第14話


 響き渡る波動――。

 まるで、越前を止める様に。

 

 これは越前の――いや、違う。

 京介はその主を理解した時、目を見開いた。

 突然、通路側の試運転室の壁が一瞬にして粉砕される。

「なっ・・・・・・?」

 コアを前に越前は手を止め、呆然とした顔で粉砕された壁を見つめていた。

 粉砕された影響か、突如砂煙が壁付近を覆いつくす。

 いったい、何が起きたのか――。

 コマ送りの様な現実に健斗はただただ立ち尽くしていた。

「――来たか」

 ひと息つくと京介は、落ち着いた顔で粉砕された壁を見つめる。

 さっきの魔力の波動はあの魔族だ。

 つまり、予定通り襲撃に来たと言うこと。

 襲撃。研究所の中心の地下にあるはずのこの部屋が破壊された。

 必然的にここまでの導線も同じ状況なのだろう。

 

 良くも悪くも、このタイミング――か。

 京介は背中にかけていた白椿をゆっくりと抜刀した。


 さて、そちらに回るか、ここで戦うか――。

 京介は悩んでいた。

「間に合ったか――」

 粉砕された壁の向こうから聞こえるその低い声。

 声と共に禍々しい威圧的な雰囲気がこの場を支配した。

 

 この感覚――。

 まさか、あの魔族。健斗はこの感覚を覚えていた。

 

 砂煙が晴れる頃。

 そこには多くの魔獣を引き連れたアガリアの姿があった。

 

 研究所は一瞬にして、戦場へと変貌する。


「ど!? どうして、ここに敵が!?」

 腰を抜かした様な動きをして、明智はアガリアを見つめる。

 数秒後、研究所の出入口にあった警報機が鳴り始めた。

 出入口と粉砕された壁の奥が次第に騒がしくなっていく。

 おそらく、ここと同様に奇襲を受けているのだ。

「健斗、準備はいいか」

 京介は白椿を構え、隣にいた健斗へ静かにそう言った。

「ああ。いつでも大丈夫だよ」

 健斗は黒椿を構え、戦闘態勢に入る。

 黒椿を構えると、不思議と現実が染み込むように受け入れられた。


 アガリアと魔獣。

 もうすでに戦闘は始まっている。


「君たちは研修生じゃなかったのか・・・・・・?」

 武器を構える健斗たちを見て、明智は呆然とした顔で言う。

「さっきまでは――ですね」

 京介はわざとらしく笑顔を明智に向けた。

 

 そうだ。

 ここからの僕たちは魔法騎士。

 魔法都市で戦う騎士なのだ。


「なるほど・・・・・・。わかっていたのか――君たちは」

 感心した様な顔で明智は京介に言った。


 わかっていたとは――。


 ゼピュロス・システムのことか。

 アガリアが攻めて来ることか。


 少なくとも、どちらも京介はわかっていたはずだ。


 健斗は明智の言葉の真意を考える。

「ゼピュロス・システム。どうやら、俺たちの得た情報は正しかったようですね」

 白椿を構え一呼吸すると、京介は見通した様な顔をする。

 ここまでは京介の中では想定通りだった。

 問題はここからである。

「そうだ。あのゼピュロス・コアはゼピュロス・システムの根源、言わば要だ。あのコアを用いてゼピュロスは稼働する」

 京介の言葉に明智は頷き、簡潔に説明した。

 

 あれがゼピュロス・システム。

 魔力供給から人の魔力を動力源に変えること。

 それを破壊することがアガリアの目的。


 健斗はまじまじとその価値を考えていた。

「では――越前さんは何をしようとしていたんです?」

 越前が触れる前の魔力流動。

 京介はあながち予想はついていた。

「おそらく、自身の魔力とゼピュロス・コアを同調させようとしていたんだと思う」

 明智はため息の様に大きく息を吐き、そう言った。

「同調――。自身の魔力を用いて――ですか」

 京介は眉間にしわを寄せ、その意味を考えた。


 一時的に保管していた死者の魔力を使うと思っていたが、自身のか――。

 京介の予想とは異なる。

 

 もしかして、これはアガリアの情報とは別の実験かもしれない。

「とにかく、奴らをこの場から移動させるぞ」

 考えるより先に現状を対処する方が優先だ。京介は健斗に指示する。

「おう!」

 健斗は黒椿を抜刀し、魔獣へと向かって行く。


 研究所の外から感じる黒い魔力。

 京介は確かにその気配を感じ取っていた。


「となると、被害は増える一方――か」

 京介はあらゆる展開を考え、落ち着いた声で呟いた。

 

 アガリアクラスが外にいると言うことは、いったい誰がその者の相手をするのか。

 研究所内には戦闘員はいない。

 魔法騎士が来るのも時間の問題。

 その間の予想される被害――。


 京介は考えた。

「健斗」

 斬翔を放ち、後退してきた健斗へ声をかけた。

「――ん?」

 健斗は眉間にしわを寄せ、京介に険しい顔を向ける。

「頼みがある」

 切実そうなその表情。

「どうしたの?」

 頼みなんて珍しい。

 この状況の中、いったいどうしたのか。

「ここを頼んでもいいか――?」

 京介は研究所の外にいる何者かの方を向き、静かな声でそう言った。


 無論、アガリアは強い。

 それは戦った京介がよくわかる。

 しかし、アガリアと同等の何者かを今の健斗に頼むわけにもいかない。


 無論、戦力差が全く読み取れない。

 京介はこの場を健斗に預けるのが最善だと考えた。


「出来ることはするよ」

 何かを決めた様に健斗は小さく頷いた。


 僕が出来る最善を――。

 少しでも、被害を小さくするために。


 そして、健斗は黒椿を構え、アガリアへと走って行った。

「――ありがとう」

 そう言うと京介はアガリアへと向かって行き――。


「「斬翔!」」


 健斗と京介は、両側から同時に斬翔を繰り出した。


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