第7話決心
信じられないようだが、久我は僕に好意を抱いているらしい。
それに気付いてしまってから少しだけ気まずい思いを感じていた。
好意を抱かれても返せる自信がない。
他人とは深く関わりたくない。
関わって良いことなどあまりないのだ。
僕の思い込みかもしれないが…。
できればこれからも深くは関わりたくないのだ。
でもまぁ…久我を家に招いたり、須山の家にお邪魔したり。
そこだけ切り取れば中々に関わっているかもしれない。
そんな事を考えながら仕事をこなす。
永野はいつもどおり他人のふりを続けている。
須山からはほぼ毎日のように連絡が来ていた。
久我とはあの日から少しだけぎこちない関係が続いている。
それでも僕は独りの心地よさに未だに甘えている。
そんな自分が少しだけ情けなくて僕は一歩を踏み出す決意を固める。
まずはこの奇妙な生活の始まりである須山に連絡をする。
「また食事でもどう?」
須山はすぐに返事を寄越す。
「是非!いつにしましょうか?」
「金曜日とかどうかな?仕事終わりに食事でも」
「はい!では楽しみにしています!」
それに対してスタンプを送るとそこから仕事に集中するのであった。
そして迎えた金曜日。
仕事を終えると駅の近くの飲食店に向かう。
店に着くと席へ案内される。
須山は先に僕を待っていて軽く挨拶を交わす。
「こんばんは。待たせちゃったね」
「いえいえ。私も今着いたところです」
それに軽く頷くと僕らはメニューを広げて飲み物を注文した。
店員が飲み物を持ってくると僕らは乾杯をする。
食事を待っている間に僕らは軽く雑談を交わす。
「いきなりこんな事言うの変かもしれないけどさ…」
話を切り出したのは僕からだった。
須山はしっかりと聞く姿勢を取っていて僕はそれが少しだけ微笑ましく思った。
「僕は高校時代に人間関係で色々あって他人とは深く関わらないようにしていたんだ」
「そうなんですね…」
「でも。須山さんはそんなこと知りもしないから深く関わろうとしてくれて」
「はい…。すみません。迷惑でしたよね…」
須山の反応に僕は微笑んで首を左右に降る。
「そうじゃなくて。多分僕は嬉しかったんだ。こんな僕にもまた心躍る毎日がやってくるんだろうなって期待が持てたんだ」
須山は僕の言葉を耳にして少しだけ照れくさそうに頷く。
「だから。ありがとう。僕に関わろうとしてくれて」
「そんな…。私が一方的に好意を向けただけですよ」
それに頷くと僕は嬉しそうに微笑んで見せる。
「それでも嬉しいよ。ありがとう。これからも良かったら仲良くしてほしい」
「はい。それはもちろん。これからもグイグイいってもいいですか?」
それに軽く笑って頷くと須山は嬉しそうに小さくガッツポーズをする。
そこに丁度店員が食事を運んでくる。
「じゃあ冷める前に食べようか」
僕らはそこから食事を進めていく。
他愛のない会話と少しのアルコールと贅沢な食事を楽しみながら僕らの有意義な時間は過ぎていく。
程よい時間までアルコールを楽しむと会計を済ませて僕らは帰路に就く。
電車に乗り込むと別々の駅で降車する。
自宅までの一人の帰り道で僕はその人物に遭遇してしまう。
「佐一!」
この聞き覚えのある声に嫌気が差すと僕は無視を決め込む。
だが相手はこちらに走って向かってきているようですぐに追いつかれてしまう。
「ちょっと!無視しないでよ!」
「煌梨…。もうやめてくれ。やっと僕は一歩を踏み出せそうなんだ。だからもう関わらないでくれ」
「なにそれ…。私が悪者みたいじゃない」
「事実だろ」
そこまで冷たく言い放つと僕は今度こそ相手にはせずに前へ進む。
「また来るからね!話を聞いてくれるまで!いつまでも!」
きっといつか諦めてくれることを願いながら帰宅するのであった。
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