第4話
放課後。
教室。
「んー。試験ってなんだろなー」
健斗は顔を机に埋めて、未だに悩んでいた。
試験と言うから、学科とかなんだろうか。
仮にその試験に落ちてしまったらどうなるんだろうか。
落選という形で入れなくなるのだろうか。
それはそれで推薦してくれた京介に申し訳ない気持ちになる。
健斗は様々なことを考えていた。
「健斗」
(んー、なんだろ。不安だ。どうすれば良いのだろうか)
「けんとー?」
(まず、何をすれば受かるんだ? 僕でも大丈夫なのか?)
「けんとっ!」
「っ!?」
耳元で叫び声の様な声が聞こえて、ビクッと立ち上がる。
振り向くと、健斗の隣にはいつの間にか美咲がいた。
「健斗、何回も呼んだんだよ?」
美咲は不思議そうに首を傾げて健斗に言う。
とろんとした柔らかい眼差し。
見るだけで、自然と心が落ち着いた。
「あっ・・・、ごめん」
健斗は美咲の存在にまったく気が付かなかった。
ひと息ついた後、落ち着いた様に健斗は席に座る。
「どうしたの・・・・・・? そんなにぼっーとするなんて珍しいね」
静かな口調で美咲は健斗に言う。
その小柄でおっとりとした雰囲気は、今も昔も変わらなかった。
「んー、僕はどうなりたいのかなーって」
健斗は大きくため息をつき、顔を机に埋める。
魔法騎士の試験を超えた先。
その先には、何があるんだろうか。
京介に言うとおり、戦うことは避けられないのかもしれない。
だからこそ、僕はどうなりたいのか――。
健斗は自身に問う。
「どうなりたいの?」
美咲は顔を机の上に乗せて、健斗に聞いた。
「えっ?」
健斗は驚く様に顔を上げた。
上げると、目の前に美咲の顔がある。
「・・・・・・」
美咲は健斗をじっと見つめていた。
昔とほとんど変わらない美咲のその姿。
君はいつも、僕を僕でいさせてくれている。
「――この日々を守りたい」
健斗は美咲の顔を見て、ふと思ったことを言葉にする。
平凡な日々を。
この幸せを。
だから、僕は黒椿を抜いた。
「うん。私もこの日々が大好きだよ」
美咲は無邪気に微笑んだ。
「美咲、ありがとう」
――そうだ。
この日々を守るために僕は魔法騎士になるんだ。
健斗は決心した顔で椅子から立ち上がる。
「うん、どういたしまして」
美咲の笑顔を見て、健斗はホッとした。
変わらぬ君と。
変わらぬ日々を守るために――。
翌日。
午前十一時前。
健斗は京介から言われた場所に来ていた。
「えー、本当にここなのかよ」
都市から離れた広々とした空き地。
その中心で、健斗は不安な顔をする。
京介から住所が書かれた紙切れを渡されて、ここへ辿り着いた。
おそらく、ここの住所で間違いない。
いったい、こんなところに何があるんだろうか。
ただ、ここに行ってくれ。
それだけ言われて、健斗はここに来た。
考えてみれば試験とだけしか言われてないのだから、
ただの京介のいたずらと言う線もある。
健斗は次第に不信感を抱いていた。
その時だった――。
「多断壁(だだんへき)」
どこからか聞こえるその言葉。
その言葉に呼応する様に、健斗を中心に長方形の線が描かれた。
そして、その線部から分厚い鉄製の壁が飛び出す。
四方の鉄製の壁。
逃げる隙も無く、その壁は檻の様に健斗を囲んだ。
一辺の横幅は、ざっと二十メートルはあるだろう。
健斗は周囲を見渡す。
「罠じゃん・・・・・・」
健斗は空を見上げながら、ため息をついた。
すると、見上げた空に一つの影が出現する。
刀を持っている様なその影。
次第にその影は健斗へ近づいていく。
「やばっ!?」
咄嗟に健斗は影向け、黒椿を抜刀した。
影も刀を抜き、両刃は勢い良く衝突する。
衝突の瞬間、地面の砂を吹き飛ばすほどの衝撃波が発生した。
「初手は防いだ――か」
影、銀髪のつり目の男はそう言って、二撃目。
大太刀を健斗に振りかざす。
二十代後半くらいだろうか。
短髪の長身でやせ形。
好戦的な雰囲気で、大太刀を振りかざすその姿。
まるで、一匹の――狼。
「いったい、なんだよっ!?」
健斗は男を振り払う様に黒椿を大きく振るった。
突然、大太刀で襲われる理由など身に覚えがない。
「奴から聞いてなかったか? これが――試験だ」
体勢を立て直す様に数歩後退する。
助走をつけたまま、大太刀を横に大きく振った。
