第6話本当は分かっている

日曜日。

僕は自宅のマンションで独り過ごしている。

須山からも連絡は来ずに永野は家を訪れることもなかった。

本日は平和に過ごすことが出来ると安堵しているとスマホに通知が届く。

「やっほ〜!金曜日に会ったよね?なんで無視したの〜?」

我修院煌梨のメッセージに嫌気が差すと無視を決め込んでスマホを机の上に置く。

しばらくすると再び通知が届く。

「なんでシカト〜?ちゃんと話そうよ〜」

それに対して仕方なく返事をすることに決める。

「なんでそんな簡単に僕にメッセージを送ることが出来るんだ?煌梨が僕らにしたこと忘れたわけじゃないだろ?」

僕の返信に彼女は何でも無いように何も気にしてもいないような感じで返事をしてくる。

「高校生の頃の話でしょ?今はもう30歳過ぎてるんだよ?10年以上前の話をいつまで引きずってるの?」

確かにそう言われたらその通りなのだろう。

しかしながら僕は簡単に過去を許せるような器の大きな人物ではない。

「煌梨の言っている通りかもな。他の部員は全員許したのかもしれない。でも僕だけは許せそうもない。だから、もう連絡してこないでほしい」

「他の皆も許してくれないよ…。罰が当たったのか私は高校卒業してから人間関係が上手くいかなくなってね…。突然過去が懐かしくなって連絡したんだ。今日、同窓会もあるしね。佐一が来ないなら私も行くのやめておくよ」

煌梨からの思いもよらぬ返事に僕は少しだけ頭を悩ませるのだが…。

もしかしたら、また気を引くためにこのような嘘を言っている可能性がある。

そう決め込むと僕は既読だけを付けて今度こそスマホを机の上に置く。

そこからテレビを見ながら適当に時間を潰していると再度スマホが鳴る。

画面だけを確認すると相手は久我みなみだった。

「同窓会行ってないよね?」

何の確認なのかはわからないが僕はそれに返事を送った。

「行ってないよ。行くわけない」

それを確認した久我は嬉しそうにスタンプを連打してくる。

「おい…何だよ…」

その返事に久我はスタンプをやめて返事を寄越す。

「じゃあ今日も暇?」

「暇ではある。今もテレビ見てグダグダしてる」

「ホント!?じゃあ遊び行っても良い?」

「別に良いけど」

「わかった。すぐ行く」

久我に自宅の住所を送ると彼女は再度スタンプで返事を寄越すとそこでやり取りを終えるのであった。


身支度を整えてしばらくするとインターホンを鳴らす音が聞こえてくる。

玄関まで向かいドアを開けると久我はエコバック片手にそこに立っていた。

「手料理作ってあげる。誰に披露するわけでもないのに毎日作ってきた私の腕前…楽しみにして」

久我は少しだけ自虐的な言葉を口にすると自嘲気味に微笑んだ。

「楽しみにしてるよ」

それだけ告げると僕らは部屋の中に入っていく。

久我はすぐさまキッチンで料理を開始して僕はリビングでテレビを眺めていた。

「何か手伝う?」

「大丈夫。道具が違うだけで手慣れているから」

久我は軽く微笑むと本当の恋人のように僕の家で料理をしていた。

(なんか良いな…悪くないな…最近こういうの多いな…)

そんなことを軽く思考しながら僕らの時間はゆっくりと過ぎていく。

久我が料理をしている姿を眺めながら時間だけが過ぎていく。

けれど僕らの関係には何の進展もない不思議な時間だけが過ぎ去っていく。

しばらくそんな事を考えていると久我は料理を運んで来る。

「できました。私好みの味付けだけど…美味しくできたはず…」

「本当に美味そうだね」

目の前の数々の料理に目を奪われていると久我は僕に箸を渡してくる。

「どうぞ。食べてください」

箸を受け取ってそれに頷くと手料理を食していく。

少しづつ全ての料理を食すと簡単ではあるが感想を口にする。

「本当に美味しいね…誰にも披露できてないのがもったいないぐらい」

僕の褒め言葉を聞いた久我は嬉しそうに、けれど控えめに微笑んだ。

「今日、披露できたから満足だよ」

「僕なんかで良かったの?」

「僕なんか…そんな事言わないでよ…」

それに頷くと軽く微笑んで食事を進めていく。

全ての料理を食べ終えるとお腹を擦って満足気にため息を吐いた。

「本当に美味かった…久我との生活も悪くないなぁ〜」

などと、つい思ったことが口から出てしまい久我は驚いたような表情を浮かべていた。

「私との生活…」

久我は少しだけ照れくさそうに俯くので僕は首を左右に振った。

「ごめんごめん!冗談だから」

それだけ告げると食器をシンクに運んで後片付けを開始する。

久我はしばらくリビングで固まっており悪いことをしたなと感じてしまう。

しかしながら久我は突然立ち上がると何かを決意したような表情でこちらに近づいてくる。

「本当に一緒に生活する…なんてのはどう…?」

その思い詰めたような吹っ切れたような言葉に僕は面食らってしまう。

「だから冗談だよ」

はっきりとそう告げるのだが久我は首を左右に降る。

「私が一緒に暮らしたいの…」

「それって…」

その続きを口にしようとするのだが久我は首を左右に降る。

「やっぱり無し!早まりすぎた…!もう帰るね!」

久我は荷物を持つと足早に僕の家から姿を消す。

「何だったんだ…」

答えの分かっているような問に頭を悩ませるふりをしながら落ち着かない休日を過ごしていくのであった。

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