第3話


「うおおおおおおっ!」


 自分の志気を高める様に健斗は叫んだ。


 込み上げてくる感情のまま、黒椿を勢い良く抜刀する。


 その瞬間、封じ込められていた様に刀身から黒い魔力が溢れ出した。


 煉獄の様に燃え上がる黒い炎。

 それにこの黒い魔力は、僕が持つ不純な魔力と思っていたものだった。

 

 健斗は黒椿を野獣の首に振りかざすと、野獣の首を一瞬にして切断する。


 切断された野獣は勢いを無くし、ゆっくりとその場に沈んだ。


「まだだ!」

 健斗はすぐさま、もう一匹の野獣へと視線を移した。


 清々しい動きで思考が回っている。

 まるで、場慣れした様に。


 野獣は仲間が倒されたことに驚くことなく、健斗に向けて前爪を振りかざす。


 見切った様な動作で健斗はその攻撃を避けると、

 前爪へ――それから首へと黒椿を振りかざした。


 どうして――か。

 健斗の感情は落ち着いている。


 不思議と健斗には黒椿の使い方、動き方がわかっていた。

 意識では無く、感覚と言う領域で。


 僕はこの武器の特性を理解している。

 まるで、昔から知っている様な感覚だった。


「これが・・・・・・力・・・・・・?」

 刀身から漏れ出す黒い魔力。間違えなく自分自身から溢れるものだった。


 これが僕の魔力。

 薄暗かったのが、こんなにも深々とした黒に変化している。


「おっ、終わったみたいだな」

 驚く健斗の背後。

 安心した様な顔で京介は言った。


 その背後に横たわる、五匹の野獣の姿。

 この僅かな時間で京介が倒したのだ。


「な、何とかな・・・・・・」

 溜まったものを吐き出す様に、健斗は大きくため息をつく。


 どうして、自分があそこまで動けたのか。

 直感的に動いていた様にも見えた。


「緒方は大丈夫か?」

 京介は白椿をゆっくりと鞘へと戻すと、放心状態の美咲を見てそう言った。

「ああ、大きな怪我は無さそうだから、ひとまず安心だよ」

 倒れた時のかすり傷くらいで済んで、健斗はホッとする。

「大丈夫ですか!」


 すると、二人の前に魔法騎士と思われる中年の男性がやってきた。


 男性の左腰には脇差の様な刀が差してあり、その右手は柄を掴んでいる。


 いつでも戦える。

 その姿勢に健斗は男性の戦う意思を感じた。


「なんとか・・・・・・」

 健斗は落ち着いた声で愛想笑いをする。


 結果的に言えば、僕らは助かったのだ。


「なら、よかっ――」

 中年の男性はそう言って、京介へ視線を向けると、突然言葉を失った。


 次第に目の前の光景が信じられない様な顔をする。


「裏切り者、白鳥京介。どうして、あなたがここに――?」

 男性は何かを理解すると、目つきを変えた。


「えっ、裏切り者・・・・・・?」

 豹変した男性の言葉。

 健斗は意味がわからず呆然とする。


 裏切り者。

 確かに男性はそう言った様に聞こえた。


 数秒。

 時が静止した様な沈黙が訪れる。


「――へえ。それを知ると言うことは、あなたは少尉以上ですか?」

 感心した様な顔で京介は、いつもよりもワントーン低い声で告げた。


 少尉と言うと、尉官。

 つまり、組織全体の中級クラスと言うことだろうか。


「中尉だ。――で、なぜあなたがここにいるんだ?」

 男性は未だに睨む様な目つきだった。

「登校中に魔獣に襲われまして。――で、武器を取ることに」

 京介は、仕方なく、と小さくため息をついてそう言う。

 その雰囲気は、どこか申し訳なさそうな雰囲気をしていた。


 魔獣。

 どうやら、さっきの狼の野獣は魔獣と言うらしい。


「なるほど・・・・・・。それは助かった。感謝する。それで、現状は?」

 途端に男性の目つきは少し柔らかくなった。

 でも、睨んでいることには変わりない。

「私を襲った魔獣も合わせると、合計八匹は討伐しました。でも、この数ならまだ周辺に残りがいるかもしれません」

 周囲を見渡しながら、京介は男性に説明する。

「八匹――。そんなにも」

 京介の言葉を聞くなり、男性は青ざめた顔をする。

「何匹かは地面から出てきていたので、地下も移動出来るタイプの魔獣だと思われます」

