第9話


 その頃、健斗は――。

 さっきの戦いを見て健斗が感じたのは恐怖、それだけだった。


 あれが本当の闘いなのだ。

 そう考えながらも、次々と炎の兵隊を倒していく。


「うりゃっ!」

 魔族であるアガリアに殺されかけ、京介の圧倒的な力や衝撃的なことが多すぎるのにも関わらず、健斗は自然と落ち着きを取り戻していた。


 不思議と動くこの身体。

 自分自身の身体では無い様な、そんな感覚が健斗にはあった。


 数日前までは、剣を握り戦う日が来ると思っていなかったはずなのに。


「残りは二体か・・・・・・」

 必死に戦い、残る炎の兵隊は二体となった。


 ここで僕が負ければ、都市にさらなる被害が出てしまう。

 ただでさえ魔法騎士が何人も傷ついていた。

 もうこれ以上、誰も傷つかないでほしい。

 健斗はその思いを胸に深呼吸をする。


 すると、二体のうち一体が炎の銃を出現させ、もう一体は炎の大剣を出現させた。


「なっ――?」

 さっきまで炎の兵隊の武器は、サーベルの様な剣だけだったはずだ。


 この二体は、どうしてか――。

 突然、炎の兵隊の動きが変わった。


 一体は炎の銃を健斗向けると、炎の銃弾を放つ。

 健斗は慌てて避けると、その炎の銃弾は右頬をぎりぎりかすめた。


「やばいな・・・・・・」

 右頬の小さな痛みを感じながらも、健斗は苦しい表情を浮かべた。


 銃を持つ相手とは戦ったことが無い。

 さっきのだって、反射的に避けられたものの、次は避けられる保証は無かった。


 一度距離を取ろうと思い、健斗は後退しようとする。

 それを見越していた様に、炎の大剣を持つ兵隊が後ろで健斗を待ち構えていた。


「ちっ!」

 健斗は黒椿を後ろに構え、炎の大剣を持つ兵隊向けて振りかざした。


 正面から炎の大剣と黒椿が勢い良く激突する。


 両刃がぶつかり合おうと、互いの属性が火花の様に散っていた。

 健斗が両手で握っているにも関わらず、兵隊は片手で軽々と大剣を振るっている。


 どうする――。どうすればいいんだ。

 健斗は思考をフル回転させ考えた。


 健斗の背後にいた炎の銃を持つ兵隊は、その銃口を健斗へ向ける。


「やべっ」

 その銃口から炎の銃弾が放たれた瞬間、健斗は咄嗟に姿勢を低くし、炎の大剣の足を切り落とす様に黒椿を振りかざした。

 炎の大剣の右足を切断すると、炎の大剣は姿勢を崩しその場に倒れる。


 息を吸う余裕も無い。

 健斗は炎の大剣の胴体に黒椿を振りかざすと、炎の大剣の身体は半分に分断され、動かなくなった。


 これで残り一体――。

 健斗は後退し、炎の銃と距離を取る。


 銃口と引き金に意識を集中する。

 それさえ把握していれば、直撃は避けられるはずだ。

 健斗はそれを意識しながら、炎の銃に向かって行った。


 炎の銃は健斗向け銃弾を放つが、健斗はその銃弾をすれすれで避ける。


 そして、黒椿を炎の銃向け、斜めに振りかざした。

 斜めに切り傷を与えられた炎の銃は、機能が停止した様な動きをして、ゆっくりと仰向けに倒れる。


「よし・・・・・・、終わったか・・・・・・っ」

 息を荒くしながら健斗は辺りを見渡した。


 これですべての炎の兵隊を倒したはずだ。

 少なくとも僕の視界に映る炎の兵隊は。


「おっ。終わったみたいだな」

 すると、瞬間移動をした様に京介が健斗の隣に現れる。


「お、京介。大丈夫だったのか?」

 隣に現れた京介に動揺することなく、健斗は聞く。


 気がつけば京介の行動に驚くことは少なくなった。

 これを順応と呼ぶのだろうか。


「大丈夫――では無かったかな」

 そう言う割に、京介は悲しそうな顔をしていない。


「えっ? アガリアと何があったの?」

 都市の外へ飛ばした後、いったい何があったのか。


「――逃げられた、かな」


「あ、そうなんだ・・・・・・」

 どうして――とは、とても聞けなかった。

 逃げられた、要は撃退なのだから。

 京介が無事で良かった。健斗は少しほっとする。


「ところで健斗。この炎の兵士は健斗がやったのか?」

 辺りを見渡し、京介は不思議そうに言う。


「うん。まあ・・・ちょっと危なかったけど」

 健斗は、何とかね、とそう言って少し引きつった顔で笑う。


 最後の二体は本当に焦った。

 少しでも判断が遅れていたら、今頃僕が炎の大剣のような姿になっていたのかもしれない。

 想像して健斗は大きくため息をついた。


「・・・・・・なるほど」

 京介は何かを察した様な顔で健斗を見る。

 僅かばかりに変化する健斗の魔力に京介は気づいた。


「ん?」


「まあ、生きていて良かったよ」

 京介は顔を上げ、笑顔で言う。


「ああ」

 本当にその通りだった。


 しばらくして、魔法騎士や救急隊が駆け付け、事態は終息を向かえる。

 幸い死者も重傷者もなく、事件は幕を閉じた。


 もしも、京介がいなかったら、どうなっていたのだろうか――。

 健斗の中でふいにそんな疑問が浮かぶ。


 魔族のアガリアがその後も都市に攻撃をしていたら――。

 きっと死者が出るのは間違いなかっただろう。

 健斗はそれを想像するだけで鳥肌が立った。


 その最悪な事態を防ぐのが、京介たち魔導十二星座の仕事なのだろうか。


 ひとまず、健斗は今ある『生』を噛み締めた。

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