第2話約束の食事
須山美桜と食事の約束をした土曜日がやってくる。
目覚めるとスマホに通知が届いていて返事を考えていた。
「おはようございます。今日を凄く楽しみにしていました。昨日の夜から中々寝付けなくて…。夕方になるまで楽しみに待っていますね」
「おはよう。休日だけど少しだけ仕事を残してきてしまったんだ…。申し訳ないけど時間まで待っていてください」
それだけ返事をすると身支度を整えて会社に向かう。
休日出勤のため会社には数名の社員の姿しかなかった。
デスクに腰掛けると自分の業務に集中する。
昼頃から数時間掛けて仕事を終えるとパソコンの電源を落として一度帰路に就いた。
一度シャワーを浴びて汚れを落とすと私服に着替えて目的地に向かう。
時間通りに約束の店に向かうと須山は既に席についていた。
「こんばんは。早く来すぎてしまいました…」
須山は照れくさそうに挨拶をすると最後に微笑んだ。
「こんばんは。待たせてしまったね。もう何か頼んだの?」
「まだです。待っていました」
「飲み物ぐらい頼んでいれば良かったのに」
軽くハニカミながら対面の席に腰掛けるとメニューを開いた。
「今日はお酒飲みますか?」
須山の質問に軽く頷くと彼女も頷く。
「そんなに得意じゃないんですけど…じゃあ私も飲みます」
「無理しなくて良いよ。僕は独りでも楽しめるから」
「そんな…折角なら一緒に飲みたいですし。それに…素面じゃ緊張して…」
須山はそこまで言うとタッチパネル式のメニューでお酒を注文していた。
遅れるように僕もお酒を注文して乾杯を行う。
そこから食事を注文して僕らの会話は弾んでいく。
「今一度感謝の言葉を言わせてください。痴漢から救っていただき本当にありがとうございました」
須山は深く頭を下げると感謝の言葉を口にした。
「いやいや。当然のことをしたまでだよ。これ以上の感謝の言葉はいらないよ」
何度も感謝を告げられると僕も照れくさかった。
しっかりと感謝だけを受け取るとグラスに手を伸ばした。
「それで…感謝の印なんですが…」
そう言うと須山はカバンからキレイに包装された箱を取り出す。
「え…!何か別で用意してくれてるの…悪いね…」
箱を受け取ると須山は開けるように目で訴えてくる。
「開けていいの?」
須山はそれに頷くので僕も包装をキレイに剥がしていく。
中にはおしゃれなネクタイが入っている。
(確かネクタイの贈り物の意味って…)
脳裏にはそんなノイズが走ってくるので一度頭を振った。
(深く読む必要はないな…)
そう結論づけると素直に感謝の言葉を口にする。
「わざわざありがとうね。嬉しいよ」
プレゼントを鞄にしまうと食事を続けていくのであった。
飲食を進めながら他愛のない話で盛り上がっていくと僕は後輩社員の話をする。
「この間の合コンは数合わせって言ったでしょ?後輩に無理やり連れられてさ…。いつまでもコンビニ弁当で良いんですか?とか、恋人でも作って美味しい手料理作ってもらったほうが良いじゃないですか。とか言われて…。確かにその通りかもしれないんだけどさ…まさか年下に言われるとは思わなくて笑いそうになってしまって」
僕のたいして楽しくもない話に須山は微笑んで頷いてくれる。
「男性は恋人の手料理を食べたいものなんですか?」
その質問に僕は少しだけ首を傾げる。
「大抵の男性はそうなんじゃないかな?でもそういうこと言うやつに限って恋人の料理が美味しくないと裏で文句を言っているんだ」
冗談のような偏見を口にすると須山は軽く微笑む。
「自慢じゃないですけど私は料理上手ですよ?もし良かったら食べてみませんか?」
須山は挑戦的な口調で僕を試すような言葉を口にする。
「えっと…」
言い淀んでしまうと須山の猛攻は続いていく。
「じゃあ次の約束は家で手料理を振る舞うで決まりですね」
勝手に話は進んでいき僕は軽くたじろいでしまう。
「わかった…」
そう返事することしか出来ずに照れくさそうにグラスに手を伸ばすのであった。
食事も終わり会計に向かうと須山は財布を取り出す。
「良いよ。プレゼントまで貰ってしまったんだし僕が出すよ」
そう言ったのも当然で、須山がくれたプレゼントはブランド物の高いネクタイだったからだ。
「ダメですよ。私が助けてもらったお礼をしたいんですから黙って奢られてください」
須山はきっぱりと断りの言葉を口にすると会計を一人で済ます。
店の外に出ると須山に感謝の言葉を口にして僕らはそれぞれの帰路に就く。
「帰ったら連絡しますね」
それに頷いて応えると駅で別れて帰宅する。
帰宅するともう一度シャワーを浴びて自室に向かう。
「今日はありがとうございました。次は手料理を振る舞いますね。絶対に約束ですよ?」
須山の積極的なメッセージに了承の返事をする。
「プレゼントと食事、両方とも本当にありがとう。次回もよろしくおねがいします」
返事をすると他に来ている通知を開く。
「センパイ。明日って暇ですか?」
会社の後輩からの通知に既読を付けるとそのままスマホを机に置いてベッドに潜るのであった。
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