 京介の記憶では、そのタイプの魔獣は初めてだった。

「そんなやつ、今までいたか・・・・・・?」

 眉間にしわを寄せて腕を組み、男性は考え込んだ顔をする。

 その雰囲気は同僚と打ち合わせしている様な、そんな雰囲気をしていた。

「今回が初かも知れないですね・・・・・・」

 京介と男性は似た様な顔で悩み始める。


 この初が、これから何かが起こる暗示なのか、それとも――。

 京介の中であらゆる仮説が浮かび上がった。

 しかしながら、それを決めつける確証は無い。


「・・・・・・今回は、我らが指示した出動部隊なら全滅だった。あなたがいてくれたおかげで、出動部隊に死亡者を出さず、被害を最小限に出来た。――ありがとう」

 ひと息ついた後、落ち着いた顔で男性は京介に頭を下げた。

 男性の口調は次第に棘を失い、敬語になっていく。

 数分前は裏切り者と蔑んだ男性が、今では敬意を京介に向けていた。

「僕は――僕のやるべきことをやったことですから」

 男性の言葉に京介は顔を上げ、微笑んだ。

「さすが――。さすが、魔導十二星座ですね」

 男性は尊敬の眼差しを京介へ向ける。


 聞きなれない単語に健斗は首を傾げた。

 でも、僕はその単語を知っている。


 先日、ビルの魔導広告看板で特集をしていた皇玲さんの役職だ。


「まあ・・・・・・、僕は魔導十二星座であり、あなた方にとっては裏切り者ですからね」

 京介は可笑しそうに笑った。


 つまり、京介はこの魔法都市で最強の一人と言うこと。


 最強の一人――なのか。

 健斗は呆然と京介を見つめていた。


「魔法騎士と魔導十二星座。その場合だと、魔導十二星座が最上位だから、あなたの魔法騎士の免停はあまり影響無いんですかね・・・・・・?」


「いやいや、影響は大きいですよ。例えば・・・・・・組織で動けないこととか、事件の情報が耳に入らないとことか」

 京介は笑った後、困った顔でそう言った。


 魔法騎士は組織で動き、魔導十二星座は個人で動く。

 情報量は雲泥の差だ。


「なるほど・・・・・・。それでそこにいるのは? 見たとこ、一般人には見えないが・・・・・・?」

 男性は納得した様な顔でそう言うと、京介の隣にいた健斗へ視線を向ける。


 黒き刀を持ち、魔導十二星座の京介の隣にいる。

 と言うことは、相当の人物なのか。男性はそう思っていた。


「彼は魔法騎士になる予定の男です。僕の聖剣と対をなす魔剣を使い、魔獣の二匹を倒しました」

 京介は健斗の肩をポンっと叩き、男性に紹介する。

「え、魔法騎士って・・・・・・?」

 聞いてない。そんな顔で健斗は京介を見つめる。


 京介が魔導十二星座ってどう言うことだろうか。

 それすらも理解出来ていなかった。


「なるほど。あなたと対をなす存在に・・・・・・。――面白い」

 男性は健斗を見て、希望に満ちた笑顔で言う。

「やがて、彼は僕を超えるでしょう」

 京介は男性へ向け、健斗に聞こえない様な声でそう言った。

「――なるほど」

 男性は動ける魔法騎士を連れ、倒れている仲間の救助を始める。

「そういや、京介。齋宮は大丈夫なのか?」

 二人になった後、健斗は京介に聞く。


 戦いから数十分。

 健斗の感情はようやく落ち着いてきた。


「あー、桜は魔獣に襲われた時、気絶しちゃって・・・・・・。病院には連れて行ったから大丈夫だとは思うけど」

 京介は「実は――」と勿体ぶった口調で言う。

「でも、無事で良かったよ・・・・・・。ってか、魔法騎士なら大丈夫だったか」

 心配そうな顔から一転、気が付いた様な顔で健斗は言う。


 そんな中、警察や救護班が到着し、事件の対処を始めていた。

 気絶した美咲も救護班に連れられていく。


「まあ、今の俺はもう戦っていないからな」

 そう言う京介は、何か思いつめた様な顔をしている。

「え、そうなの?」

 さっきの身のこなしから、日常的に戦っている様な雰囲気があったけど。

「言っただろう。今の俺の使命はこの魔法都市を守ることだ。基本的に緊急時以外は呼び出しがかからない。だから、こういった現場遭遇が無い限り、魔法騎士の免停を食らった俺は戦闘に参加する機会は無いんだよ」

