第10話行動の是非を問われる

日曜日。

思い出の場所へ僕は赴く。

煌梨に告白した学校の近くの公園。

なんとなくだが感覚的に行ったほうが良いような気がしたのだ。

昼過ぎに目を覚ますと身支度を整えてその場所を目指した。

目的の場所では煌梨が僕を待っていた。

彼女は僕を見つけると軽く微笑んで手を上げていた。

煌梨の側に向かうと一緒にベンチに腰掛ける。

「こんにちは。来てくれないかと思った」

煌梨は少しだけ心配そうな表情で自嘲気味に微笑む。

「どうしようか迷ったけど…一応ね」

素っ気ない返事をすると遠くの方の空を見つめた。

「私…この街を離れようと思うんだ」

煌梨は唐突にそのような告白をするので僕は彼女の方を見つめた。

どうやら煌梨は思い詰めているようでやつれた表情をしているようだと思った。

「うん。それで何処に行くっていうんだ?」

話を進めるために相槌を打つと煌梨は一つ頷く。

「海外。私のことを誰も知らない場所に行こうと思う」

「そう。達者でな」

煌梨はそれに頷くと最後の言葉のように口を開いた。

「佐一のこと好きだったのは本当だからね」

僕は何とも言えずにそれに頷くことしか出来ない。

「じゃあ。もう会うこともないと思うけど。今までごめんね。でもありがとう」

煌梨は謝罪と感謝の言葉を口にすると深く頭を下げてベンチから去ろうとする。

「さようなら」

どちらからともなく別れの言葉を口にすると僕らはその場で別れる。

これにて僕の過去のトラウマは完全とは言えないが消える。

心の傷が癒えたかと言えば首を傾げざるを得ないが…。

それでも僕はこれで前に進めるだろう。

そんな風に思える一日なのであった。


後日。

煌梨はきっと街を離れたのであろう。

最近では姿を見ない。

それに少しの安堵と彼女の存在が消えた事により寂しさにも似た感情を抱く。

そんな自分を少しだけ笑ってしまう。

それでも僕の日常はこれからも続くわけで…。

須山と約束をしていた休日が訪れると僕らは以前行った飲食店で待ち合わせをする。

食事を楽しみながらアルコールを嗜んでいると須山は意を決したように口を開いた。

「中島さん…!」

それに少しだけ驚いたような表情で続きの言葉を待っていると須山は一気にその言葉を口にした。

「良かったら私と付き合ってくれませんか!?」

ついにこの場面が来てしまったと僕は軽く息を吐くと思考を巡らせる。

「えっと…どうして僕と付き合いたいの?」

そんな説明を求める言葉を口にしてしまい自分を残酷な人間に感じてしまう。

「好きになったからです…」

当然のような言葉が返ってきて僕は軽く微笑む。

「まぁそうだよね…」

そう口にするのだが…。

やはり僕は年下には興味が持てない。

恋人がいる生活はきっと良いものなのだろう。

しかしながらそれが須山であって欲しいとは完全には思えない。

須山であっても良いのだが…。

だが年下は守備範囲外だと感じてしまう。

もっとはっきりとした態度で断っておけばよかったのだろう。

しかしながら人生初のモテ期で僕も浮かれてしまっていたのだろう。

もっと現状に感謝の気持ちを抱いて生活するべきだった。

だがこの生活もそろそろ終わりが来てしまうことを感じていた。

だから僕は期待を持たせてしまった償いとしてしっかりと謝罪の言葉を口にする。

「ごめん。須山さんとは付き合えない。前にも言ったけど年下には興味がないんだ。それでも今日までの日々は本当に楽しかった。もしかしたら僕も年下でも好きになれる女性に出会えたかもしれない。なんて思えるぐらい須山さんは魅力的だと思う。でもやっぱりダメみたいだ。今日まで本当にありがとう。それでも時間を無駄にさせて本当にごめんなさい」

そこまでしっかりと謝罪と感謝の言葉を口にすると僕らは会計を済ませて帰路に就く。

須山はどのような表情でどのような言葉を口にしたのか殆ど覚えていない。

悲しんだ表情を浮かべていたのか、恨みの言葉を吐いたのか…。

その両方だったのかもしれない。

ただ僕は自分の行動の是非を問われるのが怖くて見てみぬふりをしてしまっていた。

だが帰り際に須山は僕に深く頭を下げて口を開いた。

それだけはしっかりと覚えている。

「中島さん。今まで本当にありがとうございました。これまでの日々はとても幸せでした。きっと…前に進みます。それではいつか何処かで会っても変わらずにいてください。さようなら」

感謝と別れの言葉を受け止めると須山に頭を下げる。

「僕こそありがとう。さようなら」

別れを済ませると僕らはそれぞれの帰路に就く。

帰宅すると僕は独りの部屋でその人物にメッセージを送る。

「明日って空いてる?暇だったら話があるんだけど」

その相手、久我みなみは了承の返事を寄越すと明日の予定は決まる。

明日、僕の家で久我と過ごすことは決まり僕は彼女に自分の気持ちを伝えることを決める。

人生で最後になるであろう自分からの告白の言葉を考えながら明日を楽しみに思うような心配に思うような複雑な心境で今日を終えるのであった。


次回、最終回。

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