身軽に大太刀を振るうその姿。
無論、容易では無いだろう。
常人では無いその力に、健斗は恐怖を覚えた。
「試験――?これが?」
学科の試験とかじゃなかったのか。
健斗は驚いた様に目を見開く。
これじゃあ――。
これじゃあ、ただの戦闘だ。
実戦での試験と言うことか。
「そうだ。これがお前の魔法騎士入隊試験だ」
そう言いながらも男は大太刀を強く振りかざしていく。
健斗は男の攻撃に防御しか出来ずにいた。
「まじか・・・・・・っ」
健斗は一旦後退し、一呼吸つく。
流れが悪い。
防戦一方だ。
気持ちも魔力も乱れている。
体勢を立て直さないといけない。
「俺の名は神崎。等級は少尉。今回の試験管を務める者だ。お前の合格条件は、『俺に手を付かせること』だ。それが出来れば、お前を魔法騎士として認める」
追撃の様に健斗へ向け、大太刀を勢い良く振るった。
刹那。
刀身へ魔力が集束し、銀色の斬撃が放たれる。
「くそっ!」
健斗は黒い魔力を黒椿に纏わせ、銀色の斬撃に向け強く振るった。
衝突。
爆風が発生し、周囲の地面から勢い良く砂埃が舞う。
神崎少尉の手を地面に着かせることが出来れば、僕の勝ち――か。
健斗は砂煙の中、考えた。
勝つことを――。
この目の前にいる敵に勝つ方法を。
砂煙から突進する様な勢いで、神崎少尉が現れた。
その勢いのまま、大太刀の峰で 健斗の腹部を叩く様に攻撃する。
「ぐはっ!」
腹部の激痛と共に、数メートル吹き飛ばされた。
その衝撃で黒椿は、倒れた健斗の目の前に突き刺さる。
「もう終わりか、少年。奴の推薦と聞いてどんなやつかと思えば、こんな雑魚だったとは。あいつの目も腐ったのか。やはり、あいつはもう『裏切り者』なのか。――がっかりだな」
神崎少尉は近づきながら、ため息交じりにそう言った。
なんだ、この痛みは――。
生まれて初めての激痛。
健斗は困惑していた。
同時にこれが『戦う』ことだと言うことを痛感する。
「どうせ、お前みたいなやつは、カッコをつけたくて魔法騎士に入ろうとしたんだろ。そんな甘い考えなら――死んでしまえ。弱いやつなんかに何も守れやしない」
健斗の目の前で、神崎少尉は棘のある口調でそう言った。
弱い奴に何も守れない――。
突き刺さるその言葉。
健斗は無言で立ち上がった。
確かに。
確かにその通りだ、その通りだとも。
だから、僕はここに来た。
「そうですね・・・・・・。神崎さんの言うとおりですよ。弱いやつは何も守れない。だからこそ、僕は魔法騎士になるんだ・・・・・・っ!」
覚醒した様に健斗は目を見開き、覇気のある声でそう言った。
この日々を守るために。
無論、強くならなければならない。
自然と美咲の笑顔が健斗の脳裏に浮かぶ。
健斗は一呼吸つき、突き刺さっていた黒椿を勢い良く抜いた。
どうしてだろう。
完治と言えるほど、さっきまでの痛みは無い。
ふんわりとした雰囲気。
自然と魔力が満ちていく感覚。
美咲の笑顔を思い出した途端、重かった気持ちが軽くなる。
不思議と――。不思議と、今なら何でも出来そうな気がした。
「なら、勝ってみろよっ!」
神崎少尉は怒鳴る様に叫び、大太刀を垂直に振りかざす。
言葉では無く、力で示せ――。
神崎少尉はそう思った。
「そうさせてもらいます」
深呼吸。
健斗はそう言うと、大太刀とは反対に黒椿を振り上げた。
スパンっと音を立て、その刃は健斗の後ろの地面へと突き刺さる。
「馬鹿な・・・・・・っ」
神崎少尉は大太刀の折れた刃先を見つめて、呆然とした顔でそう言った。
健斗は黒椿を振りかざし、神崎少尉が持っていた大太刀を地面へ叩き落とす。
その衝撃。
自然と神崎少尉は地面に手を付いた。
呆然とする神崎少尉。
自身に何が起きたのか、理解出来ていなかった。
「僕の勝ち――ですね・・・っ」
思わず、健斗は声に出す。
しばらくして神崎少尉は立ち上がり、一呼吸ついてこう言った。
「・・・・・・ああ、君の勝ちだよ、千葉健斗くん。君を魔法騎士として――認める」
神崎少尉はホッとした様な顔で微笑んだ。
「ありがとうございますっ!」
健斗は大きく頭を下げる。
こうして、健斗は魔法騎士になった。
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