 あっさりとした顔で京介は説明する。

「なるほど・・・・・・」

 雑学を学んだ様に、健斗はうんうんと頷いた。

 様々な疑問は残るが、大体の事情はわかった気がする。

「それでどうだったか? 初の戦闘は」

 すると、京介は興味津々の顔で健斗を見つめていた。

「どうって言われてもな・・・・・・」

 感情がパッと出ない。健斗は困った顔をする。

「でもまあ、使いこなせていてよかったよ」

 健斗が左腰に差している黒椿を見て、京介はホッとした顔をする。

「使いこなせてはいないと思うけどね・・・・・・?」

 京介の言葉に首を傾げ、健斗は解せない顔をする。


 自分ではそう思っていた。

 あれが僕の最善だとしても、黒椿の最善とは程遠いはずだ。


「いやいや、そのうち使いこなせるよ」

 京介は冗談を言う様な口調で笑った。。

「そうなの・・・・・・?」

 半信半疑で健斗は黒椿を見つめた。

「お前がその剣を手にするのも、俺がこの剣を手にしたのも運命だよ」

 京介は静かに健斗を見つめ、呟く様に告げた。

「えっ?」

「いや、何でも無いさ」

 京介は少し陽気な口調で健斗から目を逸らす。

「あ、そう・・・?」

 健斗はそう言いながらも、京介より先に進んで行った。


 ――やはり、運命には抗えませんね。


 京介は誰かに伝える様に空を見上げた。



 ――― 



 翌週。

 教室。


「ごめん、京介」

 京介が教室に着いた途端、慌てた顔で桜がやって来た。

「・・・・・・ごめんとは?」

 席へ座ると京介は、桜へ不敵な笑みを返す。

「いや・・・先週、倒れちゃってさ・・・・・・」

 桜は目を逸らしながら、申し訳なさそうに言う。


 彼女は事件の全貌を知らなかった。


 魔獣が地面から襲ってきた拍子に気絶してしまい、

 魔獣の存在もその後、京介がその魔獣を倒したことも知らない。


「うん、大変だった」

 京介はその通りと言う様な顔で頷く。

「ごめんね・・・。ごめんなさい」

 申し訳無い顔で、ただ頭を下げていた。

「んー、桜が倒れた時、桜のスカートが風邪でめくれて大変だった」

 真顔で京介は大変と呟き、事の重大さを桜に訴える。

「えっ・・・・・・え?」

 桜は真っ赤な顔で首を傾げた。

「まあ、怪我とか無かったから良かったけど。ただ、俺(の理性)が大変だっただけだよ」

「それは、その・・・・・・ありがとう」

 桜はもう一度、頭を下げる。

「・・・どういたしまして」

 不敵に京介は笑った。

「美咲、あれから大丈夫?」

 京介が桜と話している最中、健斗は隣にいた美咲に聞く。

 健斗は京介がいる前で、美咲に事件のことを聞くのを躊躇っていた。

「大丈夫。あの時はありがと」

 美咲も京介の前では言えなかったことを言う。

「咄嗟のことで乱暴に手とか引っぱってごめんね」

 今思えば、あんな乱暴に手とか引っ張って痛かったはずだ。

 これで暴力的な男と思われてしまっただろうか。健斗は後悔していた。

「いや、それは・・・・・・。その――嬉しかった」

 美咲は顔を赤くして、俯きそう言った。

「え、嬉しかった・・・・・・?」

 予想外の言葉に健斗は首を傾げる。

