蓄積された雷が雷撃となって京介へと向かっていた。


「ちっ!」

 迫りくる雷撃に京介は、斬翔を纏わせた白椿を振るい弾き飛ばす。


 雷撃が蓄積されるまでの経過に気付かなかった――。

 京介は自身を落ち着かせる様に小さく息を吐いた。


「へぇ、今の――反応出来るんだ」

 京介の目の前にいた金髪の男は感心した声を出す。


 黒いコートにセミロングヘアーの様な金髪に細身の容姿。

 頭部に生えた狐の様な耳。


 金髪の男の容姿に京介は目を疑った。

「なんとかだけどなっ!」

 すぐさま気持ちを切り替え、京介は力強く斬翔を放つ。

 何者かはわからないが、敵であることだけは間違いない。


 しかし、その容姿はまさか――。

 アガリアが魔族だとするならば、この男も魔族なのかもしれない。

 であれば、その容姿は納得するしかなかった。


「――雷撃反射(ライジング・カウンター)」

 金髪の男がそう言って、右手で勢い良く斬翔に触れた。


 接触部から雷撃が発生し、斬翔は弾け飛ぶ。

 その光景は《弾く》まさしくそれだった。


「中々激しいのを放つね――君」

 金髪の男は右手で、さっきの感触を確かめる様な動きをする。

「まあなっ!」

 京介は連続で斬翔を金髪の男へと放っていく。

 金髪の男は動じることなく、さっきと同じ様に斬翔を弾いた。


「なあ、君の名はなんて言うんだ?」

 金髪の男は斬翔を弾きながら、興味津々な顔で言う。


「白鳥京介だよ。――お前は?」


「白鳥――。僕はシルク。獣人魔族のシルクだよ」

 京介の言葉に、何かを思い出している様な顔で金髪の男――シルクは言う。


 獣人魔族。

 京介はその容姿を見て、その言葉の意味を理解した。


「――まさか、魔導十二星座か?」

 すると、シルクは気がついた顔で目を見開いた。


「ああ、そうだよ」

 京介は白椿を構え、シルクへと向かっていく。

「そうか、そうだったのか――」

 シルクは俯き、点と点が繋がった様な納得した顔をする。


「――君がアガリアを止めた《人間》か」

 そう言った途端、シルクを包んでいた魔力が急激に変化した。


「遊ぶのは止めだ。君があの魔導十二星座であれば、全力で君を殺しに行く」


 禍々しい黄色い魔力。

 うっすらと黒い雷の様なものがシルクを覆う。


 次第にシルクを纏う何かは大きくなっていき、色も濃くなっていく。

 京介は向かっていた足を止め、慌てて後退した。


「なら、俺も本気で行かないとな――」

 京介は見通した顔で白椿を横に構え、刀身に魔力を研ぎ澄ます。


 シルクは一歩動いた。

 その瞬間、シルクの姿は吹き抜け三階の天井へと移動する。


 天井に足をつけ、天地が逆転した状態でその場にいた。


「雷魔(インドラ)――雷弾(ライジング・バレット)」


 右手を銃の様な形にして銃撃の動作をすると、

 人差し指から銃弾の形状をした雷撃が放たれる。

 右手の動作の度に放たれるその光景は、銃そのものに見えた。


 京介は天井から降り注ぐ、雷撃の銃弾を白椿で弾き飛ばす様に振るう。


「なあ、魔導十二星座。そろそろ本気を出さないか?」

 しばらくして、シルクは不満げな声で言う。

「本気だと?」

 解せない顔で京介は返す。


「僕も君も本気じゃない。こんなもんじゃないだろう。この人界が誇る魔導十二星座と呼ばれる最強の騎士よ」

 シルクはそう言うと左手と右手を合わせた後、雷を帯びた弓矢を生成する。


 放った矢は何本も分離していき、一本の矢は数十本の矢に変化した。


 まるでそれは、雷の雨。

 雷の雨は、勢い良く京介へと降り注ぐ。


「そうだな――魔族よ」

 京介はそう言って、白椿を雷の雨へと向けた。


 白椿の刀身の先から衝撃波が放たれ、雷の雨は弾ける様に消滅する。


「・・・・・・これでも、圧倒的な何かを感じるな」

 シルクはその攻撃を見て、確信した顔で息を飲んだ。

 京介は戸惑いもせず、落ち着いた顔でシルクを睨む様に見つめている。


 さて、ここからどうするか。

 京介は次なる一手を考えていた。


 中途半端な攻撃は通用しない。

 無論、お互いに。


「やはり、これしかないのか――アガリア」

 数秒の沈黙の後、仕方ない様な顔でシルクは大きくため息をついた。


 長期戦になれば、増援が来る。

 その前に片付けなければいけない。


 自身の目の前にいる。

 この魔導十二星座を。


 この――人間を。


「開錠・ニルヴァーナ――」

 呟く様にシルクがそう言うと、シルクを軸に黄色い魔法陣が出現した。


 魔法陣から雷撃が放たれ、

 飲み込む様な勢いでシルクを包み込む。


「ニルヴァーナか――」

 京介は目を細め、めんどくさそうな顔で呟いた。


 ここからは、魔導十二星座と呼ばれる力の由縁を使わないといけない――か。

 京介は確信した様な顔で俯いた。


 それほどの相手なのだ。

 魔族とは。ニルヴァーナとは。


 魔法陣が消えた頃。

 そこにいたのは、雷の毛が生えた獣人の様な姿のシルク。

 目つきは鋭くなり、その耳はより大きく、狐の様な尻尾が生えていた。


「この技は人界で使うと、魔力の制御が効かなくなるから止められていた――。だが、お前を倒すには、この技しかないだろう・・・・・・な」

 そう言ったシルクは、動物の様に息を荒くしていた。


 その瞬間、正面から雷撃が京介を襲う。


「っ!?」

 京介は驚いた顔で咄嗟に白椿で防いだ。


 防いだ衝撃か。

 京介は数十メートル後方へと吹き飛ばされ、出入口の壁へと激突する。


 見えなかった――。

 起き上がる中、京介は唾を吐く様に血を吐いた。


 起き上がった頃、再び目の前で雷撃が襲う。

 慌てて防ぐと、その雷撃は変貌したシルクであることに気づいた。


「ちっ!」

 一気に魔力を解放し、京介は斬翔を放った。


 シルクは剛毛な両腕で斬翔を防いでいく。

 それは硬化した手刀の様。


 研磨の様な火花を散らし、両腕の剣は斬翔を弾き返した。


 ここにいるのはまずい。

 悟った京介は壁から移動し、研究所と距離を取った――。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る