「なんだろう・・・・・・。あんな積極的な健斗初めて見たし、私のことすごく心配してくれたし、その・・・ありがとう・・・・・・っ」

 美咲は恥ずかしそうに言って健斗を見つめた。

 上目遣いで僕を見つめる彼女。健斗は思わず見とれてしまう。

「そ、そりゃ・・・幼馴染だからね」


 好きだから――。

 なんて、健斗は口が裂けても言えない。


 その一言でこの日々が変わるなら、良くても悪くてもこのままで良い。

 健斗はそんな保守的な考えだった。


「そうだよね・・・・・・。幼馴染だもんね・・・・・・」

 少しだけがっかりした様な顔で美咲は俯く。

「うん。幼馴染」

 健斗は自分にも言い聞かせる様にそう言った。


 僕らの関係は良くも悪くも、

 それ以上でもそれ以下でも無い。


 この平凡を守るために、保つために。

 健斗は再度、認識した。



 ―――



 昼休み。

「お、ちばけん。どうした、元気ないな」

 加藤孝司(かとうこうじ)が笑いながら、席でため息をつく健斗に言う。

 クラスメイトの孝司と健斗は中学時代、親友と呼べるほどの仲だった。


 短めの金髪、やせ形で長身、少し筋肉質のその姿。

 自然と少し不良っぽい雰囲気を出していた。


「孝司か・・・・・・まあな」

 健斗は孝司とわかると、適当な返事をする。

「また緒方にフラれたのか?」

 馬鹿にする様な笑い方で孝司は言った。

「いやいや、なんでよ。フラれてもないし、告白もしてないし。――てか、またってなんだよ」

 全部間違っている。

 睨む様な眼差しを浩司に向けた。

 相変わらず、お前は僕を何だと思っているんだよ。

「お、元気出たじゃん」

 孝司はツッコむ健斗を見て、笑顔で言った。

「――多少な」

 健斗は悩んでいる様な顔で言う。


 健斗の悩みの種。

 それは登校中の出来事だった。


 

 ―――



 登校中の通学路。


「――僕が魔法騎士に?」

 健斗は京介に魔法騎士への勧誘を受けていた。

「まあ、魔法騎士って言ってもなー。こないだみたいに組織の様に動く人もいるし、 個人で動く人もいるんだよ」

 そう言う京介は軽快な足取りで歩いていた。

 その姿は今の言葉をどこか気軽な気持ちで言っている様に見える。

「はあ・・・・・・」

 唐突に言われて少し呆然としていた。

 京介が気軽でも、僕にとっては重い話であるのだが。

 それにそんな気軽な気持ちで、魔法騎士になれる訳では無いと思うのだけど。

「まあ、健斗が魔法騎士になったとしても、個人で動く感じになると思うが」

「ふーん・・・・・・。――いやいや、ちょっと待って」

 納得した様な顔で頷くと、健斗は急にハッとした顔になった。

「え?」

 京介は、いきなりどうした、そう言いたげな顔をする。

「いやいや。どうして、なる前提?」

 右手を左右に振り、解せない顔で言った。

 どうして、僕が魔法騎士になる前提で話しているのだろうか。

「言っただろ。戦う運命に抗うか、って。力を持ってしまった以上、戦う運命が付きまとう。それは絶対と言っていいほど避けられないだろう。そんな時、少しでもスムーズに動ければいいと思って、俺は健斗に魔法騎士に入らないか、と言っているんだ」

 京介は落ち着いた口調で健斗に説明する。

「なるほど・・・・・・」

 頷きながらも、健斗は京介の言葉をしみじみ考える。


 そうだ。

 僕は魔獣に襲われた時、戦う運命に抗うと決めた。

 間違いなく、美咲を守るために黒椿を振るった。

 健斗は思い出す。


「――あ、でも、京介は免停なんだよね?」

 健斗は少し驚いた顔で京介の方を向く。

 お前がいないなら、意味が無いのでは――。

 健斗は思った。

「・・・・・・まあな。でも、俺は別の役があるから、似た様な仕事は出来る」

 京介は不敵な笑みを浮かべてそう言う。

「別の役って、魔導十二星座のこと?」

 別の役割。京介には重要な役割があった。


 そうだ。

 京介は魔法都市が誇る最強の一人なのだ。


「ああ、その使命はこの都市を守ることだ。それは魔法騎士と仕事と重複している部分がある。と言うことは、現場にさえ行くことが出来れば、やることはほとんど変わらないんだよ」

 何か思いつめた様な顔で京介は言う。


 どちらも、結果は『魔法都市を守る』ことなのだ。


「なるほど・・・・・・。――ん? 現場にさえ行ければ、だよね?」

 必須条件はそこである。それが出来なければ、何も始まらない。

「だからですよ。健斗さん」

 落ち着いた声と笑顔で京介は返す。


 京介が現場に行くために――。

 健斗は気がついた。


「まさか・・・・・・。僕を魔法騎士にして、その現場の情報を知ろうってこと?」

 口を半開きにして、健斗はまじまじと京介を見つめる。

「わかってるじゃん」

 そう言う京介は、どこか嬉しそうな顔をしていた。

「えー。それ、良い様に使われてない?」

「いやいや、言ったじゃん。スムーズに出来る様にって。また、緒方と一緒にいる時に襲われたりでもしたらどうするんだ? また、彼女を危険に晒すのか?」

 京介は次第に真面目な顔になっていく。


 美咲がまた魔獣に襲われるかもしれない。


 もし、僕がいないところで襲われていたら、

 僕は何も知らずに過ごしているだろう。


 僕が魔法騎士になれば、助けに行けるかもしれない。

 情報を聞き、すぐさま現場に行けるかもしれない。


 無論、『知る』と『知らない』とでは、天と地の差だ。


 京介の言うスムーズとは、そう言うことなんだろうか。


「それは・・・・・・、そうだね・・・・・・」

 考えるだけで不安になった。

 いつ起こるのか、それはわからない。


 僕らの平凡はいつ壊れるかわからない――。

 今回の件で健斗は理解した。


「そうと決まれば、連絡しておくよ」

 小さくガッツポーズをして、京介は誰かと電話を始めた。

 しばらくして、京介が暗い顔で戻ってくる。

「え、どうだった・・・・・・?」

 健斗は恐る恐る結果を聞いた。

 その雰囲気からすると、もしかして駄目だったのだろうか。

「ああ、まず電話したら、免停のお前が電話をしてくるんじゃないと怒られた。次に、魔法騎士にしたい人がいるって言ったら、免停のお前が推薦するんじゃないって言われて、ちくしょうと思ってこう言った。『魔導十二星座 白鳥京介が命じます』って言ったら、簡単に了承貰った。――うん、びっくりだ」

 京介は、俺ってやれば出来る子、とか言いながら笑顔で言う。

「ってことは・・・・・・?」

 京介が拒まれている話にしか聞こえなかった。

「魔法騎士申請の許可は貰った。あとは、試験さえクリアすればなれるよ」

 小さくガッツポーズをして、ゆっくりと京介は頷く。

「おおっ・・・・・・。――って、試験って?」

 さっきまでそんなこと一言も言ってなかった。

「あれ、言わなかったっけ?」

 京介は少し高い声で、沙織が言った口調を真似るように言う。

「いや、似せてくるなよ」

 意外に似ていて健斗は内心ドキッとした。

 もしかして、京介の母親もそんな感じなのだろうか。

 ――な訳無いか。

「おそらく、明日の昼、試験になると思うから――よろしく」

 京介はあっさりとそう言った。


 こうして、僕に転がり込んだ機会、転機が訪れる――。


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